初のダンジョン防衛
「どうすればいい?」
「軍師ハムマル曰く、質が劣っているならば数でもってあたるべし」
「なにもったいぶった言い方してるんだ。つまりはゴブリンを大量に召喚しろってことだな」
10体のゴブリンを召喚し、またもやお徳用の処分品装備を購入し、それぞれに持たせ準備をさせる。
「そろそろやつらは入ってくるようですぞ」
ハムマルの声に壁をみると、3人が武器を手に俺のダンジョンに押し入ってきている。
なぜか、横からの視点で見ることができており、彼らが動けばこちらの視点も動くという親切設計? だ。
どういうことか聞いてみたら、侵入者のことが見えないとダンジョン運営に差し障りがあるでしょ、ときたもんだ。ついでにいうと視点変更もできるらしい。
ダンジョンの入り口は緩やかなスロープになっており、そこを下って地下1階部分まで下りる。そこから先は小部屋がふたつあり、そこを抜けて少し歩くと地下2階への階段がある。
「おい、これは映像だけで音は聞こえないのか?」
盗賊3人は何もない部屋を抜け、地下2階への階段を下っていく。
「残念ですが、そういった機能はないようでございます」
食い入るように見つめながらハムマルが答える。
階段を下り、ひとつめの小部屋。そこにも何もない。
最初緊迫した様子で剣を抜いていたが、今では腰の鞘に収め、リラックスした面持ちで歩いていた。
1階部分は完全に一直線だったが、地下2階の今いる部屋を抜けると先が大きく右にカーブしている。
カーブの頂点部分を抜けたとき盗賊たちの顔にいやらしい笑みが浮かぶ。
視線の先には小部屋、そしてその先の通路の向こうには扉が見えているはずだ。そう、この部屋への入り口の扉が。
盗賊たちが小走りに駆け出す。
今だ!
俺の合図が通じたわけではないが、盗賊たちが小部屋に入ろうとしたその時、視界の影からゴブリンが4匹飛び出し背後に回りこむ。
視線が扉に向くのを計算の上、カーブのすぐ先の見えにくい位置に窪みを作って、そこに潜ませていたのだ。
盗賊たちはそのまま走り、小部屋の中へと入る。
そして入り口の影から2匹のゴブリンが飛び出し先ほどの4匹に合流する。
後ろにいるゴブリン6匹を相手にするか、それとも扉まで走っていくか迷っている。
そんな暇は与えない!
小部屋の先の通路の死角になっているところに作っておいた窪みからゴブリン8匹が飛び出し、盗賊の前を塞ぐ。
盗賊3人に対し、前方8匹、後方6匹で囲んだ形だ。
リーダー格らしき盗賊が数が多いにも関わらず、扉のある方のゴブリンへ武器を掲げ突っ込む。それに少し遅れて盗賊二人も追随する。
予想通り!
あらかじめの打ち合わせどおり、天井に張り付いていたスライムが盗賊の上に落ち、一瞬判断を狂わせる。
スライムに攻撃力は望んではいない、それだけで十分。
後ろから追いかけてきていたゴブリンたちが追いつき、振るった錆びたショートソードが盗賊を傷つける。
それに気をとられると別方向から剣が振るわれる。
3対14、レベルが低いとはいえ囲まれてしまえばなすすべもない。
倒れ伏した3人に対して、ゴブリンは1匹もやられてはいない。
2匹が少し怪我を負った程度だ。ほぼ完勝といってもいい。
「主様、おめでとうございます。初のダンジョン防衛、勝利にございます。まだ完全に息絶えてはおりませんが、もう動くこともできないでしょう。扉の外にでてみませんか?」
「いや…… 血が流れてるし……」
「そんなことでどうするんですか、行きますよ。……開かない」
人間サイズからいっても少し大きめの扉を小さなハムスター開けられるわけもなく、瞳をうるうるさせこっちを見ている。
いや、そんな目でみないでぇー。
しぶしぶ扉を開けるとハムマルは駆け出していく。
ちらっと見ただけだが、すぐ近くに血まみれの盗賊たち倒れているのを知ってすぐに扉を閉めた。
その一瞬、盗賊の一人と目が合う。
「今まで好き勝手に殺して奪ってきたが、俺たちもこれまでかよ……」
「たす、け、て、」
「……」
人の死を目の前にしてぎゅっと目を閉じ、耳を塞いでうずくまってしまった。
どれだけそうしていただろか、カリカリと塞いだ耳の隙間から音が入ってくる。
つたつたと背中を伝わり、肩の上に何かが乗った気配に目をそっと開き、耳から手を離した。
「追い出すなんて、主様酷いではございませんか。しかし、ちょうどいいのでわたくし専用の出入り口を開けさせていただきました。このサイズなものですので、ないと不便ですからね」
「そんなことより、やつらはどうなった?」
「はい、完全に死んでおります。そのまま半日も放置しておけば自然とダンジョンに死体は取り込まれます。その際に持ち物はきちんと残りますのでご安心ください」
恐る恐る聞いた俺に対してハムマルはあっさりしたものだった。
それより、半日も外に死体を置きっぱなしなんて勘弁してくれ、俺はもう寝る。
まだ昼ごろだったが、頭から布団をかぶってベットへと潜り込む。
先ほどの光景が頭から離れない、直接的ではないにしろ俺は人を殺してしまったのだ。
1万人の血を捧げないと元の世界に戻れないというのだったら、戻らなくてもいいじゃないか。これ以上人殺しをしたくなんかない。
そもそもあの邪神とかいうのが勝手に俺をここに飛ばしたのが問題なんだ。いや、そもそも親に言われて仕事を探しにしぶしぶハロワに出かけようとしたのが間違いだったんだ。くそっ、親父の軽トラのブレーキの効きがよくなかったのが悪いんだ。
頭の中を言い訳や愚痴が目まぐるしく駆け巡る。