プロローグ
ダンジョン入場料
1-5階 家畜の血カップ1杯(約200ml)
-10階 人の血カップ1杯(約200ml)
-20階 人の血カップ2杯(約400ml)
それ以降 居住スペースにつき立ち入り禁止
「あ~、わし、わし、わしじゃけど」
「……???」
「もしも~し、聞こえとるかのぅ?」
「今、忙しいんだけど」
「聞こえとるやんけ、ぼけぇ」
なんか知らんやつに電話越しに怒鳴られてしまった。
「えと、どちらさんですか? 今立て込んでるんですけど」
「わし、わし、邪神ジュボーンだけど」
「はぁ? いたずらならやめてほしいんだけど」
勘弁して欲しいわ、このタイミングでいたずら電話なんて。
俺は電源を切ろうと耳から携帯電話を離す。
「電話を切るのはお奨めせんぞ。時間の止まったこの時に電話がかかってくるのはおかしいとは思わんのか?」
手に持った携帯から小さな声が聞こえてくる。
確かにそうだ、焦って頭がうまくまわっていないようだ。
「それで邪神様がどういった用件なのでしょうか」
「あぁ、それじゃがのう。今はわしの力で時を止めておる。まぁそれはいいとして、このまま時が動き出すとお前さんの乗った車はあの子供を轢いてしまう。これは分かるな」
俺の乗ってる軽トラのすぐ目の前、というかバンパーに触れるか触れないかのぎりぎりなところにボールを追いかけて飛び出してきた幼児がいる。
やべぇぇ、衝突待ったなしだよ。でも運がいいことになぜかぶつかる直前で車が唐突に止まってる。
でも、ハンドルを切ろうにも動かないし、ブレーキを踏もうにもびくともしない。
どうすればいいってんだよ、これ。
「無理じゃ、無理じゃ。今時間が止まっとるから君の体とその携帯以外は動かんよ」
「だったら、なんの用ですか。邪神っていってますけど、もしかして俺を助けてくれるんですか?」
「ギブアンドテイクじゃ。わしの頼みを聞いてくれたらこの状況を解決してやるぞ」
電話越しに聞こえる悪魔の取引は俺にはとても魅力的に思えた。
彼の話を要約すると、まず、邪神はこの世界の神ではない。司る精神は怠惰、その言葉通りに怠けまくっていたら主神とかいう一番偉い神に叱られ、魂と肉体とを分離させられて魂は別世界、つまり俺のいるこの世界に飛ばされてしまったという。
怠惰な神というだけあり、それでもいいかとこの世界でごろごろしてたら、急速に力が抜けてきて今焦ってる最中だそうだ。
その理由として考えられるのが元の世界にある体の力が弱っているためと思われ、その力の回復にと偶々俺に声をかけたという。
神にどうして自分でやらないのかと聞いたところ、主神に結界張られていて弱体化した今の力では……とかなんとかぶつぶつ呟いていたが、結局のところ面倒だというのが主な理由っぽい。
俺が押し黙って思案していたら、それを察したのか邪心もがんがんアピールしてきた。
仕事に成功したら、この世界の今の時間に戻してくれて、子供も安全な場所に移動してくれるという。このままだと人殺しとしてあまり嬉しくない生活を強いられることを考えると、これには少し心動かされるものがある。
そして仕事内容はというとダンジョンの運営だそうだ。俺としてはどんなものなのかよく分からないが、次いでプッシュプッシュが始まる。
あちらでは神の代行者として彼の力の一部が使え、ダンジョン運営のサポートに超可愛い子をつけてくれ、他にもおまけがてんこ盛りだそうだ。
悪い話ではないが、邪神というのが気になるんだよな。
怠惰の神だから、それほど悪い神ではないという気もするし、う~ん。
「で、この話を受けてくれるかね?」
「はい、少し考えさせてください」
「あい分かった、これで契約成立とする。それでは頑張ってくれ」
「え、いや、まだ了承したとは一言も……」
「さっき、わしの問いにはいと答えただろ?」
「いや、それって詐欺の手口なんですけど」
「いいから、黙っていってこ~い」
体が浮遊感に包まれ、目の前の景色が凄い早さで移り変わっている。
「いい忘れたが、わしの力を回復させるにはダンジョンに1万人くらいの血を吸わせるだけでいいから。それじゃぁ、後よろしくね~」
おいおい、日本で人をひとり殺してしまうのが嫌で異世界に行って神に頼まれた仕事をすることになったというのに、今度は1万人殺せってか?
これこそ本末転倒じゃねーか~。
目まぐるしく変わる景色の中で叫んだが邪神には伝わっただろうか。そして真っ暗になったときにやっと足が地に着き浮遊感が途絶えた。
昼過ぎくらいから書き溜めていたのを読み返しつつ投稿していけると思います。
異世界運送の方を期待してた方は申し訳ございません。
そちらは現在書き溜め中となっております。