なんでも屋とお買い物と一難去ってまた一難
「うまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまうまうまうまうまいうまうま…」
黒服を退けた後の事務所で、彼はものすごい速さでわたしの作ったご飯を食べ始めた。
こんなにいっぱい食べるなら、私が作りましょうか?黒服を追っ払ってくださったお礼です~ なんて言わなければよかったかな…
「おかわりぃ!」
そんな私のちょっとした後悔を知ってか知らずか、彼は元気に茶碗を私に向ける。
「はいはい。」と私は微笑む。
まぁ、こんなにうれしそうに食べてくれるなら悪い気はしないかな。
彼は口に一杯ほおばってから、
「ふぉれへ、いあいふぉ…」
としゃべり始めた。
この人リスみたいになってんだけど… かわいっ…じゃなかった。
「飲み込んでからしゃべってくださいよ、行儀悪いです。」
ゴクンッと彼は喉を鳴らして、
「わりぃわりぃ。昔っからの癖でな。流してくれ。」
と言った。この人子供のころからやんちゃな人だったのかな…
「まぁいいですけど… それで依頼内容なんですが、わたしを守ってほしいんです。」
わたしはソファに腰掛けながら言った。
「ん?さっきみたいなこと?」
「さっきのも含まれるんですが、具体的には、ある男の討伐です。」
「ある男?」
「はい。その男の名は”葛原和夫”。端的に言えば私のストーカーです。」
「うわぁ。聞くだけできもっちっわりぃ野郎だな。」
そして私は彼に様々な事情を伝えた。わたし個人についてはあえて触れなかった。
葛原は、ココから少し離れた地域を牛耳っている大きな会社の社長だということ。
その会社は表向きはただの大企業だが、裏の顔は目的のためならどんな犠牲もいとわないいかれたヤ〇ザの組織であるということ。
運悪く私はそいつに惚れられてしまったということ。
やばいということを挙げるとキリがないが、大体そんな感じのことを伝えた。
「ヤ〇ザねぇ…」
「わたし、そいつに求婚されてるんです。」
「ふぅ~ん… 聞いた感じそんなに悪い話でもなさそうだけどなぁ。」
「葛原の性格がイケメンだったらまだマシだったんですけどね。」
「あぁ~…」彼はわたしの言葉の意味を察したのか、苦笑いで言った。「まあまあの災難だねぇ。」
「他人事と思って聞かないでください!だからこうやって依頼しに来てるんですよ!」
「まあまあ落ち着いてよ。僕のポリシーは言ったでしょ?『何があってもカッコよく依頼を遂げる』ってやつ。」そう言うと、彼の雰囲気はガラッと変わった。黒服と対峙した時のようなものではない。一見張り詰めた、冷たい感じだが、同時にとても落ち着く包容力を持った優しい雰囲気になっていく。
「僕の名において、依頼者…… えと、名前なんだっけ。」
そういえばわたしの名前言ってなかった。
「如戯水仙です。」
「そうか、では改めて。僕の名において、依頼者”如戯水仙”に誓おう!僕は必ず、あなたの依頼を完遂すると!」彼は堂々と宣言する。
「はい!よろしくお願いします!」わたしはその声に応えるように大きく返事をした。
そこで今まで張り続けていた緊張の糸が切れたのか、そこからの記憶がない。多分ソファに倒れこんだんだと思う。
「んぅ…… ん!?今何時!?」勢いよく上体を起こして窓を見ると、夜空で星が輝いていた。「私どれくらい寝てました!?」
「ざっと一日ぐらいかなぁ。起こそうとしてもなかなか起きなかったから。それだけ今まで怖い思いをしてきたんだね。」そういって彼は微笑んだ。
「すいません!すぐ帰りますぅ!」
「いやいや。帰るったってどこに?君の家なんて、その葛原ってやつの危険にいつさらされるかわからない。僕が依頼を遂げるまでここにいればいいじゃない。」
「い、いいんですか…?」
「うん。」彼はさも当たり前かのように言った。
「あっちにベッドあるから、今日そこで寝てね。」
「ありがとうございます!」そうお礼を言って、わたしは一泊させてもらった。ちゃっかりシャワーも借りた。
翌日、わたし達はお買い物をしにショッピングモールに来ていた。
彼曰く、「君が普段どんな感じなのか知りたい。」らしい。
最初はこれも依頼を遂げるために必要なことなのかなと思ったが、
「あれもいいなぁ……あ!これもいいじゃん!あ!こっちも捨てがたいなぁ…!」
あの人、一人でめっちゃ楽しんでるじゃん。調査とは名ばかりのお楽しみの時間じゃん。
「あの…何をしにここへ来たんですか?」
「おかいもの」
「は?」
「まあまあ。嫌な事はあんまり考えたくないでしょ?」
「そりゃまぁ… はい…。」
彼なりに私のことを考えての行動だったらしい。それなら悪いことをしちゃったな。
「でしょ?だから今は、何も考えずにショッピングを楽しんじゃってよ。」
「わ、わかりました…。」
そんな会話を経て、わたし達は本当にいろいろなものを買いまわっていた。
道中、わたしはきれいな白いブレスレットを見つけた。とてもきれいで、かわいらしいものだったが、わたしが買うには不釣り合いだと思い買うのをやめた。
そんなこんなでショッピングを楽しんでいると、
「ごめん…お手洗いの場所わかるかな…?」
彼がもじもじしながら訪ねてきた。
「じゃあ案内しますから、前で待ってますね。」
「うん。そうしてくれると助かる。」
そんな会話をしながらトイレまで向かった。
「じゃあすぐ戻るから、待っててね。」
はいはい、と私は彼を見送り、すぐ前に置かれているベンチに腰掛ける。
その瞬間、ガバッと布を口に押し当てられた。
じたばたと暴れるが、抵抗むなしくわたしは気を失ってしまった。
「ごめんお待たせ~…ってあれ?如戯さん?」
僕は周囲を見渡す。が、如戯水仙はどこにもいない。
それを認識した瞬間、僕は走り出す。あても意味も何もないが、走ることしかできなかった。
クソッ!なんでその可能性があることを警戒してなかった!無理にでも頼んで彼女にも女性トイレへ入ってもらえばよかった!
様々な後悔が頭の中を駆け巡るが、今はそんなことはどうでもいい!一刻も早くカノジョを助けに行かないと!