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第一章 2

「ああ……風呂上がりだったからね」


 プラピアは、少し気まずそうにタオルの端を押さえてはにかんだ。


朝七時四八分(ヤディト・オルテ)の水浴びが日課だってことは、バルブッチも知ってるでしょ?」

「知っています。だからこそ『報告は後でさせて下さい』と、私は申し上げたのです。それなのにプラピア様が、すぐに寝室まで来るようおっしゃるから……」

「バルブッチが帰ってきたって聞いたら、服を着る間も惜しくなったんだよ……」

「私が帰ってきたから、というより、私が持ち帰るだろう情報に一刻も早く目を通したかったからでしょう?」

「え? そりゃ、まあ、そうだけど」


 プラピアがきょとんと小首を傾げる。バルブッチは一抹の寂しさを覚えた。


「……ああ、それから。リローミアから聞いたのですが、また『共和主義連合』の連中にちょっかいを出されたそうですね」

「あー、やっぱりあの子ばらしちゃったかー……」

「ちょっかいを出すだけならいいですが、単身で乗り込むのはやめて下さい。近衛兵が心労で倒れてしまいますから」

「どいつもこいつも心配性でいかんねえ。この国で〝最強の存在〟は、私だってのにさ」


 プラピアはわざとらしく肩をすくめ、「やれやれ」と首を振って溜め息をついた。

 誰が最強かというのは、普通は状況によって変わるものだ。だからバルブッチはあまりその手の議論は好きではなかった。

 が、強いて挙げるとしたら、確かに、彼女以外にあり得ないと思った。

 なぜなら――プラピアの中には、『不死鳥(ザイネフィユ)』が宿っているのだから。


 純粋な身体能力も低くはない。

 さすがに腕力では男には敵わないが、足の速さや持久力には目を見張るものがある。

 全身のバネを活かした軽快で無駄のない動きは、鍛錬によって作り上げた体幹の強さがなせる業だろう。徒手格闘の機微を読む能力も、ずば抜けている。

 とっさの状況判断力では、彼女の右に出る者はいない。

 プラピアは、天才的な頭脳を持っている。思考の速度と正確性に裏打ちされた、閃きの力を持っている。知識も豊富で、そこらの学者よりも物知りだったりする。

 こと魔法に関しては、自ら新たな理論を開拓するほど精通していた。理論一辺倒というわけではなくて、感覚的な部分でも、深く魔法の発動機構を熟知していた。


 けれど、何より彼女を魔法戦闘において最強たらしめているのは、彼女の中に宿った『悪魔(デュイルフ)』だ。

 忌まわしい『呪い』が、皮肉なことに、彼女を最強の座に君臨させているのだ。

 そのせいで、彼女に対する監視が、余計にきつくなっているわけだが。


「……せめてリローミアの目の届くところに居て下さい。あんまりひどいと、枢密院の方々からまた小言を言われますよ?」

「枢密院の連中なんて、無視しておけばいいんだよ。あいつら、私を監視することしか頭にないんだからさ」

「仮にそうだとしても、一国の元首の振る舞いを監督する存在は必要ですよ。特にプラピア様のようなお方が元首とあっては、なおさらでしょう」

「……随分ずけずけ物を言うようになったじゃないのさ。失礼しちゃうね、全く……ほら、もういいよ、下がっても。着替えるから」

「御意」


 バルブッチは立ち上がり、一礼してから部屋を辞した。

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