戻ってきた!
目が覚めると、そこは見慣れた景色が広がっていた。
昔、兄様や姉様と遊んだや王都の景色そして、王城。
俺が今いるのもよく兄様と遊んだ小高い丘。
もう五年も前のことだけど、何も変わらず、
何も忘れていない。
あぁ、戻って来たんだな。
俺にとって今世での故郷に‥‥‥!
「なんなの、ここ。どこなのよ⁉︎」
中冨の甲高い声が響いて来た。
それに応じるように周りがザワザワして、収集がつかない状態になってしまった。
「そうだ!どこなんだよ。俺達教室にいたよな。なんでこんなことになってるんだ!」
「落ち着いてください、異世界の方々」
ザワザワとうるさく響く声を遮るように凛とした声が通った。
現れたのはスラっとして、顔の整った好青年だった。
歳的には俺達と同じくらいだろう。
にしても、どっかで見たことあるな。
魔力の感じ方にも覚えがあるし。
「おい、誰か来たぞ。あいつ何言ってるんだよ。ふざけてんのか!」
鳴宮がその声の主に苛ついた様子で言った。
どうにも、俺以外は誰も彼が言っている言葉が分からないようだった。
この世界に転生して既にこの世界の言語を喋ったり、書いていたり出来たから異世界から来た人はみんな分かるものだと思っていたが違うらしい。
鳴宮の声でさらにパニックになり、もう何が何だか分からない状態になっていた。
「落ち着いてください!はぁ、仕方ない精神魔法を使うしかないか」
彼はボソッというと詠唱を始めた。
やばい、精神魔法はなんの抵抗もない人にしたらどうなるか分からない。
辞めさせなければ!
でも、俺が彼と話せば余計にややこしくなるし、少し心配だけど念話をするしかないか。
念話は相手の魔力に干渉し、脳内を一時的に錯覚状態にする事で声が繋がっているようにする。
実際、錯覚状態と言っても会話は成立するし、危害を加えるなんて事出来ない。
出来て、言葉の暴力ぐらいだろう。
念話のスキルを持っていなくとも持っているものから干渉があった際、一時的で会話している人だけに限られるけど念話が成立する。
地球に行ってから魔法は使えなかったし、ざっと五年振りくらいかな?
失敗したらその時だ、精神魔法の被害リスクが大きすぎることを考えるとこっちの方が良いからな。
【あの、精神魔法はリスクが高すぎると思います。ここにいるのは魔法抵抗がない者ばかりです。だから、精神魔法はやめて下さい。皆んなへの説明は俺が上手くしますから】
念話に反応して彼は俺の気配を探している様子だった。
鋭い顔をして辺りを警戒している。
【何者だ。返答次第では対処も考える】
頭の中に彼の声が飛び込んできた。
その声はとても鋭く、確実に人を脅かす声色だった。
ヤバイな、相当怒ってるぞ。
ん~、念話なんだし、俺の正体バラしてもいいかな?
この世界の人なら俺のことを知っているだろうし、信じるかどうかは分からないけど話してみる価値はありそうだ。
何より、彼は信頼できる気がする。
なんとなくだけど。
【貴方が信じてくれるかどうかは分かりませんが、俺の名前はハルヤ・シーリス。この国の第二王子です】
言い終わり顔をそっと上げると彼は静かに涙を流していた。
えっ?なに、何がどうした?
えっと、なんか変なこと言った?
表情が急に変わりすぎて理解が追いつかないんだけど。
【お待ちしておりました、ハルヤ様。俺のこと覚えてらっしゃいますか?俺の名前はナーマ・リースリア。きっと会えると信じていました】
彼、ナーマ・リースリアは念話であるにも関わらず声を震わせていた。
ナーマ・リースリア?
あ!王国騎士団長の息子。
赤ちゃんの時からずっと一緒に育ってきた、幼馴染で親友だ。
懐かしいな、俺の事、覚えててくれるなんていい奴だ。
昔、ナーマに《一生、貴方の騎士としてこの身、この命をかけましょう》と言われた事がある。
あの時はビックリした、十歳にも満たない子供がこんなことを言い出したのだから。
俺は見た目は子供だが中身は無駄に生き、知識をつけすぎたただの男だからな。
というか、そもそもの疑問だけど、俺が言うのもなんだが簡単に信じすぎだろう。
【俺がいうのも何ですが、ナーマさん、よく俺の事信じましたね】
【ここにきた時から何だか懐かしい魔力を感じると思っていましたが貴方様と話して、名前を聞いて確信しました。貴方様が私がお仕えするべき方だと。それと、俺のことは昔のようにナーマと呼んでください】
ナーマは懐かしむように、語りかけるように言った。
そうか、だから魔力の感じ方に覚えがあったのか。
悲しいけど、王族の俺は家族以外に遊び相手と言える人がナーマしかいなかった。
他の人は俺の地位や父様に取り入るために利用するためとか色々な思惑が絡み合ってあの時は気落ちが悪かった。
前世の記憶があるから余計に。
それに引き換えナーマは本当の友と言えるくらい純粋に仲良くしてくれた。
【少し長話をし過ぎましたね。ハルヤ様、皆様への説明お願いいたします。王宮で陛下がお待ちになっておりますので】
ナーマのその言葉にハッとして、辺りを見回すと雫達はポカンとしていた。
仕方ないよな、さっきまで訳わかんない言語で喋っていたのに急に黙り込んだと思ったら涙流して泣いてるんだから。
「なぁ、悠弥。あの人どうしたと思う?」
皆んなのポカンとした顔を見ていると雫が話しかけてきた。
「さぁ?なんか悲しい事でもあったんじゃないのか」
「そ、そうだな。っていうか、お前もさっきから話しかけても反応しなかったけど大丈夫か?」
俺の顔を雫が心配そうに覗き込んだ。
「あぁ、大丈夫」
雫にそう答えながら俺は考えていた。
さて、どう説明したものか。
説明するとは言ったものの何も考えてないんだよな。
ほぼ、勢いで行っちゃった感じすごいし。
もうこの際だし、異世界に来ちゃったって事やんわり伝えるか。
その方が早いかも。
「あのさぁ‥‥」
「なぁ、ここってもしかして異世界ってやつじゃない?」
俺が言おうとしていると一緒に召喚された柳城華深が言った。
華深はクラスでは少し浮いた存在だ。
何を考えているのかよく分からないし人付き合いも得意そうには見えない。
華深の言葉にいた皆んなは驚きを隠せない様子だった。
「ねぇ、本当にここ異世界なの?柳城くん」
驚いた顔で先生が華深に聞き返した。
「だって、先生。そうだとしか考えられないじゃないですか、この状況」
「でも、そんな事、現実なわけ‥‥」
華深の言葉に混乱していたのは先生だけではなく周りも同じらしかった。
「た、確かにそうよね。きっとここ異世界なんだわ」
「俺達は選ばれし者達なんだよ、きっと!」
そう口々に中冨と鳴宮が言う。
自分達を納得させるものか、それとも自分が特別だと誇示したいのかこの二人が言うと少し分からない。
「なぁ、ともかく彼について行った方が良いんじゃないか。なんか良い人そうだし。服装とかもなんか騎士って感じするだろ」
中冨や鳴宮の言葉を利用してやんわりと王城へ行くためにナーマを指して言った。
「確かにな。信頼出来るかどうかは別として、この人は俺達を落ち着かせようとする素振りを何回か見せたり、仮にここが異世界だとしてこの格好からするにこの国の騎士だろうし。良い人なのは間違いないかもな」
雫が俺の言葉に考え込むように答えた。
「でも、それちょっと早計すぎない?」
雫にグサリと刺すように絢香が言った。
「いや、でもあの悠弥が言うんだぞ。大抵の人を信じてません、みたいな奴が」
俺を指差して雫が大真面目な表情で言う。
ひどい、コイツなんて事考えてんだよ。
俺、そんなやつに見えてたのか?
ツッコミたいけど雫、多分大真面目で言ってるからツッコミずらいし。はぁ~。
「そうだね。確かにあの悠弥くんが言うんだもんね、なんか信じられるかも」
絢香が頷きながら雫の言葉を肯定する。
二人の言葉に若干呆れながら皆んなを見ると、同感と言うように頷いていた。
「まとまったようですね。では、いきましょうか」
雫達がナーマこの言葉を分からないようにナーマも俺達が喋っている言語が分からないはずなのに、さも分かっているかのような雰囲気をだしテキパキと手で身振り手振りしながら指示をしている。
流石だな。
十五歳でこれなら将来は超出来る男に成長してるな。
その指示で皆んなが立ち上がりナーマについていこうことすると先生が俺達の前に立ってナーマを少し睨むような感じで見た。
「待って下さい!まだ、貴方のことを完全に信用したわけではありません。なので、その腰に差した剣を渡して下さい」
堂々した気迫でナーマを見つめ言う。
その先生に見つめられナーマは俺に助けを求めるようにチラチラとこっちを見て、俺が気付き頷くと頭の中に声が響いてきた。
【ハルヤ様、この女性はなにを言っているのですか、何か凄いこと言われてる感じはするのですが、恥ずかしながら言語分からず、申し訳ありません】
【良いよ、普通分からないし。で、まだ、信用出来ていないからナーマの腰の剣を渡して欲しいんだって】
「しかし‥‥」
俺の説明した先生の言葉に腰の剣に手を触れながら困っているようだった。
「何か困る事でもあるんですか?それでは絶対に信用出来ません」
「はぁ、分かりました。危険なものですので絶対に鞘を取らないでください」
先生の言葉をなんとなくで察したのか腰の剣を取ると注意を言いながら鞘から剣を抜き近くにあった木を切ると、音を立て倒れた。
それを見ていた俺達は目を丸くして見ており、それだけでこの剣の鋭さ、危険性が分かったようでナーマから受け取ると先生は国宝でも持つかのように大事そうに受け取った。
「あ、ありがとうございます」
「では、転移で向かいます」
当たり前のようにナーマが言う。
そう言うと地面が光り、魔法陣が現れた。
転移は距離で詠唱が決まっているが王城までの距離なら無詠唱でもいける。
は?あれ?俺、言わなかったっけ、ここにいる人は魔法耐性無いって!
「ちょ、まって」
あまりに慌てすぎてナーマには伝わらないことを忘れて日本語で話してしまった。
お陰でナーマには伝わらず、俺達は王城へと転移した。
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