第一章 1
――背丈は、一五五センチといったところだろうか。
相変わらず、顔が小さく手足がすらりと長いせいで、頭身が高く見える。一瞬背が伸びたのかと錯覚したが、間近で見るとやはり、さほど変化はないようだ。
ヴィスティユの一五歳女子の平均に比しても小柄なほうだ。『獣人』の血が半分入った、身長一九〇センチの体格を誇るバルブッチと比べると、頭二つ分近く小さい。
日頃の鍛錬の賜物か、引き締まった肢体は、華奢ながらも筋肉質だ。ハリのある白い肌の裏側に、しっかり中身が詰まっているのが分かる。大股を開いて堂々と立つ彼女の太ももにも、筋肉のすじがくっきりと浮かび上がっているのが見て取れる。
あどけなさをまだ多分に残す可愛らしい顔立ちからは、しかし他の一〇代の少年少女にはない、皇帝としての威厳が滲み出ていた。長いまつげを備えた二重瞼のぱっちりした目も、配下に命令を下す際には、すっと細められる。灰青の瞳が強い意志を灯して、冷たい光を帯びる。
その瞬間の彼女が、何よりも美しいのだ――。
が、今の彼女の瞳には、年齢相応の素直さが宿っていた。
「おかえり、バルブッチ! 半年ぶりくらいかな?」
形の綺麗な鼻をつんと上に向けて、無邪気に笑う。
バルブッチはその場に跪き、恭しく頭を下げた。
「特務機関『太陽の眼』機関長、陸軍大佐のバルブッチ・イラルティート・レウディネルト、ただいま帰還しました。お久しゅうございます、プラピア様」
「堅苦しい挨拶はいいから、成果を聴かせてよ。目的のモノは見つかった?」
「お喜び下さい。プラピア様の予測通り、ウィルナノーグ諸島の一つでそれらしき兆候が見付かりました。バムーという名の島です」
バルブッチは懐から、魔子端末を差し出した。
現ヴィスティユ皇帝のプラピアは受け取った端末を慣れた手つきで素早く操作して、立体投影画面を起動した。ポンと飛び出した小窓には、バルブッチがまとめた報告書が表示されている。
「よしよし、大方の見立て通りだね。経度も緯度も、理論値からの誤差は軽微だ……」
「ええ、さすがはプラピア様。これほど正確に『結節点』の位置を予測なさるとは」
「うん、まあね」
プラピアは穴が開くほど画面を見つめている。もはやバルブッチのことは、眼中にないようだった。
もし彼女が皇帝になっていなかったら、きっと学者か何かになっていたのだろうとバルブッチは思った。興味を持った対象に発揮される彼女の驚異的な集中力には、ヴィスティユ皇室お抱えの魔法研究者でさえ及ばないだろう。
しばらくして、プラピアは報告書からバルブッチへと視線を移した。
その瞳は、冷たい光を帯びている。
やはり――美しい。
「現地の兵に連絡して、周辺住民を即刻退去させろ。『母体結晶』の準備は私が済ませておく」
「御意……といいたいところですが、プラピア様」
「うん? なに」
「早く服を着て下さい。バスタオル一枚ではお体が冷えてしまいます」