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周りの変化

 



 何かの聞き間違えか?

 今、遊んでと聞こえたが。

 まさか、この俺に。



 だが、梓は顔を赤くして俯いていた。


 え、何?(笑)

 マジで言ってんの?(笑笑)



「••••••」


「••••••」



 お互いに無言。

 しかし、今度は立場が逆だ。

 挙動不審なのは梓の方である。


 そりゃそうだ。


 なんたって今まで散々馬鹿にしてきた義兄を遊びに誘っているんだ。

 どの面下げて言ってんだ?って感じだ。

 もしくは、改めて誘うという行動に羞恥心があるのか。



 俺の方はというと、梓の奇行にだいたいの検討がついていた。


 まず、部屋にやって来くるという前代未聞の行動。

 更には顔を真っ赤にして照れながらも、俺に構おうとするその心情。


 ちょっと前まででは考えられなかった言動にも、俺はすぐにピンときた。


 要は、俺が以前の容姿からファイナルイケメンにカメンライドしたことで、梓の中で俺を嫌悪する理由がなくなった。

 逆に、過去の俺に対する無礼を後悔し、今からでも関係を修復しようと考えているのだ。



 まさに恥知らず。

 どんだけ面の皮が厚ければこんな行動がとれるん?


 ったく、イケメンになった途端これだよ。

 いや、梓の中では俺は以前からイケメンだってことになっているのか?

 ……そこらへんよく分からないが、まぁどうでもいいや。



 ただ、はっきりしている事実は一つ。

 ブスはダメでもイケメンならオッケーってことだ。



 さて、これで疑問も解消して、見た目の変化も問題ないと分かった。

 改めて清々しい気分だ。


 そうなればここにいる必要もない。

 俺は今度こそ部屋を後にした。


 後ろから何か聞こえた気がしたが、普通に無視した。





 ###





 一階へ降りる。

 俺は腹が減ったのだ。

 そういや飯食ってなかったな。


 俺がキッチンへ入ると、いきなりテンションが下がった。


 ……そうか、そりゃいるよな。

 完全に忘れてた。


 俺の義母であり、梓の母親でもある女がそこにいた。

 どうやら洗い物をしているらしい。



 こいつの名前は香苗。

 顔は梓と少し似ているが、少しぽっちゃり気味の体。

 とはいえあいつの母親だけあって美人ではある。

 年齢は35で、結構若い。


 性格はよく知らん。

 俺とはお互いに関わらないようにしている。

 唯一分かるのは、娘をたいそう可愛がっていることくらいか。


 とはいえ家政婦としての役割はきっちりこなしており、今のように掃除や洗濯、食事の用意は行っている。


 俺から見たら不愛想な家政婦ってとこか。

 向こうから見たら、俺は唯の知らない不細工男だっただろう。


 まあ家事をやってくれるだけ梓よりか数段マシか。



 俺がキッチンに入っていくと、向こうも俺に気づいたようだ。

 目が合うと軽く会釈する。


 梓のように態度を変えないのは助かる。

 というかこのババアとは今の距離感がちょうどいい。

 変に干渉してこず好き勝手できるのだから。


 とは言えいくらそう割り切っても、そういう相手と顔を合わせるのはどうしてもストレスを感じてしまうもんなんだ。



 俺はいそいそと冷蔵庫からお茶を取り出し、ご飯を山盛り器によそう。

 キッチンから覗ける食卓には、すでに食事が用意されていた。

 まぁいつも通りの朝食だ。



 さっそく食卓に着いてガツガツと食べる。

 ほんと、飯だけはうまい。

 悔しい、でも認めちゃうくらいにはマジでうまい。


 俺が太ったのもこのババア飯の所為でもある。

 つまり学校で虐められていたのも半分はこいつの所為なのだ。

 クソッ、嵌められた……。



 もりもりと飯を食らいながら憎々しげにババアを睨むーーーもうとしたら、何故か目が合った。


 ババアはなぜか手を止めてこちらをボーっと眺めていたようだ。

 目が合うとババっと視線を逸らす。

 慌てて洗い物を再開した……。


 ……嫌な予感だ。


 絶対気のせいなんかじゃない。

 ババアは確かに俺を見ていた。

 今もガシャガシャと食器を鳴らして動揺している。


 梓に続いてこいつもか……。


 俺は努めて無視して飯を食らい続ける。

 残りを一気に掻き込み、お替りもせずに急ぎ足で部屋を後にした。




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