表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生なの?召喚なの?  作者: 陽真
第二章
27/36

姉様

「それはそうだな。そうだ、メイファお婆さんに何か手土産でも買っていくか」

「それは良いですね。何を買っていきましょう?」

ナーマの問いに、メイファお婆さんがよく食べていた物がなんだったか、を頭の中から引っ張り出す。

「今でもスコーンは好きなのか?」

「はい。特にオランジュのスコーンが最近は好きみたいです」

俺がいた頃はスコーンが大好きだった。

ナーマの言う、オランジュはオレンジに似た果実で酸味が強く、甘いスコーンにはいいアクセントになると評判だ。


「確か、この近くにスコーンの専門店があったよな。まだあるか?」

「はい、営業しています。相変わらずお客さんが絶えなくて、次々に新作に出しているみたいです」

「そうか。じゃあ、そこで手土産を買おう」

メイファお婆さんへの手土産が決まり、早速買うために、スコーンの専門店であるシュクレに向かうことになった。

道中、目新しいものに興味を惹かれてしまったがなんとかシュクレについた。


「並んでますね」

「う~ん、この分だと今日中に買えるかどうかだな」

着いたのはいいのだがさすがは人気店なだけあって行別の長さが尋常ではない。

メイファお婆さんに手土産として買うつもりだったけど諦めるしかないか。

「ナーマ、別の店に行こう。間に合わん」

「そうですね。では別のところへいきましょうか」

「あ!ハルもがっ!」

「「ん?」」

シュクレを諦め、別のところへ向かおうとすると変な声が聞こえた。

声の主を探そうと辺りを見渡すと、路地裏から姉様と姉様付きの護衛であるスイラがいた。

スイラは俺たちと目が合うと、軽く礼をした。

手元で姉様の口を塞ぎながら‥‥‥。


その様子に一旦、ナーマと顔を見合わせ頷きあい、周りに気づかれないように、静かに姉様のところへ向かう。


姉様の元へ着くと、スイラがいち早くもう一度、深々と礼をとる。

やはり器用に姉様の口を腕で塞ぎながら。

「何をなさっているのですか?」

「こんにちは、お久しぶりですね。ハルヤ殿にナーマ殿」

俺の質問にスイラは若干声を張った声で、俺やナーマに挨拶をした。

その挨拶に俺やナーマは驚きを隠せないでいた。

内容ではなく、俺の敬称だ。


スイラはもちろん姉様の護衛騎士のため女性だ。

姉様が幼い頃はスイラとは別に成人し、実力も折り紙つきの女性騎士がついていた。

ちなみにその女性騎士というのが、スイラの母だったりする。


騎士といえば一般的に男性の方のイメージがあり、それに加えてまだ幼かったこともあり、スイラは度々、一部のひよっこ騎士たちから舐められることがあったらしい。

まぁ、いつも返り討ちにしていたけど。

ともかく、そんなこんなで女性だからと舐められることがないように騎士らしい態度を心掛けているため、基本的な敬称が〝殿〟になるのは必然だが、ナーマはお久しぶりというほどの期間は空いていない、というか毎日のように顔を合わせている気がするんだよな。


別に身分がどうのというつもりはないが、今まで俺の身分を知っている人からは〝殿下〟や〝様〟と言った敬称だった。

スイラも勿論、姉様の護衛騎士のため俺の身分を知っているから余計に驚いてしまう。


「申し訳ありませんが、便宜上、ハルヤ殿と呼ばせていただきます」

俺が戸惑っていることに流石に気が付いたさのか、顔を耳元に寄せ、小声でそう伝えてきた。

理由に納得して、同意をするように頷くとそこでやっぱに口を塞がれたままの姉様と目が合った。

「えっと、スイラ。この状況は一体どういうことですか?」

「見ての通りです。この方がお父様との約束を破りそうになったので、仕方なくお口を塞がせていただきました」

「はぁ‥‥?」

至極最もそうに言うスイラに姉様はジトーとした目で見つめる。

俺はと言うとそんな二人の言動に理解が追いつかない。


姉様がいくらブラコン気質があるとはいえ、兄様みたく暴走する人ではないと思っていたのにな。

父様との約束の内容の全容はしれないけど、俺の正体をバラすな的なことが含まれているのは容易に想像がつく。

けど、口を塞いでおく意味がわからない。

でもスイラと姉様は同年代で姉妹のように仲が良い。

姉妹のいなかった姉様にとっては、姉妹のようで、それはスイラも同じだ。

だからこそ騎士以上の関係性で姉様の口を塞ぐ光景がどんな理由にしろ、納得してしまうんだよな。


「いい加減に反省されましたか?」

「んむぅ!」

スイラは手にいる姉様に声をかけると、姉様は音だけで答える。

音から察するに、うん、って感じかな?

「本当ですね?」

「ふんふんだふっふぇ!」

「それは良かったです」

スイラは訝しげに姉様を見ながら言うと、反抗するように何かを言うけど、今度は俺には解読不可能だった。

スイラにはしっかりと伝わったようで、手元を緩めて姉様を話した。


「ふはぁっ!スイラ、いくら何でも口を塞がなくてもいいでしょう?」

「サーナ様がお父様とのお約束を破りそうになったからですよ。分かっておいでですか?」

「分かっているわ。でも、ハルヤを見たらつい」

「それがいけないのですよ?今のサーナ様は確かに、商家の娘という体でお忍び的に来ていますが、自国の王女と気づく者もいるのです。そんな方が軽々しく誰かに声をかけてはなりません。それが『異世界渡り』で消えた第二王子殿下の名なら尚更です」

強く厳しくスイラが言うと姉様も流石に反論できなかったようだった。

というか、商家の娘という設定だったのか。


「スイラ。俺の名前はよくある一般的な名前で、第二王子の名と結びつけることはないと思うのですけど」

ここに来て分かった姉様の仮の姿の設定に驚きつつ、スイラが言った言葉に疑問を投げかける。

「確かにそうですが、ナーマ殿の存在もありますし」

「俺、ですか?」

話題の中に急に自分が出てきたことに驚き、自分を指で指しながら聞き返す。

「はい。ナーマ殿はよく、ハルヤ様の護衛として何度か街に訪れていました。それを抜きにしても街には顔馴染みの方も多いでしょう?」

「まぁ、そうですね。数名いますが、それがどうしましたか?」

不思議そうにナーマはスイラに聞く。


「でしたら、ナーマ殿を王族の護衛を担う、第一騎士師団の人間だと知っている方も多いでしょう。そんな状況でハルヤ殿に付き従うように接していればそれ相応の身分の人間と疑われてもおかしくありません。ナーマ殿とハルヤ殿、そしてサーナ様。このお三方の要素が合わさる時、最悪の事態になりそうなのですよ」

スイラは納得できていない俺やナーマを説得するように説明をする。


俺としてはスイラの気持ちもわかるんだよな。

召喚者としても第二王子としても、国家機密扱いで、漏洩することが許されない情報だ。

取り扱いも慎重に行わなくてはならない。

だからこそバレる可能性が少なからずある場合には、それを回避するのが正しい判断だと思う。

けど、それを全て理解し、納得しろ、と言われるとなんか腑に落ちないというか。

まぁ、スイラが俺たちのことを思って言っていることはわかるんだけど。


「スイラ、迷惑をかけてごめんね。私も久しぶりのお忍びでの街に興奮していたみたいだわ。それよりも、シュクレの行列に並ぼうとしていたみたいだけど、何か買うつもりだったのかしら?」

姉様はまずスイラに謝罪すると、俺たちに話題を振ってきた。

気まずい空気を変えるための話題なんだろうな。

「実はメイファお婆さんの家へ向かうため、手土産を買いに来たのですが、あまりの行列の長さに、他のところへ行こうと断念したのです」

「そう。‥‥‥‥スイラ」

俺の言葉に姉様は一瞬考え込むと、何事もなかったかのように後ろに控えていたスイラを呼んだ。

「スコーンでしたら、こちらに」

「ありがとう。ハルヤ、これをメイファお婆様のところへ持って行って差し上げて」

スイラと姉様の意思疎通の完璧さにも驚くところがあったが、それよりも姉様が購入したスコーンを俺たちに渡してくれたことに驚いた。


「よろしいのですか?」

「もちろん。メイファお婆様は私にも良くしてくださった方。それにハルヤに心の許せる友人をくださった方だもの。本当はこれくらいでは足りないと思うのだけどね」

姉様は微笑みながらそう言う。

俺に心の許せる友人をくれた、か。

確かに貴族の子息、令嬢は俺の地位に釣られてやってきた人たちばっかりだったからな。

心の許せる友人は貴重な存在だった。

ナーマ、メアリー、ジングリアはまぁ、変な関係だったかな。

ともかく友人と呼べる人たちはこの三人しかいなかった。


そのことに姉様も気付いていたのか‥‥‥。


「ではありがたくいただきます」

俺の言葉に姉様は満足したようににっこりと笑った。

面白かったら、ブクマ、いいね、お願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ