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神聖じゃないよ! 破門皇帝フレデリカさん  作者: 左高例
第二章『神聖ローマ皇帝フレデリカと内政』
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13話『家族は大事になフレさん──同年』

 とりあえずフレデリカはまず、イノケンティウスへのお悔やみとホノリウス教皇への就任祝いの手紙を出した。

 イノケンティウスの命日が7月16日で、正確にその手紙が届いた日時は不明だが7月中にドイツから手紙が届いたと云うのだから、情報伝達を特に重視して素早い行動であった。

 内容はともあれ、ホノリウスは返信に、


『十字軍を編成した時はこちらからも援助するから宜しく頼むのう』


 と、書いて送ってきたのだからフレデリカの邪悪スマイルは一層深まった。

 やはり新教皇は十字軍に傾倒しているようだ。おまけにこちらの軍勢を当てにしているというのも分かる。

 これまで権力争いに関わらなかっただけあって、その教皇の基盤はまだ強固ではない。一枚岩ではないローマを率いるような発言力は無いだろう。それが就任して間もないとすれば尚更だ。

 まずフレデリカは、シチリアから妻子を呼び寄せることにした。


「何故だ?」


 隊長の問いに答える。


「うん、イタリアとドイツの政治体制の違いからだね。ドイツは歴史ある貴族が封建領地を治めているのが主だね。一方でイタリアは都市都市がほぼ独立して街の中のみを治めている。

 ドイツは皇帝を立てるけどイタリア、シチリアは別に王が居なくてもなんとも思わないわけだ。勝手に自治管理しちゃうし税制も決めてしまう。それをまだ小さいハインリヒに治めさせるのは割りと無理がある。

 そこで息子をドイツで官僚に教育させつつ統治の方法を学ばせて、我がまた代わりにシチリアで王が強権を持つ体制を作り上げよう。我と息子の立場はそのままでね」

「神聖ローマ皇帝のまま、実質シチリア王にか。前の教皇生きてたら破門食らうな」


 呆れつつも、フレデリカはシチリアに側近を向かわせることにした。

 妻子と面識もある大司教ベラルドと、それを護衛するチュートン騎士団のヘルマンである。まさに皇帝のナンバー2、3が出陣して迎えるのだから失敗は許されない。

 フレデリカの元に来る前からコスタンツァと顔見知りだった騎士の隊長を向かわせる手もあったが、彼はフレデリカの護衛のままにしていた。


「このベラルド。この数年でもう何度アルプスを越えたでしょうなあ」

「なあにお主もかなり慣れてるから平気でござろう。この調子なら中東も余裕でござるな?」

「ううう」


 そして二人がジェノバの港まで辿り着いた時に見たものは、意外なものであった。

 当時の海軍戦力と云うとジェノバ、ピサ、ヴェネツィアなどのコミューンが持っている戦力が主なものであり、海戦とは謂わばそれを雇っての代理戦争のようなものであった。

 しかしジェノバの港にはしっかりと、シチリア旗を掲げた船が停泊している。


「おや? シチリアに軍艦などありましたかな」

 

 訝しげに近づくと、水夫に荷積みの指示と他の海賊らしいやからと談話している男が目に入った。

 塗笠を被った浅黒い肌の、丸太を持っている男。彼はベラルドに気づくと大きく手を振った。


「おう、ベラルドの旦那か。フレデリカちゃんの指示で迎えにきたぜぇ」

「アンリ・ディ・マルタ! どうしたのです、そのシチリア軍艦は」


 以前フレデリカ達をシチリアからジェノバに送った、海賊のアンリであった。


「はっはァ、シチリアでも海軍作りたいからって手紙でスカウトされてよ、オレは今やシチリア海軍の総司令官ってわけだ。まだ編成中だけどな」

「海賊から一気に出世したもので……ああ、ヘルマン殿。こちらはマルタ島出身のアンリ。どうやら同僚になったようですな」

「ふ、ふひひっ、拙者はヘルマン・フォン・サルツァでござる……ちらっ」


 やや挙動不審になったヘルマンがちらりとマントに刺繍してあるフレデリカファンクラブの刺繍を見せると、アンリは丸太を突きつけてきた。

 その断面に焼き印でやはりフレデリカファンクラブと押印されてある。

 二人は頷いて握手をするのであった。


「謎の連帯感すぎますなあ……しかし、ちゃっかりフレデリカさんは前々からシチリア統治に乗り出す気満々のようで」


 ともあれ、そうして二人と護衛のチュートン騎士団メンバーはアンリの乗ってきたシチリア王国の軍艦でシチリア島首都パレルモまで一直線に目指すのである。

 さすがに船旅は揺れる季節でもなければ馬よりも疲れない。どうせ帰りではまたアルプスを越えることになるのだが、皇后のコスタンツァとまだ五歳なハインリヒを連れて行くことを考えるとゆっくりと安全にいかねばならないと行動予定を立てるベラルドである。

 まあ、四年前にフレデリカと僅かな人数だけでドイツを目指した時よりは政情も安定しているし、歴戦の強者なチュートン騎士団が付いているので安全ではあるのだが。


 パレルモまで使者の二人が辿り着いて、コスタンツァを連れて行こうとしたが一悶着あったようだ。


「フレデリカ様が呼んでいらっしゃるのならば、馳せ参じたいのですけれど……」


 と、彼女が不安そうに見るのはまだ6歳の息子を連れて行くと云う不安であった。

 旅の危険もあるだろう。しかもコスタンツァは以前にポーランドに嫁いでいた事もあり、ドイツなどの気候よりもこのシチリアは暖かく過ごしやすく、賑やかで不安も少ない生活が送れると知っていたのである。

 そして夫であるフレデリカがシチリア統治に強い関心を持っているのも察した。ならば、ハインリヒをドイツに置きフレデリカがシチリア入りして息子はこの楽園のような地に帰ってこれないのではないか。

 そう、思ったのである。

 彼女がそう考えていることも、ベラルドとヘルマンは気付いて根気強く説得することで母子をドイツに連れ出すことには成功した。

 ジェノバへ向かう船の上で息子のハインリヒは母の袖を引いて尋ねる。


「母上はどうしてそう悲しい顔をしているのですか? 父上に会えるのでは」

「そうですわね。それは嬉しいかしら……でも」


 それともう一つ。

 彼女を呼びに来たのがイタリアで名高いベラルドや、ドイツで尊敬を集めるヘルマンなどのしっかりした立場の政治に長けた二人ではなく。

 政治など殆ど興味も無い、無骨な懐かしいあの騎士だったならば、きっと言い訳やそれらしい説得などせずに率直に主の意志を告げて──それでも自分は納得してついていったのだろうと思った。


「少し、寂しくなっただけかしら」


 ハインリヒは母の表情がどのような気持ちを表しているかわからなかった。




 *****




 空気を読まないミラノは今だに厄介なので遠回りをして、ドイツ入りをするブレンネル峠でコスタンツァを連れた一行は、フレデリカが用意したチュートン騎士団と楽団を合流させて町々を巡らせ、ドイツ入りを果たした皇后と皇太子の宣伝を華やかかつ大いに行った。

 軍事力を持たないフレデリカは相変わらず宣伝は金を掛けて行うことにしているのだ。なにせ、軍備を作れば金は継続的に発生するが宣伝ならば一時金で済む。まだまだ彼女の財布は厳しい。

 

「冬前に何とかアルプスを越えられて良かったでござるなあ」

「左様ですな」


 何事も無くドイツ入りしたので二人はホッとしながら、フレデリカとの合流の地であるニュルンベルクの街へ向かう。

 街で盛大に歓迎の祭りを行いながらも一行はニュルンベルク城で夫婦と親子の再会となる。

 さて。

 このフレデリカの息子のハインリヒと云う少年、父親役であるフレデリカと別れたのが二歳の頃である。当然記憶なんて曖昧であった。幼い頃から聡明だったフレデリカだって、二歳の頃の記憶というと父親がスプラッシュ洗礼してきたことしか覚えていない。 

 そしてつい、コスタンツァの視線がフレデリカの隣に居る隊長に行ったものだから、


「あの人がボクの父上かな」


 と、思ってしまったのも無理はない。というか隣に居る赤髪のモジャ毛少女はどう見ても父親に見えない。少女を「私の父になってくれるかもしれない」とか言い出したらマスクでも付けてろってぐらいレベルの高い変態である。

 じゃあ隣のモジャ娘はなんだと思うがきっと愛人と云うやつだろう。そんなことを考えながら親子は距離を近づく。


「やあやあ久し振りだ、大きくなったねえ」


 親戚のおばちゃんみたいなことを言いながら手を広げるモジャ娘はともあれハインリヒは隊長の方を向いて、


「お久しぶりです、父う」


 瞬時に隊長の脳内騎士道メーターがラッパの警報を鳴らした。大いに勘違いをしているし、その発言は大いに勘違いを周囲にさせる。

 騎士として自分はともあれ、主であるフレデリカと皇后のコスタンツァに迷惑を掛けるわけにはいかない。半端ない迷惑になる。後世に「~と云う説がある」とか書かれる。彼は無表情だがぶわりと背中に汗を掻いて──。

 袖から取り出したモチをハインリヒの開いた口に的確に投げ入れた。


「モチゴォァー!?」


 喉に詰まらせて背中から倒れるハインリヒ。周りの視線が集まる。

 フレデリカが笑いを堪えた、嗜虐的な目で隊長に云う。


「『お久しぶりです、父う』……なんて云ったのかなあ?」

「恐らくは──お久しぶりです、地中海の赤い風、ドクロ四人衆見参!……と繋げるつもりだったのだろう。危ういところだった。版権的に」

「無理がございませんかしらー?」


 倒れた息子を抱き起こしつつ、彼の意識をはっきりさせた。


「ハインリヒ、ハインリヒ。よくお聞きなさい。いいかしら?」

「は、はあなんです母上。あ、ちちモチェァ゛ーッ!?」


 再び目に入った隊長に不穏なことを言われそうだったので二発目のモチがシュートされた。

 自分が居ては面倒な事になりそうなので隊長はさっさと部屋から出て行く。フレデリカが指をさして笑っていた。


「ハ・イ・ン・リ・ヒ! 話を聞きなさい。この方が貴方の父上の神聖ローマ皇帝フレデリカ様よ」

「え、ええ?」


 ハインリヒは改めて、腕組みをしてそれなりに威厳を出そうとしているフレデリカちゃんを見た。

 

「女の子じゃん!?」

「今更そんなことを気にするのは貴方だけなのかしら。いいわね、これは事実だから認めなさい。世の中にはまだ子供の貴方にはわからないことが多いのかしら」

「ええええ……」


 無理やり押し切るコスタンツァと今一つ納得がいかないハインリヒであった。

 軽くスルーしているが女同士の結婚で子供までいると云うのは微妙に異常である。だが大人の都合なので仕方がないことでもあった。一度そうと決めたらやり通さなければならない。どんなに苦しくてもやり遂げる。

 ハインリヒのこの微妙な幼少期における混乱は性格形成に響くのであったが、まあ今はともあれ。

 フレデリカが彼を抱き上げつつ云う。


「よーしよしよしよし、よく来たな我が息子よ! 父さんと云っておくれ!」

「と……父さん?」

「違和感ハンパねーわやっぱ自分で言わせといて何だけど」

「父さん!?」


 なにせ少女であるのだ。レズでも無いし。実年齢はともあれ少女なのである。


「ハインリヒ、お前にはドイツの公爵ズビビ……ズベア……ズ、ズビズバ──ええい、言い難いな、[ズヴェヴィア公]の位をまずやろう」

「素直に言いやすい[シュワーベン]でいいだろそれは」

「あ、隊長戻ってきたんだ」


 がらがらとよく使う解説用のボードを持ってきながら隊長はドイツの地図を見せる。


「大雑把に云えばこのドイツ南西部がシュワーベン公爵領だな。一応これもフレさんから継承と云うことになる」

「そ。我の血統的に世襲は問題ないから、皇帝と違って教会の認可も要らないしそのままポンとハインリヒの物にできるね。というわけで君はシチリア王兼、シュワーベン公爵だから覚えておくように」

「あ、ええ、と。はい」


 イマイチ頼りない返事であるが、フレデリカは頷いた。  


(我が五歳六歳ぐらいだったらヒャッハー権力だァーって喜ぶところだけど)


 しかも借金やら教会の口入れが無い純利益である。自分にもそんな誕生日プレゼントの一つぐらい欲しいものだ。

 自分の誕生日と云うと何故か白髭つけて聖ニコラウスのコスプレをした隊長が靴下をプレゼントしてくる。毎年。なお彼女の誕生日は12月26日であるのだが。

 このフレデリカの再会から即公爵領を譲ると云う行為の目的は明らかであった。

 ハインリヒにシチリア以外の領地を持たせて、そこを統治させる代わりに自分がシチリアを治めるのだ。

 別段欲の皮が突っ張っているというわけではない。ただ六歳のハインリヒではシチリア──特にシチリア島以外の南イタリアを治めに行けるとは思えないのである。

 逆にこの公爵領は代々フレデリカの一門が治めていた土地だ。良い君主にしようとハインリヒを教育と政治の補助をしてくれる者は幾らでも居る。一国と一地方、どちらが楽かと考えれば一目瞭然である。

 それが判っていても。

 

(……もう、戻れそうにないかしら)


 コスタンツァはやはり、と思った通りの展開に顔を曇らせるのであった。

 これには説得して連れてきたベラルドとヘルマンも気まずい。

 一方でフレデリカは「効率を考えれば当然じゃん?」と首を傾げている。

 親が居ないまま十四まで独学で暮らし、そこから国を治めてすぐに見切りを付け、僅か十人足らずで敵から終われドイツへ入り、数年でドイツのほぼすべてを掌握した彼女は苦労をしているからこそ周りに──それぐらい判るだろ? できるだろ?と云う考えがあるのだった。

 落ち込んだ様子のコスタンツァに、溜め息混じりに隊長が近づいて声を掛けた。


「一時のことだ、皇后。そのうちまたシチリアに戻れるだろ」

「……うふふ、占いが好きな貴方が云うと真実味があるのかしら?」


 少し元気が出たような笑顔を見せるコスタンツァはふと呼び名に気付いて云う。


「皇后……昔は貴方に姫なんて呼ばれていたのにね」

「……そうだな。だって」


 隊長は珍しくいい笑顔で応えた。


「もう熟女だし姫って年でも」

「かしらァーッ!!」

「げぇーッあれはシチリア十三の殺人技の一つ、[揺れる大地(La terra trema)]!」

「あの無敵の隊長が頭を床に叩きつけられてる……」


 頭部へのシャイニングウィザードからのフランケンシュタイナーの繋ぎ技。隊長の首を足で掴んで床に投げる豪快な一撃でダウンさせるのであった。

 


  

 その年のクリスマスはフレデリカは家族で過ごしたが、夜中になるとこそこそと出かけていく皇帝である。

 そこで赤い服を着て白い髭を付けた隊長と合流した。

 フレデリカはいつもの皇帝姿──シャツにショートスカートにマントと云う簡易なものだが──ではなく、地味な色のローブに箒を持っていて、三角帽を被っている。

 魔女の格好だ。


「地味に似合うな、フレさんの魔女ベファーナ」

「へへん」


 ベファーナはイタリアに伝わる魔女で、キリストの生誕祭を祝わずに菓子を配って回る役目を持つ。


「我はこの魔女好きだな。だって神の子なんかよりお菓子だよ普通喜ばれるのは。というか誕生日祝わないだけで魔女扱いされてむしろベファーナからすれば笑っちまうだろーね」

「魔女の婆さんからすれば、キリストだろうが菓子を配って回る地元の子供だろうが等価なんだろうな。当たり前だが、当たり前の扱いをされたくない教会からすれば悪役だ」


 付け髭をもごもごと動かしながら隊長は頷く。


「というか隊長は妙に聖ニコラウス推しだよね……ちょっと君にも関わりあるから?」

「そんなところだ」

「っていうかなんで赤い服なの? 会社のステマじゃなかったっけその色」

「枢機卿の法衣を参考にした。ちなみに、枢機卿が赤色になりだしたのは中世からだ」

「まあ、この時代を生きてる我らが中世っていうのも変だけど」

「気にするな」


 微妙にメタなことを言いつつ、二人で大きな布袋を担いで馬に乗った。

 

「さ、ニュルンベルクの子供たちにメリークリスマスと行こうか!」

「ああ。配る靴下はチュートン騎士団にも手伝わせて編んである」

「なんなのあの騎士団手先器用な上に暇なの」

「悪い事じゃないが……フレさん一回もまともな戦争も内乱もやってないからな。戦うのが仕事な俺らは時間を持て余している。そしてチュートン騎士団は全員どうて……嫁が居ないから、従者共々裁縫程度はお手の物だ」

 

 教皇の命を受けて馳せ参じた、欧州随一の騎士団の仕事はパレードの管理かお裁縫であった。まあ、当人らが満足しているからそれでいいが。

 ドイツ人だけあって命じられれば真面目に靴下を編む屈強な男どもの図を想像してフレデリカはくすりと笑う。


「隊長が靴下しか配らないから我がお菓子を入れてあげることにしたわけだけど……毎年靴下くれるんだもんこの人」

「フレさんは動きまわることが多いからな。靴下も擦り切れやすいだろう」

「まあ、それはありがたいけどね。でも隊長の針捌きはちょっと異常っていうか。なんで投げた針の穴に別の針を投げて通せるの?」

「クー・ホリンがやってたって云うから練習した」

 

 言いながら赤いサンタクロースと黒い魔女の二人は、住人と部下たちの家々を巡ってプレゼントを配るのであった。

 これも人気取りの戦略であるが、ドイツの人々は皇帝が魔女の格好をしてお菓子を持ってくるので大層に驚いた。

 というか特に教会関係者が驚いた。

 皇帝が魔女とか凄いアレで問題にしたら大変なことになりそうだったから見ないことにした。

 ベラルドはもう慣れていたので気にしていなかったが。

 そして最後に、コスタンツァとハインリヒの居る寝室へやって来た。

 フレデリカは特別に用意していた手作りの砂糖菓子を取り出した。

 この当時砂糖は最先端のスイーツで、インドから中東を経て欧州へ伝わったばかりであった。気候の似た地中海の一部で生産されていてまだ希少品である。

 つまりは、シチリアの実質主なフレデリカがこっそりと栽培して、個人的に食べたりまた賄賂として使ったりしていた。記録に残っている限り砂糖好きであったようだ。

 曲がりなりにも息子と嫁を大事に思って、彼女自ら調理場で菓子にしたのである。

 部屋の扉の前で、隊長は三人分の靴下をフレデリカに渡した。


「俺はここまでだ。後は夫であるフレさんの仕事だな」

「別に最後まで付き合っていいのに」

「家族の部屋と云うのは神聖なものだろう、フレさん」

 

 少し自嘲気味に笑って肩を竦める隊長に、フレデリカは気易く言った。


「それじゃあ、また明日。隊長」

「ああ、また明日」


 そして部屋の前で別れるのであった。

 こうしてクリスマスは終わり、翌日にはフレデリカの誕生日となる。

 これから何度クリスマスを家族で過ごせるのだろうか。皇帝として忙しくドイツを、イタリアを駆けまわる自分には恐らく沢山は訪れないだろう。フランス王のようにどこに行くにも嫁を連れ歩く趣味は無かった。効率的な問題で。

 そのようなことを思いながら、三着の靴下を枕元に置いてフレデリカは三人で眠るベッドに入るのであった。

 足元には去年の隊長が編んだ靴下が履かれたままだ。

 暖かくて、すぐに眠れた。


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