第6章: 自らの影
翔太は目の前に浮かび上がった自分の姿を見つめた。まるで自分が水面から現れたかのように、何の前触れもなく、その姿は現れた。そして、彼はその影に引き寄せられるように感じた。水面の彼は、まるで翔太の内面を映し出すかのように、怒りと怨念が込められた目を持っていた。
「これが、私か？」翔太は息を呑み、反射的に一歩後ずさった。しかし、その自分は動くことなく、静かに翔太を見つめていた。その目には、何かしらの深い感情が宿っているように見えた。
突然、翔太の胸の中で何かが弾けた。彼は急に心が重くなり、頭がぼんやりとした。何かが解き放たれた感覚、しかしそれと同時に、深い恐怖と疑念が彼を襲った。水面に浮かぶ自分の姿は、確かに翔太の顔をしていたが、その表情はどこか異常だった。まるで彼自身の心の中にある暗い部分が顕現したかのように、顔の表情は不安定で歪んでいた。
その瞬間、翔太は自分の過去を思い出した。川の呪いを解くために行動を起こしていたが、何か根本的な部分で彼自身が呪いの一部であることに気づき始めた。彼が村を訪れた理由、川に引き寄せられるように感じたこと、すべてがこの瞬間に繋がった。
「お前は、どうしてそんなに苦しんでいる？」翔太は自分に問いかけるように呟いた。
水面の翔太が口を開いた。その声は、まるで深い水の底から響いてくるかのようだった。「お前も、私と同じだろう？過去の罪を背負い、逃げられない。お前も、私のように呪いを受け入れなければならない。」
翔太はその言葉に、全身が震えるのを感じた。まさか、彼の中にこんなにも深い闇が存在していたとは…。過去に向き合い、解放しようとしていたが、彼自身がその呪いを引き寄せていたのかもしれない。
突然、彼の足元から冷たい手が伸びてきた。翔太は身をよじり、必死にその手を振り払おうとしたが、手はどんどん強く、冷たくなり、翔太を引き寄せようとした。水面が再び波立ち、翔太の体がその引力に引き寄せられ、足元が滑るように感じた。
「いや、これは…」翔太は驚きと恐怖に震えながら叫んだ。「違う、これは僕じゃない！」
水面に現れる自分の姿は、翔太をさらに引き込もうとした。まるで翔太の過去や恐れが、彼を再び川に沈めようとするかのようだった。翔太は必死にその引力に抗おうとしたが、次第に自分がその水に引き込まれていくような感覚を覚えた。
その時、突然、水面の中から一つの光が現れた。それはまるで小さな希望のように、淡い光を放って翔太を包み込んだ。その光に触れると、翔太の恐怖が一瞬にして和らぎ、全身が温かく包まれた。
「解き放つのは、私じゃない。」翔太はその光を握りしめながら、強く思った。「呪いを解くのは、私だ。」
水面から現れる影は、翔太に語りかけるように、もう一度呟いた。「お前が解放されることで、私も自由になれる。それが…最後の儀式だ。」
翔太はその言葉を胸に刻み、静かに水面に向かって手を伸ばした。水の中から、その手が差し伸べられるのを感じながら、翔太は心の中で決意を固めた。過去の自分を解き放つためには、この呪いを断ち切ることしかない。
その瞬間、翔太は自らの意志で水面に手を触れた。
