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第三章<イルベッザの闇> 第二場(3)

 イルベッザ城を出た三人は、とりあえず宿舎への入居を済ませてしまうことにした。

 各種の宿舎は、だいたい構内の一角にごちゃごちゃと寄り集まっている。宿舎街には共同の食堂と浴場があり、軍の使っている男子宿舎と女子宿舎は、そこを挟んで、ほぼ向かい合うように建っている。

 この男子宿舎は、急増した特殊部隊の人数に対応するため慌てて作られたもので、安普請の間に合わせの建物だが、特殊部隊専用だ。一方、女性治療師たちと共用の女子宿舎は王政時代の兵舎を改装したものなので、古色蒼然たる、一見重厚な建物である。けれどもオンボロという点ではどっちもどっち、新しくてボロか、古くてボロかの違いだけだ。

 とりあえず男女二手に別れて、それぞれの宿舎で書類を提出して部屋を割り当ててもらい、管理人から宿舎の規則や施設の説明を受けた三人は、それからもう一度市街に出てローイの宿への連絡を済ませたあと、治療院を訪れた。

 入り口の受付で用件を伝え、待っていた三人の前に現われたのは、炎のように赤い豊かな巻き毛を背中に垂らした、褐色の肌、シルドライトの瞳の、とにかく派手な美少女だった。

 この世界でも医療関係者は白衣を着る習慣らしいが、彼女の、ほとんど黒に見える濃い褐色の肌と赤い髪には、その白衣がすばらしく映える。妖精の血筋の常で背は低いが、すらりと足が長くてスタイルは抜群、めりはりのきいた見事なプロポーションだ。

 褐色の美少女は、腰に手をあてて豊かな胸を反らし、黙ってじろじろと三人を眺め渡した。小さいくせに、なんだか妙に迫力がある。

 その迫力に、里菜はちょっとびびってしまったが、アルファードも、実は結構たじろいでいたようだ。なるほど、この人に面倒を見てもらえば怖いものなしかもしれないが、逆に、この人に睨まれると治療院にいられなくなりそうな、そういう雰囲気である。

 ひとしきり睨みをきかすと、少女はふいに表情を変え、華やかな微笑みを浮かべた。

「そう、この子が新入りね。うん、かわいいじゃないの。えっと、キャテルニーカだったっけ。よろしくね。ねえ、あたしたち、ちょっと似てるんじゃない? ほら、まるで姉妹みたい!」

 そう言って、彼女はキャテルニーカを自分の横に立たせ、里菜とアルファードに同意を求めた。

 アルファードが、妖精の血筋はみんな似通って見えると言っていたが、たしかに彼女たちはよく似ていた。ふたりとも、猫のように大きな緑の目をして、色は違うが同じようにふわふわ揺れる巻き毛で、姉妹に見えないこともない。そしてふたりとも、とても綺麗だ。

 彼女の前に立つと、里菜は、まるで、自分がすごく平凡で冴えない、魅力のない女の子のような気がして、アルファードがこのすばらしい美少女をどう思っているかと心配になり、こっそり彼を盗み見た。

 里菜だって、別に、見てくれが悪いわけではない。自分でも結構かわいいほうだと思うし、人からもよく、そう言ってもらえる。だが、向こうの少女の、派手で個性的な顔立ちや、赤と黒と緑という豪華な配色と比べると、黒髪、黒い目で小造りな里菜の童顔は、いかにも地味でおとなしく、目立たない。

 その上、ふたりとも背は低いのに、向こうは迫力すら感じられるほどの見事なプロポーションで、里菜はと言えば、ただただやせっぽちで小さいばかり、まるで子供のようだ。

 それなりに清楚で愛らしく、大方の人にそこそこ好感を持たれる容姿ではあるが、いかんせん地味で、これといって人目を引くような美少女というわけではないのだ。

 が、盗み見たアルファードには、どうやら、この華やかな美少女に特に心を動かされた様子はないので、里菜は少々ほっとした。

 赤毛の美少女は、キャテルニーカの肩に手をかけて微笑みかけた。

「あたし、リドリューリ。リューリって呼んで。キャテルニーカ、今日からあたしがあなたの教育係よ。本当のお姉さんだと思って、分からないことは何でも聞いてね。どんなささいなことでも、遠慮しないでいいのよ。最初は誰だって、何もわからないんだから。そのかわり、一か月たってもまだぼやぼやしてたら、その時はブッとばすわよ!」

 里菜はぎょっとして、思わずキャテルニーカをかばいながら言った。

「あの、ね、えっと、リューリ? この子はまだ小さいから、特別やさしくしてあげてね」

 リューリは、里菜をじろりと睨めつけた。

「この子が小さいのは、見りゃわかるわよ。あなた、名前は?」

「リーナ。エレオドリーナとかじゃなくて、ただのリーナよ」

「あ、そ。で、リーナ、あなた、この子の何?」

「何って、別に……。ここへ来る途中で、この子が道に迷ってたから、一緒に連れてきただけだけど……」

「それであなた、一生、この子に責任持つ気があるわけ?」

「えっ?」

「だからね、この子が将来どんな能無しの役立たずに育っても、あなたが責任を持って、この子を一生養ってやるつもり? それとも、この子が二十になっても三十になっても、この子の後をくっついて歩いて、会う人ごとに『この子にやさしくしてやって下さい』って言って回る?」

「そ、そんな……」

「だったら、甘やかすんじゃないわよ! 本人のためにならないわよ。あなた、あたしを何だと思ってるの? 言われなくたって、この子は十分かわいがってあげるわよ。いいから、心配しないで、あたしに任せなさい。あたしがちゃんと、一か月以内に、この子を役に立つ見習いに育てあげて見せるから。いくら子供だからって、働く以上は、役にたってもらわなくちゃ困るのよ」

「は、はい……」

 思わず恐縮した里菜に、リューリは、大輪の花が咲いたような笑顔を向けた。

「分かればいいのよ。リーナ、よろしくね。あたしたち、年、同じ位じゃない? 仲良くしましょうね! あなた、特殊部隊ですって? 今にきっと、治療院の世話になるわよ。あたしの名前、ちゃんと覚えてといてね。第二病棟の火の玉リューリっていったら、ちょっとは名が売れてるんだから。あたしのことを知らないのは、まあ、よほどの新米か、もぐりね。名前を覚えててくれなきゃ、怪我してきても治療してあげないわよ!」

 ここで彼女は、くすっと笑ってから、またちょっと挑戦的な顔付きになって、なぜか、それまで一切無視していたアルファードをじろりと睨んだ。

「でも、ほんと、軍の人は怪我が多いんだから、あたしには特に敬意を払っといたほうが身のためよ。そう、あなたに言ってるのよ、でかぶつさん。あたしが女で年下だからとか身体が小さいからとかいってなめてたら、えらい目にあうわよ。どうせ、どんな大男も、大怪我して担ぎこまれりゃ赤ん坊も同然なんだから。お母ちゃん痛いよー、なんて泣いても、痛み止めの魔法をかけてあげないわよ」

 どういうわけかアルファードは、一言も口をきかないうちに、彼女から、身に覚えのない反感を持たれてしまったらしい。いきなりわけもなく喧嘩腰ですごまれて、ただでさえ少々たじろいでいたアルファードはすっかり閉口し、口篭りながら後じさった。

「いや、俺は別に君のことを軽んじる気は……。君が治療師でなくとも、ちゃんと相応の敬意は払うつもりだが……」

「あ、そ。なら、いいのよ」と、リューリはあっさり構えを解いてアルファードに笑いかけた。

「これからキャテルニーカに院内の見学をさせるけど、一緒に来る? あなたもいつか、ここに入院するかもしれないんだから、ついでに見ておけば?」

「い、いや、俺は……。リーナ、君は見せてもらうといい。じゃあ、また後で……」

 そう言うと、アルファードは、逃げるようにそそくさと立ち去ってしまった。彼はどうも、この少女が、ファルシーン以上に苦手らしい。

「あら、行っちゃった。ちょっと脅しがききすぎたかしら。まあ、いいわ。リーナ、いらっしゃいよ。時間、あるんでしょ?」

 リューリは、キャテルニーカの手を引いて、さっさと歩きだした。


 病院というのは、『あちら』の世界でも、往々にして意外と不潔なものだが、ここの治療院もやはり、あまり清潔とは言い難いところだった。消毒薬の匂いの代わりに、何かの薬草の薬くさいような芳香が漂っていて、見学が終るころには、その匂いがすっかり身体にしみついたような気がした。

 リューリは本当にここではちょっとした顔らしく、彼女が通るとみんなが声をかける。彼女が自分で言うには、彼女の患者からの人気は抜群で、特に男の患者は老いも若きも一人残らず彼女の熱烈な崇拝者なのだということだが、彼女が通り掛った時の入院患者たちの声援からして、たしかにそれは事実らしい。

 彼女の所属する第二病棟というのは『あちら』で言えば外科に当たるらしいが、キャテルニーカもまずそこに配属されるそうだ。病気に比べて怪我には特に魔法が有効だから、癒しの魔法の才能がありそうなものは、まず怪我の治療に携わるのだ。

 一方、病気の治療は魔法よりも薬草などが中心だから、怪我の治療に比べて、より、知識の蓄積と豊富な経験がものを言う。それで、内科にあたる第一病棟には、ベテランの治療師が多いらしい。

 ひととおりの見学を終えると、そろそろ夕食の時間だった。

 短い見学の間にリューリと里菜はすっかり意気投合して、ずけずけと物をいいあうようになっていた。

 リューリはもともと、誰とでもすぐに打ち解けるタイプなのだが、里菜のほうは、本来、内気で警戒心が強いタイプだ。けれどもなぜかリューリとはすぐに打ち解けたのは、リューリのほうがざっくばらんで馴々しかったからだろうが、その馴々しさ、押しの強さが裏目に出なかったのは、やはり相性の問題だろう。この、一見、背が低いこと以外には何も共通点のなさそうな二人には、どういうわけか、妙に通じるものがあったのだ。里菜が、最初、彼女に、これまであまり経験のなかった女同士のライバル意識を感じたのも、そのためだったらしい。

 それに、里菜は、これまで自分が同年代の女の子とのたあいのない会話にとても飢えていたことにも気がついた。

「ねえ、リーナ、一緒に御飯食べない? あたし、これから非番だから、食堂に案内してあげる。キャテルニーカも、もちろん一緒にね」というリューリの提案で、三人は宿舎街の共同食堂に向かった。里菜は、アルファードとも一緒に食事がしたかったのだが、食堂で彼の姿を見つけることができても、リューリと一緒では、彼はこちらに寄り付いてこないだろう。

 食堂は宿舎街のほぼ中央にあって、いくつもの宿舎の人間が使うかなり大きい建物だ。あまりおいしくはないが、値段はただ同然で量もたっぷりしている。一応は、宿舎に入っている人たちのための食堂なのだが、食事をするのに身分証明がいるわけではないから、安い食堂ということで、城外から一般市民がたくさん紛れ込んで来て食事をしていたりする。イルベッザ城の構内には、誰でも自由に入っていいことになっているのだ。

「ねえ、リーナ、さっきのでかいヤツ、あなたのコレ?」と、セルフサービスの定食を食べながら、リューリが親指を立てて見せた。こういう下品なジェスチャーのいくつかは、この世界でも『あちら』と共通らしい。

 里菜は赤くなって口篭った。

「う、ううん、そういうわけじゃないんだけど……」

「へえーえ。でも、好きなんだ? 図星でしょ?」

「う、うん、まあね。でも、ないしょよ」

「やだあ、趣味悪い!」

「えっ?」

「だって、あんな、筋肉だけみたいな男のどこがいいの? あなた、結構かわいいのに、趣味悪いわよ。筋肉さえついてればそれでいいわけ?」

「そ、そんな。アルファードは、別に筋肉だけなんかじゃ……」

「そう? どう見ても、ただの筋肉バカに見えるんだけど」

 自分の想い人のあんまりな言われように、おとなしい里菜も思わず声を荒げた。

「リューリ! あなた、何の根拠があってそんなこと言うの! アルファードのことなんか何も知らないくせに、見かけだけで判断しないでよ。筋肉があるからって、それしかないって決めつけるのは偏見よ! アルファードはね、とってもやさしいし、頭もすごくいいんだから!」

「へえー。どこがどう、頭いいわけ?」

 そう言われて、里菜はうっと言葉に詰まったが、気を取り直して言い返した。

「えっと、えっと……、そう、アルファードは字が書けるのよ!」

 里菜は、プルメールでアルファードがローイの兄宛ての手紙を書くところを見て驚いたのだ。それまで里菜は、イルゼールで誰かが字を読んだり書いたりするところを見たことがなかったし、本とか紙とかを見たこともなかった。後に里菜は、それはただ、村の生活に読み書きが特に必要なく、本や紙が高価な貴重品だから貧しい羊飼いには買えなかっただけだと知るのだが、村にいたころは、この世界の庶民は読み書きができないのだと信じ込んでいたのである。

 それで、あの時初めてアルファードが字を書くところを見た里菜は、感心して叫んだ。

「アルファード、字が書けるのね!」

 アルファードは額に手を当てて溜息をつき、こう答えた。

「……リーナ。俺は、そんなに無学な男だと思われていたのか? こう見えても俺は、学校では秀才だったんだ。村に来たのが十才位の時だから入学は人より遅かったが、卒業は同い年の子と同時だった。無論、字くらい書けるさ」

 ところが、里菜の返事を聞いたリューリは、感心するどころか、バンバンとテーブルを叩いて、お皿に顔を突っ込みかねない勢いで爆笑した。

「やだあ、あたりまえじゃない! 字くらい、誰だって書けるわよ。あなた、何考えてるの? もしかして、あなた、学校さぼってて、読み書きできないの? まあ、あたしも学校は結構さぼったし、落第もしたけど、さすがに読み書きは出来るわよ」

 この国でも北部の田舎の方などにいくと学校に通うゆとりのない貧しい子供がいくらもいるのだが、イルベッザ近郊育ちのリューリは、そんな現実をろくに知らないのだ。もちろん、里菜も知らない。

「あ、あたしだって、字くらい読めるけど……」と、里菜は口篭った。

 これもアルファードが手紙を書いていたとき分かったことなのだが、里菜は、どういうわけか、この世界の、みみずののたくったような文字が理解できた。だが、それはどうやら、文字が読めるというより、文章全体の意味がなんとなく解るだけのようだ。そして、試してみてわかったが、字を書くことはできなかった。

 里菜は、自分に字が書けないのがバレるまえに話題を変えることにして、まだ笑っているリューリを何とかへこましてやろうと、自慢そうに付け足した。

「アルファードは、学校じゃ秀才だったのよ」

 ところがリューリは、まるで感心してくれない。

「へえー、そう、田舎の村の初級学校でね。でも、田舎の学校なんて、ろくに授業もしないんじゃないの。何しろ、冬しか開かないんだから。そこいくと、あたしの好きな人なんか、そこらの人とは頭の出来が全然違うのよ。上級学校を主席で卒業して、国立研究所の主任研究員を務めて、上級学校の学長もやったのよ!」

「えっ、学長? だって、まだ若いんでしょ? すごいじゃない!」

「でしょ? あなたの筋肉バカなんかとは比べ物にならないわよ。何しろ、<賢人>で、<長老>よ! この国で一番偉いのよ!」

「うそ! <長老>って、まさか、ユーリオン様のこと?」

「そ! もちろん知ってるわよね。あなたたち、彼の紹介でこの子を連れてきたんだものね。会ったんでしょ?」

「う、うん」

「で、どう?」

「どうって?」

「だから、彼、すてきじゃない?」

「う、うん、ちょっとね」

「ちょっとじゃないでしょ! あなた、どこに目ェつけてんの? どこが『ちょっと』なのよ! 本当に趣味悪いんだから!」

「あ、す、すごくすてきだったわ。そう、とても知的な感じで……。でも、でも……、ちょっとキザっぽいし……、それに、おじさんじゃない?」

「おじさんじゃないわよ! まだ三十五だし、それに独身なのよ。だけどあなた、彼にちょっかい出しちゃだめよ。リオン様はあたしのもの……。まあ、シーン様だけはしかたないけど、他の女には渡さないわよ。あたしはリオン様の親衛隊長なんだから。あたしにことわりなくリオン様に近付いたら、ただじゃすまないわよ」

「だいじょうぶよ、あたし、おじさんにちょっかい出す趣味ないもん」

「おじさんじゃないってば!」

「えー、だって、三十五でしょ。三十五のどこがおじさんじゃないの? あなた、十七でしょ。年が倍よ!」

「いいじゃない、愛に年令なんて関係ないわ! だいたい、リーナ、あなた、なんでそんなに年にこだわるの?」

「だって……。親子でもおかしくないくらいじゃない」

「そういえば、あたしの母親、三十六ね。まあ、いいじゃない。とにかくまだ独身なんだから。ま、あんなボーヤに熱上げてる人には、リオン様の大人の魅力が分からないのも無理ないけどね」

「アルファードは坊やじゃないわ。もう、二十二才よ!」

「ボーヤよ、あんなの。齢には関係ないわ。ボーヤはいくつになってもボーヤよ」

「だって、アルファードは、実際の齢より、ずっと大人っぽいわ。とっても落ち着いていて、何でも知ってて何でも出来て、とっても頼りになるんだから」

「大人っぽい? あれが? あたしには、そうは見えないけど。そりゃまあ、一見、落ち着き払っちゃあいるみたいだから表向きは大人っぽく見えるかもしれないけど、中身は案外、子供なんじゃないかって気がするんだけど」

「えっ、どうして? どこがどう、そういうふうに見えるの?」

「勘よ、勘。あたし、こういう仕事してるから、いろんな人の、普段は見えない一面を見ちゃったりすること、多いのよ。大の男がお母ちゃーんって泣いたりするのも、何度も見たわ。彼って、そのタイプっぽいなあと思って」

「勘だなんて、そんな。アルファードのこと、何も知らないくせに」

「知りたいとも思わないわね。まあ、いいんじゃない。あなたにはお似合いかもよ。『いーこいーこ、よしよし』って、してあげれば。でも、あたしは、そういうの、ヤなの。やっぱ、男はオトナでなくちゃ。リオン様みたいに。リオン様はあたしのものよ! あたしは十三の時からリオン様一筋なんだから!」

「十三の時から……? それで、まさか、両想いなの?」

「まさかって、どういう意味よ。でも、残念ながら、まだ、両想いじゃないのよね……。リオン様ったら、あたしのこと、今だに子供だと思ってるのよ。初めて会った時に十三だったからって、いつまでも十三じゃないのに。今じゃあたしだって、結婚してもおかしくない年よ。実際、もう、二十八人からプロポーズされて、全部振ったんだから!」

「えっ、二十八人?」

「そうよ、もう、モテてモテて。毎日毎日ラブレターが山ほどきて、読むだけで、もう、大変。でもあたしは、リオン様以外の男には、少しでも心を動かしたりはしないの。なのに、なんでリオン様は、こんなに魅力的なあたしの、こんなに一途な想いに応えてくれないのかしら……。あたしのこと、いつまでも子供扱いばかりして。だけど今に見てなさいよ。今は十七でも、五年たったら、あたしだって二十二、十年たったら、二十七よ!」

「……でも、十年たったら、リオン様も四十五よ」

「いいの! 五十になっても六十になっても、リオン様はきっとすてきに決まってるわ」

「リューリ、あなたって、思い込み激しいわね……」

「一途と言って。でも、じゃあ、あなたはどうなの? あなただって片想いなんでしょ」

「そうなの……。アルファードもね、五才しか年上じゃないのに、あたしのこと子供だと思ってるみたい」

「何だ、あたしたち、おんなじような境遇なのね。それにしてもあなた、見かけがトロそうなわりに、けっこう言うわね。気に入ったわ。あたし、ものをはっきり言わない人って、キライなの。あたしたち、いい友達になれそうね! この際、あなたの趣味が悪いのには目をつぶってあげるから、おたがいがんばりましょ!」

 こうして里菜に、同い年の友人ができた。

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