ウォーキング・オブ
今朝も日課のウォーキングに出かける。
他に何の趣味もないワシだが、妻と一緒に出かけるこのウォーキングだけは欠かさない。
おかげで今年80歳になるが、足腰はまだまだ丈夫だ。
だが今日は、妻もワシも、少し体の動きがぎこちなかった。
妻に目をやるとぎこちない笑顔を返してくる。その表情は「お互いもう年ですからねぇ」と言っているようだった。
数十年一緒に暮らしていれば、言葉などいらない。顔を見ただけで全ては分かる。
まあ、これくらいならどうと言う事はない。
ウォーキングしていれば、少しずつ体の強張りもほぐれてくることだろう。
いつもの公園。
いつもの道。
いつものように隣にある妻の顔。
いつもよりゆっくり、ぎこちなく体を動かしながら、ワシらは歩いた。
突然「タタタ」と乾いた破裂音がして、妻が倒れる。倒れた妻の頭の周りには赤い液体が丸く広がり、地面に染みこんでいった。
振り返ったワシの目に写ったのは、両手に銃を構え、軍服のような格好をした数人の男女。
彼らは訳の分からない言葉を無線に向かって話している。
無線を持っていない男が、黙ってワシに向かって引き金を引いた。
世界が回り、地面が頭の横にぶつかってくる。
何故、ウォーキングをしていただけのワシらが殺されなければならないんだ……。
ただひとつ良かったことは、妻が何もわからない内に死んでくれたこと。
ワシは、すぐ隣に倒れている妻の手を握る。
視界はすぐに暗闇に覆われた。
「エリア24、リビングデッド2体を発見。処理しました。引き続きエリア25方面へ索敵を続けます」
どれくらい経っただろう。
ワシらは公園の池の畔で目を覚ました。
いつもの公園。
いつもの道。
いつものように隣にある妻の顔。
さっきまでより一層ゆっくり、ぎこちなく体を動かしながら、ワシらは歩いた。
明日も、明後日も。
ワシらはウォーキングを続けよう。
妻の顔を見ると、妻は血を流しながら微笑んでいた。