第10章: 流れゆく命
翔太は川の流れに沿って歩き続けていた。昼も夜も、川の流れは変わらず静かに続いていたが、その水面を見つめるたびに、彼は過去と向き合わなければならないことを感じていた。川は単なる水の流れではなく、村の記憶を、過去の悲しみと怒りを抱え込んでいる存在だった。その流れを清めることで、呪いが解かれると信じて、翔太は自らに課せられた使命を果たす覚悟を固めていた。
「これが最後だ。」翔太は小さく呟きながら、川に手を浸けた。冷たい水が彼の手を包み込むように流れ、彼の体にまでその冷気が伝わる。川の底に沈んだ記憶、そこに封じ込められた怨念、すべてを浄化しなければならない。それが、翔太が背負うべき運命だった。
川の上流に向かうと、次第に周囲の景色が変わり、茂みが生い茂る場所へと入っていった。川の流れが少しずつ早くなり、音も大きくなる。それに合わせて、翔太の胸の中に圧迫感が募るようだった。何かが近づいてきている、その感覚が彼を急き立てた。
「ここだ。」翔太はつぶやき、立ち止まった。
目の前に広がっていたのは、古びた石造りの橋だった。何年も放置されていたようなその橋は、時折、川の水に浸かりながらも、しっかりと立っていた。その橋は、村と川を繋ぐ重要な場所であり、過去の儀式が行われた場所でもあった。この橋が、川と村を繋ぐ「記憶の地点」であり、呪いが始まり、そして解かれるべき場所だと翔太は感じていた。
翔太はゆっくりと橋を渡り始めた。その橋の上を歩くたびに、川の水面が揺れ、何かが反応しているかのように感じた。水面には、過去に失われた命が浮かび上がってくるような幻影が映り込んでいた。翔太はそれに気づきながらも、ただ前へ進むことを選んだ。
橋の中央に差し掛かったとき、突然、川の水が渦を巻き始めた。その渦はどんどん大きくなり、翔太を中心にして回転していく。翔太は足元が不安定になるのを感じ、足を踏みしめながらその場に立ち続けた。水面が急激に荒れ、まるで何かがその中から現れようとしているかのようだった。
「来るぞ…」翔太は心の中でその言葉を繰り返し、息を呑んだ。
その瞬間、川の中から巨大な影が現れ、翔太に向かって急速に迫ってきた。それは人の形をした水の塊で、まるで川そのものが命を持っているかのように動いていた。翔太はその影に立ち向かうため、手を水に浸し、呪文の言葉を唱え始めた。
「川よ、過去の全てを解き放て!」「今、すべてを浄化する!」
翔太の言葉が響くと、突如として水面が弾けるように広がり、巨大な波が周囲に押し寄せた。その波が翔太を包み込み、彼は一瞬、視界を失った。
だが、すぐにその波は引き、周囲は再び静寂に包まれた。翔太は肩で息をしながら、立ち上がった。川の水面は再び静まり、何もかもが元に戻ったように見えた。だが、翔太の心の中では、何かが変わったことを感じ取っていた。
そのとき、川の中から小さな光が浮かび上がり、翔太の前に現れた。それは、かつて川に命を落とした人々の魂が成仏し、静かに解放される瞬間だった。光は翔太の周囲を包み、やがて川の中に消えていった。
翔太はその光を見つめ、静かに目を閉じた。彼の心は穏やかで、何か重荷が降りたような感覚に包まれていた。川の呪いは、ようやく完全に解放されたのだ。




