14 セインドロゥへようこそ!
怪我も完治し、三日間の経過観察の後、ユリアスの部屋は移動した。そうなれば必然、サクヤと自然と顔を合わせる機会は減る。その事にユリアスは寂しさを覚えていた。加えて、先日の庭での事について話そうにも、それより先に部屋は移動し、彼女と話す機会さえない。経過観察の三日間の間も、何もなかったように振る舞い、無難な会話に勤しんでいた。それに悔いてはいても、結局彼女の元に足を運べてはいない。拒絶が恐ろしく、躊躇いに問題を引き延ばして、辿り着いたのは今の状態だった。
(俺にできること………)
何度も考えた。だが、サクヤの、若しくはこの城に降り掛かっているであろう問題を、己如きが解決できるなら、とうにディアゼルが解決している筈である。また、そうであるならば自分にできる事は果たしてあるのか。天災とされる『狂熱』に不可能な事を己が果たせる確率は極めて低い。ユリアスはそれが分からない程愚かではないつもりだった。
(……まずは情報だな)
情報がなければ何も出来ない。当たり前の事だった。情報を得る為にも、サクヤともう一度話をするべきだ。しかし、やはり恐ろしい。もし、また彼女に拒絶されたらと思えば、足が重くなり、思うように動かなくなる。全くもってやるべき事の目処が立たず、結果は現状維持に落ち着いてしまっている。
「お客様、如何されましたか? お食事が合わなかったでしょうか」
ぼんやりと思いを巡らせていると、隣から新たにユリアスに付けられた世話役の執事、オーエンが尋ねてくる。その声に、顔を動かさずに視線だけを自分の手元に落とす。片手に持っていたパンも、薄い味付けのスープも、気付けば既に消えていた。
「いや、美味しかったよ。少し考えごとをしていただけだ。『亡き霧の王に感謝を』」
食後の挨拶から少しして下ろされていく食器をなんとはなしに眺める。そうしていると、不意に扉が軽く叩かれ、くぐもったエリーの声が部屋に響いた。
「御客様、少々お時間を宜しいでしょうか」
◇ ◆ ◇ ◆
どうせ暇でしょう?そう言い放ったエリーに連れられて、ユリアスは廊下を歩いていた。ロイクは今日も何処かをほっつき歩いている。大方、誰かに餌付けでもされているのだろう。
「それで…何の用事なんだ?」
「暇そうな労働力がいるのですもの。これを利用しない手はないでしょう?」
仮にも客人に対する態度では無いが、ユリアスとしては不満はない。それもそうだと頷いて、エリーの背中を従順に追う。この城を襲っている事情を欠片であっても掴める可能性があるし、ユリアス自身、労働は嫌いではなかった。
「分かった。だけど、その前に寄りたい場所がある。良いか?」
「ええ。いいでしょう」
言ったユリアスが赴いたのは、中庭の庭園、その奥隅の、三日前サクヤと共に来た、その場所だった。
己の心の確認がしたかったのだ。
「やっぱ、綺麗だな……」
賛美の言葉を呟きつつも、浮かれた気分には成れそうにない。思い出すのは、どうしようとも、彼女の横顔を伝う一筋の涙だ。それを気のせいだと断じるのは、容易なようで困難だった。
三日前は気にならなかった霧で湿った空気が、雰囲気が、重くユリアスにのしかかる。先日とは打って変わって冷たい風に戦慄く。
静かに重く響く噴水と、そこに貯まった、ゆらゆらと潤む水を眺める。ぴちゃん、と朝露の雫が、小さな水溜まりに跳ねた。
唇が震えていた。そのしなやかな指先もまた、震えていた。そして、その長い睫毛も震えていた。
何を考え、何を思っていたのかは分からない。それが恐ろしい。また選択を誤りそうで。
「忘れることは、できない……」
あの時溢れた想いをなぞる。
今までは忘れてきた、忘れてこれた筈だった。オークに襲われた女性も。路地裏で冷たくなっていた浮浪児も。裏切りにさえも。忘れて、目を瞑って過ごしてこれた筈なのだ。
なのに。人が変わっただけでこう、とは。思っていたより、幾分凍えた自分の心に、義憤と不信、恐れ、そしてそれら全てに対する失笑が生まれた。
だが、そんな事は然程間を置かずに忘れ、サクヤについて、それだけに書き換えられ始める。
「……」
「お客様、もう宜しいでしょうか」
長かったか、短かったかは分からない。きっと、しばらく呆けた様に庭園を眺めていたのだろう。それを破ったエリーの声に、ユリアスは我に帰った。
「……ああ、もう良い。ありがとうな」
結局、思いは変わらない。諦めるべきかは分からない。だが、同時に彼女がどの選択肢を望んでいるのかも分からなかった。
頭を振って気持ちを切り換え、エリーに頼みを聞いてもらえた事の感謝を伝える。それに頷き、エリーは説明を始めた。
「さて、ではそろそろ行きましょうか。先ずこの城の敷地には御客様をお迎えする為の住館を始め、幾つかの施設があります。今日行うのは、それらの内特に手入れを後回しにされたモノの掃除です。よろしいですか?」
「分かった。暇なのは確かだからな。任せてくれ」
言って、顔を上げて辺りを見渡した。この城は不思議な構造をしている。住人の為の住館も、客人の為の館も、玉座の間があるであろう本館も、建物全てが縦に横にと繋がり、連なっており、加えて上に上にと積み立てるように建造されている。空間を三次元的に利用した構造は一見意味不明で、中に入れば更に訳が分からない。こんな城を探索した日には、迷子になること間違いなしだ。
「では先ずはさっき言った別館に行きましょうか」
「ああ、了解した。……それと、妙な事に付き合わせてすまなかった」
「気にする事はありません」
「……そうか」
「ええ」
エリーの後を追う間、奇妙な沈黙に堪えかねて、ユリアスが口を開こうとした途端、先は取るようにエリーが話を始めた。
「お客様」
「え?」
「御嬢様と何かしら揉めた、とか」
「………申し訳ない。好意でこれ程の待遇を受けているというのに」
落ち込むユリアスに、エリーは首を振り、否定の意を示す。どうやらそういう事が言いたいのではないらしい。では、何が言いたいのかと、ユリアスは視線でエリーに問うた。
「ええ、まあ、私としても思う所はございますが、それはそれで良いのです。御嬢様が誰かと揉めるなど始めての事ですから」
「揉めているのに、良いのか」
「ええ」
「分からないな」
「それに、待遇の事はお気になさらず。ただ、閣下が優しすぎるまでの事。……己の願いすら見失うほど」
種族が悪魔だから、であろうか。時折り、彼女の言葉は正しく意味を汲み取る事が困難になる。最後の呟きの真意は特に捉え難い。彼女も自分の主に不満の一つや二つあるのかも知れない、と思うのが精々だった。
「私は御嬢様の件に関しては寧ろ感謝しているんですよ」
「感謝?」
「喧嘩をする、という事はそれだけ御嬢様がお客様に気を許されている証。御嬢様には遠巻きに見る配下は居ても、気を許せる友人は居ません。なので、私は貴方に感謝しているのです」
ええ、ですからと彼女は言うと、その場に居直りユリアスを見据えた。
「改めまして。霧の城、セインドロゥへようこそ、御客様。少なくとも私は歓迎しておりますよ」
喧嘩ではない、と言い訳のように呟くも、少し心が軽くなった。そういう見方があるとは思ってもみなかった。
「エリー、ありがとう。少し気が休まったよ」
「いえ。気が休まったと言うなら、御礼は御嬢様に。城に来たばかりの頃の貴方は、直ぐにでもぷつり、と千切れそうでしたから」
「え……」
「まさか、気付いていないのですか? 何も救われたのは御嬢様だけではありませんよ。お客様は随分と精神が擦り切れていたようですけど。……まさか、本当に気付いていないのですか?」
「………」
自覚は、どうだろう。恐らくはあった筈だ。
だが、改めて言われ、思った以上に摩耗していた事を実感する。それはずっと、敢えて目を逸らしていた事だった。
「そんなに俺は分かり易いか」
「ええ。寧ろそのような酷い隈で気付かない訳がないでしょう? それに私は『悪魔』ですよ? 感情の機微には聡いのです。悪感情や弱みに関してならば、一際に」
「…なるほど」
『悪魔』は嘘を吐けない。ユリアスは限界にあったというのも、彼女が断言するなら本当なのだろう。
「今度、サクヤに礼を言いに行こう」
「ええ。それが宜しいかと」
「着きました」
ユリアスが居候させて貰っている場所、居館と言うべき場所から出て、着いた先は居館程の絢爛さは無いものの充分煌びやかと言って良い館だった。
「ここは?」
「先に言った通り、別館です。別棟と呼ぶ人もいますね。以前は本館及び居館の居住区に入り切らなかった魔王の配下がここに住んでいました。今ではこれと言った用途は有りませんが、この城に来たお客様は基本ここでお泊まりになって貰っています。ちょっとした事情があってユリアス様は居館を使って頂いておりますが」
「へえ」
過去、この城には巨大な本館に入り切らない程に魔王の配下が居たらしい。そして城壁の外の廃墟から考えるに、この異常な大きさの敷地にも入り切らない数の魔物、魔族が居たのだと想像できる。最盛期の魔王軍は何百万という数の兵が居たというが、あながち嘘では無いという事か。
「入りましょうか」
先導するエリーの後ろを歩きながら辺りを見渡す。使っていなくても掃除だけでもしているのだろう、見る限り居館とそう変わらないレベルで綺麗だった。
「ぱっと見た限り掃除する必要はないように見えるけど……」
「屋根裏の掃除がまだなのです。こちらへどうぞ」
別館の廊下を歩み進む。人気は全くなく、だというのに完璧に整った内装がいっそ不気味にさえ見える。横に目線を遣れば、ガラスに己の姿が映った。
「エリーを含め、この城のヒト達は外の世界について詳しく知っているのか?」
「さあ。知りませんね。あまり興味はありませんし」
「……エリーは人間の世界に『召喚魔術』で喚び出された事とかはないのか?」
「いえ、ありますよ。私を召喚しようとする輩はかなり多いですね。とは言え私は勿論、閣下を召喚するには相手の格が余りにも足りません。それに、応えるにしても、そもそもこの城には召喚系統の魔術を弾く結界が敷いてありますので」
「…なるほど。召喚も良い事ばかりではないからか」
「勿論。報酬も出こそしますが、力を貸せば相応の魔力を失います。強力な召喚魔術などは、もはや強制的に魔力を搾り取る為の魔術と変わりありません。そんな訳で、最近は召喚される機会も滅多にないですね」
悪魔召喚で喚び出される回数は、知名度に左右される。エリーの名に聞き覚えがなく、猜疑の視線を彼女へ向けると「……私、これでも名の通った悪魔ですからね?」と抗議を受けた。
強力である程喚ばれる回数が増え、必然的に有名になるが、ディアゼル程の大物になると逆に名前を伏せられ、二つ名で呼ばれる。一般人はディアゼルの名前すら知らない。名を口にするとそれだけで命を取られる、等という噂があるからだ。本当かどうかは定かでないが。
記憶の奥をひっくり返せば、エリーと言う名も何処かで聞いた様な気がしてくる。いや、『エリー』そのままの名前では無いかもしれないけれど、それが愛称になりうる名前が…………
と、もう少しで思い出すという時に目の前のガラスに妙なモノが映った…様に見えた。
「?何だ、この窓ガラス」
「窓ガラスがどうかしましたか?」
「えーっと……」
今、ユリアスが映ったと同時に全く別の顔すら知らない人物が映ったような気がしたのだが……気のせいだろうか。この城は呪われていそうで、何があっても驚けない。ユリアスの背筋を、緩い悪寒が走った。
「さあ、後もう直ぐで屋根裏です。張り切って参りますよ」
エリーはと言うと怪奇現象に欠片も興味を示さない。この城では日常なのだろうと結論付けて、ユリアスもまた気を入れ直した。
◇ ◆ ◇ ◆
屋根裏は悪霊達のパラダイスだった。蜘蛛と幽霊の巣窟と成り果てた屋根裏で、エリーはゴーストを千切っては投げ千切っては投げ。ただの掃除だというユリアスの思惑は外れ、彼もまた掃除道具でゴーストを叩き殺す羽目になった。その後も様々な場所に赴き、その度に厄介な清掃行為を繰り返した。
ユリアスという部外者が城の事情について嗅ぎ回っていると知れたら、ディアゼルらに情報を隠されるかもしれない。そのため直接的な聞き込みは避け、己の目と耳だけで情報を得る事が理想である。それがユリアスの考えだった。しかし、何も掴めはせず時間と体力だけが無為に消えていく。
現在は休憩がてら、広場へとやって来ていた。広場は本館から離れた、一般住民達の住まう一角に存在する。一部の要人やその使用人らが本館や居館に住み、対して一般城民らは少し離れた位置に居を構えており、この広場は彼らの憩いの場となっていた。
「……疲れた」
「この程度で疲れるとは情けない」
「そう言わないでくれ。病み上がりなんだ」
「甘えた事を言っている暇はありませんよ。まだもう一つ二つくらいならば回る時間はありそうです。少し休憩したら次に行きますので」
エリーに了承の意を返して、ベンチに腰を落ち着けたまま、広場に視線を投げる。広場の中央には、中庭にあったものより二回り大きい噴水があり、それを取り巻くように市場が開かれている。トリンズの街でも見た光景であり、不思議と親近感を感じさせる光景であった。しかしその商品はトリンズと異なり、魔王城色が豊かに出ている。悪魔と魔族用に織られた衣服から始まり、鳥の羽根を煮込んだスープであったり、何かしらの魔物から取れたらしい油であったり、蔦蛇と呼ばれる魔物を象った厄除けであったり。遠目に見える何れもがユリアスの知らないモノだった。
薄い霧に包まれた辛気臭い外観とは裏腹に、多くの悪魔・魔族が集い、活気に満ち溢れている。悪魔や魔族と言えど、日常の中においてその残虐さが身内や同族に向けられることは少ない。羽や角、尻尾や目などの見た目を抜けばそうヒュームと変わらないようにすら見える。
「子共もいるんだな」
ユリアスの口から、軽い驚きの響きを伴った言葉が漏れ出た。
視線の先、噴水の周囲では悪魔の子供達が追いかけっこをしている。噴水の周りを走り回っているだけなのに、これ以上なく楽しげに、無邪気に笑っていた。悪魔は半精神生命体であり、その特徴として精神年齢が肉体年齢と直結している。邪気なく遊ぶ彼らが何年、何十年、或いは何百年生きているか、ユリアスに知る由はないが、それでも彼らは紛う事なく子供と言えた。
「当たり前でしょう。何を言っているのです」
「……そうだな。何を言っているんだか」
ユリアスの視線に気付いた子供達が、保護者へとあれは誰かと質問しているのが見える。保護者から納得いく答えを得たのだろう。ユリアスの方へと向き直ると、元気よく、笑いながら大きく手を振った。
「……!」
今度は、先ほどより強烈な驚きに、小さく目を見張った。
子供に手を振られた事などユリアスにはなかった。その気配から恐れられ、避けられ、誰もがユリアスの瞳を見ない。年端も行かない子供から、屈託のない笑顔を向けられるのはこれが初めてで、奥底から湧き出る気持ちに押されて、ユリアスもまた手を振り返した。
「……さて。もう休憩は済みましたでしょう? さ、行きましょう」
「分かった、分かったよ……あ」
「にーう」
言葉を止めるユリアスと、彼を急かすエリーの視線の先には、黒の毛並みに紫の瞳を持つネコ、即ちロイクが居た。今朝ぶりに見る彼の姿に手招きをする。すればロイクはこちらに近寄り、ユリアスの足をついと突くと、もう一鳴きした。
「何を伝えようとしているのです? 従魔契約を結んでいるならば分かるでしょう?」
「着いてこい、って言ってるな」
「どうします?」
「時間的に問題ないのか?」
「ええ。一つ行く場所が増える程度なら問題ありません」
「なら、行ってみようか」
よしよしと頷き歩き出す黒猫を追い、ユリアスとエリーは霧に煙る敷地内を進んで行く。迷いもなく進むロイクの姿を見るに、余程この城の構造に熟知しているのだろうと察せられた。
「ここは……?」
ロイクに案内されて辿り着いたのは、寂れた空気の一帯だった。眼前には朽ち掛けた石扉があり、良くない気が漂っている。手入れが成されていた別棟とは異なり、こちらは殆んど立ち入られる事もなかったのだと見て取れた。
「地下牢ですね。この辺りは以前…数百年前は城壁に加えて詰所と地下牢があったのですが……城の拡張と共にそれを壊し、放棄したのです」
「つまり、今は使われていない牢屋ってことか」
「そうなりますね。丁度良いですから、ここも掃除していきましょうか」
「ああ…っておい!ロイク、待て!」
目を凝らすと、両開きの扉の間に僅かながら隙間が空いているのが見える。ロイクはその隙間に身体を捩じ込むと、ユリアスの静止の声を振り切り、そのままするすると奥に行ってしまった。
「追いかけますか?」
「そうしよう。放っては置けない」
放棄された旧地下牢。一番何かしらが出てきそうな感じがする、いかにもといった所だろう。エリーの手によって古びた音を発て開かれる扉を視界に収め、戦闘の気配に覚悟を決めた。
カツン、コツンという足音と共に螺旋階段を降りていく。中には過剰な装飾はなく、黒い布に青い紋章が刻まれた旗が所々掛かっている程度だ。その旗の紋章はやはり、魔王の胸に浮かび上がるという『魔王の紋章』だった。
「嫌な空気だな……」
特殊な建材を使っているのか、土属性魔術で修復しているのか、内部に目立った傷はない。しかし、魔動ランプの灯りが暗く設定されているため不気味な印象を受ける。建材である石材が黒寄りの灰色である事もまた、不気味さを際立たせていた。しかし先に行ったロイクを思えば止まることは出来ない。
想定よりも階段は長く、段差を降りる音が幾重にも反響し、それが延々と続く。それ以外は何の音も起つことはない。互いに黙っていると牢屋に到着したのか、黴の付いた扉の前で、やっとエリーが口を開いた。
「着きました」
扉の奥から何やら嫌な気配がする。空気も妙だ。以前、悪精霊の造った迷宮に入った時に感じた違和感と同じモノを背筋に覚える。
「……異界化している?」
「その様ですね。随分とまあ沢山の幽霊がいるのでしょう。ほら、ご覧下さい」
言ってエリーが指差した方に目を向ければ一見ただの壁が目に入った。
「壁だな」
「いえ、まあ壁ですけども。ほら、魔力の揺らぎが見えるでしょう?」
「まったく分かんない……」
悪魔と同じにしないでもらいたかった。亜精霊に区分される悪魔は、精霊種と同じく魔力を感じとることに長けている。悪魔であるエリーに分かっても、純人種でしかないユリアスに分かる訳はなかった。
「ここをこうするとですね……」
「は?」
エリーが脈絡なく壁を殴る。鈍い爆発音に次いで軽快な音が鳴れば、その石壁はたちまち崩れ、ユリアス達の足元に靄が流れ込んできた。
「はい、通れます。このようにどこかしらに魔力の歪みがあるので、それを消失させれば異常は解消されます。異界化すると、道が増えたり消えたりと厄介ではありますが、揺らぎにさえ気付ければどうにでもなります。覚えておいて下さい」
「これってただ単に殴って壊したんじゃないの?」
「まさか。魔力の歪みを拳で正したんですよ」
「強引だなあ」
思わず困惑の声が漏れるが、ユリアスはそんな事に気を回している暇は無いらしかった。
「…エリー、奥に」
「ええ、居ますね」
「ロイクもこの先か」
その視線の先には、靄の充満する地下牢が、なにより、そこにたむろする悪霊の群れがあった。それはどう見ようとも良いモノではなく、怨念による不吉な、それも放置を推奨されるような現象ではない事は明白だった。
怨念、つまりは瘴気を馬鹿にすることは出来ない。人の意思は魔力を帯びており、集まれば相応の力を得る。それが悪感情から生じた力ならば、当然ながら周囲に牙を剥き始める。ロイクがどのようにこの先へ行ったかは知らないが、ユリアスらが通るには、この魔物共を蹴散らさねばならない。
廃棄され、放置され、長期間手入れも満足にされていなかった事で、この地下牢は良くない気の溜まり場になっている。濃厚な瘴気が靄を生成し、霧も合わさり視界は殆んど通らない。エリーが魔術で灯を点け、それによって僅かばかり景色が広がった。ゆっくりと、緩慢な動作で悪霊の群れが動き始める。異様に白く細長い手が、その指先が、靄から抜き出てユリアスらへと延ばされる。
「御客様、これを」
「これは…」
「今創りました」
エリーはユリアスの目も見ずに、魔術製の直剣の切っ先を指先で挟み持ち、その柄を彼へ差し出す。ユリアスもまた、隣のエリーをその気配だけで窺いながらも、受け取った剣を中段に構えた。
「どうする?」
「そうですね…右の六体を私が。左の四体はユリアス様にお願い出来ますか?」
「分かった。奥のアレは?」
「私が引き受けましょう」
エリーが言い終わるや否や、ユリアスは剣を閃かせ、眼前のゴーストの核を貫いた。そのまま己の受け持ちである左に一歩踏み出し、その剣先を油断なく構えた。
(視界に限りはあるけれど……)
見た所、相手は典型的な『悪霊』、ランクCの魔物だ。屋根裏で相手したモノと同じ魔物。
基本魔物は自身と同種、或いは自身の下位種の魔物のみを指揮する。となれば奥の最も気配の強いアレがリーダーで後はそれに率いられていると考えるのが適切だ。
「スッ…ゥ」
病み上がりではあるが、相手はCランク程度の敵であり、掃除道具ですら殺せる相手だ。警戒はしようとも、遅れを取るつもりは無かった。
「シ!」
上からの覆い被さってくる攻撃を半歩下がる事で避け、切り上げでこれもまた核ごと絶ち切った。魔力体を切ったとき特有の微妙な抵抗をそのままに、下から手を伸ばす悪霊を人間の肩に当たる部分から腰まで袈裟掛けで切り殺す。
「これで終わりか」
抱き付こうとしてくる悪霊の核を貫き、引き抜くと剣を下ろす。魔力で編まれた剣のお陰で、魔力体である悪霊を容易く殺せた。悪霊は魔力体である為に物理攻撃が通らないからこそのCランクだ。攻撃さえ通ればDランク程度の難度しかない。リハビリには丁度良いと言えるだろう。
「エリーは…大丈夫そうだな」
エリーの方を見れば、左右から遅いかかる悪霊を避け、何処からか取り出した銀の長剣で直ぐ様真っ二つにしていた。殺しきった事を確認すると、迷いの無い足取りで靄の中を歩いていく。少しすると逃亡を試みる一際大きな悪霊が靄から飛び出した。が、背後からエリーの剣で鮮やかに切り捨てられる。最後の一体を易々と葬り去ったエリーは、剣をまた何処かに仕舞い込み、こちらに向き直った。
「さ、終わりましたね。奥の方にはまだまだ居るようですけれど、どうします? 流石にあの数を一度に相手するのは少々面倒ですが……やはり、追いますか?」
「そうしたい。付き合ってくれるか?」
「勿論。良いでしょうとも」
エリーに手短に感謝の言葉を述べ、一歩踏み出す。ロイクは強力な魔獣だが、絶対に怪我を負わないとは言い切れない。漂う靄を掻い潜り、埃に塗れた地下牢を往く。時折りロイクの名を呼びながら、片手間にゴーストを斬り裂きながら、靴音を連れ添い歩みを進めた。
「ロイク───?何処にいるんだ──────」
コツ、カツ、コツ、カツ。規則正しく繰り返される足音は、靄に紛れて消えていく。石壁と鉄格子に手を添わせ、頼りない灯を補い歩む。埃臭く、何より瘴気臭い。周囲に渦巻く気配に神経を尖らせ続ける。
今は、探索を初めて、二分経つか経たないかという頃合いだった。幾ら斬ろうと減る兆しのない悪霊共に辟易し、もう一度ロイクの名を呼ぼうと、口を半端に開く。
その間際の事だ。音が聞こえた。それは、ガシャン、という無機質な音と…そして何かの起動音だった。
『資格所有者の来訪を確認。速やかに起動シークエンスに移行します』
◇ ◆ ◇ ◆
月は、黒神王が夜の世界を監視する為に配置した隻眼だと伝えられている。故にゆっくりと閉眼から開眼まで、十五日程掛けて満ち欠け、つまりは瞬きを行う。今宵は完瞳の二日前の夜。開かれかけた夜空の瞳が、魔王城を照らしている。
ディアゼルは日課の魔剣の手入れを終え、元『謁見の間』から出た。魔剣は神器であるから本来手入れは不用だ。しかし、『あの御方』の命を度々救った物だと思うとつい此処に足を運んでしまう。命を救った剣が原因で魔王として目覚め、殺される、とは因果なものだった。
「おや、閣下。また日課のアレですか」
「ああ。オーエンか。もう今日の仕事は終わるのであろう? 閣下、等と堅苦しく言う必要はない」
「分かりました、父上」
執事服を身に纏い、くすんだ金髪の青年はディアゼルの息子の一人であるオーエンだ。悪魔らしからぬ好印象を与える笑みを張り付けているが、これでも血統書付きの悪魔である。
「姫君はどちらに?」
「あの娘はまだ力を上手く扱う練習をしている。邪魔をするのも悪いと思って私は出てきたが……」
姫は魔王の写し身だ。より詳しく言うならば、神宿者『魔王』の代わりとなり得る存在、その失敗作である。その力は不完全で、神器たる魔剣に触れていなければ殆ど力を扱えない。彼女が魔剣に触れずに扱える能力は『眩惑』位だった。故に毎日欠かさず訓練をしているが、中々上手くはいっていないようだった。
「そうですか……」
「そんなもの、無くても良いのだが…あの娘は些か気にし過ぎている」
「……それは、伝えなければ姫君も分からないでしょう」
「分かっては、いる。なんだ。やはり気になるか?」
「当たり前です。姫君は私の…我らの妹、或いは娘のような存在ですから」
訪れるのは沈鬱な静寂。この城の誰もが彼女、サクヤを気にしている。
魔王の忘れ形見。魔王の写し身。
それらの肩書も、当然関係している。それでも、それに関係なく、サクヤの事を愛していた。だが、それが、サクヤ本人には伝わっていない。彼女は自身の立場を気にし過ぎていた。
そこに現れた、『魔王』にして『お客様』、ユリアス。彼は瞬く間に彼女と仲を深めた。そうなれば、城の中はその話題で持ちきりになる。
ディアゼルの手前、それを軽々しく口にはしないが、オーエンもそうなる事を望んでいた。
………兄として思う所がなくはないが。
そんな事を考えていても仕方がない。悪魔とは絶望を与えるモノで、嘆くモノでは決してないのだから。オーエンはそう己に言い聞かせて、表面上は、娘、或いは妹の成長を祝うことにした。
オーエンは廊下を歩きながらディアゼルに話しかける。今日は、少しばかり用事があった。
「父上。どうでしょうか、偶には一杯付き合っては頂けませんか?」
「ほお、これは珍しい」
言いつつもディアゼルは快諾し、その場で軽く談笑した後に両者はディアゼルの部屋に向かう。すると、歩いている途中で窓から少し疲れた様子のユリアスと、ピンピンと元気なエリーが見えた。
「奴は何をやっているのだ。奴の事だから考えなしではないと思うが……」
眉間に皺を寄せ、唸るディアゼル。それを宥めるオーエン。
エリーは元々ディアゼルに忠実ではないし、妻のユキも娘のカザハナも最近ディアゼルに当たりが強い。身近な味方は息子のオーエンだけだ。瞳の奥に呆れを忍ばせるディアゼルを、オーエンが笑い混じりに宥める。いつもと変わらない、日常の一幕だ。
そんな、穏やかな空気も瞬く間に張り詰める。
窓に向けた目をそのまま霧の奥に遣り、人外の鋭眼は捉えた。今は動かないソレを。
「…ッ……先日消耗させたとはいえ、ヤツはやはり油断ならん。何か、不都合はないか? 奴等神獣共は我々神宿者と似通った術を使う。何をしてくるか、分かったものではない」
「…そうですね。今はまだ特に何も起きていませんよ。これも父上のお陰です。しかし、父上こそ大事はないのですか? 今まではヤツがこの城を襲撃し、それに父上が反撃する形でしたが……ここ一ヶ月は違うではないですか。ヤツが城に近付かないように、父上自ら赴き、ヤツを叩く。これまでとは勝手が違うでしょう?」
「問題ないさ。腹立たしい事に浅からず傷は負うが、それでも未だ、私の焔は盛っている」
神獣を抑えれば、その分ディアゼルも傷を負う。あの神獣はディアゼル達悪魔にとって、天敵と言えた。
ディアゼルは強い。彼こそは正しく伝説に吟われる大悪魔だ。
神の魂は基本、神代から幾度も死に、生まれ変わり、転生を繰り返している。だが、ディアゼルは違う。神として生きた、その次の生から後、一度も死んでいない。規格外だった。ここまで永く、行き長らえている神宿者は精霊の長、騎士の長、天使の長を含め四人のみだ。
彼の逸話に限りはない。
その一つが、悪魔の長は、神宿者としての『衝動』を乗り越え、力を己が物としたというものだった。
神宿者は記憶が微かに引き継がれるからこそ、欠点がある。前世の『想い』までもが受け継がれてしまうのだ。『前世』は死ぬ度に増え、想いは積もり積もって狂気と化す。
一度の生による『衝動』とは言え、『白』の神々に対する憤怒は消え去る事はない。その衝動はいずれ『白』だけに留まらず、目に付く全てを燃やし尽くしていた事だろう。それでも、ディアゼルは確かにそれを乗り熟してみせた存在だった。
悪魔の王、Sランク神宿者『悪魔公』、ある時は『暴虐』、またある時は『狂熱』。その名は伊達ではない。その武勇のままに、怒りのままに破壊を尽くすも良い。知略を以て破滅に誘うも良い。大抵のものはどうとでもなる。
だが、神獣は違う。アレは神宿者と同じく人間と理を違えるもの。ディアゼルでさえ死ぬ可能性があった。特に、ディアゼルは外の神獣の能力と致命的に相性が悪い。全盛の頃ならば兎も角、今の彼では荷が重い。
「もしもの為に、姫君と御客様だけでも此処からお逃げになって頂いてはどうですか?」
「……無論、そのつもりだが、事は慎重に進めねばならん。分かっているだろう? 御客人が生きて城まで辿り着いた事すら奇跡の様なものなのだ。今でさえ何時奴が動き出すか分からない。その気になれば無理にでも動くだろうよ。今はただ、御客人の気配を気取っていないからこそ、狸寝入りをしているだけだ。起きたが最後、ヤツは何処まででも御客人を追うであろう」
「………ええ、あの畜生はやたらと頑丈で、やたらと粘着質ですからねぇ……全く持って、忌々しい。ァア、思い出しただけであの木偶の坊の腸を抉り出し、頚を掻き切って殺りたくなるッ!」
普段は紳士然としている、オーエンことオーエノルドの奥底から、悪魔らしい獰猛さが覗き見る。ギリ、と歯を食い縛る音を立てて顔を歪めたオーエンに、ディアゼルは宥める様に語り掛ける。
「忌々しいか。理解は出来るが、それに点火すべきは今ではない。来るべき時まで喉元で堪えよ。我等は悪魔。己の悪感情さえも力に代えて見せよと、教えた筈だ」
「……………ぇぇ、ぇぇ、ええ、ええ!そうでしたね。そうですとも!それは、分かっていますとも。充分にね。ですが!」
「オーエノルド」
「…」
父親譲りの激情は強烈にして苛烈。だが、過去数多の国を滅ぼしたその炎も、悪魔公の前では未熟な癇癪に過ぎない。オーエンは押し黙り、それ以降会話が続く事はなかった。
息子の未熟を嗜めながら、ディアゼルはその息子を伴い、自室に向かう。ディアゼルの部屋は近い。程なくして到着し、二人は言葉数少なく入っていく。
その部屋は、魔王からの褒賞が数多く飾り置かれている部屋だった。オーエンも見覚えのある褒美の数々に、否が応でも歴代魔王の顔を思い出させる。ここは、そういう部屋だった。
ソファに座ったディアゼルに変わり、オーエンがワイングラスを引き出す。ディアゼルへと何れを飲むのかを尋ね、オーエンは戸棚からつまみとワインを取り出し、グラスに注ぐ。
暫くは当たり障りのない会話を続けた。グラスを片手に、城民らの様子や使用人達の仕事ぶりなどについて語った。瓶の底が見え始めた頃、ワイングラスを戯れるように揺らしながら、ディアゼルは息子に問うた。
「それにしても、急にどうした? 普段は酒など呑まないではないか」
その問いを受けながら、オーエンは視線を下げたまま、赤く揺れる液体を眺めていた。
「貴方に聞きたい事が、あるのです」
オーエンの中で、ディアゼルとは魔王と共にある存在だった。魔王を抜けば軍の誰よりも強く、何時であっても最前線に立ち、強敵・難敵を鏖殺する。魔王に最大の忠誠を誓い、王の第一の剣として堂々と振る舞う。
それが、オーエンが畏れ敬い心酔する父の姿だった。彼にとって、悪魔公とは魔王の側にあってこそなのだ。
それを、彼は伝えたかった。貴方はそれで良いのかと。魔王なくして悪魔公でなく、悪魔公なくして魔王ではない。貴方の心の底からの願いを聞かせて欲しいと、そう言い放ってやりたい。
「父上は……ッ陛下を……」
けれど、喉につかえて止まってしまった。ディアゼルの瞳が、オーエンを貫いていた。お前の言いたい事は解っていると告げるその目に、オーエンの喉は一度締まり、その後に言葉は堰を切った。
「父上はッ……それで良いのですかッ…魔王陛下の御隣でその剱となる事が生きる道だと、貴方は仰った!本当は再び陛下と並び千年王国を、いや、万年続く我らの王国を造り、無論その頂きには魔王陛下が君臨するッその様を目の当たりにしたいのではないですか!?私はしたい!魔王居てこその我々だ!あの御方が居てくだされば魔族はまた一つになる事が出来る!いがみ合う人狼と吸血鬼も、再び手を取り繁栄を掴み戻す事が出来ると!今代の魔王陛下は間違いなく歴代随一の天才だッ貴方も見た筈です!あの体幹も立ち振る舞いも、鍛え磨かれ既に完成しつつある!死闘を知っている者の眼をしている!あの御方がいれば!我々は!俺は……ッ!!」
ディアゼルの口許に苦笑が滲む。オーエンの台詞は何も的外れな戯言ではない。
本当はまた隣に立ち、時には背中を合わせて戦い、時には些細な事で共に笑う。そんな六度も繰り返した幸せな日々をもう一度、と心の何処かで思っているのではないか? その問いに否を突き付けることは出来なかった。
玉座の間にて、志を同じくした同胞達と肩を並べ、彼の王に首を垂れる。あの盲信と忠誠が愛おしい。魔族の為の大国家を造る、あの夢をまた見たい。いや、目的などどうでも良いのだ。彼の魂に、盲目たる忠節を捧げたい。その気持ちは、紛う事なくそこにあった。
「オーエン、お前の言葉の通りだ。本心を吐くならば、私も二百年前を夢見るさ」
「ならばッ」
「だが、ならんのだ。魔王陛下は、魔王となったその時から、勇者と殺し合う運命を定め付けられる。同胞を失い、そして無惨に殺される。魔王となったあの方に、幸福は訪れない。だから、それはならん」
「……ッ。私はッ…私は、もう一度、貴方の配下として、偉大なる魔王軍元帥たる貴方と共に、我らが王の為にこの魔腕を振いたい。そう願う事も、叶わないのですか」
夜の訪れと共に静寂を得た部屋に、染み入るようにオーエンの声が消えていく。その姿を見て、ディアゼルは席を離れ、棚へと足を向ける。怒らせたかと身を固めるオーエンを置いて、ディアゼルは小型のワインセラーから更に数本、酒瓶を取り出した。
「そうは言わんさ。願う事は自由だ。私とて気持ちは同じだ。さあ、飲め。存分に酔って昔噺でもしようではないか」
圧迫された空気が弾ける音がして、芳醇な香りが二人を覆った。細やかな水音がグラスに流れ落ち、シャンデリアの光にワインが透き通って煌めいた。
「……ありがたく頂戴します」
オーエンはグラスを傾け、酒のあてにチーズを摘む。酔った頭は過去の栄光を追い掛ける。
この巨大な城にすら収めきれない程の民が、魔王の下に集っていた。今では悪魔と僅かな魔族しか住まないこの城にも、二百年前はあらゆる種族が住んでいた。熱にぼやけ、白昼夢を見るように、それらは思い出される。
外は未だ暗く、不吉な濃霧に覆われている。魔王城の夜は長く、ゆっくりと闇は深みを増していった。
精霊信仰について:
精霊には大きく分けて二つの種類があると、近年の研究で判明した。一つは神代の頃からこの世界に存在しているとされる、自然の化身としての精霊。もう一つは我々人間の信仰や恐怖などの意識が、魔力を帯びる事で産まれた精霊である。どちらも共に精神生命体であり、我々人間が彼らをどのように扱うかによって、その性格を変化させる事で知られている。崇め、畏れる事で我々の良き隣人、良き守護者へと変じるこれらを、真の神亡き後、新たな神として信仰する者が増えた。(中略)
このようにして、時代は大神信仰の時代から、精霊信仰の時代へと移り変わって行ったが、今尚、北部大陸では古き神々の信仰が盛んである。
『精霊、その正体』 マリノルノ・ターズクス著 より一部抜粋