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神聖じゃないよ! 破門皇帝フレデリカさん  作者: 左高例
第三章『エルサレム王フレデリカと十字軍』
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18話『強襲! ダブルレズとフレさん──1225年』

 教皇ホノリウスは激怒した。必ず、かの邪知暴虐な皇帝を十字軍に行かせなければならぬ。

 しかし彼女は悪魔的な奸智で次々に要求を延期させて行く。

 この場合、以前に述べた通りヨーロッパ中がグダグダと自国の内乱が続いていて、第五回も大失敗に終わった為にまともに兵力を動員できそうなのが神聖ローマ皇帝ぐらいしかおらず、代わりが利かないので迂闊に破門などをやらかしては逆に十字軍が完全に不可能な状況に陥るのでその手も打てないのだ。

 やるぞ、と圧力を掛ける程度は可能だが。

 既に付き合い長くフレデリカの性格を知っていたホノリウスは、その脅しにフレデリカが開き直る可能性も十分にあると判断して行わなかった。

 というわけで外堀を埋めまくる作戦を取らざるを得なかったのである。


 1225年。

 ホノリウスの打った次なる手は、フレデリカに新たな妻を宛がうことであった。

 前教皇イノケンティウス3世がフレデリカを男と扱った以上、婚姻関係は男として処理する。よって、ちょうど都合のいい妻を見つけて来たのである。

 それはエルサレム王国の王女、ヨランダ。

 そう、かの有名な『エルサレムが領地に入ってないのにエルサレム王国』である。

 第一回十字軍で占領した時に建てられたのだが、サラディンに追い出されて今は十字軍国家のアッコンに居を構えている。

 現在のエルサレム王はブリエンヌと云う男で、彼自体は大した血統の男ではない。エルサレム王妃と結婚したことでエルサレム王になったのだが、既に高齢である。

 正当なエルサレム王家の血を引くのは娘のヨランダで、14歳になる孫のような年齢の彼女を守れる強い後ろ盾を探していた。

 まあ、さすがに結婚相手が女のフレデリカさんとは思いもよらんだ。

 とにかく、それに目を付けたホノリウスが結婚話をフレデリカに持ちかけたのである。

 そうすればフレデリカがエルサレム王となり、エルサレム奪還は王の使命として十字軍を行わせる理由の一つとさせられる。

 無論、拒否は出来ないのだが。


「おっけー」


 あっさりと承諾された。

 幹部会議で彼女は方針を説明する。


「どうせ再婚することになるんだから得をする相手がいいよね。その点、エルサレム王のネームバリューはキリスト教圏では子供でも知ってる王位だ。貰えるなら貰っちゃおう」

「しかしフレデリカ様、受けたら十字軍は目前にならないっすか?」


 一番新参で幹部になった名文家のピエールがそう尋ねた。

 フレデリカは改めて、幹部連中にも言い聞かせるように説明をする。


「教皇なんかは勘違いしてるけど、我は別に十字軍に行かないって云ってるわけじゃないんだ。なるべく被害を減らし、確実に成功させる機会を探ってるだけでね。それが後になれば後になるほど我に有利だから延長してるんだけど」


 と、まあ告げる。

 幹部連中に云うそれは事実だ。彼女は、立場上十字軍をしなければならないと云うことはわかっている。

 ただそれが、前に隊長が説明したように。


「第一回の様に無差別に民衆が参加してはいけない。

 第二回の様に目的が意味不明だといけない。

 第三回の様に戦力をすり減らした挙句の失敗だといけない。

 第四回の様に目標と関係の無い場所を責め滅ぼしてもいけない。 

 第五回の様に何の結果も残せないようだといけない」

 

 そう学習したのである。

 

「だから我は見極めているんだ。一人でも少ない死者で済む十字軍を。その為にはシチリアも神聖ローマも一丸とならないといけないんだけど……」


 フレデリカはボードの北イタリアをバンバンと叩いた。

 

「このクソミラノを中心としたロンバルディアのアホ達が不穏すぎるから行けねえっつーの! クソボケか!」

 

 叫ぶのであった。こういう場合大抵邪魔なのがミラノである。

 攻め滅ぼすにしてもミラノは一都市の癖に軍勢が約2万。当時は欧州でもパリに次ぐ大都市である。

 しかも皇帝に隷属するぐらいならばといざと云う時は国民皆兵になる反体制精神の塊みたいな都市であった。おまけに一度蹂躙しても──フレデリカの祖父フリードリヒはやったのだが、ミラノは何度でも蘇るさとばかりに復活して逆襲してくる厄介さがある。

 戦力を減らさない十字軍を目指しているのに、ミラノ軍相手に消耗してはまったく意味が無いのだ。

 

「とにかく! ヨランダとは結婚しつつ民衆の指示を得て、本格的に十字軍用に軍を編成するよ! エルサレム王に、我はなる!」


 ──こうして、フレデリカとエルサレム王女ヨランダ14歳との結婚は決定された。

 結婚後すぐさま、フレデリカは自分をエルサレム王と名乗り出す。

 ヨランダは善良であったが、学問には疎くて理解も薄く、フレデリカとノリは合わなかった。


 しかしヨランダと、彼女の女官でレズのアナイスがコンビを組んでフレデリカをレズ姦淫仕掛ける。

 

「イキますわよ姫様! ダブルレズレイプ!」

「え、ええと! 頑張りますからフレデリカ様!」


 対応するフレデリカも二対一では不利かと思い援軍を呼んだ!


「隊長! こうなればコンビネーションプレイで対応するよ!」

「いや、知らん。一人で頑張れ」

「裏切ったなああああ!!」


 寝室に蹴り飛ばされて、しかしながら彼の餞別を受け取る。


「こ、これは錬金術で作られた[フリードリヒ棒Ⅱ]!」

「レズの大海に身を委ねるのですわ~!」

「ええと、わかんないけどどうぞ!」

「我の勇気が貞操を救うと信じて……!」


 襲いかかる女官と14歳の姫を、二刀流フリードリヒ棒でやっつけるフレデリカであった。


 

 ──こうして順調に、エルサレム女王のヨランダとの間には息子コンラートを誕生させた。ついでに女官にもビアンコフィーレと云う娘を作っちゃったりした。

 ただ──。

 正妻として迎え入れられた、ヨランダは嫡子コンラートを出産したものの、産後の体調を崩して10日後に亡くなってしまった。

 誰が悪いわけでもなく、当時の出産のリスクを被った形であるのだが、あまりに短く儚い結婚期間であった。

 フレデリカは身震いしながら云う。


「我がぽんぽん子供を産む立場じゃなくてよかった……出産って怖いね隊長」

「そうだな」


 しかしながら、娘を守る立場の婿を探していたのに結婚したらエルサレム王の位は取られるわ、娘は子供を産んで若くして死ぬわで、


「詐欺じゃん!」


 と、元エルサレム王のブリエンヌは教皇に泣きながら苦情を入れるのであった。

 教皇は逆にキレた。


「っていうか結婚させたのにあの馬鹿娘、『十字軍は二年後に予定すると思う』とかまた延期してきやがったんじゃが!? しかも何だこの曖昧な表現! おのれ、今度という今度はこれ以上延期させんぞ!!」


 フレデリカのやるやる詐欺の腕前はもはや芸術の域に入って来ている。 



 

 ***** 




 彼女が再度の延期を申し入れたのも、


「今度こそやるから。軍を集めるのに二年いるから」

 

 と、確かに彼女の国が十字軍に向けての動きを見せていたので仕方なく延期を許可した。

 出発を1227年に決めて、チュートン騎士団のヘルマンを中東に向かわせて様子を見させたり、中東に居を構えているホスピタル騎士団をヘルマンと行き違いに呼び寄せて情勢を伺ったりと十字軍の準備は進められている。

 さすがにフレデリカもそろそろ行かないとホノリウスが憤死しそうな勢いだと判っていた。

 そしてこの遠征を成功させる為に、ドイツの諸侯を集めて大々的な会議を開くことにした。

 ミラノを中心とした厄介な自治都市連中にも招待状を送り呼び寄せる。

 

「これは十字軍に我が行ってる間、変な真似すんなっていう睨みを効かせる意味もあるんだね。できれば人質みたいに、諸侯から少しずつでも人員を寄越して貰うのが一番だ」

「十字軍は年単位で掛かるからな。内乱を起こされても困る。第三回にてかの最強スルタン、サラディンを追い詰めたリチャードも自分が居ない間にフランス王フィリップが策謀でジョン王に反乱を起こさせて、その間に大陸領を奪おうとしたから慌てて十字軍を止めて戻ってきた程だ」

「まあ、フランスとは今不可侵協定結んでるからそっちは問題ないと思うけど」


 自分が居なくとも盤石にしておかねばならない。そう思って、フレデリカは北部イタリアで皇帝派の都市クレモナで会議を開くことにした。


 そこで真っ先に動いたのが、そう皆大好きミラノさんであった。


「皇帝は俺達を殺そうとしている!! それがわからないのかこのッ馬鹿野郎!!」

「なんで俺を殴るんすか!?」


 急に顔真っ赤にしてキレた。

 そして北部イタリアの各都市を抱き込んで反フレデリカの同盟、[ロンバルディア同盟]を再編してしまったのである。

 なぜそうなったか。

 それは、この北部イタリアには、フランス国内で行われていた異端狩り十字軍によって南フランスから追い出された異端系移民が大量に流入して人口を増やしていたからだ。

 これが何の能力も無い貧民ならともかく、中流階級の手に職を持った者も多かったのである。

 生産人口が増えるのは望ましいとミラノ達は受け入れまくっていたのだが、同時にフレデリカの動向には注意をしている。

 彼女は再三、神聖ローマ皇帝として十字軍を行い、異端狩りにも尽力すると教皇に誓っている。

 十字軍はともあれ、異端に関してはぶっちゃけあまり興味が無いフレデリカであるが、立場としてはキリスト教の最高位であるのだからアピールとして宣言するのは当然であった。

 しかしその名目で、異端者を受け入れた自分らの都市に攻めてくる兆候ではないか、とこのクレモナで開かれる会議の目的を見たのである。

 そんなヒマはまったく無いのだが、そう判断された。

 なおクレモナは早々とフレデリカ派になっているので同盟には唾を吐きかけて、ヴェネツィアなど「お前ヴェネツィア舐めてんの?」と同盟の話を蹴った。自治都市の中でも共和制国家になっており、しかもほぼ全員が「現実的に考えてそんなことしねえだろ」と冷静なヴェネツィアさんは一味違う。


 水面下でロンバルディア同盟が再誕したことにフレデリカが気付いたのは、クレモナの会議が行われる1226年春。

 雪解けと同時にドイツ諸侯が僅かな手勢を連れてアルプスを南下しようとしたのだが、主要道路が同盟軍に封鎖されているのである。

 地の利を得られている上に会議に行こうとしていたのだから本格的な戦闘の準備などしていない。やむを得ず諸侯はドイツに引き返さざるを得なかった。

 唯一、ヴェネツィア近くにある東端の道路のみは封鎖を免れていたのでそこに回りこんでフレデリカの元にやって来た諸侯も少数居たが、会議を開くどころの話ではない。

 さすがにフレデリカは机を叩いて怒鳴った。


「ふざけているのかァーー!!」

「フレさん落ち着け」

「会議に参加する気が無いなら自分の街でファッションショーでもしてろよミラノ! 足引っ張るな!」


 おまけに届いた報告には心底彼女をげんなりさせた。


「フレさん。興奮しているところ悪いが」

「なに?」

「息子のハインリヒな、会議に不参加の姿勢だったっぽいぞ。城から出ようとしていない」

「理解不能すぎるんですけど……」


 怒るよりも頭を抱えた。

 この会議では、フレデリカが中東に行っている間のことを確認する会議である。

 その間彼女の代わりとなるのが、皇太子であり既に15歳になったハインリヒだ。つまりはこの会議の主役とも云える存在で必ず参加しなければならないのは誰の目にも明らかである。

 そんな彼が参加の意志を見せなかったとはどういうことか。



 率直に云えば、この時ハインリヒは鬱になっていた。

 フレデリカがドイツの地に置いて、王として家庭教師を付けて教育させていたのだが、彼に取っては学び成長すればするほど神聖ローマ皇帝と云う地位にいつか自分がなるのは重圧に思えてきたのだ。

 六歳まで暖かなシチリアで母と平穏に暮らしていた記憶が懐かしく思えて、ドイツで一人家族もおらずに過ごす日々が寂しくなっていた。

 異母兄弟で友人だったエンツォは父の元に行ったまま戻ってこない。

 母も居なくなった後、父親代わりの家庭教師エンゲルベルトはフレデリカが選んだだけあって優しくて知識も豊富、人付き合いも上手な見本となるべき人物だったのだが……この一年前に突然暗殺されて、母を喪ったが回復しつつあったハインリヒの心が再び折れ曲がった。

 更にその不安定な時期をどうにかしようと結婚話が浮かび上がり、マルガリータと云う貴族の娘と結婚したのだがこの年上の嫁が性格キツい上にビッチと云うとんでもねえ女だった。

 そんな相手を鬱な少年にくっつけたらどうなるでしょうか。


「父上怖い……女の子怖い……何もやりたくない……」


 この通りすっかり卑屈で自信喪失状態が出来上がりである。


 それをフレデリカは気付いて居ない上に、恐らく問題視できてなかった。

 恐らくこの時点で隊長が調べ上げて報告しても、彼女はきょとんとしてこんなことを云っただろう。


「いや、両親が居ないぐらいフツーじゃん? 我忙しいって。むしろ親居ない方が気楽に勉強できるし。身柄を狙われて鍛えないと死ぬ状況ってわけでもないし、ヌルゲーだろ。むしろヒャッハー権力だー!って国の改革を申し出てもおかしくない年頃だよね。嫁がブサイクなら愛人でも作ればいいんだから跡継ぎ産ませて放置すりゃいいって。まあ、我はコスタンツァのことは愛してたけど」


 そう、自分がもっと苦労してた上に問題を解決しまくりながら生きてきた者にありがちなのだが。

 自分が出来たなら、周りの者や自分の子供も出来るだろうと思ってしまう。

 俗にいう『王は人の心がわからない現象』だ。

 パパとママの愛情が足りてない息子の精神を、パパとママの愛情?なにそれ美味しいのみたいな生き方のフレデリカが理解出来たか怪しいのであった。

 自信なんて無意味に湧いてくるし教皇相手に騙くらかしつつイスラム君主とユウジョウするフレデリカを誰が真似できようか。



 ともあれこの時点でハインリヒを呼びつけて優しいお母さんの如く甘やかしてやれば多少は精神がマシになったかもしれないがそんなヒマはマジで無かった。 

 十字軍出発まであと一年と云うところで北部イタリアが本格的に反乱したも同然だ。


「こいつらを調子付かせたまま十字軍なんて行けるか! 隊長、いつものやるよ!」

「わかった。完全武装で相手の周りをうろつく作戦だな」


 そう、フレデリカ得意の威圧攻撃である。戦わずして脅して勝つのが子供の頃からの彼女の行軍方針である。

 更にこの面の皮の厚い皇帝は、教皇に文句を付ける。


「ミラノとかの反皇帝勢力は"教皇派"って名乗ってるんですけどおおお! これ教皇の仕業じゃないんですかああああ!?」

「いや、知らん知らん! というか十字軍の邪魔するわけなかろう!」

「じゃあ協力するのがスジってもんじゃないんですかああああ!!」

 

 神聖ローマ帝国では、対立する二つの勢力を[皇帝派][教皇派]と名乗るのが慣例である。それでロンバルディア同盟は明確に反皇帝なのだが、別段教皇とつるんでいるわけではない。教皇が自治都市への支配を求めたら彼らは皇帝派になるという、蝙蝠みたいな連中なのだ。

 しかしながら散々教皇の要請を引き伸ばしておきながら、ブチ切れた顔を見せて協力させるフレデリカである。

 相当苛ついたのだろう。

 教皇も、


「このままだとロンバルディア同盟を理由にまた延期させられる……」


 と、慌てて強硬策に出た。


「これから十字軍まで皇帝の邪魔をした都市には破門を言い渡すぞ!」


 ホノリウス教皇と云う人物は、フレデリカからのらりくらりと躱されている駄目なお爺ちゃんというイメージだが、教皇としての仕事は堅実で模範的にこなす、穏やかな人物だったと云う。

 それが破門まで持ちだしたのだからキレっぷりが判ると云うものだ。

 更に、


「ミラノの隣のサヴォイア伯国、そこの伯爵の娘と我の息子のエンツォを婚約することで同盟を組みまーす」

「ああっエンツォの美少年オーラを受けた娘が鼻血を噴いて倒れた!」

「ビューリホゥ……」


 それだけ北部イタリアの問題は深刻だと判断したのだろう、あくまで婚約ではあるが、神聖ローマ皇帝の庶子であり絶世の美形であるエンツォを間に入れた同盟にはサヴォイアは諸手を上げて賛成して皇帝派についた。

 すぐ西隣のサヴォイアが敵に回ったミラノはさすがに身が縮こまっただろう。

 これだけ手を打ったのでフレデリカの北部イタリアを威圧して回る軍に対して邪魔をするコミューンは現れずに、ロンバルディア同盟は意気を挫かれた形になる。

 しかしさすがにミラノの頑固さは半端無く、フレデリカが軍を率いて城門まで来たのに一切開こうとせずに籠城していた。


「こんなんが国の中にあるって本当止めて欲しいなあ……」

「まったくだな」


 とりあえず、意気は挫いたのでこれ以上ロンバルディア同盟は活動を控えるだろうという予測は立った。

 いちいち各都市を攻め滅ぼしている時間は無いので、問題をひとまず解決したと云うことにして十字軍問題に向き直るのであった。



 その途中……。


 イタリア北西部トリノへ視察に訪れた時である。

 そこの貴族ランチア家が挨拶に来た日の夜、いつもの様に隊長と風呂に入っていた。

 

「はあ……携帯風呂は味気ないねえ。早くフォッジアの温泉に戻りたい」

「無理に入らんでも」

「これだからスペイン人は! そんなんだから戦争が終わるまで同じシャツを着続けるわ! とかご婦人が云う国柄なんだよ! ちゃんと洗えよ汗臭いな!」

「それもっと後の話だから。あとそれで汗で黄ばんだシャツ色をイサベル色って云うんだけど、フレさんの嫁と同じ名前だから」

「ヨランダー! ちゃんとお風呂入れよー!」


 メタい事を言い合う。

 なおこの時はまだヨランダ──スペイン風に云うとイサベル──は生きている。


「しかしこうして俺と風呂に入ってるからフレさんにある噂が立っている」

「なにが?」

「皇帝ホモ疑惑だ」

「そっち!?」

「書類上男だからな」


 などと言い合っている湯煙の中。隊長が眼帯をつけていない黒い瞳をふと一方向に向けた。


「……フレさん、誰か来たぞ」

「え?」

 

 彼の言葉と同時に風呂場に乱入してきたは二人の女性であった。


「わたしはランチア家の娘ベアトリーチェ!」

「その侍女!」

「皇帝陛下をダブルレズレイプしてあげますわー!」

「ま た か よ!」


 ダブルレズ再来である。しかも別件という末期感だ。彼女はレズに狙われる運命を持っているのかもしれない。

 フレデリカは隣に居て立ち去ろうとしている隊長を捕まえて叫ぶ。


「逃げるな!」

「いや騎士として主君の性事情に首を突っ込んだら破滅フラグだろ」

「ええいクソ、こうなれば……!」


 隊長に組み付いて無理やり体の向きを変えさせて、腰布を剥ぎとってやりレズ二人に隊長の前を魅せつける。

 

「これがレズビアンが潜在的に恐れる[ロッド]だよ……!」


 そう、レズに男のコックを見せてビビらせる作戦である。しかも隊長は同性からも一目を置かれるマスラオ。

 

(貴族の娘なんて一発な筈……!)


 フレデリカはそう思ったのだが、


「……ぽっ」

「じゅるり」


 顔を赤らめるベアトリーチェ。ガン見する侍女。

 隊長の背筋がびくんと跳ねた。彼は苦々しい顔をして振り向く。


「すまん。逃げる」

「うおお連れてけー!」


 フレデリカは隊長の背に捕まったまま、彼が腰布を巻き直してダッシュで逃げるのに便乗したのであった。

 背後からレズとは名ばかりの飢えた獣のような気配を感じて、とにかく遁走する二人である……。


「フレさん」

「なに!?」

「星占いをしたところ、今日風呂場で出会った相手とそのうちくっつくらしいぞあんた」

「そんなこと教えるなよ!?」


 嫌に当たる隊長の占いに、フレデリカは叫ぶのであった。







ベアトリーチェって名前よりビアンカって名前の方が有名かもランチアさん

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