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聖剣ソルディバインは選ばれしものが使った時その威力を何倍にも高める効果があった。ルキウスは常に最前線でその聖剣を振るい悪魔の軍と戦い指揮官を大勢討ち取り、エルフたちは悪魔の魔法を相殺し、エルシアの大魔法が敵陣を吹き飛ばした。戦士の持つ武器もみな頑丈で切れ味が良かった。またルキウスの軍はほとんどが騎乗していたため、その行軍速度が悪魔の軍のそれとは桁違いであった。それらによってルキウスの軍は連戦連勝を重ねた。そうして戦場から戦場へと渡っていき、その地で戦っていた戦士団を吸収してルキウスの軍は巨大になっていった。
邪神領には元々その地に住んでいた人と悪魔の混血となった、魔族が暮らしていた。魔族はみな目が赤く、魔力量が多かった。戦士たちは魔族も邪神の手先であるとして略奪し鏖殺していた。
ある夜、ルキウスは夢で「魔族を保護し、人やエルフ、ドワーフ、ケンタウロスと同じく神の民として扱え」という神託を受けた。その日からルキウスの軍では無抵抗の魔族への略奪や殺しが禁じられた。これを破ったものには厳罰が下された。ルキウスは魔族と人の融和を進める為、魔族の女ルナティアを妻にした。ルキウスが故郷の村を出て5年が経っていた。
それから約1年後ルキウスの軍はほとんどの悪魔の軍団を打ち倒し、ついに邪神トレムスの元に辿り着いた。
ルキウスたちと邪神の戦いが始まった。まずエルシアが最大火力の魔法を邪神に放ったが邪神も同程度の魔法でこれを打ち消した。しばらくエルシアと邪神の魔法の応酬が続いたが一向に決着がつかない。痺れを切らしたルキウスは聖剣ソルディバインを手に邪神に向かって駆け出した。エルシアはルキウスを巻き込まないように魔法を止めた。すると邪神もルキウスの方へ走り出す。互いに間合いに入るか入らぬかの刹那、一瞬早くルキウスが剣を振る。邪神はそれを左腕で受け止めた。聖剣ソルディバインは邪神の左腕に半ば食い込んで止まった。すかさず邪神は右腕から魔力弾を発射、ルキウスに直撃する。ギリギリ剣を離さなかったルキウスは剣ごと後方まで吹き飛ばされた。邪神がこれを追おうとした時、エルシアの魔法が邪神に襲いかかる。邪神は魔力障壁を張って防いだが切れかけの左腕はこの衝撃でちぎれ飛んだ。ルキウスはその機を逃さず、邪神の左側に回り込み、聖剣ソルディバインを横薙ぎに一閃。邪神を両断した。邪神の魂は地を離れ天に逃げ帰って行った。しかし、邪神は死の間際、自らの魔力を世界中に飛ばし穴を開けて迷宮を作った。迷宮の底からは魔獣が大量に発生し、そのまま迷宮に巣くった。
ついに数100年に及ぶ人と邪神の戦いが終結した。ルキウスは神の山に凱旋し、そこで国を興した。
その国は「太陽の使者」という意味のソレイオス王国と名付けられ、ルキウスもその日よりルキウス・ソレイオスと名乗った。そしてその年をルクス暦一年と定めた。悪魔との戦争で活躍したグファイルは将軍に任命された。軍は迷宮から溢れてくる魔獣を狩った。
またルキウスはソレイオス法3箇条を定めた。
一つ、ソレイオス王国では人族、エルフ、ドワーフ、ケンタウロス、魔族は神の民として平等である。これを乱すものは奴隷として全ての神の民の下に置かれる。
一つ、神の民を殺した神の民は奴隷の身分に落とされる。
一つ、奴隷が神の民を殺した場合その奴隷は火炙りの刑に処される。
この法によってソレイオス王国では魔族に対する差別はなくなり、全ての人種はともに手を取りあっていた。
しかしルクス暦38年にルキウスが崩御すると、大臣らと将軍グファイルが内戦を始めた。大臣達は魔族は元々邪神に降り、悪魔と交わった穢らわしき血だと主張した。多くの人がこれに賛同した。たった40年弱では全ての人の意識は変わらなかったのだ。
グファイルはルキウスの遺志を継ぎ人種平等を訴え、ルキウスの息子エクリプスを擁立して自らの正当性を訴えようとした。しかし大臣達も別のルキウスの息子を新王としてすでに即位させていた。エクリプスも自分が新たに王として立っても完全に二つに分かれてしまった王国をもとに戻すことは不可能だと感じていた。
それにエクリプスにとっては内戦の勝敗より内戦によって軍が対処しきれなくなっていた迷宮から溢れる魔獣の方が気がかりであった。エクリプスは国中に「魔獣を討伐し、その証拠となる部位を持ってきたものには報酬を渡すという」おふれを出した。その報酬はグファイル軍の財布から出ていたのでグファイルとエクリプスは度々反発した。
ある時、報酬欲しさに迷宮にまで入り込んで魔獣を狩っていた戦士が魔獣の体内から魔力が結晶化した魔石を見つけ、これをエクリプスに献上した。魔石からは魔力が溢れ出していてそれを吸収することができた。これは非常に価値のある発見であった。
エクリプスはグファイルの軍を出て新たな組織ギルドを設立した。ギルドは魔石や魔獣の革などをその価値に応じた値段で買い取りそれらを独占的に販売して利益を上げた。
グファイルはエクリプスという大義名分を失い戦いに負けた。ギルドにはグファイル軍の敗残兵や迫害を受けだした魔族が多く所属した。ギルド内ではソレイオス法にならって魔族も平等に扱われた。
天使エルシアは魔族に対する迫害を始めたソレイオス王国に見切りをつけ、エルフ族を連れて王国を出た。ドワーフやケンタウロスも同じように王国を出てそれぞれの国を建てた。ソレイオス王国は直に瓦解し滅びた。