なんでも屋とお嬢様と厄介ごと
スマホで水仙には連絡入れたからもう大丈夫だと思うけど、来るまではみてなきゃだよなぁ…
「あの~。大丈夫ですか?」と言いつつ女性の頬をペチペチと叩いて安否確認をする。
それに反応して、「んぅ…」と寝返りを打った。よかった生きてる。
手には成長した植物が握られており、何らかのスキルの使用中に倒れたのかなと考えていると、
なんと「ムニャ~…」と言いながらその女性が僕に抱き着いてきたのだ!
「ちょっと!?どうしたんですか!?離して…って力強っ!?」僕からその女性を引きはがそうとしている時に少しばかり、まことに不本意ながらムニムニと柔らかな感触を手のひらに感じてしまった。こんなところ、水仙に見られたら絶対勘違いでややこしくなるに決まってる!早く剥がさないと!
「大丈夫ですかっ!?六木さ… 何してるんですか?」
そんなこと考えてる間に水仙来ちゃったよ!ああなんかまずいオーラをビンビン感じる!確実に怒ってらっしゃる!
「詳しいことは事務所で話すからっ!ちょっと助けてっ!」
「あっはい。」
ハイライトがっ!目のハイライトが消えてますよ水仙さんっ!
「いやぁ~すいませぇ~ん。可哀そうな植物さんを見つけてしまったのでぇ~。助けていたらぁ~、スキルに使うエネルギーが思ってたより多くってぇ~。気付いたら倒れてしまってたんですぅ~。」
ちゃんとその女性をはがした後、水仙にずっとにらまれながら事務所に連れてきて、事情を説明してもらっていた。僕はずっと床で正座してる。
「そこはいいんですよ!六木さんと揉み合っていたのは何でなんですかっ!?」
「ん~?六木さん~?って私を助けてくれた素敵な男性の事ですかぁ~?」
「すっ!?まっまぁ?素敵なのは認めますけど…」
もごもごしてる水仙かわいい。
「すいませぇ~ん。おそらく寝ぼけていたんだと思いますぅ~。あまり覚えていなくてぇ~。あぁ~、そういえばぁ~、自己紹介がまだでしたねぇ~。私は蔡姫牡丹と言いますぅ~。」
すっごい急に自己紹介始めたね、この人。 …ん?ちょっと待って?
「「蔡姫っ!?」」僕と水仙が同時に声を上げる。
「?」八馬土は一人キョトンとしているが、そんなことはどうでもいい。
「蔡姫って、蔡姫財閥の蔡姫ですよね!?何でこんなとこにいるんですか!?」水仙がすっごい速さでまくし立ててるけど、無理もない。
蔡姫財閥とは、この町一帯どころか、この国全土に影響力を持つ、国内最大級の一流企業なのだ。葛原の会社のように悪い噂が立つことは一切なく、それどころか福利厚生やら、社内の人間関係やらが完璧に整備されている最ッッッッッッッッ高のホワイト企業として知られている。もしや彼女…
「あぁ~、はいぃ~。その蔡姫で間違いはないのですがぁ~、正確にはぁ~、財閥を取り仕切っているのはわたしの父なんですぅ~。」蔡姫さんはどこか困ったようなニュアンスを含んでそう言った。
「やっぱり!? …あれっ!?私今、ものすごい失礼な事言ってたような気が…!?」水仙が数分の問答の間に百面相を披露している横で、
「マジかぁー… ヤな予感的中…」僕は関わる前の、面倒ごとに巻き込まれる予感が見事に的中してしまったので、一人頭を抱えていた。
「?」そして八馬土はやっぱりキョトンとしていた。コイツ世間知らずにもほどがあるだろ。
「まぁ、関わっちまったもんはしょうがない。蔡姫さんの体調が戻るまで、うちで看病…とはちょっと違うけど、うちに泊めてあげよう。」正座を解いて、蔡姫さんに向き合って僕は言った。
「またですか六木さん!?」八馬土を雇うといった時と同じくらいギョッとして水仙がこちらを見る。
「あのぉ~、迷惑をかけている身で言うのも何なのですがぁ~、本当に私を泊めてしまっていいんですかぁ~?」
「いいよ。てかむしろ、ここで見て見ぬふりは僕のポリシーに反するからね。」
「いいんじゃねぇか?俺にはさっぱりわからねぇが、困ってるなら手は出すべきだろ。」八馬土がやっとまともなことを言った。
「む、六木さんに言われるならともかく、谷宵君に言われるのはなんだか釈然としませんね…。」ちょこっとムスッとして水仙が言った。
やだ、水仙ったらそんなお顔もできちゃうの!?もう可愛すぎて困っちゃう!(オカマ口調) …って、そうじゃないそうじゃない。
「取り敢えず、親父さんとかに連絡入れといたほうがいいと思う。そうしないと僕ら社会的に潰されちゃう。」
「そうですねぇ~。自分で言うのも何なのですがぁ~、父はわたしのことを溺愛しているのでぇ~。何の躊躇いもなくぅ~、潰しにかかろうとするかもですぅ~。」
だよなぁー… でも、本人からちゃんと説明受ければ大丈夫だろ。安心安心。
なんて考えてた自分を殴りたい。
「まさか、お父様直々に『そのまま泊めておいてやってくれ』と言われるなんて。ちょっと予想外でしたね…」と水仙が複雑そうな顔で言った。
「…………何でさっ!?」顔を手で覆いながら僕は叫ぶ。
「自分で了承してたじゃないですか。」水仙がこちらを睨んでいる!
「相手はこの国一の大企業の社長だぞ!?断るなんてできねぇよ…」と僕は肩を落とす。
というのも実は…
(数時間前の回想)
「今連絡したのですがぁ~、父がここに来るそうですぅ~。」と蔡姫さん。
「ちょっと待って。僕の恰好変じゃない?失礼じゃないかな!?」とガチガチに緊張している僕。
「だだだ大丈夫ででですよむむむむ六木さん」僕以上に水仙が緊張してる。
「どんな人なんだろうなー!強いかな!?」こんな時までブレねぇな八馬土。
頼むからじっとしててくれと、八馬土に向けて言おうとしたとき、
ピンポーン
チャイムが鳴った。親父さんだよなこれ。
「はっハーイ!」緊張しすぎて声が裏返っちゃった。恥ずかしい!
ガチャリとドアを開けると、ものすっごいガタイのいい黒服を数名引き連れた貫禄のある人が立っていた。
「さっ蔡姫様でよろしいでしょうか…?」
「あぁ失礼するよ。」重低音で親父さんが言う。こっ怖ぇー!
親父さんを事務所にある中で一番フカフカのいいやつに案内して、座っていただいた。
「さて、まずは謝罪を。娘が世話になったようだね。」といきなり親父さんが頭を下げようとした。
「ちょ、ちょっと!?やめてください!僕たちは頭を下げていただくようなことは何も…」
「いや、そうはいかない。そしてもう一つ、君たちが”なんでも屋”だということを見込んで、お願いがあるのだ。」申し訳なさそうな顔で親父さんがそう言った。
「と、申しますと?」
「実に恥ずかしい話ではあるんだが、娘が今つきまといの被害にあっているようでな。我々が問題を解決するまでボディーガードをしてもらいたいんだ。」
「な、なるほど。」
「本当はうちの黒服たちをつけたかったのだが、実を言うと人材難でな。ボディーガードを任命できる人間が少ないんだよ。」
あなたの後ろに控えてる人を付けりゃいいじゃんという発言が喉元まで出てきたが言わないでおこう。
「承りました。任せてください。」気が付くと言葉が口から出ていた。
「!?」水仙がこちらを見る。
「ふーん。」八馬土は興味がなさそうに相槌をする。お前はそれでいい。
「私はそこまでしなくてもいいって言ってるんですけどぉ~。」蔡姫さんが言うと、
「だってだって!お父さん心配なんだもん!」親父さんが急に子供みたいに駄々をこね始めた。
「「「……」」」これにはなんでも屋メンバー一同びっくり。
「ん”ん”っ!ま、まぁ、そういう事だ。頼んだぞ。」少し赤面しつつ咳ばらいをしながら親父さんが言う。
「あ、はい。」もう取り返しつかないですよ。と心の中で親父さんに言いつつ、僕に対しても取り返しつかねぇぞと言い聞かせる。
(回想終わり)
「倒れてた人を助けたことが何でここまで飛躍するんだよぉ~…」
「まぁ、こればっかりは六木さんの運が悪いとしか言えないですね。」半ば呆れたように水仙が言う。
「まぁいいや。いつまでも引きずるような事でも、引き受けて困るような事でもないし。じゃあ、頑張っていきましょう!」
「おぉー!」八馬土が大きく声を上げる。こういうとこは雇ってよかったと思うよ。
「じゃあお願いしますねぇ~。」蔡姫さんが柔らかく言う。
「もうなんでもいいです。でも、六木さんは渡しませんからね!」水仙が高らかに宣言する。
「安心して水仙。僕君以外の誰のところにも行くつもりないから。」
「ほんとですかー?私、蔡姫さんと揉み合ってたの覚えてますからね?」
「おっと、まずは信用を取り戻さないと。」
「なんか知らねぇが頑張れよ!」八馬土は多分恋愛とかできなそうだなぁ。
「そこは置いといて、まずは現状の確認だな。どんな輩につきまとわれているか、わかる範囲で説明してもらってもいい?蔡姫さん。」
「もちろんですぅ~。まず1人目はぁ~…」と指で数える動きをしたあたりで違和感を覚えた。
「「「ん?『1人目』って言った?」」」このフレーズに僕も水仙も、あの八馬土までツッコミを入れた。
「はいぃ~。私が認識している範囲で10人はいるかとぉ~…」とさして不思議でもないように蔡姫さんが言う。
「「「10っ!!??」」」
思ってた数倍、長期の任務になりそうだなぁ…