第1章: 死者の声
翌日、翔太は村の広場で古老の一人、加藤爺と出会った。村のことに詳しい加藤爺は、村人たちの間でも語り継がれてきた伝説や、川に関する不思議な出来事について知っている人物だ。
「おや、真田君か。」加藤爺は驚いた様子で翔太に近づき、にやりと笑った。「あんた、川に何か感じるか?」
翔太は少し戸惑いながらも、正直な気持ちを口にした。「川のこと、少し気になるんです。村の人々が言う“水の亡霊”って、どういうことなんでしょう?」
加藤爺はしばらく沈黙した後、重い口を開いた。「あんたが言っているのは、あの川の話か。あれは、簡単に言ってしまえば呪いだ。あの川には、過去に命を落とした者たちの霊が眠っていると言われている。」爺は周囲を気にしながら、さらに声をひそめて続けた。「だが、実際に見た者は少ない。しかし、あの川の水が流れる音は、人間の耳には聞こえないものを伝えると言われている。流れの音、波の音…それは時折、亡霊たちの声でもあるんだ。」
翔太はその言葉に耳を傾け、心の中で疑念が深まるのを感じた。だが、爺の目の奥にある真剣な表情を見て、無視できなくなった。どうしても、川の呪いについてもっと知りたかった。
「それで、その呪いを解く方法は?」翔太が尋ねると、爺は少しの間黙って考え込んだ後、静かに言った。
「解く方法か…それはな、あの川に沈んだ者たちの無念を晴らすことだ。だが、その手段を知っている者はもういない。もはや、この村に呪いを解く力はない。」
翔太はその言葉に何か深い意味を感じた。呪いを解く方法がわからないとなると、ますます恐怖が膨らんでいく。だが、どこかでこの呪いに立ち向かう方法があるはずだと信じていた。
その夜、翔太は再び川のほとりに立ち尽くしていた。月明かりが水面に反射し、川の流れが静かに輝いている。その光景は美しいが、翔太の胸には不安が募る一方だった。
突然、足元からひんやりとした冷気が伝わってきた。水辺が冷え込んでいるわけではないのに、翔太はなぜか全身に寒気を感じた。背後からかすかに聞こえる水の流れる音が、まるで誰かの囁きのように響く。
翔太は振り返ると、川の流れがさらに荒れ始め、波が高くなっていることに気づいた。まるで、水面が何かに反応しているかのようだった。次の瞬間、水面から何かが浮かび上がった。
それは、人の顔のように見えた。顔が水面に浮かび、まるで翔太を見つめているかのように目が合った。だが、その顔は死者のように青白く、目の周りは水で濡れていた。翔太は思わず後ずさり、目をこすったが、顔は依然として水面に浮かんでいた。
「これが、亡霊の姿か?」翔太は恐怖に震えながら、その異様な光景を見つめた。水面が再び静かになると、顔も消えていった。
その後、翔太は不安な気持ちを抱えたまま、自宅へと戻った。だが、心の中で確信していた。この川には何かがある。そして、亡霊が示す「水の声」を追い求めることが、呪いを解く唯一の方法であることを。
翔太は翌日、村の古い記録を探し始めた。村の図書館にある古い本や地元の新聞を片っ端から調べ、川の呪いについての手がかりを求めていた。やがて、翔太は一冊の古びた日記を見つける。その日記には、村の過去に関する不気味な記録が記されていた。
日記には、かつて川で起きた惨劇の詳細が書かれていた。それは、村の多くの人々が川に流され、命を落とした事件だった。そして、事件の真相に迫るために、翔太はますます深く川の秘密に引き寄せられていく。