達成
ババアの用意した飯を黙々と食らう。
後ろから猛烈な視線を感じるが、努めて無視して食らい続ける。
食事をしている俺の背後。
少し離れたところに、例の母娘がこっそりと伺ってきているのが分かる。
何気なく後ろを振り向くとババっと二人して扉に隠れてしまった。
……マジうぜえ。
この一週間、俺は数々のクエストをこなしてきた。
これから先、間違いなくこの一週間を忘れることはないだろう。
地獄というのも生ぬるい。
人生においての汚点、黒歴史。
俺は一生癒えることのない傷を負ってしまった。
例えば『香苗の肩を揉む』というクエスト。
思い出すだけでも震えてくる。
あの時のババアの顔ときたら……。
クエストが完了し、俺は奇声を上げながら夜の街へ消えた。
そのまま誰も知らない土地で暮らしていこうと思ったほどだ。
しかし、そんな苦行に俺は耐えた。
それは偏に猫の神様とアミーゴに報いるため。
そしてやり遂げた。
ステータスオール10という偉業。
今現在、俺は間違いなく人類史上最も優れた存在になった。
……虚しい。
余りにも代償がでかすぎた。
しかし、とりあえずは目標を達成できたので良しとする。
さて、朝食も済んだ。
今日はいよいよ入学式である。
チラチラと視界に入る女どもを無視して学校の準備をする。
「ハァ、ハァ、イケメン過ぎんだろおい……」
鏡に映った制服姿に興奮してくる。
ッべーってこれ。
似合いすぎて鼻血でそう。
ステータス操作を得て最も嬉しかったのは間違いなくこの容姿だ。
他はむしろオマケみたいなもんだ。
もうこの見た目だけで勝ち組だろ。
待ってろよ高校。
もうすぐ俺様が行くからな……!!!
一頻り制服姿を楽しみ、家を出る。
ふと視線を感じて振り向くと、ドアの隙間からババアと目が合った。
「い、いってらっしゃい……」
「……」
蚊の鳴くような声で聞こえてきた。
もうヤダ••••••。
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俺の行く学校は電車で一時間程のところにある。
交通は少し不便だが、仕方ない。
中学の奴らと被らないように出来るだけ遠い学校を選んだのだから。
その代わり偏差値はかなり高く、県内でも有数の進学校といえる。
ちなみにめちゃくちゃ勉強した。
知能が5の時なので、それはもう死ぬ気で。
おかげで何とか合格できた。
あの時はマジでうれしかったな。
まぁそれも今となってはいい思い出だけど。
今なら寝ながらでも試験なんて解けそうな気がする。
それくらい知能10ってのは半端ない。
電車に乗り込む。
分かっていたが、やはり人は多い。
通勤しているおっさんやらOLやら。
もちろん学生なんかも。
電車はほぼ満員。
やはり、チラチラと視線は感じる。
あんまりガッツリというのは少ないけど、二度見はされる。
いやぁ、イケメン過ぎてゴメンね?
目的の駅に到着した。
俺と同じ制服を着た生徒が一斉に降りる。
今日は入学式なので登校する時間帯も特別であり、恐らく全員新入生だ。
ちょっと前までこいつらも必死で勉強していたのかと思うと、連帯感というか仲間意識が芽生えてくるな。
これから一緒に高校生活充実させようぜおい!!!
……なんかキモイな、俺。
歩いて10分。
学校到着。
校門に入学式っていう立て看板がでかでかとある。
とうとう俺も高校生か。
クラス表を確認して教室へ向かう。
俺のクラスはC組。
教室に入った途端中に居たやつらの視線が集まった。
全員固まってるな。
教室中から注目される中、座席表を見ていそいそと座る。
こんなに見られると流石に恥ずかしいぞ。
机の上には胸に付ける花と新入生用の冊子が置いてある。
時間もあるし暇つぶしに読もうと思ったが、声を掛けられた。
「よう、お前さんエラい男前だな」
「……はい?」
俺の前に座っていた男だ。
第一声がそれかよ。
「ああ、俺の名前は西だ。お前さんは?」
西と名乗った男はかなりいい体格をしていた。
中学で何か部活でもしてたのか、結構ガッチリしている。
というかいきなり距離詰めてきたな。
……いや、これからクラスメイトなんだしこんなもんか?
「お••••••僕は猫守」
とりあえず俺も名乗り返す。
ちなみに一人称は僕にした。
別に俺でもいいが、この顔に合わせて爽やかキャラで行く事にした。
••••••決して厨二病ではない。
「へえー、ネコガミか、珍しいな。下は?」
「葉だよ。猫守 葉。おま••••••君は?」
い、イカン、思った以上にこの口調むず痒い。
違和感というか、なんか自分で言っててキモくなってきた。
「西 宗一。これからよろしく!」
「よろしく、西くん」
うおおおおおおお痒いいいいいいい!?
なんじゃこのやり取り!?