なんでも屋と採用試験と倒れてた人
「なぁ~雇ってくれよ~」事務所で八馬土が懇願する。
広場で戦闘してからずっとこの調子でお願いされ続けている、
「じゃあ聞くけど、何ができるの?八馬土。」僕が尋ねると、
「戦闘!」
「「おかえりください。」」八馬土の期待通りの返答に僕も水仙も拒否反応がすぐに出てしまった。んなこと言われて雇いますっていうとこの方が少ねぇよ。
「なんでだよ~…」それを聞いて八馬土はあからさまに残念な顔をした。
「まぁいいや。じゃあ、戦闘が起きた時だけ給料が発生するって条件でいいならいいよ。」
「六木さんっ!? 正気ですか!?」水仙がギョッとしている。許せ水仙。僕もあんま乗り気じゃないんだ。
「ぃよっっっっっっっっっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!ありがとう!アニキ!」八馬土がうれしさのあまりなのか、急に叫んだ。
ピンポーン
そのタイミングで、ちょっと控えめに聞こえるチャイムが鳴った。
「お、依頼者か!? 俺行くぜ!」と言いながらドアへとかけていく八馬土。
「「やめろぉ‼‼」」二人で後を追うが間に合わない。
ガチャッと八馬土がドアを開けて言い放つ。「誰だおめぇ!」
「えぇ…?」依頼者と思われる人は案の定困惑一色に埋め尽くされた表情を浮かべた。
「「なにしてくれてんだテメェェェェ‼‼」」
ドカァァァァァン‼‼
僕らは二人で同時に飛び蹴りをかました。これが僕たち二人の初めての共同作業になっていたことを思い出すことになるのは、もう少し後のお話。
シュウゥゥゥゥ…
「すいません。うちの新入りが失礼をしました。」後頭部に二つのたんこぶを付けて縮こまっている八馬土を横目に依頼者の方に謝罪する。
「いえいえ…」と苦笑いしながら曖昧に返してくれる依頼者さん。
「それで、ご依頼は?」なるべく自然な感じで本題に移る。
「あっはい。あの、うちのペットを探してほしいんです…」
「動物探しは俺の得意分野だぜ!」
僕と水仙は、急に入り込んできた八馬土に対して無言で一発ずつ頭を殴った。
「まぁ、任せてください。すぐに見つけて、保護しますので。」
「お、お願いします…」明らかに『こいつら大丈夫か…?』って顔してんな… ほんとにすぐ見つけて保護しないと、信用にかかわる。
「どぉこだぁ~?ねぇこぉ~?」八馬土が教えてもらった依頼者の家の周辺でうろうろしている。
「猫じゃなくて犬だぞぉ~」その八馬土に対して突っ込みを入れる僕。
「あの人ほんとに雇って大丈夫なんですか?」その僕の隣で心配する水仙。
「まあまあ。それを見極めるためだからね。」
僕たちはまず、手掛かりを探すために依頼者さんの自宅周辺から探すことにした。
まあ僕にできることは、この場所の周辺をしらみつぶしに探していくことだけなんだけど。
「ん?何だこれ?」そんなことを考えていたら、八馬土が何かを見つけたようだった。
「何見つけたんだ~?」
「多分もう見つかったも同然だぜ。」八馬土がニヤリと笑いながらこちらを振り返る。
「どういうことです?」水仙が信用できないという顔で八馬土を見る。
「これだよ。」とこちらに見せてきたのは犬のものと思しき動物の毛だった。「これの匂いを追っていったら確実に見つかるぜ。最近は雨降ってねぇから匂いは消えてないはずだし。」
「え、マジ?」まさかの手掛かりに僕は面食らった。
「マジも大マジ。俺、昔は山にこもってたからな。デカ猪の匂いを追って戦いに行ったこともあるし。」八馬土は何でもないような顔で言った。
今、とんでもないような事言った気がしたけど一旦置いておこう。
「なら、信じてついて行ってみるか。なんかハプニングがあったら突破すればいいし。」
「六木さんって結構脳筋というか、パワータイプですよね。」水仙が少し呆れたニュアンスを含んで言った。
「僕は最初っから最後までごり押しで行くんだよ?知らなかったかい?」僕は少しわざとらしく言った。
「知ってましたよ。」と水仙が返す。「私、六木さんの事なら何でも知ってるつもりなので。」
「お、おぅ…///」少し予想外の返答に嬉しくて、恥ずかしくて、顔が熱くなっていくのが自分で分かった。
「自分で言っておいてあれですけど、照れますね。こういうの…///」それは水仙も同じようで、カノジョの顔が綺麗なリンゴのような色になっていた。
「「……」」そこから少しの間二人で沈黙していると、
「何してんだぁ~?行くぞぉ~!」と八馬土が声をかけてきた。
こういう時だけはアイツが空気読めなくて良かったと思うわ。
「あ、あぁ。今行く。じゃあ行くか、水仙。」と言いつつカノジョに片手を差し出す。
「……? …! はい!」とカノジョは嬉しそうに僕の手を握った。「でも急にどうしたんですか?今さっき恥ずかしがってたじゃないですか。」握りつつカノジョは聞いてきた。
「将来は僕の彼女になってもらおうと思ってるからね。今から慣れさせていこうと思って。」
「はぁ…。 …って、えぇ!? 今なんて言いました!?」目をまん丸にしてカノジョが言う。
「ほら、早く行くよ。」わざと聞かなかったことにして、八馬土の方に行く。
「ちょっと待ってくださいよ!今のどういう事ですか!?」と握った手を引っ張る水仙。
「ン~もう仕方ないなぁ。」と言って、逆に手を引っ張り返して水仙を引き寄せると、僕はカノジョをお姫様抱っこした。
「ふぇっ!?ちょっ、ちょっと!?今さっき恥ずかしがってたじゃないですか(二回目)!?ほんとにどうしたんですか!?」
「多分今ゾーンに入ってるわ。大丈夫。あと2時間もすれば恥ずかシぬから。」と言いつつ八馬土のもとへ二人で向かう。
「それちっとも大丈夫じゃなーい!」
(道中省略!)
「(あ、みつけた!)」
八馬土が見つけた毛の匂いをたどると、一匹の犬を見つけた。依頼者さんに貰った写真と見比べると、同一の犬であることが分かった。
「(よくやったな八馬土。あとは捕まえるだけだ。)」ヒソヒソ声で話す僕ら。
「ねぇママ。あのひとたちなにしてるの?」
「コラッ! 見ちゃいけません!」
近くを散歩していた親子がそんな会話をしていたが、仕方がない。だって犬の近くの茂みから3人で顔を出しているからね。僕だって何してるのかわからない。ちなみに水仙にはクリティカルヒットした様で、顔を赤くしている。
「(で?どうやって捕まえる?)」
「(ここは俺に任せろ!)」と自信満々の八馬土。
「(じゃあ任せる。)」と僕はそれを了承する。
「(なら行ってくる!)」と八馬土が行こうとした瞬間。
「(ちょっと待って二人とも!あれ見てください!)」水仙が何かを発見した様で、僕らにそれを知らせる。
「「?」」二人で犬の方を見ると、何やら周りをキョロキョロしながら犬に近づいていく不審者がいた。
「(誰だあれ?)」
「(依頼者さんの友達ですかね?)」
「(いや、あれはまずい。早く行くぞ!)」と僕が出ていくが少しばかり遅かった。
不審者が犬を乱暴に麻袋に捕まえたのだ。おそらく生物実験のための材料にでもするつもりなのだろう。キメラ実験とか聞いたことあるし。
「八馬土!【大蛇】!水仙!捕縛頼む!」
「言われなくても!」「了解です!」
「”流れて水箱 閉じ込めろ水の檻”【大海牢獄】‼」
「”うねり飲み込め”【大蛇‼‼】」
「”我が五体に神の御加護あれ””上がれ火勢””我が身よ奮い立て””導に従ひ叩き込め”
【自己強化(炎)】【重炎打魔】‼」
僕の声に反応して、水仙が不審者を脱出不可の水牢獄に閉じ込める。そして、僕を八馬土の【大蛇】で飛ばしてもらって、エネルギーを圧縮した物理攻撃を放つ【重炎打魔】を、自己強化を重ねて放った。
僕の攻撃が当たる直前に【大海牢獄】を解除してたな。成長したなぁ、水仙。
その後、犬を麻袋から出してあげて、無事保護することができて、依頼ささんに受け渡すことができた。不審者は逆に麻袋に押し込んで、頭だけ出した状態で茂みに突っ込んでやった。今頃、どうなってんだろうなぁ…。
「あの、六木さん?さっきやってた詠唱って何ですか?」事務所でくつろぎながら、水仙が思い出したように僕に聞いてくる。
「あぁ、あれ?あれは『二重詠唱』って僕が勝手に呼んでるんだけどね。師匠曰く、効率よくエネルギーの移動と変換ができるらしい。詳しくは知らない。」
「なるほど… てか、六木さんて師匠いたんですね。だから強かったんだ。」
「うん。まぁ、結構昔のことなんだけどね。」
「アニキの師匠!?どんぐらい強いんだ!?」僕の師匠という言葉に反応して八馬土が飛んできた。
「ん~… 強いは強いけどなぁ… 最後に手合わせしたのが4年前だから、今の僕と比べるのはちょっと難しいかな。」
「強いのかぁ~!会ってみてぇな!」と八馬土が目をキラキラさせながら言う。
「それは私もそうですね。一度は会ってみたいですね。」うんうんと水仙もうなずいている。
「いずれ会えると思うよ。あの人、自由人だから。それはそうと、水回りの洗剤とかいろいろあったっけ?」
「あ、そういえば詰め替え用が切れてましたね。買わなきゃ。」と身支度しようとする水仙を見て、
「いいよいいよ。僕が行くよ。ちょっと自分で買いたいものもあるし。」と僕が名乗り出る。
「じゃあお願いしますね。」
「任しとけ。」
さすがに2年も一緒に暮らしてれば、相手が次に何をしようとしているかはわかるようになってきた。これぞまさしく夫婦の関係! …ってのはちょっと恥ずかしくて口には出せないけど。
「じゃあ、行ってきます。」財布とエコバッグとスーパーのチラシをもって事務所を出る。
「行ってらっしゃい。」笑顔で送り出してくれる水仙。やっぱかわいいなコイツ。
「いやぁ~よかったよかった。最後の1個をゲットできるとは。ラッキーラッキー。」
目当ての物も買えたし、すぐに帰ろうと思ったとき、通り過ぎようとした路地に人の気配を感じた。ふとそちらに目をやると、綺麗な服に身を包んだ女性が倒れていた。
「ん~……」
やばいことに巻き込まれそうな気がするなあと思いつつ、見て見ぬふりはカッコよくないよねとも思うので、
「よしっ、助けよう!」