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第4話 偽りの心

「あ、いた。月村!」


「………天野」


「久しぶりだな。」


「う、ん。そうだね」


「あれから結構経ったのに月村と全然会わないからさ。忙しいのか…?」


あの花束を渡した飲み会から1カ月が過ぎていた。それなのに私が同じ会社で働いている天野と会わなかったのは私が天野を避けていたから。


「………うん。いろいろあって、仕事が一気に増えたからさ。」


「そうか…、お疲れ様。無理しすぎるなよ?」


「大丈夫、ちゃんと睡眠も食事もとってるから。無理はしてないよ」


「ん、ならいい。でも…」


「でも?」


「月村の大丈夫は大丈夫じゃないからな…自分で何でも背負いこもうとして無理するから。…だから心配なんだよなあ」


「そんなこと…」


「周りのみんなを頼れよ、もっと。一人で抱え込んだままだとそのうちがたきちまうぞ?人の仕事は手伝うのに、人には自分の仕事を頼らない月村だから、みんなすぐに助けてくれると思うぞ。」


ドキッとした。仕事の話をしているはずなのに、私の悩みを相談しろって言われているみたいで…そんなはずないのに。でも、仕事でも今、考えなければいけないことがあるから誰かを頼りたいって思う気持ちはある。


けど、頭の中に浮かんだその『誰か』がこの私の目の前にいる人だったから、どうしようもない。一応、けじめはつけたつもりだけど、こうやってそばにこられると、やっぱり心動かされてしまう。


触れたい、話したい、そばにいたい。


欲求は満たされることなく、増殖していくばかりだ。


「うん、かつかつになりそうだったらみんなを頼ろうかな」


「それじゃ遅い気もするけど、月村ならそれが限界かもな?」


―俺がそばにいたら手伝ってやれるんだけど


天野はそう言って私の頭をふんわりと撫でた。―――甘くも聞こえてしまうほど小さな声で囁きながら。


「え、ちょっ、なにっ…?!」


思いがけず天野の体温を感じてしまった私は、飛びのいてしまった。男らしく大きな手が私の頭を包み込むのが、まるで抱きしめられているようで。


そして、それを叶えられない、実現出来ない私の未来を思うと胸がしめつけられた。


「こんなことしたら勘違いされるよ…」


天野には彼女がいるのに、うぬぼれてしまいそうになる。私が一番なんじゃないかって。


「勘違い?何に対して?」


「彼女に。」


―私だって勘違いしてしまいそうになる。本当は天野も私と同じ気持ちなのかな、って。こんなに心配してくれたら自分に都合の良い幻想を抱きたくなる。でも、現実はそうじゃない。


もう天野は誰かのものなんだから。人の彼氏(もの)に手を出してはいけない、それくらい私だってわかってるよ。


「…彼女?月村、何のこと言って、」


「いいんだよ隠さなくて…?いつまでもこうやって天野に面倒かけるの彼女に申し訳ないし、私が彼女だったらただの友達をこんなに心配してるなんて嫌だからさ…もうそろそろ私も天野から離れないといけないかなって、思うんだ…それに私にとって天野は大事な人だから、幸せになってもらいたいし…」


「………」


「今までありがとう。これからは二人で飲みに行ったりするのはやめようね。何人かで集まって飲もう?」


「は…?月村?!」


「そういうことだから…じゃあね、」


まだ頭に手のぬくもりが残っていて、それが心地よくて天野に甘えてすがりたくなった。それでも、それを振り払うようにその場から私は逃げた。










―私はひとりで立たなきゃいけない。


―だって、強い女でしょう?私は














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