城下へ②〜護衛選抜⑴
父様の説明が終わると、俺たちは城の敷地内にある騎士師団の駐屯所を訪れていた。
今からそれぞれ候補の中から護衛を選ぶのだ。
護衛についてのことは父様から誰がいると言うのは聞いていないので分からないが、出来ればナーマが良い。
「陛下、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
父様が姿を現すと、駐屯所にいた騎士たちは右手を胸にやり、敬意を表した。
ちなみに、この国の騎士師団は第一から第三まで存在する。
主に第一が王族の護衛、城の警備などにあたり、第二が街の警備、第三が魔物の抑制にあたる。
駐屯所はそれぞれ同じ敷地にあるので、各それぞれで得た情報を交換したりして交流しているのだと言う。
街の警備にあたる第二も魔物の大量発生で街まで被害が及ぶ可能性がある。
そんな時に第三の持っている情報が役に立つそうだ。
その第一から第三までの騎士を総統括するのがガストン騎士団で、その正式な役職はガストン・リースリア王国総指揮騎士団長。
あまりに長いのでほとんど騎士団長としか呼ばないけど。
そんなガストン騎士団長が代表して案内をする。
その案内に従い、整列している騎士たちの横を通り過ぎながら護衛たちの待つ部屋へ向かう。
「なんかドキドキするね。偉い人になったみたい」
俺の横に立っていた絢香が楽しそうに言う。
「なんで?」
「だって、騎士さんたちに見送られるなんて初めての経験だし」
「そりゃそうだろ。人生で何度もこういう状況があったら俺の心臓が持たんと思う」
絢香の言葉に雫は呆れた表情で言葉を返す。
確かに、日本で間違ってもこんな状況になることはありえないだろしな。
俺もちょっとドキドキしているのは事実だ。
そんな会話をしていると、護衛が待機しているであろう場所に到着した。
そして、ガストン騎士団長は部屋の扉を開けた。
父様に続き部屋に入ると、そこには八人の騎士の中にナーマをいた。
多分だけど、ナーマがいることは父様の計らいなんだろう。
まぁ、ナーマ自身それなりに実力はあるから普通に選ばれたのかもしれないけど。
騎士たちは俺たちが入ってきたことを確認すると、敬意を表した。
「こちらが皆さんの護衛候補になります。皆、前え」
ガストン騎士団の号令で騎士たちは一斉に一歩前に出た。
「右側から」
そして順々に自己紹介を始めた。
「はい!私は第一師団所属、ファルド・ガスティアと申します」
「僕は第一師団所属のミラ・フーラルクです。一応、性別は女ですよ」
「俺は第一師団所属、ナーマ・リースリアです。皆さんとは何度かお会いしましたね」
そこまで行くと、今までうまく隠れていたようだが、だらっとした格好の騎士が頭を掻いていた。
ナーマを肘で突くと面倒くさそうに俺たちの方を向いた。
「えぇ、次俺?えっと、俺は第一師団所属、シラク・ふぁずらいと。出来れば面倒なやつは御免だ」
シラクは欠伸をしながら自己紹介をする。
その自己紹介に俺たちは目を見開き、ガストン騎士団長は頭を抱え、父様は平然としていた。
「陛下、申し訳ありません。本当にシラクで良いのですか?こいつは見ての通りチャランポランですが」
「いや。シラクで構わない。実力はあるのだろう?」
「確かに他の騎士と比較すればあるでしょうが、それを驕ってはなりません」
「相変わらず、厳しいのだな」
「第一師団は特に。王族の方々をお護りしなければなりませんので」
真剣な表情でガストン騎士団長は言う。
その様子に父様は苦笑はしていたが、それ以上は何も言わなかった。
ガストン騎士団長がここまで第一師団に厳しくするわけを父様は理解しているからこそなんだろう。
「ガストン騎士団長、続けてもよろしいでしょうか」
敬礼しながら部屋の中にいた騎士の一人がガストン騎士団長に問う。
その騎士は騎士というには容姿が整った青年だった。
歳は大体‥‥二十代に見えるかな?
「済まない。続けてくれ」
「はっ。では、皆さん初めまして、いや、ツキカさんはお久しぶりでしょうか。私はリーリルと言います。宜しくお願い致します」
「そ、そうですね。お久しぶりです、リーリルさん」
ガストン騎士団長の言葉で自己紹介が再開し、初めに名乗った騎士は俺たちを見た後、先生を見ながら和かに笑った。
先生は若干顔を赤らめながら答える。
それにしてもリーリルには家名がないのだろうか?
それとも、わざと名乗っていないのか?
あと、彼は一体何師団の者なんだろう。
「少し良いですか?」
あまりに気になったので俺はリーリルさんに聞くことにし、手を上げて全員にアピールをしながら言う。
「‥‥どうぞ、ハルヤで、さん」
「ハルヤで、さん?」
俺の発言に父様とガストン騎士団長は何かを確認するようにお互いに頷き合ったあと、ガストン騎士団長は俺を指名した。
どうも雫たちはガストン騎士団長の言葉の詰まりが気になっているようだが、気にしないのが一番だ。
敬称を殿下と言い掛けていたことには目を瞑ろう。
「リーリルさんに質問です」
「はい。なんでしょう」
「あなたは平民出身ですか?」
「えぇ。そうですよ、何かご不満でもありましたか」
俺の平民出身か、と言う質問にリーリルは微かに顔を顰めた。
平民出身と言れる事を嫌っているのだろうか。
にしても平民出身でその整った顔って、さぞかし城下ではモテただろうなぁ。
「いいえ、少し気になっただけです。あ、あと、もう一つだけ」
「はい」
「リーリルさんて何師団ですか?」
「私は師団所属ではありません。私が所属するのは錬金術師協会です」
「錬金術師協会‥‥‥?」
リーリルの口にした名前は初めて聞く名前だった。
俺がこの世界にいた頃は、幼かったしこともあり無知だったから知らないだけかもしれないけど。
「はい。陛下、少しお時間をいただいても?」
「構わない。この際だ、知っておいた方がよかろう」
「ありがとうございます。では、錬金術師協会というのはその名の通り、錬金術師が所属する協会です。錬金術師協会には二つの部門があり、錬金術師部門と騎士部門です。私はこのうちの騎士部門に所属しています。騎士部門に所属する者は主に、錬金術師の助手兼護衛のような仕事です。今回は特別に陛下やガストン騎士団長に護衛候補に入れていただきました」
リーリルは錬金術師協会について簡単に説明してくれた。
だから、錬金術師の職業を授かった先生と知り合いだったのか。
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