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第二章<シルドーリンの宝玉> 第一場(2)

 里菜は、荷物を詰め終った背負い袋を、畳んだマントと並べて置いた。道中での寝袋代わりにもなるという、フード付きの旅行用マントである。

 この世界の冬用の羊毛製衣類は、見かけ以上に暖かい。冬の旅でも、防寒用下着と丈の長い厚手の旅行用マントさえ着用すれば、あとは普通の服装で充分で、夜には、火を焚けばマントにくるまって野宿が出来るのだという。

 この旅行用のマントは、脱脂していない羊毛を非常に密に加工した上で防水の魔法が特に念入りにかけてあり、多少の雨なら濡れることもないし、風も防いで埃もつきにくいというすぐれものだ。なんと言っても、服作りの名人、ヴィーレが、心を込めて作ってくれた品である。特別の最上級品なのだ。

 アルファードがヴィーレの父に村を出る決心を告げた時、ヴィーレは、その場にいたらしい。里菜は、ヴィーレがその時、どんな反応をしたのか知らない。アルファードは、何も話してはくれなかったのだ。

 たぶん、ヴィーレは、アルファードを引き止めるようなことは言わなかったのだろう。世話役でさえ、アルファードの決意の堅さを知って、引き止めるのを諦めたくらいだから。

 ヴィーレはきっと、ただ黙って悲しそうに話を聞いていたのだろうと、里菜は想像する。そしてたぶん、その夜は泣き明したのだろうと。

 その証拠に、翌日会ったヴィーレの目は、赤かった。

 けれど、赤い目をしたヴィーレは、けなげにも、笑顔でこう言った。

「リーナ、あたし、あなたたちに旅行用マントを作ってあげることにしたの。実はね、もう、昨日のうちに材料を用意して、ゆうべから作り始めたのよ。ついつい夜中までやっちゃって、こんなに目が赤くなっちゃったんだけど、かならず間にあうように大急ぎで作るから、買わずに待っててね」

 そして、ついさっき、ヴィーレは出来上がったマントを持ってきてくれた。

 里菜には鮮やかな青、アルファードには、少しくすんだ赤錆色。国土の大半を覆う森や山の中を通って旅する時に、狩人に獣と見間違えられないよう、旅装にはよく目立つ色を選ぶのがこの国の習わしだという。

 そのあと、ヴィーレとアルファードは、最後の打ち合わせのためにヴィーレの家に行った。アルファードは、自分はこの村にとって、いなくてもいい人間だというようなことを言っているが、実際のところ、彼は村中の羊の見張りをしてきたのだし、自警団長でもあり、いろいろと人に後を託さねばならない事もあるのだ。

 ヴィーレのくれたマントをきれいに畳んだ上に、里菜は、こんどは皮製のベルトを置いた。腰に短剣を吊すために、アルファードが買ってきてくれたものだ。

 里菜は、枕の下に手をいれて、短剣を取り出した。

 鞘にも柄にも刀身にも様々の精緻な装飾を施された、目の眩むほど豪奢な、美しい品である。

 黄金の柄には、猫の目玉ほどもある黄緑色の宝石が嵌めこまれている。こうして日中の光で見る時にはペリドットによく似た明るい黄緑色だが、夜、ランプの明りや暖炉の炎にかざして見ると、底のほうからちらちらと赫くきらめく、不思議な石だ。シルドライトと呼ばれる、神代の宝玉である。

 神代の昔に妖精たちの手によって北の聖地シルドーリンで採掘されたと伝えられるシルドライトは、その神秘的な美しさと、すでに産出が絶えて久しいという稀少さで珍重されるだけでなく、聖地の地下から産出した神聖な石として古来から尊ばれてきた、大変貴重な宝石なのだという。

 むろん、そんな貴重な宝石のついた豪華な短剣が、しがない羊飼いのアルファードに買えるわけがない。もし買えたとしても、質実剛健なアルファードは、こんな装飾的な華美な品物ではなく、実用一辺倒のシンプルなものを選んだだろう。

 この短剣は、女神の司祭である少女ティーティが里菜にと持ってきたものなのだ。

 それは、里菜とアルファードが旅立ちを決めた、その翌朝のこと。まだ、ヴィーレの家にも行く前の、誰にも旅立ちを知らせていなかった時だ。

 まず、やって来たのは、ローイだった。

 アルファードと里菜は、前夜のごたごたで寝るのが遅くなって、普段より遅めの朝食をとり終えたところだった。

 例によって能天気な歌声とともに朝の新雪を踏んできたローイは、ドアを開けるなり、マントを取ってずかずかと暖炉の前に近寄りながら、大声でしゃべりちらした。

「よっ、リーナちゃん、おはよ! あんた昨日、大変な目にあったんだってな。なんでもドロボーに入られたって? よりによって、こんなあばら屋になあ。しかも、自警団長の家に入っちまうなんて、まぬけなドロボーだよな。ま、幸いこうして無事だったからには、そんなことはさっさと忘れて楽しくやるに限るぜ。

 なんだあ、まだ朝飯食ってたのか? さっさと片付けちまえよ。俺、せっかくはりきって、早く来たのに。よお、雪合戦しようぜ! 子供たち、誘ってさ。あんた、こないだ言ってたろ、雪が珍しいって。その雪がせっかく積もったんだ、パーッと遊ぼうぜ。雪だるまもいいし、ソリでビュンビュンぶっ飛ばせば、もうサイコー!」

 その時、遠慮がちにノックをしてドアを開けたのが、ここしばらく姿を見せなかったティーティだった。

「ありゃ、ティーティじゃんか。なんだ、お前もリーナを雪合戦に誘いに来たのか?」と言うローイを無視して、ティーティは、まじめくさった顔で里菜の前に進み出ると、何か布にくるんだ細長い物をマントの下から取り出して、厳かに差し出した。

「これ、お姉ちゃんに」

「あら、何? またプレゼント?」と言いながら布を開けた里菜は、目を丸くした。

 横から覗き込んだローイが、目を丸くして、ヒュウ、と口笛を吹いた。

「おい、こいつぁ、すげえぞ! ティーティ、お前、これいったいどうしたんだ! なんでお前が、こんなすげえお宝持ってるんだよ」

「あのね、女神様の祠から持ってきたの」

「……ってえと、ご神体か! へええ……。ご神体が短剣だってことは聞いてたが、見るのは初めてだ。まさかこんなすげえもんだったとはな……。いや、これはほんと、すげえぞ。リーナ、あんた、知ってるか? この、ここに嵌ってる、キレイな石。これ、シルドライトだろ、ティーティ」

「そう」

「こりゃあ、値打ちもんどころじゃないぜ。これひとつで、村中の人間が一生遊んで暮せらあ。……あのオンボロ祠に、こんなお宝がしまってあったなんてなあ。しかし、相当古いもんだろうに、曇りひとつないな。そういう魔法もかかってるんだろうが、お前の家のもんが代々手入れしてきてたんだろうな」

「うん」

 アルファードが里菜の手からそっと短剣を取り、重みを確かめるように掌に乗せながらティーティに尋ねた。

「それで、ティーティ、これを、リーナにくれるのか?」

「そう、それ、もともとお姉ちゃんのだから。……防御の魔法がかかってるのよ」

 ローイが、また目を丸くして呟いた。

「ひええ……。防御の魔法だって? ほんとかよ。そんなの、あり?」

「もともとあたしのって、どういうこと? これ、あたしのじゃないわ。見たこともないもん」と言う里菜に、アルファードが短剣を手渡して尋ねた。

「リーナ、これは、重いか?」

「え? ……ううん、ぜんぜん。これ、本物よね? 何で出来てるの?」

 確かに、その美しい短剣は、豪華な見かけのわりに、不思議と重くなかった。非力な里菜が、まるで重さを感じないほどだ。まるで紙で出来ているかと思うような軽さなのである。

 それを聞いたアルファードは、妙に得心が行ったような顔で、意外なことを言いだした。

「そうか……。リーナ、これは君が受け取っておけ」

「ええっ、だって……。こんな高そうなもの、貰えないわ」

「貰うのがいやなら、借りていると思えばいい。これは、たぶん、誰かがずっと昔に、君のために用意してくれていたものだ」

「えっ、どうして?」

「剣を使うものが、その時その時で自分の持っている剣に魔法の力を込めることは普通の魔法だが、剣自体に、他人が使っても効力を発揮するような防御の魔法を込めておくというのは、<本当の魔法>なんだ。それも、かなり特殊なもので、そういう魔法ができる魔法使いは、もう数百年のあいだ、この国には現われていないはずだ。……そして、これは、俺には結構、重く――見かけ相応の重さに感じられた。これは、おそらく、妖精の手になる神代かみよの品物であり、君がこれを軽いというなら、きっと、神代から君のものになるべく定められていたものだ」

 里菜がアルファードのことを、やはり別世界の人間なのだと思うのは、こういう時だ。普段、合理主義者で現実的で、特に信心深いとも見えないアルファードが、たまに突然こういう不思議なことを真顔で言うので、里菜はとまどう。

「でも、アルファード……」

 ここでアルファードは、やっと里菜にも納得出来る現実的な理由をつけてくれた。

「それに、リーナ、どっちみち君には短剣がいるって言っただろう。これを断わって他のを買うより、これを借りたほうが、買いに行く手間も金も節約できるじゃないか」

「そ、そうよね。じゃあ、ティーティ、これ、貸してね。……でもこれ、ご神体なんでしょ。そんなもの借り出しちゃって、いいの?」

「リーナ、ティーティは司祭だ。司祭がいいと言うんだから、いいのさ。……しかし、ティーティ、なぜ、今になって急にこんなものを持って来た?」

「おばあちゃんが亡くなる前に言ったの……。女神様が村から旅立つ時に、これを渡せって。きっと、これが必要になる時があるからって。お姉ちゃん、行ってしまうんでしょ? どこにいても、これがお姉ちゃんを守ってくれるから」

 里菜は驚いて叫んだ。

「ティーティ、あなた、どうしてそのこと知ってるの? まだ誰にも話してないのに!」

 里菜の手から短剣を取ってしげしげと眺めたり重さを計ったりしていたローイが、この会話を聞いて目を剥いた。

「お、おい、そりゃ、どういうことだ? 旅立つって……。リーナ、あんた、どっか行くのか」

 里菜は、話していいものかとアルファードを見た。

 アルファードが、里菜に代わって答えた。

「ああ。ゆうべ決めたばかりで、まだ誰にも話していないことなんだが、俺たちは、村を出る。イルベッザに行って軍隊に入ろうと思う」

「な、なんだ、なんだ、そりゃまたずいぶん急な話じゃないか! 俺は聞いてねえぞ!」

「だから言ったじゃないか、決めたばかりで、まだ誰にも話してないと。お前には、もちろん、まっさきに話すつもりだったんだ」

「だからさ、決める前に、話して欲しかったんだよ! ……で、帰ってくるつもりは、あるのか?」

「それは、わからない。とりあえず冬場の出稼ぎということで、その後のことはその時に考えるつもりだ」

「……てぇことは、帰ってこないつもりだな。おい、アルファード。俺はちょっと、あんたと話したいことがある。顔、貸せよ。外で話そうぜ」

 そういうとローイは、アルファードの肩にわざとらしい親しさで腕を回して、マントも羽織らずに、ふたりで雪の積もる前庭に出ていってしまった。

 ふたりは外で何か言い争っているらしく、時折ローイの声が高くなって、ヴィーレとかリーナとか言っているのが聞き取れる。

 気にはなるが、わざわざ里菜を残して寒い外に出て行った二人の話に聞き耳を立てるわけにもいかない。

 所在なくなった里菜は、まだそこにいた小さなティーティに声を掛けた。

「ティーティ、朝ご飯は食べてきたんでしょ。お茶、飲んでかない? 焼き菓子、あるわよ」

「ううん、いい。もう帰る。お姉ちゃん、元気でね。……ミタマのフユをイヤマスマスにカガフラシメタマエ」

 ティーティは厳かに胸に手を当て、まじめくさってお祈りを唱えると、さっさと帰っていってしまった。

 ほどなくローイがドアをバタンと開けて、喚きながら飛び込んできた。

「ああ、分かったよ! 俺はあんたとは友達だと思ってたのに、そう思ってたのは俺だけだったんだってことが、よぉく、分かった! じゃあな!」

 そう言いながら、椅子に掛けてあった自分のマントをひっつかんだローイは、入れ違いに入って来ようとしたアルファードを睨みつけ、ぎゅっと口を結んで、再び外に飛びだしていった。

 ローイの後ろ姿を振り返り、肩を落してドアを閉めたアルファードに、里菜は、おそるおそる声をかけた。

「アルファード。ローイ、怒っちゃったの?」

「ああ……。どうやら、へそを曲げられてしまった。あいつはあれで、いったんへそを曲げると、なかなかやっかいなんだ」

 そう言って、アルファードは、溜息をついた。

 アルファードの言ったとおり、ローイは、それからずっと、へそを曲げ続けているらしい。

 あれ以来、ローイはふっつりと、アルファードの家に訪ねて来ることを止め、やむを得ぬ用事でアルファードと顔を合せた時も、必要以外には口もきいてくれないと言う。

 ゆうべは、ここで、自警団がアルファードのための送別会をしてくれた。

 ヴィーレの父が村を挙げての壮行会を開くと言った時には固辞したアルファードも、気ごころの知れた自警団の連中が送別の宴会をしたいというのまでは断わらなかったのだ。

 その時は、さすがにローイも参加したが、アルファードをまるっきり無視して、ただ、手当りしだいに手近の娘たちをからかっていた。

 里菜が、ハラハラしながらローイとアルファードの様子を見ていると、アルファードが自分からローイのそばに近付いて、里菜にとっては信じられないことに、まるで機嫌を取るような様子でローイになにやら話しかけようとした。ローイは、返事もせずにプイと席を立ってしまった。

 それからローイは、里菜のそばに来て、こう言った。

「よお、リーナちゃん、考え直せよ、な? アルファードのやつが行っちまうのは、ま、しょうがないが、あんたまで行くこたあねえだろう。軍隊なんてちっとも面白くないぜ。飯はまずいし、宿舎はおんぼろでぎゅうづめだし、仕事はきつい・危険・気分悪いの三拍子揃った重労働だぞ。……いや俺が実際に見たわけじゃねえけど、どうせそうに決まってる。

 だいたい、あんたさあ、本当に軍隊に入りたいわけ? そうじゃねえだろう? アルファードのやつが強引に誘っただけだろうが。どう考えても、あんたには軍は向かねえよ。アルファードのやつに子守りが似合わねえのと同じくらい、あんたに軍は似合わねえ。やめとけよ、な? あんたはこのまま、この村にいればいいじゃん。ひとりでここに住んでもいいし、ヴィーレのとこでも、あんたさえよければ俺のとこでも……。

 あんた、もう魔法を消さないでいられるようになったんだから、アルファードとでなくても住めるんだぜ。そのこと、わかってる? あんたは、だから、アルファードの気まぐれに付き合うこたぁねえんだ。あんたが自分の力を制御できるようにしてやったのはアルファードかも知れねえが、だからと言って、お礼奉公なんかすることはねえぞ。アルファードは、ただ自分が軍隊で名を上げるために、あんたの力を利用しようとしているのさ」

「違う!」

 里菜は思わず叫んだ。

「いくらローイだって、アルファードの悪口言わないで!」

「……そうか、そうかよ。わかったよ。もう言わねえよ! 勝手にアルファードにしっぽ振ってついていきな!」

 そう言い捨てると、ローイは席を立って、主役であるはずのアルファードそっちのけで勝手に盛り上がっている真ん中のテーブルの一団に加わりに行ってしまった。

 そこでローイは、浴びるように酒をあおっていたのだが、それでもその日は、誰かに肩を借りて、ちゃんと家に帰ったらしい。今朝、床に転がっていた若者たちの中にも、もちろんアルファードの寝台の中にも、ローイはいなかった。

(ローイは、結局、あたしたちのこと、最後まで許してくれないのかしら……)

 里菜は短剣を手にしたまま溜息をついた。

 大好きな友達と、このままで別れたくはない。明日の朝、ローイは見送りに来てくれるだろうか。

 明日の朝、里菜たちは、村の広場でみんなに挨拶をし、村はずれで見送りを受けることになっている。

 今夜はきっと、よく眠れないだろう。

 里菜は短剣をマントの上に置こうとして、少し考え、また枕の下に戻した。

 貴重なものは枕の下に隠すのが一番だと考えたのだが、頭の中でそう言っている声の下で、もうひとつの声が何か別の言葉を囁いていることに、里菜は気付かなかった。

 これを枕の下に入れて寝た最初の晩、里菜は、また、夢を見たのだ。魔王の夢を。

 夢の中で、魔王は、闇に降りしきる雪の中に、ふわりと浮かんでいた。

 今度は、馬には乗っていなかった。すらりとした長身の足元で、マントがかすかに揺れていた。

 彼が手にした大鎌を、里菜は見ないようにしようとした。この間はきっと、魔王がこれを振るところを見たから、変になってしまったのだ。

 けれど、その輝きはあまりに魅惑的で、里菜の目はいつのまにかそこに吸い寄せられそうになる。その度に里菜は、頭を振って、視界から大鎌と魔王を追い払った。目をつぶると、そのあいだに魔王がふっと自分の目の前に近付いていそうな気がして、目をつぶるのは怖かったのだ。

 けれど魔王は、その夜は、大鎌を振らなかった。魔王の声なき言葉が胸に響いた。

『エレオドリーナ。その短剣は、気にいったか? 美しかろう。それは、シルドーリンの妖精の手になる神代の宝剣だ。今では、そのような精巧な細工が出来るものは、もういない。大切に持っておるがよい。かつてそなたの手にあったものが、再びそなたと巡り合ったのだから……』

 それだけ言うと、魔王の姿は消えていた。

 里菜の全身から力が抜け、深い吐息が漏れた。それは安堵の溜息であると同時に、自分でも気付かぬほどの、かすかな落胆をも秘めてもいた。

 里菜の胸の奥の、どこか一番奥深いところが、魔王の指が自分に触れた時の激しい陶酔を覚えている――そして、ふたたび魔王に触れられるのを、恐れながらも待ち焦がれている。

 里菜はそれに気付いていなかったけれども、次の晩からも、短剣を枕の下にいれるのをやめなかった。そのたびに、頭の中で、

(別に、この短剣とあの夢を見たことと、関係があるわけじゃないわ。そりゃあ、頭の下がごつごつして落ち着かないと悪い夢を見やすいのかもしれないけど、あれはただの夢とは違うんだから、そんな単純な理由で見たり見なかったりするものじゃないはずよ)と、自分にむけて無用な言い訳をしていたのも、実は心のどこかで、この短剣とあの夢を見たことのあいだに何かつながりがありそうなのを漠然と感じていたからなのだ。

 けれど、それから後は、もう、魔王の夢は見ていない――。

 荷造りを終えた里菜は、夕食の支度のために立ち上がった。もうすぐアルファードも帰ってくるだろう。

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