腐りきった太陽を
私は愛しい人を失った。
誰よりも愛しく、何よりも愛しく、愛し続けた。
なのに。
失った。
何故だ。
何故私が彼女を失わなければならなかった。
何故彼女が惨たらしく殺されなければならなかった。
極悪非道の悪漢どもに囲まれ、塞がれ、どうしようもならず。ただ彼女が取り上げられて、私は惨めに這いつくばって許しを乞うた。どうか彼女だけは、頼む、頼むから――奴らのような腐りきった虫けらが、それを聞くはずもなかった。
殴られ、蹴られ、踏みつけられ、引き摺られた。構わなかった。ただ彼女を助けたかった。伸ばした手は、けれど、何にも届かない。中空を引き寄せても無意味だ。この手で握れるのは彼女だけなのに。届かない。屈辱。叫んでも、吠えても、それすらも無意味だった。
彼女はその全てを蹂躙された。され尽くした。犯され、侵されて、彼女の瞳からは、徐々に、光が消え失せた。陳腐な表現だが、そうとしか言えなかった。消え失せた。掻き消された。
奴らのような虫けら如きに。しかし、その虫けらにすら、私は負けた。
彼女があんなことになったのは、私が弱かったからだ。少しでも、腕っ節が強ければ。せめて、虫けらを倒せることさえ出来れば。
いや。
違う。
そうだ、違う。
私も――私が、弱かったから、彼女は陵辱され、あまつさえ用済みとばかりに殺された。けれど、私だけが悪くはない。奴らが――奴らが、一番悪い。けど、それよりも悪いのは?
分かりきっている。
この国だ。
太陽の国とまで呼ばれた、この国だ。
だが、この国は腐敗しきっている。戦争で疲弊し、今もまだ続く永き大戦争に怯え、身を縮こまらせてただ恐怖が過ぎるのを待っている。弱小な国では、それしか出来ない。けれど、だからといって、あんな虫けらがのうのうと、他の人間までもを侵食していいはずがない。
私の故郷がある国。
ここが一番いい街だよ、と言って微笑んだ彼女の顔。
その一番いい街で、彼女は死んだ。
私は、生き残った。虫けらは、やるだけやって満足して、私なんかには目もくれず、ごみでも捨てるかのように――いや、実際彼らにとって私はごみ同然だったのだろう――放り投げていった。
その所為で、生き長らえている。
そのお陰で、生き長らえている。
奴らのような虫けらは、掃いて捨てるほどにいる。しかし、掃いて捨てるほどの力もないのが今のこの国の現状なのだ。
この国だけじゃない。他にも、いくらでも、こんな国は存在している。
存在してしまっている。
それでいいのか?
否。
断じて否。
彼女のような境遇の人が他にも居ると思うと、胸が締め付けられる。しかし、それ以上に、その同じ境遇の人全員の分を合わせても、彼女を失った悲しみには、遠く及ばず。
空を見上げれば、燦燦と、太陽の光が降り注いでいた。だが、その太陽に、私は清きものを感じない。一つも、微塵も。このような腐りきった太陽からは、何も感じない。
そう。今や、太陽の国は腐りきっている。
私はそれが許せない。
何もかも。
大戦の戦火も、奴らのような虫けらも。
……私は、根っからの頭脳派の人間だ。だから、腕っ節が強いわけでもなかった。しかし、頭脳派には頭脳派の力がある。
「――私は」
変えてみせる。
この国を変えてみせる。戻してみせる。昔の平和な姿に。彼女が微笑んでくれたあの国に。
そのために。
私は。
「――私は、革命家だ」
変えてみせるさ。
シャーリート、君に約束しよう。
この国を、世界を変え尽くすまで、私は止まらないと。
それが、君を守れなかった私の、出来ることの全てだ。
私には、力はない。何も、一つも守れないほどに弱い。
しかし、知恵がある。細工を施し、小細工を張り巡らせ、悪知恵を惜しげもなく使って他の人間を貶めるだけの、知恵が。私の武器は、この知恵だけだ。他に誇れるものなど、一つもありはしない。
潰してやる。世界を、全てを。
腐りきった太陽など、捨ててしまおう。
私が、新たな太陽となってやる。
誓おう。
書きたいものを書いたらこうなった。