変化
目が覚める。
どれくらい寝ていたのか。
目覚ましを見ると、1時間近くが経っていた。
何だったんだあの眠気は。
手術前の麻酔があんな感じだろうか。
とても抗える物じゃなかった。
しかし、妙に気分が良い。
フワフワと体も軽い気がする。
一度ノビをしてベッドを降りる。
「っと、その前に」
念じてステータスを呼び出す。
ブンッ、という謎の音と共にボードが現れた。
念の為に確認してみた。
夢じゃない••••••。
そのことに少し安堵しつつ、ステータスを詳しく見てみる。
『ステータス』
容姿10
ポイント1
ちゃんとポイントが割り振られている。
残りポイント1。
••••••やっちまったか?
い、いや、1ポイント有るだけマシなんだ。
本当なら10ポイント全部割り振りたかったのに。
俺の慎重な性格に感謝しよう。
容姿10
容姿が元の数値の10倍。
つまり10倍イケメンになったって事だよな••••••。
••••••ど、どうなんだ。
元が悪すぎて全然ピンとこない。
俺が考えた法則だと5が平均だから、少なくとも平均的な顔の2倍はカッコいいはず。
き、気になる••••••!
高鳴る鼓動を抑えつつ、俺は部屋を出た。
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「こ、これが俺••••••」
洗面所。
鏡に写った自分の姿を見て、俺は呆然とした。
細い肢体、真っ白な肌。
鏡の中のそいつは、中世的な顔立ちをしていた。
優しげな目元と困り眉、整った鼻筋に桜色の唇。
「10倍とか2倍なんてレベルじゃねぇ••••••100倍だ」
可愛いとカッコイイの両立。
男でも女でも、この顔で微笑んだらイチコロだろ。
これが容姿10。
貴重なポイントの大部分を失ったが、微塵も後悔が湧いてこない。
理想以上の容姿になってしまった。
これ以上ポイントを割り振ったらどうなっちまうんだ。
ちょっと想像がつかない。
少し気になるけど、流石に勿体ないか。
いや、逆にこの顔すげー気に入った。
これが変わるくらいなら、もう容姿に割り振らなくてもいいな。
鏡の前でいろんな表情を浮かべて遊んでみる。
笑った顔に怒った顔、悲しい顔、悪戯っぽい笑み。
そのどれもが自分でもキュンキュンとしてしまう。
特に悪戯っぽい笑み。
こんな顔他人に見せたら押し倒されるんじゃねぇか?
「俺、エンジェルすぎる••••••」
頬に手を当ててウットリ。
側から見たらクソナルシストだが、仕方ないと思う。
だってあの腐った目をしたゲロ不細工が、今や世紀末美少年にビフォーアフターしたのだ。
なんなら一日中鏡を見て過ごしたいくらいだ。
「うぅぅ、猫の神様、アミーゴ、ありがとうぅ••••••」
両手を合わせ祈祷。
天国にいるアミーゴ、俺カッコよくなったよ••••••。
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一頻り鏡で楽しんだ後、部屋に帰ってきた。
まだ物足りなかったが、家族に遭遇しても面倒だ。
というか今の見た目だと完全に別人なんだが••••••。
そういえば元の面影が微かにあるかな?程度だ。
かなりやばい気がするけど、後悔は微塵もない。
ちなみに俺の家族構成は俺含めて4人。
クソ親父とカス義母にゴミ義妹、そして俺。
親同士が再婚してできた仮初の家族だ。
俺は親父の連れ子で、義妹は義母の連れ子。
家族仲はすこぶる悪い。
親父は家政婦欲しさに再婚、義母は完全に金目当てだった。
その親父もここ最近は家に帰らず、何処ぞで遊んでいる。
義母は基本的に俺の存在を無視し、自分の娘だけを可愛がっている。
義妹は義妹で俺に容赦がなく、気に入らないことがあったら殴ってくる。
殴り返してもクソババアがヒステリックに叫ぶだけだ。
なので俺の方も基本的に干渉しないようにしている。
まぁいいさ。
生活費はちゃんと渡されるし、金にゃ困ってない。
アイツらは一緒に住んでいるだけの他人なんだ。
そのうち家を出て、完全に縁を切るつもりだ。
とまぁこんな感じの家族だが、流石に今の俺を見られたら通報されかねない。
面影があるとは言え、見知らぬ男が家に居るんだからな。
どうするかな••••••。
そんなことを考えていると、ガチャ、と部屋のドアが開いた。
顔を覗かせたのは義妹ーーー梓だった。