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01 始まりのお話

一度消していたんですが、どうせならと思い再投稿しました。

残弾が尽きるまでは毎日更新の予定です。


 眠りに就く前。身体の力を抜いて、目を閉じた後。

 覚束ない記憶を辿って、掴んで、思い出に浸る。今となってははっきりと思い出せない幼少期の、苦悩はあっても楽しかった頃の記憶に、深く落ちていく。


 その追憶は、歳にしては随分と大人びた口調の彼女の、妖しく響く声で始まった。












ん? なんだい二人共? おねえさんに何かご用かな?






え? 今日もお話をしてほしいって?

うーん、そうだねぇ…。

じゃあ『 始まりのお話 』にしよう。この話、あんまり明るくないし、子供向けとは言いがたいけど……この世界で一番有名で、知っておくべきお話だからね。良いかい?






え? 本はなくていいのかって? 大丈夫だとも。…すこし、抜ける落ちるところはあるだろうけどね






お礼なんて良いってば






ふふ ありがと。じゃ、するよ?





 むかしむかし、遥かかなたの神代と呼ばれていた頃より更に昔のお(はなし)から始まります。


はじまりのあるとき、北、南、東、西の四つの大陸と、大いなる神が四柱生まれました。

その内の一柱の男神が、南の大陸の、更に南の果てで目を覚ましました。その男神はやがて黒の王神や、黒の王、黒王等と呼ばれるようになる男神です。そんな男神が目覚めたのはとても静かで霧に包まれた、寂しげな土地でした。


男神は最初の神の一柱でした。そのため、男神には名前がありませんでした。神に名前をつけるにはその神と同格か、より高位の存在でなければならなかったのです。ましてや、彼には語らうことのできる存在すらいないのですから、名前などあるはずもありません。


男神は孤独でした。信頼できる仲間も家族も、それどころか意思の疎通ができる相手すらいなかったのです。男神はその場所に留まって客が来るのを待ちましたが、いつまで待っても誰一人として客は訪れません。大陸中くまなく探索しましたが、それでも何も見つかりません。

寂しさに男神が溜め息を溢せば、霧はますます濃くなります。一人に耐えられらなくなった男神は他の大陸へと旅に出ることに決めました。仲間探しの旅です。


始めに、男神は東の大陸に向かって歩き出しました。大陸と大陸の間には海が広がっていましたが、男神が一歩歩く度に地面が出来上がっていくため、足場には困りません。一歩一歩、海に陸地を作りながら進んでいきます。

しばらく歩いて行くと、新しい大陸と男神の造った道が繋がりました。そうして新たな大陸に上陸すると、男神は探検を始めました。


 東の大陸は山なりで、急な坂道ばかりな場所でした。大きな山々が幾つも乱立し、とても気軽に進めるような場所ではありません。男神はそんな道を軽々と、心と足を弾ませて進んでいきました。


それから数十日が経ちました。歩いている道は更に険しく、更に荒れた山道へと変わっています。しかし、まだ誰にも会いません。それでもまだまだ歩き続けました。


歩いて歩いて、もうどれくらい進んだかも分からなくなった頃、男神はようやく東の果てにつきました。そこにあったのは、今まで見た中でも最も大きく、立派な山でした。

男神は山の一部が不自然に欠けているところを見つけ、その辺りまで行ってみることにしました。すると、争いがあったのか、とても大きな神の死体が二つ、見つかりました。黒色の巨大な神と、白色の巨大な神の亡骸でした。

男神は死体が起きないか、実はまだ生きているのではないかと思い、調べました。しかし、残念ながら、幾ら待っても返事はありませんでした。

死んでいたら話はできません。男神はがっかりしながら元来た道を帰ります。


南の果てに帰って来た男神は次に西の大陸の方向へと陸地を広げました。

西には森が広がっていました。森の木々には意思がありませんでしたが、確かに命の気配が感じられます。男神はその事に喜びました。自分以外の生き物がいただけでも望みがあるような気がしたのです。

更に奥に行くと、他の木より何回りも太く、他の木の何倍も背の高い巨木を見つけました。しかし、見つかったのはその大樹だけ。その周りにも誰一人としていません。再びひどく沈んだ気持ちになった男神は、そのまま南に帰りました。


南の果てに帰って来た男神は、ほとんど諦めながらも北に向かいます。

北には、草原が広がっていました。その草原を北に向かうにつれて、白い粉の様な物が空から降ってくるようになりました。

雪です。雪が降ってきたのです。

雪はどんどんと降り積もり、やがて辺りは真っ白になりました。降り積もる雪に驚き、初めて見る雪原に少しだけ浮かれた男神は、いつものように足を動かし続けます。


それからどれほどたった頃でしょうか。雪原に足跡を刻みながら歩いていると、目の前に丘が見えてきました。雪に染まった丘は美しく、どこか立ち入り難くさえ感じられました。


そして、その丘の上には、女の神が立っていました。それに気づいた男神は、信じられないという気持ちと共に、じっとそこを見つめます。ようやく見つけた自分と近しい存在に、男神は緊張し、目を大きく見開くことしかできませんでした。

男神が何もできないでいると、その存在に気づいたのか、ずっと背を向けていた女神が振り返りました。互いに互いを認識し、そして二柱ともに驚きで固まってしまいました。

両柱とも、どう話しかければいいのかを知らなかったのです。


初めに話しかけたのは男神からでした。その次は女神が、その後は男神が。二柱はぎこちないながらも少しずつ会話を始めます。今まで何があったのか、これからどうするのかを話し合い、最後には打ち解け合った二柱は互いに名前を付け合いました。それを両柱共に宝ものとして、再会を約束すると、男神は南へ帰って行きました。


それから男神は度々女神と会いに行くようになり、二柱は自分達以外の生き物を求めて大陸中を回りました。しかし、やはり目当てのものは見つかりません。

どこを探しても見つからず、とうとうできることがなくなった男神と女神は、世界に手を加えることにしました。まず、二柱は協力して大陸を繋げて大地を整え、雲を浮かべて天を創りました。そして、女神が太陽を、男神は月をそれぞれ天上に配置しました。

土台を整えただけでは不足だと二柱は考えましたが、足りないあと一歩をどうすれば良いのか分からず、困り果ててしまいます。


そこで男神は巨神の死体のことを思い出しました。男神は女神と共に東の果てに来ると、両神は舌を噛み切り、巨神の死体に血液を垂らしました。すると、どうでしょう! 二柱の血が混ざった事で巨神の死体から新たな存在の気配が生まれたのです。彼らは喜び、仕事を終えると、二柱は西の果てで創世の力を捨てました。


しかし、毎日東の果てに通い、様子を見ていると、二柱は命が正しく育まれていないことに気づきました。悩んだ二柱は、捨て切れなかった創世の力を使い、女神が生を、男神が死を創りました。

二柱の最後の仕事は成功し、順調に命の気配が大きくなっていきます。今度こそは大丈夫だと満足した二柱は、世界が変わるまでの間、男神は南の果てで、女神は北の果てで、長い眠りにつくことにしました。



彼らが眠ったまま、何百年がたったでしょうか。男神が長い眠りから目を覚ますと、そこは確かに南の果てでした。しかし、そこは男神が知っているものとは大きく変わっていました。まず、男神の寝台にまで森が広がっていたのです。虫の羽音が微かに響き、何かが跳ねる音がします。西の森林がここまで広がっていることにも、『虫』という生き物が生まれていることにも驚きましたが、何よりも複数の声が聞こえることに驚きました。意思が感じられる声が聞こえるのです。その声は楽しげで、男神は緊張と期待がない混ぜになりながら、声がする方へと向かいました。


すると、そこには様々な神がいるではありませんか。

火を囲んで歓談する彼らの姿に、男神はたいそう喜びました。彼らはみんな、巨神の死体と黒と白の血によって生まれた者たちでした。男神と女神の試みは、成功していたのです。

楽しそうに笑う神々に我慢できなくなった男はその輪の中に入っていきます。緊張していた男神でしたが、神達は快く男神を迎え入れてくれました。

楽しく、喜ばしい気持ちになった男神は、お礼として彼ら一人ひとりに、その魂に見合った道具を授けました。あるものには鎧を、あるものには大剣を、またあるものには水瓶を、盃を、絵筆を、本を、衣装を………。

そうして、後に神器と呼ばれる様々な道具をもらった彼らは、盛大な宴会を開きました。


楽器を持った神が曲を奏でると、それに合わせて、きらびやかな衣装を身に纏った神が舞を踊ります。

盃を持った神が葡萄酒や麦酒を、魔法のテーブルを与えられた神がご馳走を、みんなに振る舞います。

そうすると、彼らに追従するように、神々は次々と自分の技を披露し始めました。自分に相応しい神器を与えられ、非常に喜んだ神々の宴会は大いに盛り上がり、程なくして酔っぱらった神々は、皆んな揃って寝てしまいました。男神は忙しそうに、それでもどこか嬉しそうに神々を介抱しました。

男神はもう、寂しくありませんでした。


起きた彼らに北の話を聞いてみると、彼らは一様に顔をしかめました。その場の誰もが口々に、北の国から追い出されてきたと言いました。というのも、北の神々と彼らは魂の色が違い、相容れない存在だというのです。北の国を建てた女王だけは話を聞いてくれたけれど、他の神々は無視をするなら良い方。多くは罵声を浴びせかけてきて、ひどいものでは攻撃すらしてくるのです。何より、神としての格が高い者ほど、我を忘れやすくなるといいました。中でも神格の高い神は狙われやすく、彼らは男神に、特に貴方は気を付けた方が良いと忠告をしました。


それからも度々、宴会や祭りが開かれました。神々は男神に親しげに接しましたが、それ以上に畏れ、敬っていたため、男神はあれよあれよという間に王に担ぎ上げられてしまいました。黒の神々は偉大な父神が自分たちの王になったことに喜び、黒王神となった男神は毎日せっせと働きました。


そして、男神は配下達に役割と名前を与えました。役割を与えたことで神々は権能を自覚し、名前を与えたことで神々と本当の意味での家族となったのです。とはいえ、男神は大切な宝ものである自身の名前を、配下達にも名乗りたがらず、女神と二人きりの時でしか、彼の名前は意味を持ちませんでした。

男神が王となってから何百日、何千日もの間、彼らは楽しく過ごしました。北の国とは関係が良いとは言えませんでしたが、北の女王である女神と、南の王である男神は已然として仲が良かったので、大きな争いはなく平和な日々が続きました。


王としての自覚を持ち、威厳も付いてきたある日、側近の二柱が男神の元へとやって来ました。鎧を着込んだ神と、大剣を背負った魔神です。その二柱は、神ではない生き物が生まれたと言いました。その生き物は『人間』といいました。


東の巨神の死体から生まれたそれは、白と黒両方の血を均等に継いでいました。後に『純人(ヒューム)』と改められ、エルフやドワーフ、獣人などの先祖となるこの種族は、姿かたちが神とそっくりなものでした。


また、他にも巨神の死体から『魔物』と、新たな神が二柱生まれました。

人間は木を倒し、家を作り、動物を狩り、生計をたてました。しかし、人に危害を加える『魔物』である『魔獣』によって生活が脅かされ始めます。コボルド達によって食料は奪われ、ドラゴンによって村は一瞬で焼き払われました。人の味方をする『魔物』である『聖獣』が魔獣に対抗しましたが、それもほんの一部だけ。それに、人間達の魔術はそのほとんど全てが神ほどではなく、まともに魔獣に立ち向かえる訳もありませんでした。

その様子を見ていた神々は、このままでは魔獣によって人間は絶滅するだろうと考え始めます。ようやく生まれた新しい命を失いたくなかった神々は、自身が持つ特殊な魔法を使い、特殊な『魔道具』を造り、与えて、度々人間を助けました。


人間にも魂があり白、黒、灰以外の色、いずれかの色がありました。赤色や青色、黄色に緑色など、誰一人として同じ色を持つものはおらず、神々はそれを羨み、愛おしみます。

神々に助けられ、愛された人間達は、彼らを敬い、祀り上げました。女神の治める北部に住む白の神々。男神の治める南部に住む黒の神々。西にいるという精霊神の治める灰の神々。それらをそれぞれ祀り始めたのです。しかし、人間達は大きく三つに別れると、戦争を始めてしまいました。


魂の色によっていがみ合う神々とは違い、仲違いする理由などなかった筈です。それなのに仲間同士で争う人間達に、それぞれの陣営の長である三柱は呆れ、失望しましたが、配下の神々は違いました。神託を下すなどして、わざと対立を煽り、争いを激化させる神が現れ始めたのです。争いが激化したことで人間の中から多くの英雄が生まれましたが、それ以上に多くの信者が死んでしまい、それにより三つの陣営の間には、深い溝ができてしまいました。

灰の神の陣営は大森林に閉じ籠り、白と黒の仲は更に険悪な物になりました。いつの間にか、『白の女神』と『黒の男神』の仲さえ、良好とは言えなくなってしまいました。


そんな時、なんと白の信者である英雄が、黒の陣営の神を殺してしまったのです。殺された神は最低位の神でしたが、男神にとっては大切な配下であり、何よりも大切な家族の一員でした。

その報告を聞いた黒の神々は、怒りに任せてその信者が居た国を滅ぼし、神殺しを犯した信者の一族には死よりも重い呪いを掛けてしまいました。

神が罪なき人を手にかけてはいけないという規則を、とうとう破ってしまったのです。


それを聞いた白の女神は男神に激怒します。彼女もその信者に怒りを感じていました。しかし、それでも国ごと滅ぼす必要はなかったと確信していました。

それに加えて、あろうことか黒王神は、人間の手によって殺された配下の神を、蘇らせてしまったのです。創世の折に二柱で厳しく定めた生と死のきまりすら破られたことに、白の女神は目眩がする思いでした。


黒の神々を危険視した白の女神は、戦争を仕掛けることにしました。彼女にとって、もう男神は愛する友ではなく、滅ぼすべき敵になってしまいました。


白の神々もまた、女王から神器を与えられていたため、白と黒の戦力は拮抗し、戦う度に両陣営とも多数の死者が出ます。しかし、男神も女神も退けない理由がありました。男神は神殺しを唆したのが白の神々の一派であると、知っていたのです。女神は神々の戦争によって人間同士の戦争も勢いを増したことに気づいていましたが、男神を滅ぼさなければならないという妄念に取り憑かれた彼女は、もはや止まることはできませんでした。


退くことができなくなってしまった黒神と白神の二柱は、とうとう直接戦い出すようになりました。側近であった神々も争いの中で死んでしまい、ますます退けなくなった二柱は最後の決戦に挑みました。


二柱の力は拮抗していてなかなか勝負が決まりません。戦い始めてから何日もたち、二柱共もう疲れ果てていました。それでもまだ争いを続け、二柱が同時に放った攻撃は、両神を魂ごと切り裂きました。魂が砕け散るほどの致命傷を受けた男神と女神は、とうとう力尽きてしまったのです。信者達はそれを深く悲しみ、更に争いが激化しました。戦争がより激しくなった事で滅んだ国も多くあったといいます。


魂に深い傷を負った二柱の王は転生を果たせませんでしたが、彼らの配下の神々は輪廻の輪に帰り、転生を待つ列に加わりました。

そうして神々の時代は終わりました。しかし、彼らの魂は永遠です。あるものはヒューマンへと、またあるものはエルフへと、そしてまたあるものは魔物へと転生し、今もどこかで彼らの魂は転生し続けているといいます。



 おしまい





……大丈夫かい? やっぱり、暗すぎてしまったかな






そうだね。何を間違ってしまったんだろうね。ユリアスとフィリアはケンカしちゃダメだよ?






そうかい? なら良いけど。ユーリはフィーに勝てたことがないからね。ちゃん守ってもらうんだよ。













はいはい、言った先からケンカしないの、まったく。

仲良くするんだよ? 私は何時でも君達を応援しているからね。さて、今の話は暗かったからね。次はこの話でも読もうかな。

この話も大分暗いけど……。知っておくべきことではあるし……まあ、いいかな?





 むかしむかし、あるところに、魔王と呼ばれる男がおりました。その男は魔剣と呼ばれる大剣を背負って─────────

ここは作者が思い付いたものの、本編で使う予定も説明する必要性もないと判断した設定を、勿体無いので吐き出していく所になります

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