冷たい彼女の温かさ
小説家になろう初投稿のシオノコンブです
よろしくおねがいします!
吹き荒れる風と強い雨。
どうやら台風が来てしまったらしい。
天気が悪い日は気分まで落ちてしまうからどうもいけない。
そんなことを考えて、少年は静かにため息をついてしまった。
もう教室の中に人はいない。
他の生徒はスクールバスか親の迎えで帰ってしまった。
台風の影響で学校が早く終わるのは嬉しいことだが、電車が通学に必須となっている彼にとっては困る話である。
学校が早く終わっても、電車が止まってからではどうしようもない。
窓の外を見ても何もない。
青い空は一切見えず、白いはずなのに暗いイメージが与えられる雨雲しか見えない。
そのせいでさらに気分が落ちてしまって、これではいけないと視線を外した。
「………………」
それとほぼ同時に足音が聞こえた。
思わずそちらのほうに視線を向けると、ちょうど女子生徒が教室に入ってきたところだった。
同じクラスの女子生徒。
しかし名前が思い出せない。
教室で生活していればクラスメイトの顔は自然と覚える。
だが名前となるとそうはいかない。
呼ぶ機会、あるいは呼ばれているのを聞く機会がなければ覚えられないだろう。
彼女はその機会がない部類の生徒だった。
(そういえば、誰かとまともに話してるのを見たことないかも………)
見たことがある光景と言えば、本を読んでいる姿だけだ。
それだけでは名前を覚えていないのは仕方がない。
なんて考えていたら。
「ねえ、そんなに見ないでくれる?」
冷たく刺々しい声が聞こえてきた。
それで、少年は自分が彼女をずっと見ていたことに遅れて気づいた。
考えることに集中しすぎていたと反省したが今更遅いことである。
「ごめん。名前、なんだったかなって思って」
正直に答えるが、少女は少年を見てすらいない。
というか言葉を返しすらしなかった。
自分から聞いておきながら無視するなんて失礼だと思ったが、少年は気にせずもう一度視線を窓の外に向けた。
すると。
「………小宮夏美」
とても短く端的な言葉がかなり遅れて帰ってきた。
「………藤森甲斐」
名乗ってもらったのだから、一応こちらも名乗っておこうと甲斐は名乗り返した。
しかしそれはきちんと無視されたらしい。
夏美は何事もなかったように机の引き出しから一冊の本を取り出して静かに読み始めた。
「…………………………」
「…………………………」
沈黙が重い。
そんなことを考え始めると、さらに沈黙が重くなったように錯覚してしまう。
原因はおそらく夏美だ。
甲斐自身、彼女のせいにするのはよくないと分かっているが、顔を知っている程度のクラスメイトと教室で二人きりというのは気まずい。
このままでは沈黙の重さに押し潰されてしまうと思った甲斐は逃亡を決意。
席を立ち、教室の外へ行こうとしたところで。
眩しい閃光と同時に何かが大爆発でも起こしたかのような音が炸裂した。
音の振動は建物だけでなく体の内部にまで伝わり、心臓を直接刺激されたかのような感覚に気持ち悪さを覚えてしまう。
「………近い」
電気を消しているのでわからないが、今の雷で停電でもしていたら大変だなとどこか他人事のように考えてしまう。
しかし。
「……………」
無意識に目が向いてしまった。
その視線の先には夏美の姿があった。
「……………」
一瞬話しただけのあまりにも勝手すぎるイメージではあるが、彼女は何にも動じないような感じがしていた。
でも、そうでもなかったようで。
「大丈夫?」
「なにが?」
心配になって声をかけてみると、キッ!と先程よりも鋭い視線を向けられた。
どことなく声も刺々しさを増している気がする甲斐だが動じずに夏美のほうへと歩いていく。
「雷に驚いてるみたいだったから」
「別に驚いてない」
「じゃあ本を地面に落としたのは偶然ってことだね」
言いながら甲斐は地面に落ちた本を拾い夏美の机に置いた。
「雷、怖いの?」
「怖くない」
「でも体震えてるよ」
「寒いだけ」
「今室温27度だけど」
「………………」
言い逃れができなくなった夏美は押し黙って何も言えなくなってしまう。
その姿がなんだか可笑しくて、甲斐は思わずフッと笑ってしまった。
慌てて口を押えて何もなかったように振舞うが、笑い声はばっちりと聞こえていたらしく。
「バカにしてるの?」
と敵意満点の声を向けられてしまう。
「ごめん。バカにしたつもりはなかったんだ。意外だなって思って」
「別にいいでしょ」
「そうだね」
納得して甲斐はそのまま今度こそ教室を出て行った。
1
何もない一週間の休日である日曜日。
なんとなく、外出がしたくなった。
しかし何か目的がないと仕方がないと思い映画を見に行くことにした。
普段映画なんて見ない甲斐ではあるが、たまには変わったことをしてもいいかもしれないと思い恋愛映画を選んだ。
上映開始十分前になり、入場開始の放送が流された。
それに合わせて入場した甲斐は滅多に見ない光景の数々に物珍しさを感じながら上映会場へと進む。
上映されるのは9番シアター。
席はF14。
それらを確認しながら9番シアターに入り、席の階段を上ろうとしたとき。
「え?」
思わず声が出てしまった甲斐は固まってしまった。
一番前の席の端。
出入り口につながる通路に一番近い席に見知った顔があったからだ。
「………………」
夏美だった。
なんとなく動けなくなって夏美をじっと見ていると。
「あの、通りたいんですけど………」
後ろから声をかけられた甲斐は自分が通路を塞いでしまっていることに気付いく。
「すみません」
慌てて謝って階段を上っていく。
(まさかこんなところで会うなんて)
というか本当に意外だった。
彼女でも恋愛映画を見たりするのか、と。
映画は一時間半と通常より少し短めだった。
しかしその分話が簡潔にまとまっていてわかりやすかった、というのが甲斐の感想だった。
ちなみに。
(恋愛というジャンルもたまにはいいかも)
と考えるくらいには楽しめた。
満足気分で会場を出て行き、このまま帰ろうとしていると。
「あ…………」
映画館の外に抜ける道の途中。
ちょうど曲がり角のところに壁にもたれかかっている夏美がいた。
夏美は現れた甲斐に気付くと耳にはめていたイヤホンをとって。
「藤森くん、恋愛映画とか見たりするんだ」
と声をかけてきた。
「意外なのはお互い様でしょ」
「………そうだね」
夏美は腕に着けている腕時計で時間を確認した。
映画の上映開始時間から考えれば、現在はちょうど正午過ぎくらいだ。
「時間もちょうどいい。昼から予定ある?」
「ないけど、……………?」
質問の意図が分からず答えながら甲斐は首を傾げた。
「じゃあ一緒にお昼食べよ。感想会」
「え、」
言われるがまま甲斐は夏美について行った。
訪れたのは近くのファミレスだ。
「それで、どうだった?」
メニューを注文し、食事が運ばれ本格的に食事を開始したところで夏美が切り出した。
主語を省いた質問だったが内容をすぐに理解した甲斐は質問に事務的に答える。
「話が簡潔にまとめられてて理解しやすかったね。登場人物たちの感情表現も丁寧で、恋愛映画もたまにはいいかなって思えたよ」
甲斐が述べた感想を、食事には一切手を付けず集中して聞いていた夏美はうんうんと頷いている。
その真剣な表情を見て甲斐はまたも珍しいものを見た感覚を味わった。
「恋愛もの、好きなの?」
「………………。原作の本が好きなの。別に恋愛ものが好きなわけじゃない」
やはり棘のある声質だと思いながらも気にせず食事をする甲斐は手を止めた。
「原作は小説なの?」
「うん。あなたが一昨日拾ってくれたあの本」
「ああ、そういえばそんなことも」
二日前の記憶を思い出した。
甲斐が拾ったとき本にはブックカバーがついていて、それは透明なものではなかったので何の本かまでは確認できなかった。
思わぬ偶然だ。
「…………よかったら読む?」
「本を?」
「うん。興味があるなら、私の貸してあげるけど」
そう言って夏美は自分のバッグの中から本を取り出した。
ブックカバーがついているので何の本か確認できないが、話の流れからして先程の映画の原作小説であることを理解する。
「これは、布教ってやつなのかな」
「自分が好きなものを他人と共有したいと思うのは当然の思考でしょ」
「……………たしかにね」
布教をしたことはないが、その気持ちはわかると納得する甲斐。
「…………………」
黙って本を見つめる。
実を言えば興味があるわけではない。
今日映画を見たのも単なる偶然、気の迷いと言ってもいい。
しかし、と考える。
こういう機会がなければ自分から本を読むことはないだろう、と。
ならこれも何かの縁だ。
普段本を読んだりしないのだから、たまには読んでみるのもいいと思った。
「じゃあ、読ませてもらえるかな?」
「…………………、うん」
本を持ったまま夏美は短く返事をした。
「でも人の大事な本を持ち歩くのは怖いから、明日学校で貸してくれる?学校で読むから」
「わかった」
2
「じゃあ、また明日」
別れ際、夏美が甲斐に対して言った。
「うん、また明日」
甲斐もそれに応えると二人はそれぞれの帰路につく。
帰り道の途中、甲斐はファミレスでの夏美の表情を思い出していた。
本を読ませてもらうと返事をした時の彼女の表情。
いつも通り無表情に見えたが、口元が少し緩んでいて目元も穏やかだった。
一昨日の彼女からは想像できないほどに温かみに溢れていた。
「……………」
珍しいことの連続だったと思いながら、自分でも疑問に思うほどに甲斐は夏美の温かい表情を思い出していた。
そんな自分の口元も、同じように緩んでいることには気づかずに。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
これからも作品を更新していこうと思っているので、今後もぜひ読んでください!




