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毎度の光景

 大きな工具箱を持ち、ニヤニヤしながら公園を歩く男がいる。

 男のいでたちは、シャツにジーンズであるにもかかわらず、顔があまりにも悪人面のため、「その筋の人」としか見えない。しかも、見事な逆三角形な体型。

 散歩中の人や子供連れの母親は思わずその男から距離を取っていた。

「き……君。ちょ……ちょっといいかね?」

「? 何でしょう」

 気の弱そうな警察官が男に声をかけた。

「ち……近くの交番まで、来てもらえるかな?」

 俗にいう職質である。

「あの、今から仕事なんですが」

 仕事!? 人間でも解体するの!? そう思った人は多いはずである。

「かっ確保ーー!!」

 職質中の警察官の言葉に、他にもいた警察官が反応した。



「あっはははは。驫木とどろき君を採用してこれで何回目?」

 交番に来た恰幅のいい女性が、ばんばんと机を叩いて笑っていた。

「……御崎みさき先生。笑いすぎです」

 恰幅のいい女性の名前意は御崎 クリスティナ。フランス人の祖母を持つクウォーターで、オートクチュールをメインとするファッションブランド「MISAKI」の代表取締役にして、デザイナーである。

 そして、クリスティナに「驫木」と呼ばれた悪人面の男は、「MISAKI」でも腕の立つ若手お針子、驫木 憲治けんじである。

「ごめん、ごめん。最初は怒り狂ったけど、週一でこんなことになってたら、流石に笑うしかないわ」

 この会話に、警察官たちが顔色をなくして互いの顔を見合わせていた。

「えっと……」

「まず、説明させてもらいますね。驫木君はものすごく道具にこだわるので、裁ち鋏は最低でも三つ持ち歩いています。大きさ見れば分かりまね? そして、こちらの鋏は紙切り用。裁ち鋏で切ると、切れ味が悪くなるので仕方なし。どの鋏も手入れを怠っていないため、切れ味抜群。これは糸きり鋏。説明はしません。で、このあたりは目打ちとはと目打ちといった道具です。で、こちらは編み棒にかぎ針、これはレース編用」

 一つ一つクリスティナが説明していく。

「……はぁ」

「で、この道具箱落としちゃったんだって? 刃こぼれしてない?」

「見事にしました」

「先週砥いだばっかりだったのにね。残念。警察の方に弁償してもらいましょう。オートクチュールで鋏の切れ味が悪いと、どうしようもないからね。こちらの指定する砥ぎ屋さんに出してくださいね」

 にこにことクリスティナが言う。

「そういえば、替えの鋏ってあるの?」

「ありませんよ。レザークラフト用の鋏もこの中でしたし」

「あっちゃぁ。仕事に差し障りがでちゃうねぇ」

 その言葉に警察官たちがぎょっとした。

「でもさ、なんでニヤニヤ笑ってたわけ? それがなかったらここまで酷くならなかったと思うけど」

 その通りです! そう言わんばかりの若手警察官を、ベテランの警察官が止めていた。

あの(、、)レザー素材にいい模様が思い浮かんだんです。ついでに、先日依頼されたウェディングドレスに合う、いいレース模様も」

「うふふ。そのあたりは仕事場行ってから聞こうか。で、鋏はどうします?」

「こちらで砥ぎ代出させていただきます。その間の鋏は、我々では難しいですな」

「そうよね。驫木君が使っているメインの鋏は、『MISAKIうち』に入社した時に渡している一点ものだしね。

 こっちで一つだけ余分なのがあるから、驫木君はそれ使って。仕事が遅れる分は他の人にお願いするし。それよりもレースの案を聞きたい」


 そんなわけで職務質問から二時間後、憲治はやっと解放された。


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