プロローグ
目の前に、美人が――いや、「美人」という言葉では到底表現しきれない存在が座っていた。長く伸びる灰色の髪、純白のドレス、涼しげな切れ長のエスニックな目元、そしてその胸のふくら――。間違いない、彼女は女神だ。
女神は雪のように白い大理石の椅子に腰かけていた。その背もたれは天を突くほど果てしなく高い。
一方、俺といえば……ただの木製の椅子にちょこんと座らされていた。
だが、なぜ彼女は俺をそんな冷ややかな目で見るんだ? もっと慈愛に満ちたまなざしを向けるべきじゃないのか?
「ようこそ、加藤幸安、ここは人生に不満を抱いた魂たちの転生の間。私はあなたの魂が進むべき道を定める女神、エルジエットです。選択肢は二つ。一つ目は天国行き。そこは非常に平和な場所ですが、オンライン小説、ビジュアルノベル、マンガ、アニメをこよなく愛するニート引きこもりにとっては、退屈極まりない世界です」
「どうして私の趣味を知っているの? 私の人生を知っているのは理解できるけど、あまり度を越さないでよね」
「続けさせて」
どうぞ。あと、その冷たい目をやめて!
俺が自分の人生についてどこまで知られているのかと考えて緊張していると、女神は俺の目をまっすぐに見つめた。
「中世のパラレルワールドが本当に存在するかどうかを確かめるために死んでもいいと思い、まあ、あんなことをして『リラックス』し、達成すべき目標も目的もなく、アニメを見るのに終わりのない時間を無駄にし、複雑な感情で泣き終えるような人……」
「お、おい、待てよ! 誰が私の人生をそんなに深く覗き見る許可を与えたの?! 私はプライバシーに値するわ!」
エルジエットは俺の怒りを完全に無視して続けた。
「もう一つの選択肢は、中世風のパラレルワールドに転生すること。転生者としてのあなたの使命は、世界で大混乱を引き起こしている魔王を倒し、住民たちが切望している平和を取り戻すことです。それを達成すれば、一つの願いが叶えられます」
「待って、今何て言った? 中世の世界と魔王? 一つの願い?」
「そう、今聞いた通りよ」
「どんな願いでもいいの?」
エルジエットはまるでスキャンするかのように、俺を上から下まで見た。
「そう、どんな願いでも」
「もしかして、ついにハーレムが持てるのか? 魔術のエキスパートであるスリムなスタイルの美しい少女、非常に熟練したパラディン、そして母親のような性格の青い目のブロンドのアーチプリースト……」
「ありがとう、女神様!」
「ママ、パパ、兄弟たち……この十代の若者はついに自分がいつも望んでいた人生を手に入れるんだ!」
俺の顔がリラックスし、感情の笑みが口元に浮かんだ。
女神がいつもの典型的な決まり文句のイントロを終えるまで、黙ることにした。
エルジエットは相変わらず俺をゴミのように見つめていた。彼女の視線は俺を殺しそうだったが、今はそれほどでもなかった。
「もちろん、手ぶらで送り出すわけにはいかないわ」
俺の横にポータルが開き、そこから本が出てきた。俺が手に取るまでそれは浮かんでいた。
ポータルが閉じた。
「その本には、魔王を倒す使命を助ける非常に強力なスキルと武器があるわ。持っていくものを賢く選びなさい」
その言葉を聞いた後、俺の視線は今手にしている本に向かった。
「ふむむ? この本は百科事典のようだ、他の人間を殺すためだけに使うこともできるかもしれない」
「人生で一度も本を手にしたことがないのね」
本を開いた。最初のページにセクションの並び方が載っていた。
「おーー」と自分自身でささやいた。「チートスキルは1ページ目から……えっ?」
何? なぜチートスキルは武器に比べてページ数がこんなに少ないんだ? 神々にとっても複雑なのだろう……。
チートスキルを選ぶことにした。武器も興味があったが、俺には理由があった。
最初のページを見ると、いくつかのスキルがあった:超怪力、超知能、無限マナ、ダークブラックスミス……。
「確かに多彩なラインナップだな……」とつぶやいた。
超怪力に行きたい。マントを着たあるハゲが感じていることを体験してみたい。
どのスキルを取るべきか、どんなルートを進むべきかという考えに没頭していると、女神が手で合図をして俺の注意を引いた。
気づかなかった。
無駄だと気づくまで彼女は続けえた。それから彼女は俺の名前で呼び、軽蔑の目を完全に変えて……混乱した目つきになった。
「ええと……加藤幸安さん」
「はい?」
本から目を上げて、女神を直接見た。顔に親しげな表情が描かれていた。
「何を尋ねるつもり? 自活するためにどのスキルを使うか、かなり集中しているんだけど」
「自分がどうやって死んだか気にならないの?」
「……」
ああ、そうだ、俺は死んだんだ。まあ、本当のところは……。
「いや」
「……!?」
「私の立場になって考えてみて。この時点でどうやって死んだかなんて一番どうでもいいこと。それに、主人公が迎えるような不条理な死に方に恐怖を抱いているんだ」
私の運はかなり自然発生的;女神に祝福されているのか悪魔に呪われているのか自分でもわからない。
そう、知らない方がいい。
「自分がどうやって死んだか知りたくないなんて、あなたが初めてよ。そして加藤幸安、主人公のオーラがないわね……ぷっ」
この忌々しい女神め!
「何とでも言って。でも本当に、この時点では知りたくない。選ぶべきスキル/武器の本があるんだから、失礼するよ……」
選択を続けようと決意し、そのシナリオを避けることに成功したとリラックスしたとき。
「残念ながら、規制の命令によってあなたにそれを伝えなければならないの。だから、失礼するわ」
「いや、いや、いや、いや、いや」
「待って、待って、待って。「規制」ってどういうこと?! 知りたくないって言ったのに—!」
女神は一瞬で現れ、おでこを俺のおでこにぴったりとくっつけた。人差し指を俺の唇に置いた。
「規制の命令により、お・し・え・て・あ・げ・る・の」
「はい、わかりました……」
「くそ、運命よ、私の味方をしてくれ、頼むから!」
「何が心配なのかわからないわね」と彼女はコメントした。「あなたの死は悪くなかったわよ」
「悪くなかった? じゃあ、どうやって死んだの?」
呆然としたが、同時にかつてないほど安心した。
「ありがとう……ありがとう、私の運!」
重い荷物がすっかり消え去ったかのように、俺の顔は穏やかになっていた。
「ぷっ」
女神は突然奇妙な音を出し、まるで笑いをこらえているようだった。彼女が持っていた敬意のオーラを破り、女神はもはや我慢できずに笑い出した。
「……失礼ですが?」
「ははははは、あなたの死は悪くなかった、私のこれまでの仕事人生の中で見た中で一番不条理なものだったわ!」
「おい! 何を笑ってるんだよ!」
「部屋に1年間閉じこもっていたんでしょ?」と女神は笑いの涙を拭いながら言った。「新しいビジュアルノベルを買うために店に行くのに一度だけ外に出ることにしたの……そしたら建設中のビルの緩んだレンガが5階から頭蓋骨を割ったのよ! ぷっ。反応する時間すらなかったわね」
無視できない。そう、俺は孤立、悪質な食事、そして座りっぱなしの生活に1年間耐えたのに、焼いた粘土の塊が5秒で俺の存在を終わらせたのだ。
「あなたを見た人たちが救急線を呼んだけど、無駄だったわ。あなたの家族はニュースを受け取ったとき、悲しみや嘆きの顔をしていなかった……実際、大きな負担が取り除かれたように見えたわよ」
何もしなくて継続的な出費だったのは本当だが、自分の家族まで嘆かなかったのか?
「誰かを殴りたい」
女神はすでに落ち着いていた。笑いの涙はもう消えていた。彼女は冷静さを取り戻した。
「もう気分がいいわ、ありがとう、ニートくん」と彼女は無邪気な笑みを浮かべた。
「私じゃなくてさ、この呪われた女神! これからは空から落ちてくるものに恐怖症を抱くじゃないか!」
「お、おい、ニートじゃないよ!」
エルジエットは喉をクリアにした。彼女の冷たい目は完全に消えていた。今や彼女は軽蔑の目で見ていなかった……誰にでも向けるような目だった。
「このシーン全体についてごめんなさい」と彼女は落ち着いて言った。「この仕事は疲れるし、ストレスを発散したかったの……本当に許してちょうだい」と彼女は頭を下げてお辞儀をした。
知らなくていいことを教えてくれた彼女を許さないつもりだったが、どうやら彼女は申し訳なく思っているようだ……それに疲れると言っているし、ね? 許してやろう。
しかし、精神的損害に対する報酬が欲しい。
「お金を払って」
「……失礼?」
女神は何と言っているのか理解していないようだった。
「精神的損害に対して私に金を払ってほしいの」と続けた。「不条理な死である可能性があったから、教えてほしくなかったんだ。なのに教えてくれた! だから報酬が欲しい」
そうだ、当然の報いだ。
女神は何と言えばいいかわからず、困惑していた。あごに指を置き、目を閉じた。
少し考えてから、彼女はやっと返事をする気になった。
「うーん、あなたには小さな例外を作ってもいいかもしれないわね。報酬として何が欲しい?」と彼女は甘い笑顔を浮かべながら言った。
「何が欲しいか、だって? ゼロから始めるのは時間がかかる気がする。冒険に出るために14年も待ちたくない」
決めた。
「年齢を維持したまま、別の世界に送ってほしい」
そう、転生することはゼロから始めることを意味する。私は待ちたくない、今すぐ冒険を生きたいんだ!
「魔法やスキルを体験し、グループと一緒に狩りに行き、楽しみたい、でも今、14年後じゃなく」
エルジエットは理解しているようだった。結局のところ、彼女は俺を深く知っているのだから。
「それだけなら、できるわ。でも、一つ質問させて」
「質問? またか? まあ、どうでもいいけど」
「もちろん」
エルジエットはちらっと俺を見た。それから她的な視線は俺が手にしている本に向けられた。
「なんで本を見ているんだろう?」
彼女はため息をついて言った。
「持っていくスキルはもう決めた? 通常、これはあまり時間がかからないから、急ぎなさいよ」と彼女は手を動かしながら言った。
で? 時間を無駄にしていたのはお前だよ、うざい女神。
「スキルを決めていても、他のを使いたくならないわけにはいかない。時間をくれ」
マジシャンや熟練のパラディンのマスターと補完し合う方がいいかどうか、数分間心の中で議論した。
ふむむ。
もう決めた:欲しいスキルは超怪力。
「さて……どうすればいいんだ? 目の前にいるうざい女神に聞いた方がいいな」
「おい、女……神?」
本から目を上げると、女神が空中でトランプのタワーを作っているのが見えた。
でも、なんだこれ? 忘れてくれ。
抱えていた疑問を聞くために、脚の上で本を閉じた。
「スキルを決めたよ。で、何をすればいいの?」
女神はトランプを横に動かし、彼女の視線が俺の視線と出会った。
「才能があるね、トランプのカードが楕円形を作っている……私なら4段のピラミッドの土台で崩しちゃうのに」
彼女の手がドレスの上に置かれた。
「スキルの名前を長押しして、もうあなたのものだという通知が出るまで待つだけ。数秒かかるから早いよ。それだけ」
おお、女神が祝福してくれるか、魔法陣の上に置いてくれると思っていた。正直言ってこっちの方が実用的だ。神々に一票。
女神はトランプを続けた。すでに終わりかけているようだった。
「待ってろ、異世界!」
本を開いて、欲しいスキルの名前に直行した。女神が言った通りにした。
そして……。
何も起きなかった。もう一度試して、数秒待ったが何も起きない。
「……」
焦り始め、すごいスピードで繰り返し押した。
他のスキルも試したが、エラー404が出た……ふざけるなよ!
焦る俺を見て、女神は混乱しながら俺の横に立った。
「どうしたの? まだ選んでないの?」と彼女は興味津々に聞いた。
「選んでないわけないだろ、おバカさん! 選ばせてくれないんだよ!」
「壊れたみたいね。言われた通りにはっきりと押しているのに何も起きないわ。サーバーに問題があるの?」
この部屋にいるのはかなりイライラする。特にこの女神と本が。
「サーバー? とにかく、これは起こるべきではない、実際、一度も起きたことないわ。本当に運がいいわね、加藤幸安さん、ぷっ」
「……」
「……?」
……で、これからどうしよう? スキルすらなくて、どうやって魔王を倒せばいいんだ?
エルジエットは俺の危機に気づいた。目を閉じ、指を組んだ。
「ええと、加藤幸安さん」
「……」
「これからどうやって生き残ればいいんだ?! スキルが手に入らない、うわああああっ!」
一般冒険者として生き残る希望が水泡に帰した。
最初にからかわれ、今度はスキルが選べない……待てよ、武器はどうなんだ?
目が輝いた。
「加藤幸安さん、武器を試してみて……」
変だな、それを考えていたところだ。
「ああ、そうしようと思ってた」
武器のセクションに向かい、女神が言った通りにして……エラー404。
「今度は何を選べばいいの?」と涙目になりながら言った。
女神もどうしていいかわからなかった。このような状況のためのプロトコルはないと彼女は説明した。
「加藤幸安さん、こんなことになって本当に申し訳ないわ。残念ながら解決策はないの。いたずらを計画していたの:転生させて14年間冒険を待たせるっていう。でも今本当に何かできるかどうかも怪しいわね……」
それくらい分かってるよ! そして私を転生させるつもりだったって? 女神が嘘をつくなんて思わなかった。
「お前は本当に最悪だな、ニセ女神」
「加藤さん、今私になんて言った?」
俺のコメントに怒っている女神を無視した。
まあ、そんなに悪くはないだろう? とにかく、この世界は退屈な日本よりもマシになるはずだ!
チートスキルや武器がなくても、自分の冒険を生きることができると自分に言い聞かせた。
「そんなのどうでもいいさ……はは。どうやって生き残るか見ないと……くんっ」
女神はしばらく躊躇した。
「本当に本当に行くの? かなり難しくなるわよ」と彼女はため息をついた。
確信はないが、失うもの何もない。誰かを抱きしめたい。
「そう……くんっ」
女神もすでに時間がかかっている以上に時間をかけたくなかったので、これ以上質問しなかった。
「あなたの運命を決める責任を持つ女神として、私の神聖な力によって、別の世界に送ることを命じます。冒険者加藤幸安、最高の運と魔王を倒す使命を果たせることを祈っているわ」
足元に魔法陣が開いた。
「やっぱりそこに魔法陣があったんだ」
これは自分が想像していたようには進んでいない……自分の運が憎い。
「おい、女神、普通何かを持たせるべきだろうが、できないなら、せめて恋愛運くらいは良くしてほしいね!」
そう、少なくともそれだけは。
「その変態の顔じゃ、難しいわね、ニートくん」
このアマ!
ここまでアマチュアにも満たない作品をお読みいただき、本当にありがとうございます!
ここまで付き合ってくれた読者様に、心から感謝を!




