一度きり
放課後はだいたい一人で遊ぶ事が多い。
その日も望は百円玉を何枚か入れたお財布を持って、近くにある駄菓子屋さんに出掛けるところだった。
望のクラスメイトは殆どの子が習い事をしていて、遊べる日は周に数回在るか無いかだったのだ。
遊んでばかりだと思われる毎日を過ごしてはいるが、望には夢がある。
アニメの脚本を書く仕事に就くという夢だ。
両親には話してあるし、許しをも得ている。
アニメシナリオライター養成所の資料も手配されており、コンテストがある度作品を投稿しているのだ。
まだ一度も入賞した事は無いのだが、落選すればするほどに情熱は強くなる。
(今回も落とされたけど、次こそ前より良い作品を書いてやる!)
自身が書いた作品がアニメになる日を思い描き、望はいつもの駄菓子屋『ワクセイ』に辿り着いた。
「こんちは。
今日も来ました」
『ワクセイ』の入り口を抜けると、いつもの顔馴染みである駄菓子メイトと、店主の丞馬さんがいる。
「いらっしゃい、ノンちゃん。
ノンちゃんの好きな金平糖、沢山入荷してるよ」
「ありがとごさんす。
シルバードーナッツもある?」
「箱買い出来るくらいあるよ」
丞馬さんの駄菓子の入荷技はたいしたもの。
人気の駄菓子が品切になる事は今までに無いのだ。
丞馬さんが大きな箱を抱いて、望の側へ歩いてくる。
くじ引きの箱だ。
「丞馬さん、それって預けくじだね」
「そうよ、ノンちゃん引いてみる?
今日のくじ引きの星、ノンちゃんに廻ってるよ」
(出た、丞馬さんの星お告げだ‼)
星お告げとは、子供たちの間で云われているくじ引きの幸運具合。
丞馬さんが星の廻りを高評価した時には、預けくじ引きは必ず当たるのだ。
預けくじの呼び名の由来は、引いたくじを丞馬さんが何処か別の場所に預けて、後にそのくじを引いた人へ渡す事から来ている。
「引いてみなよ、俺の星が良い廻りをしてる時くじを引いたら念願の金賞獲れたんだぜ!」
嬉しそうに話すのは、近所に住む待緒。
通り名マオは玩具のアイディアを考えるのが好きで、定期的に玩具コンクールに出品している。
くじの星お告げが良く、マオはご機嫌だ。
預けくじが当たるのは人生のうち一度きり。
一度きりだが、叶えた望は一生連なり幸福になれるのだ。
「ノンお姉ちゃん、預けくじ引くの?」
「丞馬さんが星お告げ花丸宣言したなら、当たるよね!」
「ノンちゃん、アニメのシナリオライターの夢が叶うかもよ」
いつの間にか皆が望と丞馬さんをグルリと囲んでいるではないか。
「引くよ!
丞馬さんの星お告げなら、絶対だもんね!
未来を廻したい‼」
「ノンちゃんカッケエ!」
「がんばれー!」
「未来のアニメシナリオライター‼」
皆がエールを送ると、丞馬さんもいたずらっぽい魔女みたいな笑顔を向けてくる。
魔女が愛らしく云った。
「ノンちゃんの未来、ノンちゃんの手で引いてみて」
「引くよう!
うおりゃあああ……!」
望は預けくじを引いた。彼女が掴んだ一枚の未来は、後日分かる。






