改革
「ハルヤ様?」
急いで向かっていると背後から不意に誰かから声をかけられた。
急ぐ足を止めて後ろを振り向くと驚いた顔をしたナタータ宰相が立っていた。
「ナタータ宰相‥‥‥どうかしましたか?」
「いえ、急いでいらしたので何事かと、つい声をおかけしてしまいました」
俺の不思議に思っている様子をみて申し訳なさそうな顔で言った。
「気にしないで下さい。今、団欒の間に向かっていて」
「あ、それで陛下もナリアス様も今日は一段と執務を見事なスピードでこなしていたわけですか」
感心するようにナタータ宰相は言う。
父さまと兄さま一体どんなスピードで執務をこなしたんだ。
「そ、そうなんですか」
「えぇ、見事でした。あ、急がれるのでしたね。引き止めてしまい申し訳ありません」
「いえ、それでは」
ナタータ宰相と軽く話分かれると、俺は再び団欒の間に急いだ。
団欒の間のドアの前に来るとメアリーが立っていた。
「メアリー?」
「あ、ハルヤ様。お待ちしておりました」
「う、うん。え、どうしてここに?」
「私にもよく分からないんです。ただ陛下にハルヤ様と一緒に来るようにと仰せつかりまして」
メアリーは首を傾げながら不思議そうに言う。
「そうなんだ。じゃあ入ろうか」
気になるが約束の時間になり、俺は団欒の間のドアをノックした。
「入ってくれ」
父様の声が聞こえると俺とメアリーは部屋の中に入った。
「座りなさい」
父様の言うがままに俺とメアリーは空いている席に座った。
横に座っている兄様は相変わらず満面の笑みを浮かべ俺を見る。
今にも抱き付かんとするようだ。
「二人とも揃ってるな」
「父様、何故メアリーを呼んだのですか?」
「焦るな。しっかりと説明する。が、その前にメアリーよ」
「は、はいっ!」
突然名前を呼ばれメアリーは動揺していた。
この城に仕えているとはいえ、国王陛下である父様に話しかけることは許しがなければ出来ないし、話しかけられることも数えるほどだろう。
「そう緊張しなくていい。メアリーに提案なのだが、今の職を辞するつもりはあるか?」
「え‥‥?」
父様の発言にメアリーは言葉の意図を理解できずに呆然と父様を見ていた。
「陛下」
「すまない。言い方が悪かった。部屋付きのメイドとして戻る気はあるか?」
母様が静かに父様を呼ぶと、父様はメアリーの様子を見て若干慌てながら言った。
メアリーは父様の弁解した言葉に今度は俯いた。
けど、俺には一つだけ引っかかっているところがあった。
「父様、よろしいですか?」
「なんだ?」
「メアリーは俺を含めた召喚者と呼ばれる者たちの世話を主にしていたようですが、まだ部屋付きではなかったのですか?」
父様に了承をもらい俺は引っかかっていたことを話した。
俺がこの世界に戻ってきて俺たちが過ごす男子の部屋の世話はメアリーが主に担っていたように見えた。
だから、後輩の育成から召喚者たちの部屋付きになったのだと思っていた。
「あぁ。メアリーはハルヤの部屋付きでもあったのもそうだが、召喚者たちとも年齢的に近かったからな、正式に決まるまでの穴埋めとして世話係を命じていたんだ」
「そうだったんですか」
父様の説明に俺は相槌を打つ。
母様はともかく兄様や姉様も驚いていないところを見るとこのことを知らなかったのは俺だけのようだ。
「陛下、先程のご質問ですが」
「あぁ」
「私はこのままハルヤ様や召喚された皆様のメイドとして仕えたいと思います」
「そうか。その返事を聞けて良かった」
メアリーはじっと父様を見つめ意思の固い目をして言うと、父様はふっと柔らかい笑みを浮かべながら言った。
この話が終わると今日の団欒は終わりなのかと少し寂しい気持ちで父様たちをみていると、一向に席から立たない。
まだ話せると言うなら嬉しい限りだが、もし単に俺やメアリーが退席するのを待っているのだとしたら悲しすぎる。
「父様、団欒の間に俺を呼んだのはこのことを確認するためですか?」
あまりに気になった俺は直接、父様に聞くことにした。
「あ、いや。確かにそれもあるが‥‥。実はそれとは別にハルヤ、お前に報告がある」
「報告ですか?」
「あぁ。貴族女性の婚姻に関してだ」
この世界に戻ってきて聞いたメアリーの婚姻に対する気持ちについて、地球での知識も含めながら少し前にここで父様や兄様に話したのだ。
最初は訝しげに聞いていたが、姉様や母様、女性陣からの声があり父様は検討すると約束してくれたのだ。
「あの‥‥、私は失礼した方よろしいでしょか?」
「いや、まだこの場にいてくれ。当事者としての意見を聞きたい」
メアリーが小さく遠慮がちにいうと父様は言葉でそれを制した。
確かにメアリーがここにいた方が話が進めやすいだろう。
現状で悩んでいる者の言葉がどんな調査よりも最も信用に長ける。
「何か決まったのですか?」
「いや、如何せん高位貴族たちが渋っていてな。今までの常識を覆すのは大変難しい」
「そうなんですか」
父様は俺の方を向きながら苦々しい顔をして言った。
固定観念はこの問題を解決する中で一番ネックになるものだろう。
それまでの価値観はなかなか変わらないものだから。
「ただ、ともかく現状を知りたくてな。王城に仕える者の意識調査を行をしてみると面白いことが分かったんだ」
「面白いことですか?」
「あぁ。王城に仕える女性、それも貴族家出身の者に限った調査ではあるが、四分の三の人が婚姻に関して特に感じてはいないようだが、それでも四分の一の人が婚姻に関してメアリーと同じような考えを持っているらしかった」
父様は手元にあった資料を見ながら言う。
「確かに、女性だからと言って婚姻で職を離れるのは少し辛いですものね」
「えぇ、私もそう思いますわ」
父様の言葉に母様と姉様はしみじみと言う様子に父様は若干の苦笑いを浮かべている。
「あ、あの‥‥。私の発言のせいでこのような大事になってしまい申し訳ありません」
メアリーは俺たちの会話に居た堪れなくなったのか、俯きながら言った。
メアリー自身もこんなことが起きているなんて思わなかったのだろう。
お手を煩わせてしまった、そう思っているに違いない。
「メアリー、そう自分を責めてはいけない。貴方が発言してくれたから私たちも気付けたのよ。貴方は感謝はされど責められる所以はないわ」
「王妃様‥‥」
そんなメアリーの様子に母様が優しい声で諭すように言う。
「しかし父上はこれからどうされるおつもりなんですか?」
兄様は真剣な表情で父様を見つめ聞く。
その言葉には単なる興味本意と王として父として何を成していくのか、王太子である自分がどうするべきなのか、というもの含まれているように感じた。
ただの思い過ごしかもしれないけど。
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