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神聖じゃないよ! 破門皇帝フレデリカさん  作者: 左高例
第二章『神聖ローマ皇帝フレデリカと内政』
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8話『希望の未来へレディーフレさん──同年』

 フレデリカ一行はジェノバを出発し、北にある都市パヴィアへ到着した。

 イタリア北西部ロンバルディア地方を中心とする地方都市が合わさった、ロンバルディア同盟とはいわば皇帝や王が都市の司法や税率に干渉することを嫌って作られた、フレデリカの祖父フリードリヒ1世の頃の同盟のことである。

 幾度と無く[赤髭王バルバロッサ]と争い、一度は盟主とも言えるミラノを壊滅させたのだが結局のところ、ドイツ最高の王とも言われるフリードリヒですら講和を結んである程度の自治を認めざるを得なかった背景がある。

 なお、ジェノバとヴェネツィアはそれぞれ独立国家として同盟には加わっていない。

 しかしながらロンバルディア同盟内は一枚岩かと云うと当然そうではなく、特にミラノとクレモナの二大都市は犬猿の仲で少なくとも現状、支配を広げていないフレデリカならばミラノの敵ではあるがクレモナではそうはならない確証があった。

 むしろクレモナは「ミラノだけ滅ばないかな」とさえ思っている。自分のところさえ良ければそれで良いと云う自治都市は多く、故にフレデリカは辿り着いた都市でこう云う。


「大丈夫大丈夫! 我は超公正だし今いる諸君らの既得権を奪ったりもしない。治めることになっても君たちコミューンの人間を上に付かせて、外交なんかは我が置く予定の監督官に一旦相談してくれればいいから」


 これは昔に結んだロンバルディア同盟とフリードリヒのコンスタンツ講和を更に緩くしたような内容であった。更に教皇権威で一時的にステータスアップしているベラルドが後押しするのだから、下手なドイツ王の脅威に怯えるよりはと云う形で歓迎されるのである。

 もちろん受け入れない都市もある──大体空気読まないのはミラノ──ので、慎重に辿り着いた都市で近隣の大丈夫そうな都市に予め連絡役を送って貰いつつ、少人数で旅を続けるのであった。

 

 パヴィアを既に出発していた。歓迎は受けたが何日も留まるつもりはない。目的地はまだ遠いのだから。

 ゆっくりすればするだけ、敵となる相手に自分の位置を教えるだけだ。


「しかし隊長の言ったとおり、少人数だったら補給が簡単で済むね」

「まあな。教皇が旅費を教会で肩代わりしてくれるとはいえ、数百人だと中々楽には進まない」

 

 馬を走らせながらクレモナを目指す。一日では付かないだろう。そろそろ日も暮れる。

 隊長は周囲に気を配りながら確認の為に云う。


「前も言ったとおり、ミラノの連中も俺達が馬鹿正直にミラノの側を通ってアルプスを越えるとは思わないだろう。追手は必ずこっちに配置する。気をつけることだな」

「このベラルド思いますに、いっそ裏を掻いてミラノをスルーして北に行けばよかったのでは?」

「逆張りは王の命が掛かっていない時にするとしよう」


 ベラルドの意見をあっさり却下する隊長である。

 隊長は西に沈む太陽を見た後で周囲を確認した。


「しかし今日はここまでだな。夜に進むのは得策ではない。星も今晩は出ていないようだから」

「それじゃあキャンプの準備をしよっか」


 そうフレデリカが云うので一行はひとまず、道から外れた岩陰になる場所にキャンプ場を決めてテントを張り出した。

 テントと言っても、天井が抜けている幕をぐるりと張って馬も中にいれて焚き火をする程度である。幕は明かりをなるべく外に漏らさぬようにする為だ。


「これも大人数だとでかいキャンプになっただろうねえ」

「まあな。その分多少持ち込める道具や食料は増えただろうが……我慢してくれ」

「我は別に構わないよ。こういうのは詳しい人に頼んで聞くのが一番なんだから」


 と、フレデリカも頷いた。

 生涯に於いてフレデリカは独断で全能の考えがあったわけではなく、事あるごとに専門家を読んだり手紙を出したりして意見を求めている。

 無知を恥とは思わずに素直に聞ける性格であった。

 隊長は苦笑しながら、


「時々変なことを聞かれるのは困るがな。『何故海の水が満ち干きするのか?』って聞かれたりした」

「なんと応えたのかこのベラルドも気になりますな」

「そうなんだよ、隊長ったら『北欧神話ではトール神が酒と騙されて飲み干そうとしたせいで潮が引いて動くようになった』って応えるんだから。まあ、主が海を動かしてますって云うよりは面白い物語だけど」

「潮汐の原理なんて急に聞かれてもな」


 ぽりぽりと頭を掻いて、手元の小枝を焚き火に放り込んだ。

 

「ひょっとして隊長はバイキングの出で?」


 ベラルドは北欧神話の話から尋ねるが、彼は苦笑して肩を竦めた。


「ノルマン人の血は引いているようだから、先祖はそうかもしれないがな」

「まーノルマン人の血筋って云うなら我もそうだよね」


 フレデリカは機嫌よく同調する。

 彼女はシチリア王国ノルマン朝の王だけあって、母方の先祖がそうである。

 ノルマン人とはこれより数百年前に、北欧からヨーロッパ各地を制圧して様々な土地に入植し国を作った民族であった。一例で上げれば、フランス領のノルマン公国やルーシのキエフ公国、ノブゴロド公国、そしてイタリア半島のシチリア王国もそうだ。

 大司教は腕を組みながらううむ、と考え、


「スペインの騎士でアラビア語を自在に使って神話伝承に詳しく旅慣れていておまけに信心薄い。あれですね。フレデリカさんの部下だけあって変人ですなあ」

「我の部下だけあってってなんだよっ。まあ、いいんだよ隊長は役に立つから」

「まあ、細かいことだな。俺はフレさんの手下ってだけだ。ほら、モチでも焼いて食うか」


 と、棒の先に刺したモチを三人で炙りだした。

 従者達は馬の世話をして、旅慣れていない書記官と秘書は疲れによって既に寝ている。

 熱で柔らかくなったパンと沸かした湯を飲んだ。少しずつ千切って、口の中で湯でふやかす。

 この時代にはまだ紅茶もコーヒーも無い。飲み物は水か酒だ。警戒して夜を過ごすのに酒を飲むのはフレデリカもしなかった。

 グイエルモから貰ったモチパンは味わい深く、胃にそのまま染み入るようだ。

 食事が終わり、休息の時間に入った。

 寝ずに番をするのは隊長の仕事だ。従者に任せるよりも確実だと名乗りでた。いざとなれば隊長は寝ながら馬に乗れる技能を持っているので昼間に寝れる。

 まだフレデリカもベラルドも寝ていない頃合い。

 隊長が焚き火の前で、長方形の紙片を何十枚か手で弄び、捲って確認をしていた。


「隊長、何をやってるの?」

「ああ、これか? 中東から伝わってきたカードでな。占いに使っている」


 そう云うと彼はフレデリカにそのカードを見せてきた。

 数字と絵柄が付いたものが四組一セットで十枚。四十枚のトランプだと想像してくれればわかりやすいだろうか。

 ベラルドが顔をしかめる。


「占いですと? 邪宗ですよそれは」

「じゃあ危険予測をする際の癖とでも言葉を変えるよ。悪かったなベラルド。宗教をけなすわけじゃないから見て見ぬふりをしてくれ」

「……寝ますので見ていないところでお願いします」


 云うと、大司教ベラルドはそっぽ向いて寝転がった。

 当時は占いと云うものは土着でヨーロッパにも中東にも残っていたものの、それをキリスト教もイスラム教も認めては居ない。

 

「何を占っていたの?」

「襲撃確率。まあ、あまりいい結果ではなかったな。星が出ていればもっと確実だったけど」

「占いには詳しいんだ」

「趣味だが、部下にはよく当たると言われている」


 隊長は皮肉げに笑う。公に認められていない技能を褒められるというのが奇妙なものだと思ったのである。

 フレデリカが云う。


「なら試しに我を占ってみてよ!」

「ああ、いいぞ。……よし、フレさん。このカードの中から好きなのを選んでくれ」


 隊長が一旦無造作な動きでカードをシャッフルし、目の前にカードを孔雀の羽のように、裏返しにして広げて見せた。

 フレデリカは一枚選ぶ。


「それを俺に見せないようにして中の数字を記憶してくれ」

「うん」


 Ⅶのマークが付いた王のカードであった。


「そしてそのカードを山の好きな位置に返し……またシャッフルする」

 

 混ぜまくった後で隊長はカードの山で一番上を捲った。

 それをフレデリカに見せる。

 王のⅦだった。


「フレさんが選んだカードはこれだろう……!」

「それは手品だよね!?」

「冗談だ」


 隊長は笑いながらカードを戻して、占いの結果を云う。


「フレさんは自分の信じた道を進めるだろう。行く手には数多の困難や苦境、妨害が行われるかもしれないが君はそれを物ともしない。君が天命で死ぬその時まで、誰も君を破滅させることはできないだろう」

「……そうだね、隊長の占いを信じるというより、そうありたいと思うよ」

「相性のいい人間はジョン王系」

「それヨーロッパで一番駄目男だよね!?」

「バッドスポットは[花の街]。死ぬ」

「[花のフィレンツェ]? っていうかそんな不吉な占いはちょっと!!」


 フレデリカの抗議の叫びに、隊長ははっとして気まずそうに云う。


「……いや、こんな占いを出すつもりは無かったんだがな。まあ、後半は忘れてくれ」

「もう。困るよ! フィレンツェも一応我の領地なんだからね!」


 フィレンツェは自治都市として半独立しているが、北部イタリアの神聖ローマ帝国領にあるのである。

 これから皇帝になろうとする者に対しては自国内で死ぬ場所と云うのはあまりに縁起の悪い占いであっただろう。

 なお、信心深くないことで知られ、忙しなく領地の町々を移動しまくったフレデリカこと、フリードリヒ2世だが──近くを通りこそすれ、生涯一度もフィレンツェには立ち寄ることは無かったという。占いを信じたかは不明だ。

 ともあれ、明日には都市クレモナに到着するが、入ってすぐに休めるわけでもない。

 都市を実効支配している名家や教会に挨拶をしてクレモナの住民にも愛想を振りまき、次の都市への斥候を都合して貰い進軍計画を話しあわねばならない。それでも、滞在して二日ほどで出発するだろう。

 休めたものではないが、まだフレデリカから弱音は出ていない。


「とにかく。俺と従者が見張るからフレさんとベラルドも寝ていてくれ。ただし襲撃が来たらすぐに起き出せる様に、荷物や靴は近くに置くことだ」

「このベラルド、正直疲れてますので了解しましたが……隊長は平気なので?」

「俺はグイエルモの旦那から騎馬しつつ寝る方法を習ったからな。いざとなれば昼間移動しながら寝る」

「我はその馬の上で寝るの結局習得できなかったんだよねえ」

「落馬して蹴られかけてたな、フレさん」


 隊長はそう云って懐かしく笑うのであった。

 ほんの数年前だが、シチリアから一気に離れたものである。

 夜の帳が訪れる。テントの外に出て隊長は地面に座り周囲の音を拾っている。

 従者には火の番をさせている。できれば消したいが、狼や野犬に襲われる危険性はなまじ人に襲われるよりも怖ろしい。

 焚き火の音が聞こえぬところで注意を払う。

 人はどうしても音を立てる生き物だ。それが複数人居て、更に明かりも灯さぬように夜道を進めばより明確になる。

 雲間が晴れて月が見えた。皆は寝てから四時間ほど経過しただろうか。まだ朝は遠い。


(だがそろそろ限界か)


 襲撃をするならばこれぐらいの時間だ。予感を信じて地面に耳を当てて振動を探る。

 複数人来ているが、まだこちらには気づいていない。だが時間の問題だ。

 隊長は音をなるべく立てずにテントへ戻る。中の従者の表情が厳しくなった。


「フレさん、ベラルド。あと皆も。敵が来る。出発の準備だ」

「うおおお目覚めよ、我の力よ……!」


 意外にすぐに彼女は目を覚ました。眠りが浅かったのだろうか。少し隊長は彼女を心配したが、すぐに出なくてはならない。


「いいから。ほらほら、ベラルド。起きろ」

「歳相応の筋肉痛が……!」

「まだ三十なんぼだろ」


 隊長が次々に起こしていき支度をさせる。

 

「敵は騎馬無し。弓ぐらいは持ってるかもな。焚き火を消したらすぐに馬で川の方向へ向かう。橋を探して渡るぞ」

「ミラノ軍かな」

「だろうな。ドイツ軍が来たんだったら騎馬ぐらい居るはずだがその気配は無かった」


 断定して出発の準備が整い次第、用意していた土を焚き火に被せた。

 恐らく光量の変化で敵も察しただろう。

 一行はテントから馬で飛び出す。列にならずに団子になって走るのは誰がフレデリカかわからなくさせるためだ。


「居たぞ!」


 声が上がって周囲に気配が顕現しだした。


「ちっ……思ったより多いか」


 隊長が舌打ちしながら云う。風切り音が早速聞こえた。


「ベラルド! 左寄れ!」

「なんですとァ!」


 隊長の指示に反射的に従ったベラルドの右を矢が通過した。

 矢の連射は続き飛んでくる。矢張り相手も、クレモナがある川方向へ逃げるのはわかっていたようで左右に弓兵を配置していた。

 闇夜の見えぬ盲撃ちだろうが、腕が良いのか数が多いのか近くを掠める。

 声を張り上げるのは隊長だ。


「書記官速度を五歩緩めろ! ベラルド馬を右に戻せ! 秘書は頭下げろ! ベラルド水平乗り! ベラルド一瞬遅く──走りだせ!」

「このベラルド狙われすぎでは無いですかな!?」


 襲撃と見えない攻撃に恐怖している皆だったが、隊長が云うことをそのまま従う他はなく、そして彼が叫べば直前に自分が居た位置を矢が貫いていた。

 フレデリカは、


(我が狙われてないけど、この闇夜で我だけ判別して打ってるのかな!? そして隊長はなんで見えてるの!?)


 思って走らせながら体をよじり、振り向いた。

 すると隊長の背中が見えた。

 背中、である。

 彼は騎乗しながら後ろを振り向き、そのまま馬を走らせているのだ。

 眼帯を外した隊長は周囲に視線を巡らせながら、闇夜に飛来する矢を全て見切っているのだ。

 風呂場でも外さなかった左目の眼帯の下は、月光で青く輝く正常な目をしていた。

 しかも、


「──えええ!?」


 金属の擦過音。さっきからそれが何度か聞こえると思っていたのだが。

 フレデリカの真後ろに付いている隊長は──彼女に向けて飛来していた矢を、その頑丈なガントレットを付けた手で掴み受け止めていたのである。

 既に手には何本も矢が握られていた。

 まともなことではない。

 

「はっ! まさかその隠された左目に宿る悪魔の魔力で!」

「いや、俺の左目はただのオシャレ眼帯だしノーマル眼だ。普段から覗き穴も開けてるしな。今は邪魔だから取ってるだけで」

「なんだよガッカリ!」

「後は占星術齧ってたんで夜目は利く。飛んできた矢を見て着弾点を把握して指示を出せばいい」

「普通できないからそんなの」

「そろそろ包囲を抜ける。フレさん前を向け──チッ!」


 云うと隊長は馬上で体勢を入れ替えて正面を向いた。

 鐙に足を入れて腰を浮かせる。


「前にも居たか──死ね」


 馬の進行方向に陰が見えたのである。

 隊長は受け止めて持っていた矢を振りかぶり思いっきり前方にぶん投げた。

 余人の投げ放った矢ではない。

 しっかりと鏃を敵に向けて馬の一団を追い越し、敵の一体に突き刺さり絶命させた。

 だが、


「──もう一人居たか! こうなれば轢き殺す」

「大丈夫! 我が仕留める!」


 云うとフレデリカが集団から出て射線を取った。

 馬のバビエカに装備させていたクロスボウを引き抜いて狙いを定める。

 十字軍の頃から戦争に使われるようになったクロスボウはセッティングさえしていれば片手で扱えるために馬上使用可能な遠距離武器なのだ。

 これも片手で使えばモチが食えるというグイエルモから教わった武器である。騎射はモンゴル軍だけの技能ではない。まあ、モンゴル軍も一斉射撃する時は馬を止めるか下りて打つことが多かったが。

 フレデリカは狙いをつけながら叫んだ。


「ヒャッハー! てめえはこのクロスボウが目に入らねえのかあ!」

「フレさんチンピラっぽい」

「兄さん私も戦うわ!」

「誰だよ兄さん」


 隊長と寸劇をしながらモヒりそうな勢いで射撃。

 弓の腕前は達人級とまでは行かないが、兵士などよりよほど上達していたフレデリカの狙いは正確でもう一人の襲撃者を正確に射抜いて倒した。

 

「突破ぁ!」


 駆け抜ける。敵に騎兵が居なかったことが幸いして追手は来ないが、周辺はまだ危険がある。

 まっすぐに進めば川があった。隊長は川幅を目算する。ポー川ではなく支流のランブロ川だ。


「橋か舟を探すぞフレさん!」

「いいや、この川幅ならいける。進め! 困難なんざものともしないんだろ! 占いを当ててやるよっ!」

「馬で渡るのですか!? 無防備になりますよ! あとこのベラルド実はカナヅチで!」

「じゃあ馬を信じるんだな。行こう」


 そうして一行の馬はランブロ川へ入り、馬を泳がせて対岸を目指した。

 季節は夏。川の水量も少なくなっていて凍えるような水温ではない。フレデリカの判断も正しい。だが、泳いでいるところを狙われないかは賭けであった。

 馬の首とそれにしがみつく皆の上半身だけ川から出して渡る。幸い、矢は飛んでこなかった。

 川を渡ればクレモナのテリトリーに入りミラノ軍は下手にこちらに手を出せなくなる。


「このままクレモナを目指そう。寝起きだが目が覚めただろう」

「しかしこのベラルド、風邪を引かぬか心配ですなあ」

「馬を走らせて乾かすんだな」


 そうして一行はまた進み、イタリア半島付け根の中央部にある都市クレモナへ向かう。

 ふと、矢を打ち終わった後のクロスボウ──濡らさない様に手に持っていた──を、バビエカに付け直してフレデリカが云う。


「しかし、隊長に撃っても指二本で受け止められて投げ返されそうだよねクロスボウも」

「さすがにそれは無理だ。クロスボウの矢は強いからな」

「そうかーさすがに君でも」

「受け止めるには両手が必要だ」

「……」


 当然の様に云う隊長に引きつった笑いを浮かべる。

 さながら彼がいつもつけているガントレットは、雷神トールの鉄の篭手と云ったところだろうか。戻ってきたトールハンマーや焼けた鉄さえ掴み取る神具である。

 そんな想像をしながら、フレデリカは大あくびをした。

 戦闘による緊張が解けて眠気が襲ってきたのだ。

 だが止まるわけにもいかず、寝ながら馬を走らせる技術は無い。

 彼女の眠そうな顔を見て、馬を隣に並べた隊長が云う。


「フレさん」

「ん?」


 ひょいと彼は彼女の首元を掴むと持ち上げ、走行したまま自分の馬に相乗りさせた。


「寝てていいぞ」

「隊長が時々イケメンみたいな行為をする件について」

「お前は何を云ってるんだ」

「心底馬鹿を見る目で王を見てくるよこの騎士!?」


 云って若干不満に手をばたつかせたが、やがてフレデリカは隊長に体重を預けて寝始めた。

 やはり疲れているのだろう。それに王自身が矢を撃って敵を倒したのも初めてだ。

 隊長は優しい顔も見せずに、フレデリカを抱いて押さえるようなこともせず、ただ当然のように彼女を前に座らせて道を駆けていく。


「このベラルドが思うに、奇妙な関係ですなあ」


 相当仲が良いのはその通りなのだが、上手く言い表せない信頼関係があるようだった。

 敢えて云うならば兄妹か友情が近いのだろうか。騎士と王、不信心者同士。変な繋がりによる関係だ。

 彼らが進む背後から、朝日が上がり始めて道を照らしだした……。







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