1.プロローグ
―日本の某特別軍事訓練所
その建物内を静かに歩く姿があった。
火野 京介、17歳。
つい最近まで高校生だった。
今は戦争のために、国に召集されている。
国の少年選抜軍事部隊に選ばれてしまったのだ。
国の法律で、断る事はできない。
少年選抜軍事部隊とは、未成年の優れた運動能力をもった少年たちで構成される軍事部隊。
しかし、いくら運動能力が優れていても、すぐに実戦にはいたらないため、今は養成期間。
選ばれた未成年の男子は地区ごとの養成所へ隔離・監視され、訓練を受けさせられる。
成人男子にはすでに徴兵令が出ており、京介の父もまた、日本をたっていた。
そして、友達の親や親戚が亡くなったと聞くのは、高校生活では日常的だった。
訓練用の迷彩服に身を包み、気を引き締めて廊下を歩く。
今日が訓練初日だ。
後ろから、軽い足取りの走る音が聞こえた。
振り向いて、その人物の確認をする。
幼馴染の水野 裕太だ。
裕太は、京介の隣に並んだ。
「よ!京介!」
陽気に裕太は言った。
「おう」
京介も答えた。
京介と裕太は、この施設でのルームメートであり、中学からの親友だ。
2人とも、ずっとバスケを続けていた。
京介はバスケ部でキャプテン兼エースであり、リーダーシップがありしっかりしているタイプ。
一方の裕太は部内のムードメーカー的存在で、いつでもみんなを楽しませるようなタイプだった。
そんな2人は高校で1,2位を争うほどモテた。
京介は顔立ちが整っていて、落ち着いていてクール。
裕太は笑顔がみんなを惹きつけ、誰とでも仲良くなれる人気者。
そんなところが女子の人気を二分にした。
こんな状況下で、裕太とルームメートになれたことは、感謝しなければならない。
お互い、父親が戦場での安否が不明となっており、そんな不安を共有できる友達がそばにいることは何よりも心強い。
裕太にはずっと感謝しっぱなしだ。
そんなふうに俺が思っていることとはつゆ知らず、隣の裕太は呑気に欠伸なんかしている。
これから何が始まるのか、どんなことをさせられるのかとか、こっちは緊張しているというのに、やっぱりこいつは変わらない。
でも、その性格に何度救われたことか。
ミーティングルームには、すでに何人か来ていた。
見慣れた顔があるのはあたり前。
この地区で運動のできる者が集められたのだから。
他校とも練習試合で交流があるから、バスケをやっていたやつの顔くらいは覚えている。
そんな俺たちがこれから生活や訓練を共にする施設は、かなり新しいつくりだった。
しかし窓はない。
一応中庭はあり、外の空気は吸えることになっている。
完全に隔離されているが、この施設のつくりが近代的で新しく、そんなところに単純な男子たちはそれほどストレスは覚えていないらしい。
かくいう俺もその1人。
家族のことを心配しない日はないが、それもやはり裕太がいるだけでやわらぐ。
我慢しているのは俺だけではない。
ここにいるみんなが、それぞれ不安をもっていて、それでも明るく振舞っているのだ。
ここにいるのは各校で有名な、それぞれの部活の中核、いわゆるエースたち。
だからみんな、ある程度冷静な面もある。
こんな異常な世界に、慣れつつさえあった。
京介が生まれる前から、世界は荒れていた。
戦争は、異常気象による世界規模の食糧難から始まった。
そしてそれを追うように枯渇する、エネルギー資源。
世界の国々はそれぞれが生き残るための手段を選ばなくなった。
10年前あたりからだろうか、
世界の国々がこぞって平和主義を破棄していったのは。
その中にはもちろん日本もいて、今では軍事力ではアジアで超大国の中国と互角の力を持っている。
倫理と秩序が崩れた世界____
そして、その影には大きな〝力〟が潜んでいた。