城下へ②〜護衛選抜⑵
「え、じゃあ、リーリルさんが先生の護衛を務めるんですか?」
絢香がリーリルの説明を聞いて疑問に思ってのか、質問をしていた。
「それが、一番最善だと思います。ツキカさんの希望によりますが」
リーリルはそう言いながら先生の方へ視線を投げる。
それに流されるように部屋にいた全員、いや、シラク以外が先生の方を向いた。
シラクは面倒くさそうに大きな欠伸をしていた。
「あ、わ、私、その、できればリーリルさんにお願いしたいです‥‥」
急に視線を向けられあたふたしながら先生は答える。
「先生可愛い‥‥」
「はへぇ?」
そんな様子に春川がポツリと呟く。
その声は先生にばっちり聞こえていたようで先生は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「あ、すみません。つい」
「あ、あぁ。そ、そうだよね。ははは」
春川と先生はお互いに顔を背けあって気まずそうな雰囲気を醸し出している。
「もう、先生も空樹ちゃんも気まずい雰囲気引っ込めて」
「うん、ごめんね。絢香ちゃん」
「早見さんの言う通りね」
絢香の一声でなんとか気まずい雰囲気を脱すると、護衛の紹介が再開された。
「えっと、わ、私は第二師団し、所属のル、ルカ・ア、アグネスト‥‥です」
次に紹介された護衛候補は自信なさげに挨拶をする。
騎士とは思えないほどに彼女はオドオドしており、こっちまで大丈夫かと思ってしまうほどだ。
「ルルカ・アアグネストさん?」
「ひっ!ち、違います‥‥」
雫は確認するために尋ねると、多分ルカなんだろうけど、怯えたように答える。
尋ねた雫は何かをしてしまったのかと困惑していた。
「おっほん。えぇ~、この者の名前はルカ・アグネスト。第二師団所属の者です」
流石にみかねたガストン騎士団長が代わりに紹介してくれた。
それにしても今まで第一師団だったのに、急に第二師団の者に変わったな。
第一師団の人員を減らしたくなかったのだろうか。
護衛の方に何人か割けば、王城や王族の警護に差し支えると判断したのかもしれないな。
「ルカは所属こそ第二師団ですが、実力は第一師団にも引けを取らないと思っていますので、ご安心下さい」
俺たちのルカに対しての空気を察してだろう、ガストン騎士団長はフォローをするように言う。
にしても、ガストン騎士団長にそこまで言わせるって、ルカは相当な実力者なんだろう。
そして続けての紹介が行われる。
「我は第二師団所属のハーネス・ミスレイラという者だ。我は剣を扱うことが上手いと自負しているぞ!」
‥‥‥紹介したのだが‥‥なんとも言えない微妙な雰囲気に陥ってしまった。
そして静かにハーネスをガストン騎士団長が強烈な拳骨を食らわせる。
「痛いっ!なにをするんですか」
相当痛いのかハーネスは頭を抑え悶えている。
「自業自得だ。なんだ今の自己紹介は!お前の問題行動を今まで何度、目を瞑ってきたか。忘れたとはいうまいな!」
「い、嫌だなぁ、ガストン騎士団長。覚えてますとも。確か、ひ、ふ、み、よ‥‥五回?」
「阿保っ!王城での器物損害、城下での暴力沙汰、騎士団宿舎の破壊行為。計八回だ。今回それらの挽回にと特別に陛下と話し合い候補を絞り出したというのに‥‥。それにお前にも忠告したつもりだが、これ以上の愚行は看過しない、次に問題を愚行を働けば、騎士団から追い出すと」
ガストン騎士団長は子供が見たら、とういうか、あれで見られたら誰でも泣きそうな顔でハーネスを睨みつける。
ナーマはそんな父の様子を見ながら目をぱちくりしている。
他の騎士たちは皆怯えたような、同情したような目をしていた。
「分かっていますっ。すみません、つい、悪ノリが過ぎてしまって」
「今更、言い訳を言ったところで遅いわ!」
ガストン騎士団長はハーナスに一喝する。
「まぁまぁ、良いではないか。ガストン。今までの問題行動に比べたら可愛いものだろう?」
「しかし、陛下‥‥‥。そこらの護衛の任務ではないのです」
「お前の言いたい事も分かるがな今回の事は挽回にと決めたこと。ならば、チャンスを与えてやろうではないか」
「‥‥‥陛下がそう仰るのならば」
父様とガストン騎士団長のハーネスの問題を巡った攻防戦の末はガストン騎士団長の根負けとなった。
「ハーネス・ミスレイラ」
「はい!な、なんでございましょうか、陛下」
ハーネスは父様に緊張してか、言葉がなんかおかしい。
第二師団が国王から声をかけられることなんて滅多にないはずだから仕方がないのだけれど、ガストン騎士団長との対応の差‥‥‥‥。
「今回の任務で最後のチャンスを与えてやる。もし問題を起こしたら場合は騎士の職を剥奪する。そうなれば二度と騎士にはなれないと思え」
「‥‥はっ!このハーネス・ミスレイラ、確と心に刻みました」
父様は静かにでも、確かに威厳を持った声でハーネスに忠告する。
その言葉にハーネスはさっきと人間が変わったように素早く片膝を付くと力強く答えた。
ハーネスの力強い言葉に父様は小さく満足そうに頷いた。
ガストン騎士団長は尊敬の眼差しで父様を見ているようだった。
ここまで色々あり長くなってしまったけど、人数的にどうやら最後の騎士の紹介に回ってきたようだった。
「では、最後は私ですね。私はリシャーナ・ルーグストです。第二師団に所属しています。日頃街の警備などについていますので、分からないことがあれはお聞きください」
最後の一人が終わり、少しドタバタとした自己紹介タイムが終了した。
そして、それぞれ誰がどの騎士にするかを話し合うことになった。
「先生はリーリルさんで決まりだろ。絢香、春川と中冨は、ミラさん、ルカさんとリーシャさんか?」
「うん、出来ればそうして欲しいかな。二人はどう?」
「私もその方が‥‥嬉しい」
「私は別にどっちでもいいわ」
雫が三人に問いかけると、絢香が最初に答え、二人に意見を求めた。
二人はそれぞれ意見を言い、女性騎士三人が女子三人に付くことになった。
男子はもちろん男性騎士が付くことになり、全体の護衛ペアの内訳は先生とリーリル、春川とルカ、ミラと絢香、中冨とリーシャ、雫とファルド、鳴宮とハーネス、そして俺はナーマが護衛についてくれることとなった。
誰に誰が付けるかはジャンケンで決めたので、ほとんど運だったけど、どうやら俺は運が良かったらしい。
ちなみに、俺は全勝した。
ちょっと嬉しかった。
「全員が護衛が決まったようだな。では、今から水の時刻までを期限として、城下への外出を許可する」
父様の宣言で俺たちは街へ繰り出した。
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