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プロローグ 3

「――私の祖国に対する侮辱はそこまでにしていただけますか、閣下(スラーム)


 ノーフスは口を開けたまま硬直した。

 なぜここにいるのか――。

 他の面々はぎょっと目を剥き、椅子ごと後ずさってノーフスのそばから距離を取る。

 一瞬、ノーフスも反射的に背後を振り向きかけたが、一国の長としての自尊心がそれを踏み止まらせた。見なくとも分かる、真後ろにあるだろうあの真摯な表情を思うと、どうにも気まずくて忌々しかった。

 声の主は、なおも続ける。


「ところで、この、超魔導有機金属を使った魔封じの結界ですが。もう少し、見直されたほうがいいと思いますよ。設計思想が古すぎて、性能が今の技術水準に届いていませんから。私でなくとも、この程度の結界であれば侵入は可能でしょう。あなたにもできるのではないですか、閣下?」


 顔を見るのも嫌だったが、かといってこのまま無視し続けるわけにもいかない。

 ノーフスは苦虫を噛み潰すような気持ちで、背後を振り返った。

 ――黄金の髪、灰青の瞳。

 細い腕を組み、長い足を交差させ。

 鏡面の壁に寄りかかりながら、少女の姿をした『怪物』は、まるで彫像か何かのごとく優雅に佇んでいた。


「……『不死鳥皇公(ゼノーフィアム)』」


 ノーフスは皮肉をたっぷり込めて、ヴィスティユ帝国〝第一〇代〟皇帝の敬称を呟いた。否、蔑称か。

 美しいその怪物は、小首を傾げて微かに眉をひそめた。


「どうせその名で呼ぶなら、プエリオス語でなく、ヴィスティユ語の発音でお願いしたいですね。本当は、私にもヴィスティユ帝国〝第一三代〟皇帝としての名が用意されていますから、そちらで呼んでいただきたいところですが」

「ならば呼んでやる、サーシャ・プラピア・ノスフェルークト・マフュリート。貴様、わざわざ出向いてくるとはご苦労なことだがな。一歩間違えば、これは戦争に発展しかねん暴挙だぞ。分かっているのか?」

「ええ、分かっています。私は、釘を刺しに来ただけです。今この場であなた方と事を交えるつもりはないし、できればこれからもそうありたいが、そちらがその気なら、我々は全力で潰しに行かせていただきます――とね。ゆめゆめ覚悟しておくことだ、皆々様」


 目を細めて、怪物は静かに微笑む。穏やかだが、反抗を許さぬ圧力があった。

 ――まさか『密約』を忘れてはいないだろうな、ノーフス。

 怪物は、言外にそう忠告しているようだった。

 ああ、思い出したとも、とノーフスは心の中で吐き捨てた。

 思い出したぞ、貴様がどの程度、本気でいるのかをな――。

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