「レースのマシンは高速に」ショートショート
ネオンが星のように瞬き、企業の広告が到る所で光っている。街の中に特設されただだっ広い道。ナイトレースを開催するアナウンスが街中に響き渡る。高層ビルがひしめき合い、そのビルとビルの間の空間をレース車が光りながら空を進み、昼間のように明るい夜を飾っている。
この一大エンターテイメントシティはそこらじゅうで催し物が開かれている。その中でとりわけ人気なのがこのナイトレース。
レースには冠がつき、スポンサーが大金を出し宣伝する。
この旧世代並みのコマーシャル方法は未だにこのようなレースでは活躍している。広告効果なのか、道楽なのかそれは主に聞いてみないとわからないことだが、ド派手な演出を空中にマッピングし、商品を広告する映像を見ている限り、広告、レース、この会場の雰囲気、全てをひっくるめて人々が望んだエンターテイメントなんだろうと思う。そして人の欲、業を映し出す。この街そのものが人の作り出すエゴであるとも言える。
出走する面々が場内に入ったとアナウンスが流れる。街中を走るこのレースは数十台のカメラでリアルタイム配信され、世界中で楽しむことができる。しかし、いつの世になっても「生」で楽しみたい無数の連中がこの街に集まり雑踏を作り出していく。
会場のカメラが出走直前の様子をとらえた。十台近くのマシンに乗り込む男達。歓声と怒号にも近い叱咤が男たちに降り注ぐ。
この街中にいる光にあてられ狂気と強欲に染まった人間たちがそれ以上の熱をだし街に飲み込まれる。
カウントダウンが始まる。
ボルテージは天井知らずで上がっていき、カウントがゼロになった瞬間。マシン達は初速から目で追うのがやっとの速さで走り出す。残るはテールランプの残像だけ。
歓声に包まれ音は何も聞こえない。
モニタに目をやるとレースは街を駆け抜けるマシン達がコーナリングをし切り替わるカメラの前で人間たちは息を呑む。
全長5キロほどのコースを3分~4分で駆け抜けるレースは、少しぼーっとしたらすぐに終わってしまうくらい目が離せない。あっという間に終わるレース。
人間は狂気乱舞し、賭け事に興じた面々は自分への配当金をウェアラブルで確認する。特等席から見ていた資本家達は満足そうに笑顔し、目当てのマシン達に目をやる。
車型のマシンから出てきた人型のマシンを同時購入した資本家は満面の笑みでワインをすすり、そのマシン達を一歩の所で手が届かなかった資本家は次のレースに心が向いている。
「生物使用禁止法」
この法律ができてから生物をレースに使うことができなくなった。代わりにマシン達が自ら競い合うレースが生まれる。何時の世も姿かたちは変われども本質は変わらない狂った世界。