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第一章あらすじ(1)

とっても展開の遅い、このお話。

連載に初めから付き合ってくださっている人の中には、「あんまり話の進み方が遅いので、もう最初の方を忘れちゃったよ」という方も、きっといらっしゃるはず(?)

よかったら、第二章がアップされるまでの箸休めに、ざっと目を通してみてくださいませ。

<その1 序章から第七場まで>


 異世界『イルファーラン』。そこは、この世界より少し古風な――でも中世というほど古めかしくもない――、穏やかな自然に恵まれた牧歌的な世界である。そこに住む人々は基本的に温和で争いを好まず、数十年前に世界を一つに統一して以来、長い平和を維持している。社会制度は比較的近代的で、人々の暮らしぶりや価値観等も、少しだけ昔のこの世界と、さほど変わらない。


 が、大きな違いもあった。この世界の人々は、基本的に誰でも魔法が使えるのだ。

 ただし、魔法と言っても、万能の強大な力などではなく、威力や範囲がごく限られたもので、日常生活をちょっと便利にする程度の、ささやかな技にすぎない。


 そんなイルファーランの、美しくのどかな高原の村、イルゼールに住む羊飼いのアルファードは、自分の素性を知らない。幼い頃の記憶がないのである。

 この村には、古来より、ごく稀に、異世界の人間が迷い込んでくるあって、そいういう人間を、村人たちは<マレビト>あるいは<女神の幼子>と呼び、村に恵をもたらす女神の御子とみなして温かくもてなし、受け入れつづけてきた。アルファードもまた、十二年前、村はずれの川辺で村の老人に拾われた、<マレビト>だったのだ。


 当時、十歳ほどの少年だったアルファードは、老人や村人たちに温かく育まれて、逞しい若者に成長した。育て親の老人が病没した後は、老人が残した家で一人暮らしを続けながら、村人たちの温情で羊飼いとして生計を立てている。

 その一方で、彼は、実は四年前に首都イルベッザで開かれた全国武道大会の剣技の部のチャンピオンであり、村を脅かす害獣であるドラゴンを何頭も弊して<ドラゴン退治のアルファード>と称えられる村の英雄でもある。


 が、そんなアルファードには、ひとつの悩みがあった。彼には、一切の魔法が使えなかったのだ。

 誰もが普通に魔法を使うこの世界で、通常、魔法は、ごく限られたことしか出来ない、ささやかな日常の技である。そんな中で、古来、<マレビト>だけは、一般に使われる<普通の魔法>と区別して<本物の魔法>と称される、常人を超えた特殊な力を持って<本物の魔法使い>と呼ばれるのが常だった。

 ところが、アルファードは、<マレビト>でありながら、当然期待されていた<本物の魔法>どころか、誰もが使えるはずの<普通の魔法>さえ使えなかったのだ。


 そのことに、密かな鬱屈を感じながらも、彼は、自警団長として、仲間の若者たちに慕われ、村人たちに頼られ、女神の御子として一目置かれながら、牧羊犬のミュシカとともに、おだやかな日々を送っていた。


 そんなある日、村の、女神の司祭が死んだ。

 生命の女神エレオドリーナの御座所といわれるエレオドラ山の麓に位置するイルゼール村は、古来から、女神を祭る聖地として、村の女性に司祭の地位を受け継がせてきたのである。

 その、女神の司祭が、女神を祭る秋祭りの夜に、ひっそりと息を引き取ったのだ。

 祭りは中止され、祭りの宴は、司祭の葬式の宴に成り代わった。


 葬送の宴からの帰り道、アルファードは、何かの予感に導かれるままに、遠回りをして、村はずれを流れるエレオドラ川の上流、<女神の淵>と呼ばれる淀みに足を伸ばした。

 <女神の淵>は、<マレビト>はみなそこに流れ着くと言われる伝説の場所であり、実際、十二年前、彼がこの世に現れた場所でもあった。彼は、昔、その川の浅瀬に倒れていたところを、育て親のレグル老に拾われたのである。


 そこで、アルファードが見つけたのは、かつて自分が拾われた同じ浅瀬に気を失って倒れている、見慣れぬ服装の少女だった。少女が自分と同じ<マレビト>であることを確信したアルファードは、彼女を川から抱き上げ、自分の家に連れて帰る。

 それが、彼らの物語の始まりだった。


 少女は、東京都内の高校に通う十七歳の里菜。内気で奥手、やや病弱だが平凡な女子高生である。自分が普通の高校生であったということは覚えている彼女も、その自分がなぜ、突然異世界で目覚めることになったのか、その事情はわからない。何か、かすかな痛みの記憶があるだけである。

 が、アルファードに抱き上げられ、家まで運ばれる間に、ぼんやりと意識を取り戻した彼女は、アルファードの腕の中で、不思議な安らぎを感じる。自分は、ふるさとに帰りついたのだ、と、理由もわからず、漠然と思う。そして、見知らぬ世界ではじめて目にした人間であるアルファードに、強い依存心と淡い恋心を抱く。


 アルファードが一人暮らしの家に連れ帰った里菜を介抱したのは、アルファードの隣家の一人娘、ヴィーレだった。

 十九歳のヴィーレは、家庭的な、心優しい娘である。

 彼女の父は村の世話役で、レグル老亡き後はアルファードの後見人でもある。彼ら一家は、隣家で一人暮らしをするアルファードを何かと気にかけ、世話を焼いて、家族のように接してきた。そんな、名実ともに兄同然のアルファードを、ヴィーレはいつの頃からか、心密かに慕ってきた。

 里菜がアルファードと共に暮らすことに決まったとき、彼女は内心でショックを受けるが、それでも、寄るべない身の上の里菜に優しく接することを自分に誓う。


 目覚めた里菜は、アルファードから、リーナという名で呼ばれる。彼女が名乗った里菜という名前を、彼は、この世界にある、発音の似た名前に置き換えて聞き取ったのだ。彼らは、どういう仕組みでか、言葉が通じるのである。里菜は、新しい世界で生きることを決意し、新しい名前を受け入れる。


 里菜とアルファードの、ぎこちない同居生活が始まった。


 アルファードは、無口で武骨な男である。村人たちには非の打ち所のない人格者と信じられているが、実は、あまり人に心を開かない質でもある。また、生真面目一辺倒の朴念仁で、これまで浮いた噂一つ立てたこともない極端な堅物ぶりは、村の若者たちの間では笑いの種になっているほどだ。

 小柄で童顔の里菜を幼い子供と勘違いして拾ってきた彼は、里菜の実年齢を知った後も、あくまで養女として扱おうとする。が、甘えた里菜に寄り添ってこられたりすると、動揺は隠せない。


 里菜は、アルファードの自分に対する子ども扱いを物足りなく思う一方で、もともと異性に対しては極端に臆病だったこともあり、そんなはがゆい関係に、生ぬるい安心感を覚えてもいる。


 そんな里菜に、恋する若者がいた。アルファードの年下の友人、十九歳のローイことエルドローイである。

 村一番の色男を自認する、陽気でお調子者の彼は、奇抜な服装と軽薄な言動で大人たちの顰蹙を買っているが、非常に気のいい若者だ。彼は、羊を放牧しているアルファードと里菜の元に足しげく通っては、里菜の『魔法の訓練』に付き合ってくれる。


 アルファード同様に<本物の魔法>どころか<普通の魔法>さえ使えなかった里菜には、実は、ある特別な力があった。里菜は、自分の見ている前で使われる魔法を、自動的に無効にしてしまうのである。

 日常生活が魔法の助けの上に成り立っているこの世界で、それは、大変困ることだった。その力を抑えることが出来ない限り、里菜は、存在するだけで皆の暮らしを乱してしまい、村人たちの中に入っていけないのだ。

 里菜は、アルファードとローイの協力で、その力を制御出来るようになったが、それをきっかけに、ますますアルファードへの精神的な依存を強める。

 ローイは、そんなふたりの関係を危ぶみながらも、自らの想いを里菜に告げられずに、友達として二人に接し続ける。


 アルファードと里菜、ローイとヴィーレ、四人の若者は、内心にそれぞれの想いを秘めながらも、擬似家族的な温かい関係を築き、里菜は、幼い子供のように彼らに可愛がられて、世界の暗い部分は何も知らないまま、幸せな日々を送る。


 が、長く戦いを知らずにきた平和なこの世界にも、実は、暗い影が忍び寄りつつあり、時の流れに取り残されたようなこの村さえ、例外ではいられなかったのだ。

 そのことを、里菜が知った、最初のきっかけは、ドラゴンの飛来だった。

 いつものように牧場で放牧をしていた二人の頭上に、ドラゴンの影が落ちた――。


   ――(第一章あらすじ2(第八場~第十四場)に続く)――

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