2.奇妙な再会
「全員、整列!」
威圧するかのような大声に、ミーティングルームにいた皆が萎縮する。
空気が、一瞬にしてがらりと変わった。
声がしたのは、俺達が入ってきた扉とは別の、頑丈な扉の前だった。
そこには見るだけで肉体派だとわかる男達がいて、その中でも中心にいる中年の男が、さっきの大声の持ち主だった。
彼らの威圧感は、今まで経験したことのないもので、うちの学校で有名な野球部の鬼コーチなんて比べ物にならない。
軍人だろうか。
そんなことを考えるが、皆が動き出した事にはっとし、自分も適当な場所に並ぶ。
全員が並び終えたのを見届けると、中心の男が話し始めた。
「わたしは日本軍第4基地総代表、国塚だ。
広瀬総理は日本の代表として、諸君の戦場での活躍を期待している。
しかし諸君らはまだまだ戦場での実戦にはおよばない。
そこで我々が諸君らを訓練し、戦場に万全の態勢で向かわせる。
本国のために命をはり、勇士ある戦いを望む」
国塚の言葉に、皆が緊張した面持ちとなる。
戦場にいくことはわかってはいたが、まだまだ実感なんてわいていなかった。
だが、いざそれを口にだされると、実感がわいてくる。
それに加えて、不安と恐怖も混じった。
それから、訓練指揮官らの自己紹介が一通り終わると、また国塚が口を開いた。
「ゴホン......諸君らには、特例として国から特別指揮官が派遣された。
二宮、呼んでこい」
指揮官代表の名を、国塚が呼んだ。
「はっ」
威勢のいい返事をし、二宮は入ってきた頑丈な扉の前に立つ。
すると自動ドアらしく、それは静かに開いた。
開いた扉の奥に人影が見えた。
その人影に、京介は見覚えがあった。
京介は大きく目を見開き、ポカンと口をあける。
「な、んで....」
そんな言葉が口から漏れた。
しかしそれは周囲に聞こえる事はなかった。
京介だけでなく、数人もざわついていたからだ。
「京介....」
隣にいる裕太も、扉の奥の人物に驚いた後、俺のほうを向いてつぶやく。
頭がついていかない........
どうして、ここに.....?!
「い、いらしていたのですか」
二宮が驚いたような口調で言う。
「お部屋で休まれていてくだされば参りましたのに....」
口調から、かなり上の人間とわかる。
「....」
その言葉には何の反応も見せず、扉の奥の人影は、部屋に足を踏み入れた。
「〝ベル〟様!....お待たせしてすいません」
さっきまでの威圧感はどこへやら。
国塚は深々と頭を下げる。
変な光景だった。
しかし、それには無関心の様子の、ベルと呼ばれた人物。
一緒に入ってきた、ここにいる誰よりも体格のいい大男にうながされ、中心に立つ。
と.....
「....カンナっ」
いきなりの声に皆がその声のほうを向く。
声の主は、京介だった。
「....なんで、ここに?」
近づこうと一歩動いた京介の腕を、誰かががしっとつかむ。
指揮官の1人だった。
「25番、勝手な発言は許さない。定位置を動くな」
25番。俺のここでの呼び名だ。
威圧感に押され、京介はそこから動くことができなかった。
それよりも、今〝カンナ〟と目が合ったのに、カンナは何の表情も見せなかった。
(なんで....)
国塚は京介を一睨みすると、また話し始めた。
「国の日本軍トップ組織に所属する、ベルだ」
国塚の紹介により、〝ベル〟と呼ばれた少女が一歩前に出る。
「ベル様の付き人、富士だ」
大男も紹介された。
皆、戸惑いの表情を隠せない。
京介と同じ学校の者は特にだった。
それに加え、他校の訓練生も、国のトップ組織の一員を目の前にして驚いている。
なぜならそれが、自分達と同じくらいの年齢の少女だったからだ。
しかもその容姿は美しかった。
長い黒髪をポニーテールで1つにし、顔は整っていて、日本人にも異国の人間にも見える。
白い肌に華奢な手足。
その姿に、皆が息を呑む。
男子高校生が興奮するのは無理もない。
まず、とても軍人には見えない。
後ろにいる大男と比べれば、それは明らかだった。
「では、これより訓練に向かってもらう。全員、訓練場に10分後集合」
紹介も早々に二宮はそう言って、頑丈な扉のほうから出て行った。
国塚や、他の指揮官、ベルと富士もその扉から出て行った。
その後のミーティングルームはざわついていた。
ただ1人、動じることなく、すぐに部屋を出て行った訓練生には誰も気がつかなかった。
皆、ベルのことが一番気になっている様子。
京介は、軽く放心状態だった。
それを気にかけながら、裕太は京介に声をかける。
「あれ、どっからどうみてもカンナだったよな」
「ああ...」
京介は小さく頷く。
カンナとは、裕太よりも付き合いの長い幼馴染。
家が近かったため、ずっと一緒だった。
でも......あれ........?
カンナと、いつから一緒にいたんだっけ....?
なぜか、記憶にもやがかかったように思い出せない。
それがまた、混乱した。
でもそれよりもカンナは今、学校に行っているはず。
なぜこんなところに.........
それにカンナは笑顔が絶えない、明るい性格だった。
しかし、先ほどのはまるで別人だった。
あの笑顔は微塵もなかった。
雰囲気も全く違った。
しかも、名前も。
〝ベル〟
確かそう言っていた。
異国の名前ともとれるが、コードネームかなんかだろうか。
一瞬、別人かと思ったがやはり、そんなはずがない。
徴兵令が出た時、もうカンナとは会えないと覚悟したのにまさか、こんなかたちでまた会うことになるとは、思いもしなかった。
一体彼女は、何者なのだろうか......
今まで見てきたカンナは何だったのか。
いや、やっぱり別人なのか?
でも京介にはそうとは思えなかった。
とりあえず、裕太に背中を押されるようにして訓練場へと向かった。