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水の亡霊  作者: マルコ
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第3章: 川の底に眠るもの

翔太は、あの顔が夢の中で見たものと同じだということに気づいた。あの水面に浮かんだ死者の顔は、ただの幻ではなく、川に沈んだ者たちの魂の一部が彼に訴えかけていたのだ。


その夜、翔太は眠れなかった。目を閉じるたびに、あの顔が思い浮かぶ。死者の目が、無言で彼を見つめ続ける。どんなに目を開けて現実を見つめても、その目の奥に潜む深い怨念と無念さが消えない。翔太は次第に、この呪いを解くために自らの命をかける覚悟を決めつつあった。


翌日、翔太は村の長老、藤沢爺の元を訪れた。藤沢爺は村の歴史と伝承に詳しい人物で、翔太が最初に出会ったときも川にまつわる話をしていた人物だ。翔太は爺に、これまでの調査結果と、自らが体験した恐怖の話をした。


「川に浮かんだ顔、あの水面から見えた手…。これって、まさか本当に呪いがかかっているんでしょうか?」翔太は爺に尋ねる。


藤沢爺は静かに息をつき、翔太をじっと見つめた。「あの川は、単なる水の流れじゃない。あの水面には、過去の罪が凝縮されているんだ。川で命を落とした者たちの無念は、流れる水に溶け込み、今でもその怒りを村に向けている。」


翔太はその言葉を深く噛み締めながら続けた。「呪いを解くためには、どうすればいいんでしょう?」


藤沢爺は少し考え込むように目を閉じ、やがて言った。「解く方法は二つある。一つは、川に沈んだ者たちの罪を償うことだ。しかし、それは簡単なことではない。彼らが抱える怒りと悲しみを解放するためには、川に流された者たちの真実を知り、受け入れなければならない。」


翔太はさらに深く質問を続けた。「もう一つの方法は?」


「もう一つの方法は…」爺は言葉を飲み込んでから静かに続けた。「川の底に眠る「何か」を封じ込めることだ。それを行うためには、川の最も深い場所にある「忘れられた池」に行かなければならない。」


翔太はその言葉に驚き、爺の目を見つめた。「忘れられた池?それはどこにありますか?」


藤沢爺はじっと翔太の目を見返し、深刻な表情を浮かべた。「あの池は、村人たちの記憶から消されている場所だ。誰もその存在を知りたがらない。だが、そこにこそ呪いの源が眠っている。そこに行き、封じ込められた何かを解放すれば、呪いが解けるかもしれない。」


翔太は心の中でその言葉を繰り返しながら、決意を固めた。この呪いを解くためには、何が待ち受けていようと、もう一歩踏み出さなければならないと感じていた。


数日後、翔太は藤沢爺の指示を受け、忘れられた池を探しに行くことに決めた。その池は、村の中心からは離れた場所にあり、山中にひっそりと隠れているという。翔太は川の流れに沿って歩き、険しい道を進んだ。水音が遠くから聞こえてきたが、次第にその音が強くなり、迫ってくるような感覚を覚えた。


「ここが…」翔太は、山を越えて到着した場所に立ち止まった。目の前に広がるのは、静かな池だった。周囲は静寂に包まれ、ただ池の水面がゆっくりと揺れているだけだ。だが、その水面の向こうに、何かが眠っている気配を感じた。


翔太はその池に近づき、じっと水面を見つめた。何かがそこに潜んでいる。確かに、深い場所で誰かが彼を見ているような気がした。


突然、冷たい風が翔太の背を撫で、池の水面が激しく波立った。何かが目の前で蠢き、翔太は思わず一歩後退した。その瞬間、池の中から一つの手が現れ、翔太を引き寄せようとした。翔太はその手を振り払おうとしたが、その力は強く、まるで彼を池に引き込むように迫ってきた。


「ダメだ!」翔太は必死に抵抗し、足元を滑らせながら池から離れようとした。だが、その手の力がますます強くなり、翔太はその場に倒れ込みそうになった。


そのとき、突然水面から異様な声が響いた。それは、何百年も眠っていた亡霊たちの声だった。「お前も、呪いを受け入れろ…」


翔太はその声を耳にし、決してその呪いに屈することはないと心に誓った。彼は再び立ち上がり、池に向かって叫んだ。「呪いを解き放つ!お前たちを、解放してやる!」


その瞬間、池の水面が激しく波立ち、暗闇の中から何かが浮かび上がろうとした。翔太は息を呑みながら、呪いの源に立ち向かう決意を固める。

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