閑話 メイドの休暇
「メアリーさん、こんにちは」
「こんにちは、アヤカ様、ミラ様」
綺麗な長い黒髪に、人を惹きつける天真爛漫な性格。
ハルヤ様と共に召喚された召喚者のお一人で、ハルヤ様の御学友のアヤカ様が私、メアリー・カンロナに声をかけてきました。
側にはミラ・フーラルク様が護衛騎士として付いています。
帯剣はしていますが、騎士の格好ではなく、私服のため一瞬誰だか分かりませんでした。
「あの、一緒に行きませんか?初めてでよく分かんなくて」
「僕からも頼む。街とか苦手でさ、迷って疲れた」
ミラ様は疲れたことが分かるように、手を膝に乗せて、息を荒くします。
それで護衛が務まるのでしょうか‥‥いいえ、第一騎士団の方ですから、勝手が違うのでしょう。
私が意見していいことではないですね。
「分かりました。ご希望がありましたら、そちらに向かいますが、どうされますか?」
「ん~、お腹すいたし、まずはご飯食べたいです」
「承知しました。では、‥‥クラーリッシュはどうでしょうか」
アヤカ様に満足していただける場所を思い描き、一つのお店に絞りました。
「くらーりっしゅ?どんな食べ物なんですか?」
「この国の伝統的な料理です。とは言っても平民の間ですので、嫌でしたら別のところへ」
「いや、そこが良いです!いいよね、ミラ」
「問題なし」
先ほどまで初対面だったでしょうに、お二人は長年の知り合いのように親しげに話しています。
ミラ様もアヤカ様もお人柄が良く似ていらっしゃいますから、気が合うのでしょう。
「では、参りましょうか」
お二人を合意も得て私たちはこの国の伝統的、とは言っても平民の中でのですが、とにかクラーリッシュが食べられるお店に案内をし始めました。
「クラーリッシュってどんな料理なんですか?」
「穀物と色々な野菜やお肉を炒めた物に上から卵を乗せた料理です」
「あぁ~!オムライスみたいな感じか」
「おむらいす‥‥‥ですか?」
クラーリッシュの説明をすると聞き覚えのない食べ物でしょうか、その名前をアヤカ様は叫びました。
「はい。お米とケチャップと、お肉とかを炒めたケチャップライスの上にふわふわの卵を乗せた食べ物です」
「本当に聞いている限りではクラーリッシュに凄く似ているようですね」
「そうなんですよ!楽しみだなぁ」
アヤカさまの言うおむらいすが具体的にどんなもので私が今想像しているイメージと異なっていないという保証は説明の中に出てきた、おこめやけちゃぷの正体が分からないので正確とは言えませんが、クラーリッシュに似ていると言うことだけわかりました。
「ねぇ、メアリー」
「どうされましたか、ミラ様」
会話も尽き、無言のままクラーリッシュを食べるためにお店に歩いていると後方を歩いていた護衛騎士のミラ様が声をかけて来ました。
「今日は休みなの?」
「はい。陛下から暇をもらいましたので、街を散策していたのです」
「そうなんだ。じゃあ、邪魔しちゃったかな?」
「いいえ、構いませんよ」
ミラ様は申し訳なさそうに肩を落として私に聞いて来ました。
私としてもこれから皆様の部屋つきとなる者として、親しくさせていただけるのはとてもありがたいですし、もし‥‥もし、ハルヤ様の異世界での様子を聞くことができるのであれば、是非聞かせていただきたいです。
「じゃあ、三人で女子会しましょう!」
アヤカ様が唐突にそんなことをおっしゃいました。
「女子会‥‥ですか」
「楽しそうだね!」
乗り気のミラ様と女子会という言葉に戸惑う私、対照的な反応をする私たちを見ながらアヤカ様はにこにこと笑っています。
「メアリーさんって、女子会したことありますか?」
「女子会ですか‥‥そうですね、幼い頃に友人とお茶会をしたことはありますが‥‥」
「それって‥‥女子会って言うの‥‥?」
困惑しながらも幼い頃の記憶を辿りなんとか解答を出しました。
すると、次はアヤカ様が困惑した表情をしています。
何かおかしなことを言ったんでしょうか。
「アヤカ、メアリーの言うお茶会は言わば貴族のための女子会だ。貴族の恋愛事情や見目麗しい殿方のこと、巷で流れる噂などなど。国の情勢にまで入り込むこともあるんだ」
「国の情勢は話が壮大すぎるけれど、その他は普通の女の子と変わりはないんだね」
「えぇ。貴族の息女とはいえ、身分がなければただの女の子です」
お茶会事情を説明するミラ様にアヤカ様は感心したように言います。
「ということは、メアリーさんて貴族?」
「まぁ、そうですね。とはいっても実家は貧乏で兄妹も多く、家計や領地経営は火の車です。ですから、節約に節約を重ねて、実家では私たちも領民と同じように生活をしていました。私は家計の足しになればと思い、王宮に出仕しているんです」
「無神経な事聞いてすみません‥‥‥」
「いえ、大丈夫ですよ!私こそ同情を誘うような話をしていましました。すみません‥‥」
「あ、いえ!私こそすみません」
「私が話し出したことですし!」
「ぷっ!」
「「えっ?」」
私とアヤカ様が互いに謝り続けていると、ミラ様が顔を真っ赤にして吹き出し、いきなりの事に謝るのをやめてミラ様の方を見てしまいました。
「あ、ごめんごめん。押し問答しててなんか面白くて」
ミラ様の言葉に私とアヤカ様は互いに目を合わせて、今までの行動がなんだか面白くなって来ました。
「そうですね、お互いに謝っても仕方ありませんね」
「はい。どっちにも非があったということで」
「そういう事にしましょうか」
「良かった、良かった。さ、早くクラーリッシュのお店に行こ!」
私たちの会話を聞いて落ち着いたのを確認すると、ミラ様は張り切って先頭を歩き出しました。
しかし、ご自身がアヤカ様の護衛騎士だということを思い出されたのか、ゆっくりとアヤカ様のお隣に並ばれます。
「メアリーさん、さっきあなたの深い事情を聞いちゃったし、私にもなにか質問していいですよ」
「え?」
アヤカ様の突然の投げかけに私の頭では理解が追いつきません。
「えっ!良いの?」
「ミラはだめ」
「なんでぇ」
嬉々として目を輝かせるミラ様にアヤカ様は反論の余地も入らぬほどに素早く却下されました。
「お二人とも仲がよろしいんですね」
「そうですか?でも、波長が合うっていうのはあるかもしれないです」
私の言葉にお二人は顔を見合わせ、首を傾げ合うとアヤカ様がそう言いました。
「そうなんですね。羨ましい限りです」
私には波長が合う人っていうのがわかりません。
確かによく喋る職場の仲間はいますが、波長が合うというほどでもない気がします。
ですがら、凄く羨ましいのです。
そんな風に思っていると目的地であるクラーリッシュのお店のラフシーカに着きました。
私たちは一度話をやめて、お店の中に入店した。
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