ジジン・ムーゲン・メロディアと高町観照の出会い
ジジン・ムーゲン・メロディア
犬頭人。案内人。
ストレスフリーな異世界旅行をするには、現地に詳しくて、一緒に旅して楽しい相棒が欲しい。ついでに、主人公を褒めてくれるような。
最初に「ジンさん」という呼び名が決まった。次に旅のガイドを仕事にしていて、いかにも異世界人、と言うキャラにしたかった。
その結果、頭が犬、体が人の犬頭人に。あと、主人公と対照的な性格。
ボケ役で物事に動じず大雑把な観照を助けてくれる、ツッコミ約でリアクションの激しい仕事のできる異世界人。
あと、主人公をヨイショするだけではあんまり魅力がないので、主人公とお互いにヨイショしあうことにした。
観照は非常識の権化で人に世話してもらって生きてる。ジンは常識に凝り固まった生活に飽き飽きしてて生活力がある。お互いが自分にないものを持つ相手を尊敬しあうようにした。
ムーゲン・メロディア族は獣頭人の案内人の中で一番歴史が浅く、他の部族の案内人が受けたがらない「面倒な仕事」を押し付けられることが多い一族。不平不満はあるものの、そういうものだと受け入れて我慢して案内人をしてきた。
ジジン・ムーゲン・メロディアも、諸外国を渡り手を汚しながら「仕事なんてさっさと終わらせて土地の名物や名勝を堪能したいものだ」と自分の仕事をどこかつまらないものだと思いながらこなしている。
当初は、国境を超えることを禁止されている人間や異人立ちの橋渡しとして自由に旅ができる案内人という仕事に情熱を持っていたが、最初に任された仕事が、「ホビットを愛人として囲っていた不良貴族の家からばれない様に密出国させ、愛人の家族に手切れ金を渡す」だった時に、ジェンガの如く夢が崩れ落ちた。
時折、「異国の遺跡を命がけでも見たい考古学者を密入国させる」とか楽しいこともあったが、「犯罪者が密輸した禁制品をわからないように元の国に密輸し、適当に売りさばいて違法売買の事実をなかったことにする」なんて厭なことの方が多い。
「この世界の奴らは俺のこと密入国ブローカーとでも思ってんのか」と愚痴ることもある。
特に厭なのが、汚れ仕事をする自分を見る、依頼者の眼つきだ。
クソのべったりついた便所紙を押し付けるように金を渡してくる時の。
まあ、仕事なんてものはどれもそんなものだと分かりながら、息詰まる毎日。唯一の楽しみは各地の歴史建造物を見たり、伝承の類を調べること。その時だけは安らかな気分になれる。
さて、今日も仕事をさっさと終わらせてどこの遺跡を訪れようかと考えていると、急な仕事を頼まれた。
【ホビットの国に、突然、妙に体の大きな人間かオークみたいな男が現れた】
その男を確保し、自分の国にまで連行するという面倒そうな仕事。
他にそんな面倒事を押し付けられそうなベテランが近くにいないため、彼が行くしかなかった。
その依頼を受け取ってしまったのが、ジジン・ムーゲン・メロディアの運の尽き。
ホビットの国、霧立ちこめる森の奥にいたのは、異世界からやってきた日本語を喋る無駄に図体のでかい太った男。
「ジジンって、なんか言いにくいからジンさんでいい?」
こんな馴れ馴れしい奴はそういない。
それからの三年間は、夢のよう。
異世界からやってきた男が、右も左もわからない世界で、自分の安全を確保するために諸外国を巡る。これも何かの縁と、旅の案内人をしてやる。
各地で自分から問題に首つっこんで、事態をややこしくしたあと「ジンさんどうしよう」と泣きついて来る男にツッコミを入れるのはとても楽しかった。
考えなしに困っている人を助けようとして自分が不利益を被ることになった男を叱ると「そんなこと言われても、ジンさんだってあの状況ならするじゃん」と同じレベルで決めつけられるのが心地よかった。
旅先でその土地の歴史や風俗を教えてやると目を輝かせて話を聞かれるのは嬉しかったし、「で、この土地の人に『ありがとう』ってなんて言えばいいの?」と訊かれたのも初めてだった。
全てにおいて、男はジンを頼る。それに優越感を感じだ。
男は旅先で、人と異人をつなぐ。自分のしたかったことをされて、劣等感を感じた。
あと、勝手に名前を縮めて呼ぶのは止めさせたかった。
ある日のこと、高町観照は言った。
「僕の世界の言葉じゃジンってのは、困ってる人を見過ごせない心という意味なんだけれど、まさしくジンさんのことだね。名は体を表すとはよく言ったもので」
その日から、ジジン・ムーゲン・メロディアはよっぽどでない限り、ジンと自称するようになる。