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第11話:覚悟と理由

「ぅあっ!?」

 爆風で身体が押し戻された。

 かなりの近距離で爆発が起こったようだ。

 ――まずい。


 黒い霧のような煙が薄れていく。

 目を凝らすと、2つの人影が地面にうずくまっていた。


「オーア! クリム!」

 敵の居場所も確認しないまま、思わず俺は駆け出した。


「…………ッ」

 オーアは腕を支えにしてなんとか起き上がろうとしていた。

 白い服は泥だらけで、血もにじみ出ていた。

「大丈夫か!?」

 俺が駆け寄ると、

「! サツキ、どうして……」

 オーアは愕然と俺を見た。

 叱咤されるのは分かっているから、俺はあえて視線をそらす。

「おいクリム、大丈夫か!?」

 傍らにうずくまっているクリムを起こす。

「……へいきです。姉さまが前に出てくれたですから……」

 確かにクリムのほうは無傷に近かった。

 が、彼女の目には涙が溢れそうになっている。


「……存外にしぶといな。頑丈さだけが取り柄、とか?」

 空から降ってくるあざけりの声。


「…………ッ、サツキ、クリムを連れて逃げろ!」

 オーアが言った。

「は!?」

「ここは私がなんとかする!」

 彼女の眼は据わっていた。

 ――決死の覚悟らしい。

「駄目ですよ姉さま! このままだと姉さまが……!」

 クリムは遂に泣き出した。

「こいつの言うとおりだ! お前、死ぬぞ!?」

 俺が言うと

「このままだと全員死ぬだろう!」

 オーアが苛立たしげに叫んだ。

「……!」

 俺はそれに、無性にイラついた。


 このままだと全員死ぬから、自分が犠牲になるとか言ってるくせに、その顔は『まだ死にたくない』って言ってやがる。

 いつもそうだ。こいつは矛盾だらけだ。


 ……そんなに俺は頼りないかよ。


「だったら俺の身体使えばいいだろ!!」


 俺は怒鳴った。

「死にたくないなら死にたくないって言えよ! 俺の身体くらいいくらでも貸してやる! それでどうにかならないのかよ!?」

 オーアは一瞬、ひるんだ。

「……っ」

 そして躊躇うように視線を落とす。

「姉さま!」

 クリムも促すように声を上げた。

 短くも長い逡巡が続く。

 そして


「……お前は、私の道具になれるか?」


 オーアは視線を落としたまま、そう呟いた。

「それだけの覚悟と、理由があるのか?」

 今度は真っ直ぐに、俺の目を見て問う。


 ……道具。

 冷たい響きを持った言葉だ。

 ティンクチャーと共に戦うということは、それぐらいの覚悟がいるということだろう。

 危ない目にだって遭うに決まってる。

 けど。


「……死ぬ覚悟は流石にない。けど理由ならある」

 俺は拳を握り締めた。

「ここでお前に死なれたら、寝覚めが悪いんだよ」

 俺がそう言うと、オーアは微かに目を見開いた。


「……進みたいんだろ? だったら俺の身体、使えよ」

 俺が手を差し出すと、彼女は少しだけ躊躇いを見せたが、すぐにその手を取り、立ち上がった。


「――我が目的を果たすまで、剣をお前に託す」


 囁かれた言葉。

 首筋に走る刺激。

 次の瞬間には、俺の右手にあの剣が握られていた。

 が、相変わらずかなりの重量だ。


『クリム』

 オーアの声に促されるように、クリムが俺の手をとった。

「クリムもやるですよ!」

 彼女はそう言って、俺の手の甲に噛みついた。

「!?」


 身体の中に赤い光が入ってきたかと思うと、次の瞬間には剣の重みがなくなっていた。

「……なんだ?」

 思わず呟くと

『クリムの力が加わったことでお前の身体能力が向上したんだ』

『【原色】はもともと【金属色】を補完するための存在ですからね。姉さまの剣にはクリムのようなパワー系の【原色】を合わせるのがベストなんです』

 俺の中から2つの声が響いた。

「……て、2人も入って大丈夫なのか、俺の身体」

 思わずそうこぼすと

『何を言っている。これが本来あるべき姿だ』

『マーシャリングっていうですよ。まあ実際、2人のティンクチャーとチャージした人間なんていないでしょうけど』

 とかなんとか。

「……えらく栄誉あることなんだな」

 俺が呟くと、2人が頷く様子が手に取るように分かった。


「ほう、人間とチャージ、か。それはそれで興味深いが、そんな付け焼刃で私に勝てると?」

 ネイチャーは余裕をかましていた。

 確かに、俺とチャージしたからといって状況が好転したとは言いがたい。

 むしろ、俺がやられたら一気に終わり、という事態にもなりうるのだ。

『ともかく斬れ。少しでも刃が奴に当たればそれでいい』

 オーアは言う。


 そんな間にネイチャーが宙に浮いたままブーメランのようなものを幾つも投げつけてきた。

「って降りてこねえぞあいつ!?」

 俺は馬鹿みたいに逃げ回る。

『降りてこないなら落とせ!』

「どうやって!?」

 適当な木の陰に身を隠す。

『クリムの火の力を使うです! イメージすれば出来るはずです!』

 クリムが言った。

「いや、火って! こんなとこで使ったらそれこそ山火事みたいになっちまうぞ!?」

『そんなことに気を使っている場合か!?』

 そうこうしていると、俺が隠れていた木がスパッと切断されて横に倒れた。

「うわあ!?」

 慌てて飛び退く。


「滑稽だな! もっと適性のある人間を選べばよかったものを……」

 相変わらずお高いところからネイチャーの声が降ってくる。

「くっそ、偉そうに!」

 見上げれば、ネイチャーは逃げ回るこちらを馬鹿にしたようにぷかぷかと宙に浮いている。

 あたりは背の高い木で囲われていて……


「!」

 ――ひらめいた。


「おいクリム、お前の力、確か『熱』と『破壊』とか言ってたよな」

 確認を取る。

『そうです、火力による『熱』、物理的な力による『破壊』です』

「勿論両方一気にもいけるよな?」

『当たり前です!』

 オーアが続けた。

『イメージを持って剣を振れ。原色の力が発動するはずだ』


 俺はその言葉に従って、剣を振る。


 イメージするのは野球のスイング。

 打ち上げるのは『熱』と『破壊』の力。


 次の瞬間、剣から鋭い赤い光が放たれた。

「!?」

 ネイチャーは俊敏な動きでそれをかわした。

『外してるですよ! 次行くです次!』

 クリムが急かす。

「分かってるよ!」

 もう数発、同じ要領でスイングし続ける。


「ハハハッ! 無駄無駄! そんな速さじゃ当たらないぞ!?」

 ネイチャーは軽々とそれをかわしていく。

 が、

「よし来た!」

 俺が叫んだと同時に、複数の木が火を噴きながら倒れ始めた。

 ネイチャーがかわした力の玉が、周辺の木に当たっていたのだ。

「な!?」

 下ばかり見ていたネイチャーはそれに気付かなかったらしく、上から折り重なるようにして燃え落ちてくる木々に押されるように下へ落ちてきた。

「――――ッ!?」

 ネイチャーは叫び声すら上げぬまま地面に落下。

 その上に無惨にも大量の木が重なっていく。


『サツキ、走れ!』

 言われたとおり走り寄る。

 あれぐらいでくたばるような奴ではないはずだ。


 案の定、木の隙間から黒い手が飛び出した。

『うええ、ゾンビです! とっとと斬るです!』

 クリムの意見に賛成だ。


「絶滅しろォッ!!」


 いつぞや、オーアがネイチャー相手に叫んでいた言葉を口にしながら、俺は頭を出したネイチャーに剣を突き立てた。




 刺した後は、いつもと同じだった。

 ネイチャーは光の糸に絡めとられるようにして光の玉になり、どこかへ飛んでいった。


 ……まったく、どこのどいつがシェルブレイクしたのかは知らないが、厄介なもんになってくれたもんだ。


 俺が一息つくと、チャージ状態が解けた。

 途端、

「……っておい!?」

 オーアが崩れるようにこちらに倒れてきた。

 慌てて支える。

「姉さま!」

 クリムが悲鳴に近い声を上げた。

 が

「……すまん。ちょっと、休ませてくれ」

 彼女はそう言うと、そのまま穏やかに寝息を立て始めた。

「いきなりこんなとこで寝るか普通!?」

 俺が思わず叫ぶと、後ろから思い切り頭をはたかれた。

「って!? 何すんだお前!」

 もちろんはたいたのはクリムで

「クリムたちを守るために無理に力を使ったせいです! 黙って寝かせるです!」

 真剣な顔でそう叫んだ。

「…………悪い」

 そういや俺の部屋が襲われたときも肩で息してたのに、あの後もクリムをかばってたみたいだったし。

 服にも血が滲んだままだ。

「怪我してるみたいだけど……」

 どうすればいい、と目で訴えると

「ティンクチャーの場合自然治癒力が人間より強いですから、時間が経てば治ると思いますけど……」

 そう言いつつ、クリムは不安げだった。

「自信なさげだな」

 俺が促すように尋ねると、クリムは俯いて

「……姉さま、そもそも身体が本調子じゃないんです。だから自然治癒力もどこまで働くか、正直分からないです」

 そう告白した。


「……そういう、こと、か」

 五十嵐の話を聞いてから、なんとなく想像は出来たはずだった。

 本来【金属色】は人間の力など借りなくてもネイチャーと渡り合えるはずなのに、オーアの奴が下等ネイチャーとすらまともに戦えないのには何か理由があるんだろう、と。

 けど、普段のあいつは全くけろりとしてやがるから、そんな印象は持てなかったのだ。


「……もしかして、相当悪いのか?」

 俺の問いに、クリムは答えなかった。

 答えない、ということ自体が答えなのだろう。


「…………」

 ここで考え込んでも仕方がない。

 とりあえず、母さんが帰ってくるまでにこいつを家まで運ばないと。

 だが。

「……ここの火、消しとかないとまずいよな……」

 思ったよりも火は広がっていないが、派手に倒した木にはまだ火が残っている。

 しかし

「心配ないですよ。もともとクリムの力で放った火ですから、目的を果たせば勝手に消えるはずです」

 クリムが言った。

「……へえ、便利だな」

 俺は素直な感想を口にしてから、気合を入れてオーアを負ぶった。

 が、途端に少し足がふらつく。

 転ぶまいと歯を食いしばった。

「……サツキ、そんなので姉さまを担いで家まで帰れるですか?」

 クリムの言葉は一見嫌味に聞こえるのだが、実際、本当に心配しているらしかった。

 正直、俺もちょっと自信がない。

 けど。

「……気合で帰ってやるよ」

 踏ん張りつつ、足を進める。


 ……気合なんて言葉使ったの、何年ぶりだろうな。


ほぼ序盤が終了です。長かった。

ちょっと今後はペースダウンの投稿になるかもしれませんが、出来ればテンポよく出していければと思っています。


いつも読んでくださっている方々、ありがとうございます。

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