残酷な幸運
肺に汚泥でも閉じ込めているように、呼吸をするたびに不快になる。それは今日が高校受験の合格発表だからだろう。あたりを見渡せば、期待とほのかな緊張に頬を染め上げる者、無表情ながらも心底に相当な自信が眠っているような者、そんな希望を持った受験生たちが俺のことを囲っていた。
そんなことすら俺の精神に歯を立てる。不安という刃は消しても消しきれないのだ。
そして視界の端に合格発表の掲示板を見つける。受験票の眠る手提げかばんが鉛のように重く感じる。
不安の源はわかっていた。怠惰を貪り食い、本気になれないことを穂頃に思ってきた今までの受験期だ。
足を一歩進めると数か月前までの情景が飛び込んでくる。息抜きと言い、巷を騒がせている娯楽に甘えてみたことは多い。甘いと言われなくともわかっている。しかし、鉛筆を握る腕は氷のように動かず、娯楽はそんな氷を容易く溶かしてくれるのだ。
そんな日々には決まった習慣があった。夜の闇、勉学に励んだものですら眠らなければいけない時間に、一つつぶやくのだ。
「明日から頑張る」と。
足が一歩進んだ。先ほどよりも弱弱しい一歩だった。結局俺は目標に対し、妥協で塗り固めたまま進んできてしまった。受験当日すら記憶にない。けれども、日々が不合格ということを裏付けていた。
もう掲示板の番号が視認できるような距離になる。周囲では、合格を喜んでいる歓声が上がり、理不尽な業火が心の中で燻るのを確かに感じていた。
そして一つの声を聞いてしまった。
『受験当日に欠席者が多くて全員合格だったらしい』
嘘だと信じたかった。俺はこのまま不合格を確認してこれを挫折とし、真人間として生まれ変わろうとしていた。あんな泥沼のような日々の中で成功してしまっては今度こそ努力などできるはずがない。
慌てて受験票を取り出す。
俺をあざ笑うように、手に持った紙に刻まれた番号は掲示板に刻まれていた。




