1話『小悪魔ペドっ子フレさん──1201年』
1201年、シチリア王国。
王はフレデリカと云う6歳の少女であった。当然だが当然のように、名前だけの王であり彼女に統治能力も権限も存在していない。
するとどうなるかと云うと、シチリアと南イタリアの都市や貴族諸侯がほぼ独立した形で自領を統治していたのである。
だが今はむしろ──下手に権力に手を出して何も知らぬままに国を動かすよりは、自由に学び世界を知ることが重要であるのかもしれない。
そんな彼女の味方は現状、教師役である聖職者グイエルモ・フランチェスコと云う一人のひょろりとした中年男性だけである。
その日はグイエルモの駆る馬に相乗りしてフレデリカはシチリアの首都パレルモ郊外にある、モンレアーレ大聖堂へ向かっていた。
馬を走らせるグイエルモの背中にしがみつきながら彼女は声をあげる。
「グイエルモは馬にも乗れるんだねー?」
「そりゃ乗れますよ。フレデリカさんも訓練をして乗りこなせるようにするんですよ。王でも騎士でも聖職者でも馬は必須アイテムです」
「ははあ……パレルモの町で見かける坊さんは片手に聖書を必ず持ってるからなんかこう手綱持ってる印象無くてさ」
「なあに拙僧ぐらいになれば手綱を放しても馬に乗れます」
するとグイエルモはひょいと両手を外して、更に腰を浮かして馬の上に立ち上がった。
馬の上で二足直立である。馬は依然疾走中。
慌てたのが背中を掴んでいたフレデリカであった。
「座れ! 立つな! モンゴル人かお前は!」
「別に自慢したくて立ったんじゃないですよ。モチが急に食べたくなってもっちゃもっちゃ」
「馬に乗りながら聖餅を食うなー!」
立ちつつ懐から取り出した聖餅を真顔で食うグイエルモ。
なお、聖餅と云うのはモチではなくパンなのだが、イメージ的なアレである。
その後も片手でモチを食いながら馬を人馬一体に操ってモンレアーレへ向かった。
モンレアーレ大聖堂は真新しい教会であった。
1174年に建設を開始して8年後に完成した為に、築30年ぐらいなのだが、古ぼけたところは一切見えない壮麗な聖堂である。大理石の柱がぴかぴかとしていて、更に近年増築された僧房によって僧侶たちも大勢常駐している。
フレデリカとグイエルモは中の僧侶が総勢で並び歓迎を受けた。子供ながら胸を張り堂々たる様子でフレデリカは進み、礼拝を行なった。その後ろに真面目ぶった顔になったグイエルモが続く。周りの目がある時は真面目なのである。
儀礼的な礼拝を終えて、
「それじゃあ皆は通常の業務に戻っていいよ。あとはグイエルモに案内してもらうから」
と、フレデリカは声をかけるとひとまず集まっていた僧侶たちは散らばっていく。フレデリカ歓迎用の御馳走を食堂で準備したりもしているようでパンを焼く匂いが何処からかする。
ひとまず自由になったフレデリカはこのモンレアーレ大聖堂の見どころである、天井まで広がる精巧なガラス模様を見上げて眺めた。
近くで見ようと、ひょいと軽い足取りでグイエルモに肩車をさせて歩かせる。これならば転ぶ心配もなく合理的だ。
モチを再び食いだしたグイエルモが云う。
「モザイクが凄いですなー超モザイクかかってますわ」
「誤解されるような表現をするなよっ。モザイクって装飾の技法のことだからね!」
「誰に言い訳しているのですか。ほら、あそこではシチリア王が戴冠を受けている図ですよ」
「へえ……隣のオッサンは誰? 教皇……じゃないよね。もしかしてキリスト?」
「YES」
「旨いこと言ったつもりか!」
と、ルッジェロ王やグイエルモ2世が神の子自らに王冠を受けている図を見ながら言い合う。
「実際は教皇や大司教から戴冠を受けるんだよねー神聖ローマ皇帝も。なんかランクダウンしてない?」
「教皇も立派なものですよ。フレデリカさんも皇帝になり得るのですから滅多なことは言わない。出世に響きますよ」
ふと疑問に思ったことをフレデリカは口に出す。
「そういえば歴代のシチリア王に『グイエルモ』1世2世っているけど君と関係あるの?」
「くっ……拙僧の秘められた血筋の力に気づいたか……!」
「秘めてないよねっ!?」
「冗談です。この時代名前被りは多いですから拙僧は全然グイエルモ王とは関係がない。いいね?」
「う、うん」
有無を言わせぬ迫力を感じてフレデリカは頷いた。
「と言うかそもそもこの絵のグイエルモ2世は、フレデリカさんの母上、コスタンツァさんの甥っ子ですので血筋は貴女の方ですよ」
「へえー」
正直、四歳の時に死んだ母親のことはあまり覚えていないが。四十すぎで初産でハッスルしてたおばさんと云う印象しか。
しかしこの豊かなシチリアの王族と云うだけでかなりの権力を持っていたことは確かである。嫡子であるフレデリカも今でこそ何もできないが、親政が行えるようになる日が楽しみである。
「まあ、確かに生まれた子供に自分の親の名をつけようって人は少なくないですけどね。フレデリカさんも祖父で偉大なフリードリヒ1世から取って名付けられたのですから」
「なるほどね。つまり子供の名前が思いつかなかったら適当に親の名前をつけとけばいいのか」
「何もなるほどじゃない件について」
「我の父の名はハインリヒだったね。メモっておこ」
「そんな適当な理由で親の名前を継がせるわけじゃないと思いますが」
モチを食いながらグイエルモは遠い目をするのであった。
*****
相変わらずフレデリカは王宮で勉強したり街に一人で出かけて遊んだりと自由に日々を過ごしていた。
自由はいいが、やるべきことは考えている。故に、満喫できる時に遊ばなければならないと彼女は考えている。
身分を隠すのが面倒になったのか街ではすっかりちびっ子フレデリカちゃんとして目を引く存在になっていたが、それが逆に誘拐や悪党の襲撃を防ぐ監視の目になったようだ。考えても見て欲しい。ぱっと見、護衛も付けずに自国の美少女王様が遊び歩いていたらハラハラして見守るしか無いだろう。
身分が知れているので貸本屋からも貴重で高級な書籍を借り受けることができるようになったのも利点だ。
「うひょおおおお!! [アルマゲスト]のアラビア語版じゃん!! これ欲しいこれ欲しい!! 店主のおじさん売ってよ出世払いで!!」
「フレデリカちゃん……こないだも君、[ピカトリクス]をそう言って持っていったじゃないか。っていうか神聖ローマ皇帝の娘が魔導書を読むなよ」
呆れた顔で常連になっている少女に、書店の青年は云う。おじさんという年でもないが、髭が生えてるのでフレデリカにはそう見えた。
アルマゲストはローマ時代に書かれた天文学書でピカトリクスは占星術の魔導書である。どちらもアラビア語で書かれているが、前者はともあれ後者は王が読むような内容ではない。何せ内容は神秘的というか魔術に触れているのである。
フレデリカは考えて、
「ええ……じゃあじゃあ、2つとも我がラテン語に翻訳して写本作るからそれを持ってきて代わりにあげるからさ」
「大丈夫かねえ」
「シチリア血の掟六条! 約束は絶対!」
「わかりましたよ、頼もしい女王様」
「わーいありがとー店主! くふふのふー!」
凄まじく上機嫌そうに本を鞄に仕舞いこんで踊るようにしながら店を後にするのであった。
店主は頬杖をつきながら見送って苦笑いで溜め息をつく。
「あれだけ楽しそうなのに誰が断れるよ」
──シャツに[フレデリカファンクラブ]と刺繍されたシンパの男は次は何の本を仕入れようかと目録を漁りだした……。
既に街にはマニアックな連中がファンクラブを結成している。地元ではないのだが、立ち寄った海賊のアンリもこっそりシャツを買っていったぐらいだ。
国王が活発な少女であった場合、そこはかとない庇護欲に似た人気が出るのも当たり前ではあった。
そのような方法でアラビア語の書籍も手に入れていたフレデリカは、まだ勉強の吸収力が高い頭脳にアラビア語の文法を叩き込んでいく。
公文書で使うラテン語、地元のイタリア語、アラビア語、将来は使うだろうドイツ語、使えて損はないフランス語にスペイン語に英語。
自発的な英才教育でこの奔放な少女はそれらすべてを自在に操れるようになる。国際色豊かなシチリアで育った事が言語の学習意欲を引き立てたのだろうか。
ともあれ、フレデリカが宮殿で本を読みながら過ごしていたある日に事件は起こった。
*****
王であるフレデリカがこのような、まだ実権を持っていなかったシチリア王国では諸侯が無法状態になっているとは既に述べた。
本来ならば後見人である教皇がシチリア王国を管理しなければならないのだが、最強のラスボス教皇は現在レコンキスタ中のスペイン・イベリア半島、内乱中のフランスとイギリスと神聖ローマ帝国にそれぞれ教皇の手を伸ばしている真っ最中なのでシチリアは放置されていたのである。
この時代、ある程度放置しても自治都市と封建領主が勝手に統治はするのであった。
シチリアの中には今のうちに権力を増しておこうと内乱を起こす者も存在している。
それらは大きく分ければイタリア人貴族とドイツ人貴族の争いである。
シチリア王であるフレデリカは教皇が認めた絶対君主だ。それに取って代わることは不可能だが、自分の派閥に取り入れようとパレルモの周辺都市に陣地を張って睨み合っているのであった。
1201年末にその均衡は破れた。
イタリア派閥を出し抜いたドイツ派閥の代表、マルコバルドと云う男が軍勢を引き連れてパレルモにある[ノルマンニ宮殿]にやってきたのだ。
老将に一歩入りかけた立派な髭を蓄えた無骨な男が、城門で朗々と声を張り上げる。
「開門せよ! フレデリカ様にお目通り願う!」
数百の軍勢を前に城の守備隊は数十人。どうすることもできずに兵士は宮殿を開けてしまう。
何せ城にいるのはフレデリカとその教師であるグイエルモ、後は世話役の女官と兵士しか居ないのだ。判断を下せるわけもない。
悠々とした足取りで下馬したマルコバルドは側近を引き連れて宮殿を進んだ。
このマルコバルドと云うドイツ人の男──かつてフレデリカの祖父であるフリードリヒ1世の部下であり、共に十字軍へ赴いたこともある歴戦の猛将である。
十字軍帰りというだけで一目置かれるこの時代、彼に従う兵もまた士気が高く統率された動きで従っている。
「輿は用意してあるな」
「はっ! ……しかし、少女を連れ出すだけならば馬車のほうが早いのでは」
「馬鹿者! あのフリードリヒ陛下のお孫様だぞ! 下手な扱いをしてみろ! おれが首を刎ねてやる!」
「失礼いたしました!」
現代でも最も偉大なドイツの王として挙げられることもあるフリードリヒ1世の人気は当時から高く、それの部下であったと云うことがマルコバルドの誇りでもあった。
一団は宮殿の広間に足を踏み入れると、そこは明かり窓が開かれていてよく見渡せ、城の守備隊が部屋の左右に整列していた。
邪魔をするでもなく、直立でマルコバルドを受け入れるが如く並んでいる。
広間の中央に少女がいる。
六歳になるフレデリカ。光を反射すると赤みがかって見えるブロンドの髪がマルコバルドの目を引いた。懐かしい[赤髭公]を思い出させて感慨深い気分になる。
王にしては簡素なローブを着ている少女は仁王立ちをして待ち構えてじっと彼を見ていた。
マルコバルドは一人で歩み寄り、フレデリカの目の前で跪いて厳かに云う。
「陛下。お迎えに──」
彼の言葉は最後まで続かなかった。
同時にフレデリカが己の服に手をかけて、力任せに引きちぎる。予め破って仮縫いしただけのローブはちり紙のようにビリビリに破けて剥がされる。
その下は綿製のパンツ一枚でほぼ裸になっている。
そして叫んだ。
「ペドレイパアアアアアアアアー!!」
「はあ!?」
フレデリカは間髪入れずに尻もちをついて後ずさりする。
「おーかーさーれーるー!! 髭もじゃのオッサンからペドレイプされるうううう!!」
「えっ!? な、……ええ!?」
「服も破かれてゲスな表情で迫ってくるうううう!! きゃああああ!! 鬼畜の所業おおおお!!」
半端無く不名誉なことを大声で叫び転げまわる。
慌ててマルコバルドは立ち上がり、手を伸ばすがビリビリに破られた着衣の少女に手をのばすオッサンにしか周りの目には映らなかった。
即座に改竄された事実ではあるが、あんまりな状況に彼の部下達は一歩引いた。
「お、お前ら!? 何を引いてるんだ! そんな目的でおれが来たんじゃないだろ!」
「リーダー……正直ペド姦淫はどうかと思いますわ」
「信じてたのに……まさかリーダーがそんな罪深い性癖だったなんて。呪われろ」
「違う! 断じて違う! なんでそうなるんだ!?」
否定をするが今だにフレデリカちゃんは半裸で転げまわりながら叫びまくる。
「ほぎゃああああ!! このままじゃオッサンに純血散らされて虚ろ目監禁されるううう!! くっ殺せええええ!!」
「しません! しませんから落ち着いて下さい陛下!」
「いやああ!! 寄ってくるなあああ!! エロ宗教画みたいに乱暴する気だあああ!!」
「そんな宗教画無いですよね!? 教会に怒られますよ!」
釈明をしようとするがフレデリカが泣きながら転げまわるので見ていられず、部下がマルコバルドを羽交い締めにした。
「待って下さいロリコンバルドさん! それ以上やっちゃいけない!」
「何を!? おれが何をやろうとしているように見えるの!? お前らも早く騒がれる前にフレデリカ様を確保しろよ!」
「あんたの児童ポルノ趣味にぼくらを付き合わせないで下さいマルコバペドさん! 自分を見失わないで!」
「目的見失ってるの露骨にお前らだよね!? 不名誉な名前を付けないでくれる!? ええいフレデリカ様! 聞いて下さい! お話を!」
必死に取り押さえられるマルコバルドは混乱する頭のままで、なんとか彼女へ届けと大声で目的を伝える。
「おれはただ、フレデリカ様を輿に載せたいだけなんです!」
「……」
「……」
「……」
広間を無言の音が包んだ。矛盾するようだが、そのような音だ。守備兵もマルコバルドの兵も一斉に叫んだ。
「ペドレイパァ────!!」
そして次に広間の奥の暗がりから、司祭服を来た男が片手に持ったモチを食いながら近づいてきた。
「ところで拙僧は通りすがりの法王庁の者ですが、ここに罪深い男がいるとかいないとか」
全員の視線がグイエルモに行った後、続けてマルコバルドへ移った。
「もしそれが本当ならばまあ軽くこの場で彼とその関係者全員に、パレルモ内での教皇より与えられた権限によって[聖務禁止]を言い渡しますが。状況を教皇に報告してから正式に[破門]か[異端]に……ああ、名前控えますので右からどうぞ」
マルコバルド一同の顔が引きつった。
[聖務禁止]とはつまり、キリスト教会が絡む行事への参加を禁止される行為である。例えば子供が生まれても洗礼は受けられない。死んでも葬式は行われない。ミサにも行けずにうしろゆびさされ組確定である。いわば、村八分に合う。周囲に社会不適合者だと周知されてしまう。
更に上級の[破門]となれば村八分どころか村十分である、そのものが持つあらゆる権利を教会の名において剥奪される。こうなれば買い物すらできずに石を投げられる。病気になっても治療を受けれず土地を没収されても裁判も起こせない。殺されても相手は罪にならない。ついでに関わった者にもとばっちりが行くので完全に社会的に抹殺されるのである。
[異端]となれば火炙りは免れないだろう。実際にフランス南部では何人もの異端者が己の信教を貫いて死罪にされている。別にペド姦淫に対して命を掛けているわけでもないが。
上司の幼女趣味でそんな巻き添えを食らってはたまらない。
マルコバルド含め城に押し込んできた兵全員その場で即土下座である。
「すみませんでしたァ!」
「これで失礼します!」
そしてダッシュで兵を引いていくのであった。
パレルモから離れていく一軍の先頭で、男泣きにむせっているマルコバルドは側近に云う。
「おれ……フリードリヒ1世陛下を本当に尊敬してるんだよ」
「はあ」
「その孫からレイパー扱いって……おれの人生なんだったんだろうなあ……もう死にたい」
「……マルコバルド、ペドレイプに失敗して失意のうちに眠りにつく……」
「それ墓や文書に書いたら悪魔に魂を売ってでもお前を呪い殺すからな」
こうしてフレデリカを狙うシチリア貴族の一派は追い返され、牽制や睨み合いこそ今後続くのだが二度と宮殿にまで踏み入る輩は現れなかったという。
宮殿では半裸のままフレデリカが大笑いしてグイエルモとハイタッチしていた。二人が企てた痴漢冤罪作戦成功である。
兵も無く権力も無い君主が身を張って相手を追い返した幼少時のエピソードである……。
*****
ローマ、ラテラノ宮殿執務室にて。
書類の山に目を通しながら書き物をしている男が居た。全身から聖霊のエフェクトを発していて部屋の空気は外の数倍重い。眼光は常にホーリーシャインが輝き睨むものを浄化消滅させかねない神聖で強力な波動を感じる、そんな男だ。
教皇イノケンティウス3世である。
彼の万聖殿であるその部屋に助祭の一人がノックをして入ってきた。
「どうした……」
低く震える教皇ボイスに、部屋に控えていた部下もびくりと背筋を震わせる。
部屋に入ってから脂汗が止まらない。数秒で1リットルぐらい出た気がする。助祭はそんなことを思いながら報告をする。
「パ、パレルモのグイエルモ司祭から報告が届いています!」
「今、手が離せぬ……読んでみろ」
「はっはい」
助祭は手紙の封を丁寧に切り、書かれた文を読み上げる。挨拶などを持って回った言い回しで──教会の正当な書式がそうなのだから仕方ないのだが──書かれて、報告はフレデリカに関してへ移る。
「ふ、フレデリカ様の身柄を狙ったシチリアの軍が[ノルマンニ宮殿]に拉致の為にやってきたようです!」
「ぬぁんだとォォォッ!!」
教皇が顔を上げて叫び眼光は数倍に膨れ上がった。
「ひっ」
「今の叫びでレコンキスタに非協力的だったレオン王アルフォンソ9世が破門されたな……」
「とばっちりで可哀想!」
助祭達が怯え竦む。ついでにイベリア半島の王国がピンチになる。
連絡の者は脂汗を更に1リットル流しながら続けて言った。
「し、しかし、フレデリカ様の機転によって見事撃退してやった、とのことです!」
「ぬううぅぅぅ……よろしい」
満足そうに言って、教皇は再び手元の書類へ顔を落として仕事を再開した。
助祭達は汗を拭い安堵の声を漏らした。
「ふう。今の許しの言葉でアルフォンソ9世の破門は解けたな」
「よかったー」
「まあ余波でアルフォンソ9世の愛人との婚姻が却下されたけど」
「とばっちりで可哀想!」
──なお、実際教皇から脅しつけられて、レオン王国アルフォンソ9世はレコンキスタのスペイン連合軍に騎士団を派遣することになっていた……。
*****
おまけで当時のスペインの主な国の大雑把な配置。
スペインのイベリア半島にこんな感じだった。△なレオン王国はカスティーリャ王国と仲が悪い。
△レオン王国 ○ナバラ王国
○カスティーリャ王国 ○アラゴン王国
■下半分は殆どムワッヒド朝
このイスラムのムワッヒド朝をアフリカ側に追い出そうとレコンキスタ中である。
しかしフレデリカの物語にはあまり関係がないので語るのはここまでに留めよう。