ここは異世界、ここはダンジョン
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めっちゃ嬉しいです。
「お待ちしておりました。主様」
可愛らしく細い小さな声が耳に入ってくる。そういえば、超可愛い子をサポートにつけてくれるとかいってたよな。
「真っ暗でなにも見えん。明かりはないか?」
「失礼いたしました。私は夜目が利くもので失念しておりました。すぐ明かりをおつけいたします」
急に明るくなったため、手で目を覆い、慣らしながらゆっくりと周囲を確認する。
俺の住んでいた部屋と同じくらい、つまり6畳程度の土壁の小部屋。
それはまぁいいとしよう、だが出入り口の扉もテーブルといった家具もなんにもない。いったいこれはどういうことなんだよ~、それに可愛い子ちゃんは?
「どこにいるんだ? 隠れてないで出て来きなよ」
「は、御前に」
目の前には誰もいない……ちっちゃな薄い灰色をしたジャンガリアンハムスター以外は。
「もしかしてお前か? さっきから喋っているのは」
「は、その通りにございます」
やはり話かけてきていたのはハムスターだった。丸々としているため立っているのか座っているのかはよく分からないが、直立? して短い手を前で合わせている。
いや、確かに可愛いよ、可愛いんだけど、ちょっと意味が違うだろ。
え? 人間の女の子を期待した俺は間違ってるの? 俺って不純なの?
「わたくしはジュボーン様より主様に仕えるようにと仰せつかりました。なんなりとお申し付けください」
「ジュポーンは邪神っていってたけど、悪い神なの?」
「わたくしごときに神の理は知る由もございませんが、以前ジュボーン様は二つの陣営に分かれてただ遊んでるだけだよとおっしゃっておられました」
神同士で争ってるというのではなく、ただ遊んでるだけねぇ。
「おっと、他にも色々聞きたいことは満載だったんだ。この部屋って出入り口の扉もないし、俺ってば閉じ込められてるの?」
「主様はこの世界にダンジョンマスターとして呼ばれました。まずはダンジョンマスターについて説明するべきでしょう」
ダンジョンマスターとはダンジョンと呼ばれる迷宮を作り管理するものの事をいうらしい。
この部屋に扉がないのはまだ何も作られていない、まっさらの状態だからだそうだ。
これからダンジョンポイント、略してDPと呼ばれるものを消費して通路や部屋、そして家具や道具などを作り、また魔物を召喚して立派なダンジョンを作り上げるのがひとつの目標だという。
ひとつのというのも、1万人分の人間の血をこのダンジョンに吸わせるというのが俺の最終目標だからだ。
思考が逸れてしまったが、ダンジョンポイントは地上への出入り口を作成後、毎日100DPが自動で支給されるほか、ダンジョン内にモンスター以外の血が流れることで増えていく仕組みらしい。
「そういえば、まだ挨拶してなかったな俺は中洞垂水だ、お前はなんて呼べばいい?」
「わたくしとしたことが説明ばかりに気がいって失念しておりました。ハムマルとお呼びください。これもジュボーン様に拾われた際に丸々と太っていたことからつけられた名です。あの時は今より大分……」
ハムマルっていうことはオスなのか、声は可愛い声なのになぁ、いかん、いかん、断じて違うぞ。
長くなりそうな昔話には適当に相槌を打ちながら妄想に耽っていた。
ひとしきり話し終えると、頬袋を膨らませ、なにやらモグモグ……ペッ。
ころんと地面に転がったのはパチンコ玉くらいの大きさの虹色に輝く玉だった。
「これが先ほどお話いたしましたダンジョンコアにございます。主様が手にしていただければ、自然とコアはその手の大きさになります」
すまん、聞き流してたわ。
いや、それよりなんで口から出すんだよ、その呟きを耳にした奴はお尻からだした方がよかったですかね、でもあれって結構辛いんですよ、とぶつぶつ言っている。
あぁ、やっぱこいつは獣だわ。
これを手に取るのか、なんかやだなぁ。
あまり気乗りしなかったが、指でつまみ、ズボンで拭いた後に手のひらに乗せるとズズズっとちょうど手のひらに収まるサイズまで大きくなった。
「それで、どうすればいいんだ?」
「使うには頭の中で念じるだけで結構でございます。まずはメニューと念じてください」
メニューでてこい! 声には出さずに叫ぶと頭の中に文字が浮かんでくる。
「ダンジョンを作成する、モンスターを召喚する、買い物をする、情報を確認する、の4つがあるな」
「ダンジョンを作成すると念じますと、通路を作る、部屋を作る、と細かい内容になります。モンスターの召喚の場合や、買い物の場合は細かいリスト、情報を確認するは現在の情報をいろいろ確認することができます。これ以外にもジュボーン様のお力が回復されますと色々できることが増えてくるはずにございます」
扉がない部屋ってのも閉じ込められたみたいで気分が悪いな。まずは扉と通路かなっと思ったけど、やっぱここの上、つまりどんな立地の場所にダンジョンがあるか知りたいな。
ハムマルに聞いて情報確認、地上と念じると視界が急に開けてきた。
もしかして、これがダンジョンの上か?
「はい、そうにございます」
俺の呟きにハムマルが答える。お前も見えるのか? の問いに否の返答をもらい、見えるようにできるとのことでハムマルとの情報共有設定を許可にした。
見える景色は自分が移動したいと思えばどんどんと変化していく。地上を移動したいと思えば、人の目線くらいの視点で、上から見たいと思えば20メートルくらい上空から辺りを見回すこともできる。
ダンジョンの上は森だった。森の端から端まで歩いても1時間足らずで踏破できそうな、それほど大きくはない森。そして森をでて30分といったところに道が見える。町などの建物はここからは見ることができないので今のところすぐに見つかるといった危険性は低そうだ。
「懐かしいでございますね。わたくしは昔この森でジュボーン様に拾われたのです」
長くなりそうな気配を察し、とりあえず扉と通路、そしてその先に小部屋、そしてその先に通路、小部屋。ただ直線に最初にいた場所と合わせて3つの部屋と通路を並べてしまった。
最初は10000DP所持しており、消費したDPは小部屋が各100、通路が1メートルにつき1なので10メートル分で210DPを消費する。
まだ自分の生い立ちについて語っているハムスターの言葉を遮り、これからどうすればいいのか聞いてみた。
「通路と小部屋を作られたのですか。まだまだこの程度ですとダンジョンと呼ぶには寂しいですが、モンスターの召喚と地上への出入り口を作ればとりあえずダンジョンの形になります」
モンスターか、俺って襲われないだろうな。いや、流石に主人だから大丈夫だろうけど、うまくやっていけるのだろうか。
不安に思いつつもモンスターリストを開いてみたが、スライムとゴブリンしか表示されていない。
スライム 30DP
ゴブリン 100DP