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タタマ・アーラマ・マーマレードの人生プロット


 タタマ・アーラマ・マーマレード

 猫頭人。旅人。

 とりあえず、異世界ハーレム物にしようと考えた。やっぱり猫耳獣人は必要だと思った。

 ただ、犬の顔をした相棒を考えた後だったので、必然的に猫の顔した女の子になる。

 僕にはケモナーの素質はなかった。

 頑張っても、猫耳の女の子だ。

 少し考えて、「あ、じゃあ猫獣人なのに人の顔をしている特異体質ってことにしよう。で、それが理由で一族からはぐれてる旅商人という設定だ」

 ってなった。

 で、ドライで醒めたキャラにした。

 主人公と二人でいる時に、迷子になってはぐれたら、怒って殴ってくるようなそういう気の強い女の子。

 でも、実際に文章に起こしていた時だ。

 彼女がやっとはぐれた主人公を見つけ出した時、キックよりも先に「よかった、本当によかったにゃ」という言葉が自然と先に出た。

 情の深い、大人のフリした子供。そういうキャラになった。

 我ながら、己の性癖の業の深さに悩む。


 ※※


 猫頭人アーラマ・マーマレード族に生まれた神童タタマは、7つの時に家出した。

 聡明な智恵があり、美しい耳をした少女は、一族を代表する立派な獣頭人になればよかった。

 誰も、獣面人の両親から生まれたにも関わらず、人間の顔をしていることを問題視しなかった。そもそも、古い伝承を辿れば、たまにそういう子が生まれるのが自然現象だったのだから。

 おそらく、ただ一人それに耐えられなかったのが、タタマ本人である。


 同世代に抜きんでて物覚えがよい彼女は、それゆえに自分一人が里でただ一人違う貌をしていることに違和感を持っていたし、それを意に介さずに自分を世話してくれる両親の『努力』に想像がついた。

 生まれる弟妹が皆、父似母似の猫頭人である。

 彼女は全ての物事には理由があることを知っていた。ただ、その当時は劣性遺伝という概念はなかったので、彼女は自分が人面であることに何かしらの意味があるのだと確信していた。


 里を出ると言いだして、両親と大げんか。

 売り言葉に買い言葉。

 勘当をいただき、見事に家を飛び出した。

 

 あてもなく、7歳の子が一人家を飛び出せばどうなるか。

 どうにもならず、かと言って変えることもできず行き倒れ。


 一番近い、人間の国にある片隅の町。

 自分と同じ容姿をしているそこの住人は、猫耳の生えた彼女を人間としては扱わなかった。

 野良猫よろしくゴミあさりに精を出し、なんとか生をつなぐ。

 生きるためにいろいろやった。なんだかんだで、物覚えもよくすばしこく器量もあった。

 生きるためになんでもやった。貴族にペットとして飼われたこともある。最終的には貴金属をくすねて飛び出したが。

 しくじって袋叩きにあったこともある。

 金になれば靴だって舐めたし、法だって破った。

 けれど、自分が人の貌である理由はわからない。


 雨の日に、路地裏で野たれ死ぬことになった時にも、わからなかった。

 たまたま通りかかったジジン・ムーゲン・メロディアに拾われた意味もわからない。

 犬頭人は言った。

「お前を里まで連れて行ってやる。必死こいて謝って許してもらえ」

 猫頭人は拒んだ。

「それはできませんにゃ。私は、自分がこんな貌で生まれた理由を知りたいんですにゃ。それを知る為に、私であるための色んなものを捨てました。今、知ることを諦めたら、私は私でいられなくなってしまいます」

 強情な娘に、頑丈な男は生きる術を教えることにした。

 この世界には人間の他にも色んな種族の種族がいること。

 彼らは自分の国の外に出ようとはしないこと。

 彼らのパイプ役として動く案内人という仕事があり、獣頭人の限られた者だけが、その務めにつけること。

 その務めに必要なのは、各種族の使う言語、彼らそれぞれの立法、それらの国の文化、価値観。そして、旅を真っ当するだけの体力、そして身を守る智恵。

 タタマはそれらをすべて習得した。

 歴史を知ると同時に、枠外巡礼証左を持たない猫頭人が案内人になることはできないことも理解した。

「何故、案内人になれない私にこんなことを教えたのですにゃ」

 答えを聞かずに、彼の元を離れた。


 彼からもらった知識で、タタマは世界中を渡り歩いた。

 合法的に対等に人間とやりあう術を身につけて、悪どく稼いだ。

 金さえあれば、なんとでもなる。


 世界中を探した。

 しかし、この世のどこにもいなかった。

 自分と同じ、人の顔をした獣頭人なんていなかった。

 タタマ・アーラマ・マーマレードは世界に一人きりだった。


 その内、気付く。

 もしかして。

 自分が人の貌をしている理由なんて、ないのではないか?

 それを受け入れるのが怖くて、旅を止められない。


 そうして、14歳になった。



 ある日、年代物のオーク酒を草原の国に隠れ住むオークから買い付けて、剣の国へ向かっていた時である。

 かつて自分を飼育して遊んでいたトーレ伯爵夫人に、高値で売り付けるために(そんな相手だろうと金払いのいい顧客ならば、問題はないのだ)歩みを進めていた。

 夏が近づく、いい風の吹く日だった。


 目の前に、ジジン・ムーゲン・メロディアが、立ちふさがった。

 その隣には、今まで見たことがないくらい、大きくて太った男が一人、サトウキビをしゃぶりながら立っていた。

 思わず誰何。

「それ……何にゃ」



 異世界から来た男。

 ある日突然この世界に迷い込み、またたく間にホビットとドワーフと人間の国を結び付け、ジンを引き連れて草原の国の危急を解決するために自分を追って来たことを聞いた時。

 否。

 その男が自分に向かって「はじめまして。高町観照です。友達はカンテラって呼ぶけど、まあ好きに呼んでください」微笑んだ時。




 どうしようもない憎悪に襲われた。



 その後も、型破りな振る舞いで世の中を騒がせ、世間の注目を一身に浴びて、げらげらと笑っている彼に付き合うことがあった。

 

 タタマ・アーラマ・マーマレードは、自分は、周りと違うということに悩み、受け入れられず人生を狂わせてしまった。


 なのに、目の前のこの男は、何なのだろう。

 何で全てを受け入れて幸せそうなのだろう。。

 

 私と同じで、みんなと違うのに。

 この男はどうしてこんなに、楽しそうなんだろうか。


 人に泥を投げ付けられ、馬鹿にされているのに。

 どうしてそんなにへらへらと笑っていられるのだ。



 この男が生きていることが、自分が否定されているようにしか思えなかった。



 そんな。



 そんな、情けない惨めな気持ちが湧きあがって止められない自分が厭で嫌でたまらなかった。






 ※※



「いきなり半生語り出すから何かと思ったら、そういう結論になるの……」

 ある夜。

 高町観照とタタマが二人きりの時。

 どうしようもなくて、思わず全てを口にした。

 彼は、最後まで黙って聞いて、目を見開いて下手なリアクションを取る。

 

 天を仰ぎ、彼女の人生を反芻し、そして頷く。


「なんとなくタマちゃんの気持ちがわかったよ」

「どう、わかったにゃ」

「僕が14歳だった頃に感じていたことと同じ気持ちだってこと」

「意味がわからんにゃ」

「僕なんて、いてもいなくても同じなんじゃないのか? って毎日思ってた」

「なんで」

「僕だって色々あるってことさ。タマちゃん。まだ14歳じゃ私は嫌な奴ですなんて結論出すのは早いよ。」

「……今は、どうにゃ。あんたは結論出たにゃ」

「出るわけないじゃん。毎日ギリギリで生きてるよ」 

 そして、苦く笑う。

「僕らって、思ってるよりキャラ被ってたんだね」

「私はおめーみたいに……優しくなんてないにゃ」

「優しいさ。僕はね、タマちゃんみたいになりたいといつも思ってる」

「は?」

「タマちゃんは、度胸もあるし、相手の気持ちを思おうとする。一緒にして安心できる。薄暗い道に浮かぶカンテラの明かりみたいに、人を導く」


 僕はそういう風になりたいといつも思ってる。


 そう言って、なんとも形容しがたい表情をした男を見て。



 タタマは、決めた。



 私は、そういう風にあろう。

 道に迷った人を正しく案内できる。言わねばならないことをはっきりと言える。そうやって、人に安心を与えられる何かであろう。

 そのための術は、ジジンがくれた。

 


 世界中に向けられた憎悪は、ただ一人の異世界からきた男に向けられ。


 そしてそれはどうしようもない愛情に反転した。



 この時より二年後。

 スケルツォ・フォン・レヴァンティンに求婚され、その愛は彼とそして二人の間に生まれるであろう子に注がれることが決まっている。

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