第3章:シンデレラ、誕生
「じゃあ、口を開けてみて?」
「?」
よく解らないが、口を開ける。
「あ、舌あるじゃん、良かった。」
舌、とは何だろう。
「舌はここの事だよ。」
そう言って少女は口から赤い物を出した、口の中を触って見ると、私にもあった。
「これが無いと喋れないんだ、逆に言うと、これがあれば喋れるんだよ。」
そうか…、つまり私は喋れたと言う事か。
「ちょっと声出してみて、あー、って。」「……………ァ…………………。」
少し音が出たが、声と言うほどでもない。
「あーー、頑張って、あーー。」
「………アッ………ァ…」
声が掠れてよく聞こえない。
「ほら、頑張って。」
「アッ………ァァ……ァ……。」
「頑張れ、頑張れ。」
―――
――
―
3時間後―
「あーー、ッ…あー…ッあーーー……。」「大分出せるようになったね、はい、水。」
少女が水をくれた、乾いた喉に染み渡る、水が美味しい。
…水が、美味しい?
私の知っている水は茶色っぽくて、土の味がする液体だ、少なくともこんなに透明ではない。
「……………?」
「どうしたの?」
「お……い………い…。」
上手く喋れない。
「? まぁ練習続けるよ。」
私は首を縦に振る。
「はいせーの!」
「あー…あーーーーー…あーーーーーー……。」
「凄い凄い!今までで一番出てたよ!」
少女は褒めるのが上手い、何だかやる気が出てくる。
あ、そう言えば…。
「な……あ…え………。」
「?」
駄目だ、まだ上手く喋れない。
「なぁ………ま、ぁ…………え…。」
「?………あ!名前?ごめんごめん、まだ名乗って無かったね。」
少女は綺麗な顔で、私の質問に答える。
「私はリウム、リウム・カトモア。」
少女…リウムは笑顔で答えてくれた。
「貴女の名前は?」
言われて、自分には名前が無い事に気づく。
「え………あ……。」
しどろもどろしていると
「……もしかして、名前、無いの?」
首を縦に振る。
「そっかぁ…無いのか…じゃあ、私が付けてあげるよ、いい?」
リウムが名前を付けてくれるのか、父にはいつもお前やコレとしか呼ばなかった、名前は始めてだ。
私は首を縦に振る。
「うーん……メア?ランカ?アンナ?エラ……?」
凄く悩んでいる。
「シン…エラ……デレラ……シン…!」
リウムは目を見開き、声高々と命名する。
「シンデレラ!貴女は今日からシンデレラよ!」
“シンデレラ”
その言葉が胸に染み渡る感覚が確かにあった、気のせいではない、何かが体の中に浸透している、そんな感覚が体を包む。
「シ……ン………で、れ……ラ……。」
「お姫様みたいでいいでしょ?貴女は可愛いし。」
可愛い、とは何だろう、いや、今はそんな事どうでもいい。
「シン………デ…レラ……。」
シンデレラ、シンデレラ、何度も呟く、自分の名前を。
「気に入った?」
「は………ひ……。」
「良かった。」
リウムは微笑んだ、綺麗だな。
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―――
―
それから数週間が過ぎた。
私はかなり喋れるようになり、リウムに色んな事を教えて貰った、私が奴隷となった事、その奴隷の意味も。
「リ、ウム、おは、よう。」
「おはよう、シンデレラ。」
リウムの声は、いつもと同じに聞こえるが、少しだけ悲しげな声が混じっていた。
「どう、したの?何か、あった、の?」
「……………今日、売られちゃう、って………。」
「え?」
売られる、前にリウムから聞いた、たしか、売られたら、知らない人に連れていかれ、離れ離れになる、と言っていた。
「売ら、れ…る……。」
「運が良ければ……何もしない、優しい人に買ってもらえるかも………。」
だけど、奴隷を買うような人は、大体は自分の欲求を満たすために奴隷を買うはずだ、そんな人はほぼいないだろう。
「もう、会え、ない…?」
「多分ね…。」
リウムと会えない、私は悲しい気持ちはあったが、思った程では無かった。
「いつ?」
「夜ぐらいだって…。」
夜か……、どんな人に買われるのだろう、何をされるのだろう。
私は、悲しそうなリウムを慰めながら、売られた後の事に思いを馳せる。
シンデレラはかなり美人で。
髪は長い金髪で、目の色は蒼色、栄養失調で、背は小さめです。