第5章: 水底の影
翔太は心の中で、これから進むべき道を決意していた。亡霊たちが告げた「忘れられた池」に隠された何か、それを見つけ出し、呪いを解くためには何が待ち受けているのか、考えれば考えるほど恐怖が募るが、それでも進まなければならない。
「もう後戻りはできない。」翔太は心に言い聞かせ、川の流れを目の前にして深呼吸をした。月明かりの下で、川の水面は静かに輝いている。だが、その静けさが逆に不安を呼び起こすようだった。川は、ただの自然の流れではなく、何かを隠している。翔太はその水に何度も引き寄せられるような感覚を覚え、深い息をついた。
川の流れを追いながら、翔太は山を越えて進んでいった。途中、村から離れ、次第に人の気配もなくなり、ただ広がる自然の中に身を置くことになった。冷たい風が吹き、翔太の背筋を撫でるように通り過ぎた。
やがて、**「忘れられた池」**にたどり着いた。池は村からはかなり離れた場所にあり、まるで人々の記憶から消されているような、ひっそりとした場所にあった。周囲は鬱蒼とした木々に囲まれ、池の水面はまるで鏡のように静かに光を反射していた。だが、その静けさが逆に不安を呼び起こす。
翔太は池の前に立ち、深く息をついた。その水面に目を落とすと、思わず足元がすくむような感覚を覚えた。池の水は澄んでいるように見えるが、その底に何かが沈んでいる気配を感じた。それが、川の呪いの源だと感じた。
翔太は慎重に池に近づき、静かに水面を覗き込んだ。すると、水中に何かがゆっくりと動いているのが見えた。最初は魚かと思ったが、その形は人の手のようにも見えた。突然、池の水面が大きく波打ち、翔太は後ずさりした。
その瞬間、水面が割れ、何かが池の中から浮かび上がった。それは、ぼやけた影のように見え、徐々に人の形が浮かび上がる。それは死者の姿だった。
翔太はその場で立ち尽くした。水面から現れたのは、あの夢で見た顔の持ち主、そして川で命を落とした村人たちの霊たちだった。彼らは一斉に翔太を見つめ、その目には無念と怒りが渦巻いていた。
「お前がここまで来たということは、覚悟ができているということだろう。」死者たちの声が、まるで水の中から直接響いてくるかのように、翔太の耳に届いた。「だが、これはお前一人の力では解けない。」
翔太は恐怖と戦いながらも、必死に声を上げた。「僕は、あなたたちの怨念を解放するために来た。これ以上、村に犠牲者を出したくない。」
「解放?」死者の一人が嘲笑するように言った。「お前には、それを成し遂げる力があると思っているのか?」
その言葉に翔太は心の中で反発を覚えた。しかし、同時にその言葉が不安を煽った。彼は本当にこの呪いを解くことができるのだろうか?
突然、水面が激しく波立ち、池の底から何かが浮かび上がる。翔太はその光景に恐怖を覚えながらも、その「何か」が呪いの源であることを感じた。それは、川の水面に現れた顔と同じ形をしていた。死者たちの怨念が凝縮されたもの、つまり呪いの元凶だった。
翔太はその「何か」を見つめ、決意を新たにした。「これを解放すれば、全てが終わるんだ。」翔太はその目を見開き、深呼吸をした。
そして、翔太は池の中に足を踏み入れた。その瞬間、池の水面が一気に揺れ、翔太は水に呑み込まれそうになった。しかし、彼は必死に踏ん張り、池の底に沈んだ「何か」をつかみ取ろうとした。
「これで終わりだ!」翔太はその「何か」を引き上げ、目の前で激しく波立つ水面に投げ込んだ。
その瞬間、すべてが静かになった。池の水面は元の静けさを取り戻し、翔太は深い息をついた。何かが解放されたような感覚が体中を駆け巡る。翔太は、ようやく呪いが解けたのだと感じた。
だが、池の水面が再び波立つと、そこから浮かび上がるのは、翔太自身の姿だった。