じろうものがたり
幕張メッセの「メッセ」って「見本市」の意味なんです。
「石原警部……手がかりがこんなところにあるとは思えませんけど」
「まずは、何事も情報収集なのだよ、宮内警部補」
警察の2人組は、とある見本市にきていた。
「痔の見本市に事件解決のヒントなんてあるんですか?」
「あるさ、それこそが、犯人からのメッセージだからな」
「見本市痔?ですか?」
「わかってるじゃねぇか。いくぞ」
警察の2人組は、被害者の血文字メッセージ「W」のヒントを探るべく、見本市を探し回る。
イボ痔、キレ痔、痔ろう……の3分類にをさらに細分化して、多種多様の痔が展示されていた。
「痔ろう……か、推理サスペンスといえば、赤川……」
「やめてください。三毛猫が好きな人達から通報されて、この小説が消されますよ」
「それもそうだな」
警部は警部補のメタ発言で自主規制をした。
歩き進むと、見本市主催団体の看板がある。
『増税メガネへの滅政治』とか何とかのキャッチフレーズだ。
「痔ん権団体……か。増えたねぇ」
「LGBTの人権問題が解決した途端、プロ市民達がこちらの活動に移りましたからね」
「同性愛者が増えると、痔の問題も増えるからな。それにしても、男湯で、痔爆テロとか、やめて欲しいものだ」
「女性の場合、多い日だと安心じゃないですけどね。私達、女湯は」
「お風呂での迷惑な事象だけをマネしなくても、いいだろうに。おお、コレは事件の痔に近いのではないか?」
「これこそ痔件です」
石原警部と宮内警部補は、展示されているイボ痔例の前で立ち止まった。
「こ、これは、被害者のダイニング・メッセ―痔そっくりだ」
「台所じゃなくて、死に際ですよ」
「そう、それ。まぁ尻から出血して倒れていたのは、台所だけど」
「警部、無理してカタカナ英語使わなくても。痔ですし」
「ちょっと、使いたかったんだよ。痔だけど」
別の展示物には、痔ろうの一種である「あな痔」死亡率は10~25%と記載されていたので、警部は話を逸らす。
「ガンよりも死亡率が高いとはな」
「笑いごとではないですね」
「戦国武将の榊原康勝も、痔が爆発して死んだらしいが」
「痔悪化・エル〇マンのごとく」
「種ガン〇ムのBLネタは、やめなさい。受け攻め掛け算の派閥戦争が起こる」
「イ〇ークが、攻めですね。コレは譲れません」
「そうかい……この女、腐ってやがる」
「腐女子を超えた、貴腐人の高みにたどり着きつつある私ですが、何か?」
そして、警部はふと浮かんだ疑問を尋ねた。
「……受けだから痔悪化なのか?」
「そうですよ~。相方のほとばしるリビドーを受け止め過ぎて痔が悪化したのです。ぐひひひ♪やおい穴系も良いですけどねぇ~♪」
「戻ってこい。妄想の世界から」
「おっと、失礼しました。妄想は、痔エンドにします」
「若い娘が、オヤジギャクを言うな……」
「警部のせいです。責任取ってイイ男連れて来てください」
「お前、腐ってる上に隠さないしなぁ、むつかしいなぁ」
「こないだ、リモート飲み会に参加してた御腐人なんて、新築の家の本棚を、ほぼBL本で埋めたとか言ってましたしねぇ。そんな感じで理解ある人いないですかねぇ。御腐人は、既婚者で子持ちですよ」
「……それ、旦那の名前、凛古風とかいうんじゃ」
「そうです」
「作者の身の上話はやめような」
「はい。直接言うと嫁コワイから、適当にぼやいてガス抜きしてるみたいですけどね」
「作者の恐妻家、極まれりといったところか」
そんなくだらないことを話しながらも、俺と警部補は、ダイニング・メッセ―痔そっくりなイボ痔サンプルをツンツンしていると。
「……パパ活カップルの避妊プレイでお困りですか?」
と、声をかけられた。
「ちっ、ちがいます!私は、腐女子なので、この人が受けの場合を考えてですね……」
言い訳するにも、内容ってもんがあるだろうがよ。誰の相手を想定して、俺を猫にしたっ。
「それも、違うだろ」
「そうですか。妊娠しないプレイを楽しんでいたものの、お困りではと思った次第でして、失礼」
宮内警部補は、自分のお尻を押さえながら……
「ほんとに、失礼です」
プリプリ怒っていた。サンプルのイボ痔も、プリプリしているが。
「ところで、『痔』について詳しいそうに、御見受けしますが」
「よくぞ、聞いてくれました。私こそ痔の研究によってプロフェッサーとなった歩く百科痔典……御手洗 黄門と言います」
黄門様が、自己紹介とばかりに印籠を出してきたので……
「この印籠はケツに入りませんよ」
「大きいですもんね。印籠より痔瘻のほうがしっくりくるのでは」
黄門様は目をクァアアアっと見開き、
「なんと、貴様ら……そのセンスできる」
と、喜んでくれた。
「ところで、教授。いぼ痔についてお聞きしたいのですが?」
「なんじゃ?」
「いぼ痔が破裂すると、死に至ることもあるのでしょうか?」
「あるぞ。出血多量でな」
事件の核心かもしれない。すなわち痔核?
「そうだの……いぼ痔というのは、肛門周りの血流が悪くなってできるのじゃよ。だから悪化すると、血流を良くする薬を処方する場合がある。高血圧とかにも使われる薬じゃ。血液がサラサラになるのじゃが、傷口からの血が止まりにくくなる。そんな状態で、いぼ痔を破裂させてみろ。大量の血が止まらずに流れ続けるのじゃ」
「な、なるほど。内服で治す薬を使っていると、破裂した時に大変ってことですね」
「そうじゃ。だから、塗り薬が一番なのじゃ。中の奥までじゃな」
「でも、塗るのって、心理的抵抗がありますねぇ」
「それをやらねば、リスクのある内服薬になるのじゃ」
「わかりました。見識が広がりました、助かります。それでは」
そうして、俺達は教授のところから立ち去ろうとすると。
「おぬしたち、男女お互いに塗り合うのも良いぞ。中の奥までな」
「サンオイルじゃあるまいし……」
「な、なんてマニアックな。でもBLに使えそう、うひひ」
新しい世界が、彼女には見えているのだろう。
そうして、痔見本市を後にしたのだった。
--------------------------
「さて……現場か」
昼食を終えた俺達は、事件の現場を再確認する。
遺体は既に運び出されされて、テープで倒れていた姿が形どられていた。
「被害者は、トイレで出血して、ダイニングまで這うように移動していたな」
「おそらく、破裂した痔を止血するために移動したのかと思われますが、出血多量で意識が遠のいたのでしょうか」
残っているのはトイレからダイニングまで続く大量の血痕だった。
そうして、血の文字で「W」と書かれている。
「Wか、ワセリン軟膏の止血か?」
「自身の最期が痔爆死www とかでは?」
さっぱりワカラナイ……
俺が頭を抱えていると……
「け、警部、ヤバイです」
「どうした?」
「ちょっと、トイレ使っていいですか?」
「……昼メシで、ビールの大ジョッキなんて飲むから」
ほんとにコイツ警部補スタートのキャリア組なんだろうか?
まぁ、俺も、ちょっといただきましたけどね。
「ちょ……おまっ、現場の保存」
「背に腹はかえられませんっ」
バタン。かちゃり……
トイレに入って、鍵かけやがった。
この現場から、女子が使えるトイレは、かなり遠い。
まさか、外でやれとも言えないし。仕方ないの……か?
こらこら、一回流して、水流音で誤魔化すとかしなさいよ。
切羽つまってたのは分かるけど、丸聞こえじゃねーか。
……俺は静かに耳を塞いだ。
そうこうしていると。
「ふんぎゃぁああああああああ」
塞いでいる耳にでも聞こえる悲鳴がしたではないか。
「ど、どうした。大丈夫か?」
俺がドアを、こじ開けようとすると。
「く、腐っていても乙女なんです。ま、まってください」
どうやら無事のようだ。
「血、血が……膜が……私の純潔の証が。嗚呼」
何やら騒いでいるが、命に別状は無さそうだ……
覗き疑惑をかけられても嫌なので、俺は扉から距離をとる。
……かちゃり
警部補がトイレから出てきた。
「警部……死因が分かりました。温水洗浄便座です。尋常じゃない水圧です」
「何だとっ。最強だったのか」
「もう、そんなレベルじゃないんですよ。ちょっとこの便座、調べてください」
「……え?今すぐ?くさくない?」
「ブチ殺しますよ」
そうして、警部補はトイレにあった消臭芳香スプレーをシュッシュした。
「これでいいでしょう」
「……現場保存とは、何だったのか。変態とか言うなよ」
そうして、俺は、警部補が出てきたトイレに入り、便座を調べる。
「トイレタンク横の止水栓が左に回されて水道圧が減圧されていない。しかも、ポンプモーターが高圧洗浄機用に交換されいるうえ、リミッター回路まで外されていたぞ……こりゃヒドイ」
「洒落になっていませんよ……こんな形で破瓜るなんて」
「経験なかったか」
「私、腐女子ですからねぇ。現実の男には縁がなく……」
いや、その話は、ちょっと……おいといて。
「被害者の痔も、コレが直撃したんだろうなぁ」
「痔だろうが膜だろうが余裕で貫通する水の勢いでしたよ」
後日、トイレを改造した男を取り調べすると。
「半年ほど前だったか?便秘の固いウンコを砕く勢いが欲しいって言われましてね」
「なるほど、それで、高圧洗浄機のモーターポンプに交換したのですね」
「ええ、くれぐれも『的』を外さないように伝えましたけど」
「その後、半年間は何もなく、使われていた」
「となると……誰かがノズル位置を変えたのが原因?」
「そうか……事件ではなく事故だったか」
こうして、温水洗浄便座殺人事件、通称「じろうものがたり」は幕を閉じた。
頭文字Wの謎は解けたのだ。
※「ウォシュレット」はTOTOの商標です。
位置とか強さとか勝手に変更されると、困りますよねぇ。
しまった「幕」張メッセと「膜」をリンクできなかった……
その理由を推理して下さますようお願い申し上げますwww