誰も来なくて暇してます
ハムスターのハムマル曰く、ダンジョンに血を捧げていけば召喚できるモンスターの種類が増えるらしい。
スライム2匹、ゴブリン4匹を召喚し、各2匹ずつ小部屋に配置することにした。これはモンスターは種類によって違うが、自然に繁殖して増えるとの話を聞いたためだ。
ていうか、スライムってオスメスないような気がするし1匹でもよかったかもしれんな。まぁ安いモンスターだし、いいか。
召喚したモンスターにハムマルが指示を出す。
おい、待てよ。
「お前ってモンスターと話せるのか?」
「もちろんにございます。モンスターと意思疎通できなくしてダンジョン運営のサポートはできません」
「俺ってダンジョンマスターだよな。俺が話せないのに、お前だけ話せるのって卑怯じゃないか」
「主様はジュボーン様より神の力の一部を行使することができる権限をいただいておりますので、魔物と意思疎通をおこなうことなど容易にございます。DPをお支払いになればですが……」
くそー、そういうオチかよ、どれどれ買い物をするっと……3000DPかよ、糞たけぇー!!
あった方が断然はかどるよな、たぶん。というわけで、ぽちっとな。
「というわけで、俺がお前達の主のダンジョンマスターだ。これからよろしく頼む」
召喚したモンスターたちにとりあえず挨拶をおこなう。
「僕悪いスライムじゃないよ」「ぷるぷる、いじめない?」
「カミサマ、イッショウヲササゲマス」「ダンジョンマモル、オレタチノシゴト」「カミサマ」「ハラヘッタ」
スライムの方が流暢に喋っていたようだが、たぶん気のせいだよな。
緑色の小さな水溜りが盛り上がったかのような生き物がずずずっと地面を這いながら、これまた緑色の俺の腰くらいしかない小さな二足歩行の生き物がスタスタと2匹ずつ小部屋へと散っていく。
「主様、ゴブリンに武器を与えてはいかがでしょうか?」
なに? またDP使うのかよ、と思わないでもないが、処分品装備(10セット)というのを10DPで購入し、錆びたナイフとボロボロの革鎧をゴブリンに与えたら、とても喜ばれた。
忠誠度というものがあるのかわからないが、結構あがったんじゃないかと思われるほどの喜びようだった。見た目はあれだが、まぁ結構かわいいもんだ。
次は外との出入り口に階段を設置っと…… 外に出ないんだが……
「それはでございますが、現在主様がいらっしゃいますここは地下2階のため、階段をひとつ設置しただけでは地下1階にしかいけないのでございます」
そういうことは早く言えよ。
階段から折り返して部屋2つと通路、そして今度こそ地上への階段を設置。
あ~、むせ返るような濃い草木の香りが心地……げほげほ。
ごめん、こんな自然あふれる空気に触れることがなかったから、きついわ。
異世界に飛ばされて、やっと初めて外にでた感想がこれだった。
それからは1週間ごろごろと寝て過ごした。
部屋には普通のベッド300DP、500mlのペットボトルの炭酸ジュース20DP×14、2lの水10DP×4、食事40DP×18、雑誌、漫画詰め合わせ300DPが散乱していた。
ていうか、食事って40DP払うと普通に日本のラーメンとかオムライスとかピザ、それにコンビニ弁当とかが瞬時に現れるんですけど、それに雑誌なんか俺がこっちに飛ばされた後の新しいやつなんですけど……
ハムマルに問い詰めたら、たぶんジュボーン様があちらの世界で食べたり手に入れたりしたものではないでしょうか、だった。
あいつは食い歩きでもしてんのかよ。
なんかダンジョン作ったのに、誰も来ない。やってることは部屋にこもってのだらけた生活。
なにもしなくても1日に100DPが貰えるとはいえ、1日に3食、それに水2Lを飲むとして130DP。赤字じゃないかよー。
残高確認……5338DP
あれ? なんで1桁に端数がでてるんだ?
「おい、どうしてDPに端数があるんだ? そんな使い方をした覚えはないぞ」
「恐らくではございますが、動物の血がこのダンジョン内で流れたのではないでしょうか。この1週間、このダンジョンに人間は一人も来ておりませんが、動物が迷い込んできたり、ゴブリンたちが餌としてダンジョンの外で動物を狩って持って帰ってきたものと思われます」
「え、あいつら勝手に外にでてんの?」
「はい、彼らも生きておりますので、なんらかの食料は必要です。主様が与えてはおりませんので、自分達で手に入れる必要がございます。主様の手を煩わせてはなりませんので、彼らへの外出の許可は勝手ながらわたくしが出しておりました」
あー、食いものか、完全に失念してたわ。
とりあえず水だけでもと、地下2階の真ん中の部屋に小さな泉(400DP)を設置した。
そしてゴブリンを2匹召喚し、森での食料調達部隊に任命する。
これで最初に貰っていた1万の半分を切ってしまった。
このまま細々とであれば何年か生活できるかもしれんが、それはまずいよな。
「そういえば、俺ってこの世界ではどの位の強さなの? 神の力の一部が使えるとかいう話だったから結構強い?」
「主様は神々に次ぐ強さにございます。DPで強化すればでございますが…… 今のままでは並みの人間ですので、冒険者に攻め込まれればひとたまりもないでしょう。DPを貯めて強くなるか、外に出て経験を積んで強くなることをお奨めします」
「えっ、俺って外にでて自由にしていいの?」
予想外だった。
「はい、外の世界を自由に行動することも可能ですが、ここにあるダンジョンコアが破壊されますと主様は消滅してしまいますのでご注意ください。また主様はダンジョンコアの破壊以外では死亡されましても、DPが半分になった状態でこのマスタールームにて生き返ることができます」
不死なのか、ちょっと外に行ってみたくなったけど、ここが襲われたら終わりだしなぁ。
「ダンジョンの出入り口を無くすとか、この部屋の入り口に鍵をかけるとかして誰からもここが襲われないようにはできないの?」
「この世界の理としてダンジョンの出入り口を塞いでダンジョン運営をおこなうことはできません。ですが、出入り口を木や草などで隠すことは可能です。また、部屋に鍵をかけることは可能ですが、冒険者の中には鍵開けの技能をもっているものもおりますので安心はできません。ですが、外にでるのによい方法がひとつございます。ダンジョンに冒険者などの敵対勢力が誰もいないことが条件ですが、200DPでマスタールームに3日間だけ結界を張って誰からも進入できなくすることが可能です」
結界石(3日)を200DP、普通の服、履物セットを10DP、ダガーを10DP、指定モンスターとの遠距離思念通話(3日)を30DP、金貨5枚の500DP、銀貨100枚の100DP、お金を入れるための小さな袋1DPとどんどん必要と思われるものを交換していく。
ハムマルはダンジョンの管理のために残るというので、いざという時のために1000DPの使用権限を渡しておくことにしよう。